【Cry*6】4-8、見上げる

2017.07.13 00:00|【Cry*6小説】第4章
「見上げる」

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4-8、見上げる

 リルが姿を現した瞬間、屋敷が大きく揺れ、ウルリーカの張った結界が勝手に解けてしまった。
「カイト様?!」
「カイト様! ルアト!」
 イリスとロニーが階段へと向かった。
「まだ危ないよ!」
 ウルリーカの制止の声も聞かず、二人に続いてカイトの部下たちも地下へと駆け降りていく。部屋に入るとカイトが目を抑えながら蹲っているのが見えた。
「カイト様!」
 青ざめたイリスがカイトに駆け寄る。左眼を手で抑えたカイトが、険しい表情でロニーを見た。
「ロニー。……ルアトたちを、頼む」
 カイトに駆け寄りたいのを堪え、ロニーと騎士たちは意識を失ったルアトたちの元へ走り、手当をするためにルアトを運び出す。騎士たちがレイリアに声を掛けるがレイリアは涙を溢しながら首を振って動かない。
「レイリア様?」
「ダメなの! リルがいなくなりそうなの! どうしたらちゃんと戻ってくれるの?」
 リルの服から出た手や足から黒い靄のようなものが見えていた。カイトは左眼を抑えたまま、イリスに支えられて二人の元へと歩く。
(闇の魔力がなじまないのか? それとも、リルが拒んでいるのか?)
 眠ったリルの肌には黒い痣のようなものが浮かんでいた。リルの顔にレイリアの涙がぽたぽたと落ちる。
「カイト、どうしたらいいの?」
 大粒の涙を溢しながら、レイリアがカイトを見つめている。
「……ばあさんを呼んできてくれるか」

