【Cry*6】4-1、自分で得たパンを食べるように

2017.05.18 00:00|【Cry*6小説】第4章
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4-1、自分で得たパンを食べるように

 皆に心配されて、太陽の位置が高くなってもリルはベッドの中にいた。ベッドは柔らかく寝心地が良かった。
(お城のベッドはふかふかなんだな……)
 枕を抱きしめながら、想いを巡らせる。柔らかい日差しにとろとろと眠気と切なさが戻ってくる。
(……おばあちゃんの夢、とてもはっきりとしていた。私のせいじゃないって言ってくれたけれど……傍にいてほしかった。やっぱり、私のせいなのは変わりないよ……)
 しばらく枕に顔を寄せて声を殺して泣く。泣きながらまどろんだが、祖母はもう夢には出てこなかった。寂しさにまた涙を溢し、窓の外を眺めながら、気になることを考え始めた。
(どうしてカイトさん、ここにいたの? さっき見たのは……)
 カイトの屋敷だから彼がどこにいても構わないが、勝手に寝室に入ってきて寝顔を見られたのは恥ずかしいし困る。目覚めた時に見たものの正体が解らない。
 そして、レイリアがルアトと部屋に戻って来たこと。
 夜は二人でどこで何をしていたのだろう。二人ともぎこちない様子もあった。レイリアの目は腫れていたし、ガウンを羽織っていたが、薄い寝衣しか着ていなかった。
(レイリアとルアトは一緒だったんだ……この部屋にはいなかったみたいだけれど、どこにいたんだろう……)
 胸の奥がチリチリと痛んだが、それが何なのかリルには解らない。その時、ドアがノックされる。
「あ、はい」
 慌てて返事をして起き上がると、入って来たのは食事を持ったカイトだった。
「朝飯を持ってきた。具合はどうだ?」
 リルは咄嗟に抱いていた枕で顔を隠す。カイトは部屋のテーブルに食事の載った盆を置き、リルのベッドの横に椅子を運んで座った。
「あ、あの……なにか」
 カイトが真剣な眼差しでリルを見つめている。リルは緊張と不安のあまり、呼吸が浅くなってしまう。
「泣いていたのか? 何かあったか? どこかおかしいところはないか?」
「ちょっと昔を思い出して泣いただけです。おかしいとこは、ない、です。あの、カイトさん……」
 馬車での一件を思い出して――宿でのことはあまり覚えていない――彼女なりに精一杯話した。声は細く震えたが、そのことではカイトは何も言わなかった。気さくに呼んでもらいたいのか、「カイトでいい」と名の呼び方だけ指摘される。左眼を隠す眼帯を見て、ようやくリルは思い出した。夢から覚めた時に見たもの――。
「あ、あの、カイトさ……カイトの、左眼が金色だった気がしたんです……。あれは?」
 一瞬の沈黙が流れた。
「あれが……俺の呪いだ。目を見た後、体は大丈夫か?」
 リルはこくんと頷いて、上目遣いに心配そうに自分を見つめるカイトを見た。
「もしかして、呪いは光なの? 私に何とかできないか……」
「それはやめろ!」
 咄嗟に出た言葉は強く、目の前で震える娘にカイトは慌てて謝罪した。
「……怒鳴ってすまん。リルに何かあったら困るから、何もしなくていいんだ」
 頷いたあと、リルは涙ぐみながら顔を上げずに指先をいじっている。
「ん、どうしたんだ?」
 自分の声に怯えたのかと、カイトは幾らか優しい声で話す。リルは鼻を啜りながらぶつぶつと呟いていた。
「ルアトとレイリアはどうしてたのかなって」
「……どうもしてないだろう」
 何を言っているのか解らないカイトは素っ気なく答えてしまう。
「昨日の夜、どこにいたのかなって。なんだろう。痛くて……苦しい、どうしてだろう」
 そのことか、とカイトが呆れ顔で、ベッドの上でいじけたように呟いているリルを見た。
「――それはやきもちを妬いているからじゃないか?」
「やきもち?」
 リルが驚いた顔でカイトを見つめた。
「ルアトと一緒に過ごしたレイリアに嫉妬しているんだろう? ルアトと寝たのかどうか気になるんだろう?」
「え。そ、そんなことは……」
 おろおろするリルを見て、カイトは意地悪い笑みを浮かべた。
「自分の気持ちに気付かないあたり、リルはどんくさいな」
 言われて初めて気付く、自分の鈍さが恥ずかしかった。そしてカイトの笑顔が憎たらしい。顔を赤くして大きな声で怒った。
「どんくさいなんて、ひどい! ……か、カイトの意地悪!」