 ――リルが目を覚ますと、カイトの顔が見えた。眼帯を外したまま、険しい表情を浮かべてリルを見つめていた。険しいというよりは悲しい、だろうか。
 随分と眩しい場所にいた。体は動かないので視線だけを動かす。窓があるから地上だろうか。空は暗く、夜明け前。なのに部屋は明るい。
「ここは、どこ?」
 リルはベッドの上でカイトに抱かれていたが、そのことを気にした様子もなく、平然とした顔でカイトに訊く。
「ここは俺の部屋だ」
 カイトが光の魔力でリルを照らしている。輝くカイトの左眼を、リルの冥い瞳がじっと見た。
「どうして、私が、カイトの部屋にいるの?」
「地下は冷えるからな」
「どうして光の魔力を使うの?」
「光を当てれば影も闇も濃くなる。リルの姿がはっきりとするだろう?」
 リルは興味なさそうに、ふぅんと頷いた。
「そのとおりね。……ルアトとレイリアはどこ? 私、ルアトに大怪我させたよ……」
 視線を彷徨わせ、感情の起伏のない声で淡々と話す。
「ルアトの怪我は大したことない。心配するな」
 手から出血して意識を失っていたルアトだが、命に別条はなく、今頃は回復を得意とする魔術師が治療しているだろう。
「ルアトに会いたい。謝りたい。でも、でも、謝っても、許してくれないかな……。私は牢屋に入れられる? レイリアは怖がって逃げるの? カイトは――私を斬る?」
「すまなかった。もう、刃を向けたりはしない。何があっても」
 ふふとリルが昏く楽しそうに笑った。リルであってリルではない表情と声音に、カイトには嫌な感じしかしなかった。
「皆、私が怖いよね。だから、消えようとしたんだけど、うまく出来なかったの」
 たやすく残念そうに言う様子が、カイトの胸を締め付ける。
「消えないで、ここにいてくれ。いつものお前に戻ってくれ」
「どうして? 私なんて、消えてもいいでしょう? レイリアはルアトが好きでしょう? ルアトは誰でもいいでしょう?」
「ルアトが誰でもいいわけないだろう? 命がけでリルの手を繋いでいたんだ」
「そうかなぁ。カイトだってリルのことは嫌いでしょう? 頑固で面倒で」
 思ったことを素直に言葉に紡ぐリルにカイトが困惑する。
「……嫌いなわけないだろうが。リルが勝手にそう嫌っているんだろう?」
 そうかな、とリルはカイトを見つめる。
「俺がどう思っているのかなんて判らないだろう? どんな気持ちかなんて……」
 目を細め、唇をきつく結ぶ。カイトのこんな表情を見たことがなかった気がした。
「いつものリルになってくれ。俺に触られて嫌だって、いつもみたいに嫌ってくれ」
「カイトのこと、嫌っていていいの?」
「嫌ってくれて構わないから、お願いだ、戻ってきてくれ」
「ベアトリスを死なせた、こんな、力で、いつかカイトのことを呪ってしまうかもしれないよ」
 リルは笑顔でカイトを見上げている。リルの体を抱く手に力が入った。
「ベアトリス様はお強い方だ。そんなに簡単に死ぬような方じゃない。考えあって、選んだんだろう。……俺のことはいくらでも呪ってくれていい。どんなにお前に呪われても、俺にとって呪いにはならない。それは祝福になるから」
 もちろんカイトはベアトリスの死因を知らない。自ら命を絶ったのか、病に倒れたのか、カイトには解らなかったが、城にいた頃の気高き魔術師を思い出し、心からの言葉を口にした。
「しゅくふく、か。カイトは難しいこと言うね」
 きつく抱きしめられ、カイトの後ろにエドヴァルド王がいるのが見えた。最初からいたのか、いつからいたのかリルには解らなかった。王と目が合うと、王はにっこり笑った。
(王様が笑ってる……)
 エドヴァルド王は輝く杖を手にして微笑んでいる。その優しく笑みを湛えた口元が静かに動いた。
 ――はやく戻っておいで――。
 カイトの震える体。リルからは顔は見えない。泣いているのだろうか。
「ルアトもレイリアも……リルにいてほしいんだ。頼むから闇の魔力に飲まれないでくれ……ルアトはお前のことを好いてる。あいつは、ルアトは、リルがいないと駄目になってしまう。レイリアだって泣いて手が付けられなくなる。俺だって……嫌だ。頼むから……リル」
 頬と頬がかすかに触れ合った。カイトの震える心が、リルの心に響く。
 居なくなったら嫌だと、心の底から思ってくれているのだ。
「そっか。わかった……頑張る……」
「あとで俺のことを怒ってくれ。抱かれて嫌だったと怒鳴ってくれ」
 小さく首を振りながら、震える手でカイトの体に抱きつき、彼のシャツを掴んだ。すすり泣きながらも意を決して、自分であるために、闇を呑み込むことにする。

 朝日が昇り、部屋が明るくなるまでカイトは左眼を使い続けた。痣が消え、靄もなくなったのを確認し、リルをベッドに寝かせた後で、ようやくカイトは王に向き合い、頭を下げた。
「エドヴァルド様、ありがとうございました」
 カイトの光の魔力だけでは不安で、援護で光の魔力を長時間を使っていた。だというのに、王は疲れた素振りも見せず、爽やかに微笑んで肩をすくめた。
「光の魔力が必要かと思ってね、ふらりと来ただけだよ。カイトに何かあったら私も困るからね」
 ふらつくカイトの体を、王が慌てて支えた。
「カイト、大丈夫かい?」
「申し訳ございません」
「手を繋げば良かったのに。その方が気持ちは伝わったろう?」
「それは勝手にはできません」
「手は繋げないのに抱くのはいいのかい?」
「……」
 心底不思議がる王の様子に、カイトは返答に困る。
「それより、カイト。傷の手当てをして少し休みなさい。君が倒れたら困るだろう」
「その前にルアトを――」