 怒ったリルの顔を見た後、カイトは城へと向かった。
 国王は三人に会いたがったが、アウローラ国の光の魔術師の侵略が至る所で起こっているため、軍事会議が立て込んでいた。カイトも通常業務に戻り、国王の右腕として、城での時間が増える。侵略が激化すれば、カイトも戦いに赴かねばならなかった。ウルリーカも国政に携わるため、魔術を教える時間がもてない。
「ここでしばらく過ごしていてほしい。リルも魔力を使わなければ大丈夫だろう」
 夕食の前、城から戻ったカイトが三人を前に話す。声は低くしゃがれ、言動からは疲れがにじんでいた。
「王様やウルリーカ様にはいつお会いできるの?」
 座ったルアトにもたれかかるように、ソファに寝転がったままのレイリアが訊いた。カイトは、首を傾げて考え込む。
「エドヴァルド王も公務でお忙しい。とりあえずは一週間くらい待ってほしい……」
 食事を部屋に運ぶように指示し、カイトは居間を出る。ロニーがルアトを呼びに来て、二人は使用人の部屋に向かう。
「あ、あの。カイト」
 仕事をしようと書斎へと向かうカイトを、リルが慌てたように呼び止める。何の用事かと不思議そうなカイトに、リルが詰め寄った。
「お世話になる間、な、何か仕事をさせてほしいです」
「仕事なんてしなくていい。リルは休んで元気になればいい」
 本心からの言葉だったが、リルは引かなかった。
「魔力を使わなければ、私は、元気です。住まわせてもらうだけなんて、申し訳ないです。掃除でも料理でも何でもいいんです。働かせてください! ルアトだけじゃなく私も働かせてください」
 恥ずかしがりなのに自分から人へと向かうときは譲らない。
 今日の昼間、ルアトはカイトの元で騎士見習いをしている青年・ロニーと共に、馬の世話や雑用、剣術の稽古をした。
「ルアトだって無理はしていない。客人にそんなことさせられん。レイリアを見習え」
 レイリアはカイトの屋敷でも構わず、自由気ままに過ごしていた。寝たいときに寝て、飽きれば屋敷を歩いて回り、遊びたいときには使用人でも誰でも話しかける。まるで猫の様だった。
「レイリアの分も働きたいんです。何もしないでお世話になるなんて嫌です!」
「魔術を使わなくてもな、ゆっくりして……」
「お願いです! 働きたいんです!」
(……頑固だ)
 辟易したカイトは女中頭のブリッタに相談することにする。厨房に降りると侍女たちがカイトを見て、頬を赤らめ慌てて逃げていく。
 年若い侍女たちはカイトに恋慕の情を抱いているようで、主を見ては恥ずかしがって逃げていく。相変わらずの様子にカイトは溜め息を吐く。ブリッタは穏やかな笑みを浮かべて彼を迎えた。女中頭を務める彼女は三十代半ば。茶色の髪を一つに纏め、濃い灰色のドレスを着ていた。執事のイリスと共に、カイトの屋敷を切り盛りしてくれている。
「お料理も得意そうですし、手伝ってもらっても構わないですが。リル様にはゆっくりしていただきたいですね」
 茶色の目を細め、ブリッタは考え込んだ。彼女には気になったことがある。
「私とは普通にお話になるのに、イリスにはどうしてあんなに緊張してしまうんでしょうね? カイト様のことも怖がっていますし。あの様子で、国王様とお話しできるんでしょうか」
 カイトと会った時は最悪に酷かったが、執事のイリスと会った時も緊張していた。イリスはカイトと年が近く、長身だった。
「そうだな……」
 厨房横の使用人たちのくつろぐ部屋で、ロニーと話すルアトを呼んだ。傍には侍女たちも数人おり、二人の会話を楽しそうに聞いていた。ルアトは順応力が高いのだろうか。もう屋敷の人間と打ち解けているようだ。
「どうしたんですか?」
「ルアト。リルはどうしてあんなに男に人見知りなんだ? ……村で何かあったのか?」
 今まで笑顔だったルアトは、顔を強張らせる。唇を横に結び、話すのを躊躇う様子だったが、カイトとブリッタの顔を見ながら、ぽつりぽつりと話し出した。