 部屋の前に待機していたイリスが呼ばれ、ルアトを呼びに向かった。しばらくすると、手に包帯を巻いたルアトがよろめきながらも駆けてきた。貧血を起こしているのか、不安のせいか、ルアトの顔色は悪かった。その後ろを目を擦りながらレイリアが追ってくる。
「エドヴァルド王、カイトさん。リルは?」
 王に支えられたカイトが、ルアトの顔を見て微笑む。
「部屋で寝ている。もう大丈夫だ。ルアト、リルの傍にいてあげてくれ」
 ルアトがリルの眠るベッドに駆け寄り、リルの手をそっと握り、名を呼びながらすすり泣いた。レイリアは部屋に入ることが出来ず、その様子を見ていた。戻ったイリスはそっとカイトの体を支える。
「いいのかい? カイト」
 エドヴァルド王がカイトに問うのを、横に立ったレイリアが静かに聞いていた。
「俺にはその資格がないですから」
 王は目を丸くし、その後で微笑んだ。カイトは王とイリスに支えられてようやく立っている。
「カイトも命がけだったんだけれどね。そういうならいいのかな」
「資格って何よ。やせ我慢しちゃって……カイトもバカ真面目なのね」
「放っておけ」
 呆れ気味のレイリアに、カイトもぶっきらぼうに答える。レイリアは王の顔をちらと見上げた。
「どうしたのかい?」
「あの……王様。今までありがとうございました。湖の乙女のこと、神殿のことを黙っていてくださって。私の我儘に付き合ってくださって」
「私は何もしていないよ。レイリアは自分を護っていたただけ。気にすることではないよ」
「私、王様の妾でも誰の妾でも、娼婦になっても構いません。私のいられる場所で生きます」
 その言葉に王もカイトも吃驚した様子だった。イリスだけはレイリアを優しい眼差しで見つめていた。王はカイトをイリスに任せ、レイリアに向き合った。
「私のところへ来ても窮屈なだけだよ。今の君にはリルもルアトもいる。カイトもね。頼れる人がいるんだ。レイリアが自分で考えて、生きたいようにいきなさい。何処へだって行ける。私はその手助けをしたい」
 エドヴァルド王はレイリアの肩に手を載せて微笑んだ。その手の重さとあたたかさにレイリアは王に抱きついて泣いた。王は吃驚した様子だったが、笑みを浮かべてそっとレイリアを抱き寄せた。
「今は泣いてもいいけれど、リルが目覚めた時は笑顔でいてあげるんだよ」
「泣きそうだけれど、頑張りますわ」
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コメント

No title

お久しぶりです。
遅くなりましたが、戴いたイラストを紹介いたしました。
それと無許可で申し訳ないのですが、こちらからも
お返しのイラストを描かせてもらいました。

イラストはこの章まで読んで描いたのでここにコメントしますね。
リルちゃんがルアトくんの手を繋ぐ、の逆展開を期待してたので
すごく良かったです・・!二人の関係性素敵ですよね。
一方でカイトさんがほんとうにいじらしくて大好きです。
過去のお話から現在も辛すぎて、報われるといいなと思いつつ続きを楽しみにしています!

山川さん

コメントありがとうございます。
お返事、遅くなってしまいごめんなさい!(>_<)
そしておかえりなさい!
ブログ戻ってきてくださって嬉しいです。

イラスト載せていただいてありがとうございます。
お返しのイラストですと!ありがとうございます!
ブログ訪問させていただきます!(*≧∀≦*)

リルとルアトの関係は恋仲未満ですが、
友達、仲間というよりは運命共同体みたいな繋がりです。
カイトは苦労する星のもとに生まれてしまったのかもです。
真面目で嘘を付けない性格なのですが
いつか幸せになってくれることを願っています(切望)
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清水結衣

Author:清水結衣
いつもご訪問いただきありがとうございます。

オリジナル中心でお絵かき。たまに版権絵。
そしてぼちぼち文章を。
プロフ画は野分シムロさんに描いていただきました
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