 ルアトの話を聞いて、一つ仕事が決まった。王に会う前に克服して欲しいもの。
 ブリッタから仕事を言い渡されて、リルは震え上がった。
「それは緊張して、無理です……無理です……」
「無理ではありません。誰にでもできることですよ」
 優しく励ましても駄目なら、時には厳しく。
 カイトの相談を受け、侍女長のブリッタはリルの人見知りを治そうと、カイトの屋敷の使者として働かせることにする。手紙や伝言を届けるメッセンジャーの仕事だった。
「知らない場所で、わ、私一人なんて……。そういうお仕事なら男の人の方が……」
 顔面蒼白になりつつ、彼女はソファに座ってレイリアと本を読んでいるルアトを何度も振り返る。
「すぐに見知った場所になりますわ。確かにお仕事としてはルアト様の方がいいかもしれませんが、ベアトリス様の孫のリル様のことを知っていただく、いい機会ですわ。国王のエドヴァルド様にはカイト様からお話されますので、安心して堂々としてくださいまし。いつまでもルアト様に頼ってばかりではいけません。リル様お一人でいってくださいね。廊下は端を歩かないように。しっかりと背筋を伸ばして行儀よく歩くように」
 ブリッタの案で、食事の際に、カイトを部屋まで呼びに行く役目も任されて、リルは涙目になった。
「え……、カ、カイトのところへも?」
「そうです。この館の主を怖がってどうするんです。今までお一人で食事をされていましたが、皆さんとお食事をとるようにさせますので、主様がお屋敷にいるときはリル様が呼びにいってくださいね。カイト様に届いたお手紙を渡しに行く役目も」
「えぇ……」
 青ざめたリルは不安と緊張の余り、泣きながらその場に座り込む。心配したレイリアがリルに駆け寄り、ルアトとブリッタは顔を見合わせ苦笑した。
(ブリッタさんの意地悪……違う! カイトの意地悪! 意地悪!)
 城の中をカイトの用事で手紙、品物を届けることになる。どうしても手渡しで渡したいものをリルが運んだ。
 はじめはひどく緊張し、べそをかきながら取り乱していたリルだが、回を重ねると、少し自信がつき、相手の目を見て話すこともできるようになった。
 カイトも行かせる先の人を選んでいるようで、温厚な人、魔術に理解のある人が多かった。時にはリルに茶を勧め、ベアトリスの思い出話に花を咲かせる老人もいた。
「今日のお手紙です」
 ドアをノックし、書斎の机で書類を書いているカイトに手紙を届ける。
「ありがとう」
 カイトは顔を上げ、リルの顔を見て礼を言った。そんなカイトの様子が新鮮で、リルは毎回不思議そうに見つめてしまう。その様子を見て、カイトも怪訝な表情を浮かべる。
「リル、今、時間はあるか?」
 軽く頭を下げ、部屋を出ようと背を向けたリルを、カイトが呼び止めた。
「は、はい」
 何か嫌味か文句を言われるのかとリルは背筋を伸ばして、慌てて振り返った。
「この部分を読んでくれるか?」
 分厚い本を開いたカイトは、眉間を押さえて難しそうな顔をしていた。その疲れた様子を見て、リルはいたわりの笑みを浮かべて頷いた。
 魔術書ではなく、法律に関して記された本だった。頼まれた箇所を読み上げた後で、リルは目を細める。
「カイト。一つ、訊きたいことがあるの……」
「訊きたいこと?」
 椅子に座ったままのカイトがリルを見上げた。本を手にしたままのリルは、伏し目がちに視線を逸らしたが、カイトを見つめて話し出した。
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コメント

こんばんは。お疲れ様です。

リルちゃんが人見知りを克服中……
萌え要素が一つ消え……るわけないか(^_^;)
心の成長、魔術のスキルアップよりも見どころのような気がします。
素敵なヒロインになってルアト君をメロメロにして欲しいものです。

ひもたかさん

お疲れ様です。
コメントありがとうございます(*´ω`*)

リルの人見知りが治ってしまうと、ルアトとの関係が変わってきてしまうんです……
(今まではルアトが手を引いてくれていた感じなので)
リルが素敵なヒロインになれるようにがんばります(*'ω'*)
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