【白い思い出と紅い約束】一・出逢い(4)【小説】

2014.05.06 22:25|【約束】小説
「白い思い出と紅い約束」

一、出逢い(4)

 町は活気に溢れていた。電気が灯り、建ち並ぶ店にはひっきりなしに人々が出入りする。町人に混じり軍人が歩いていたが、彼らの表情は緩んでいる。
 トオルの深い茶色の瞳が細められる。この町の警備はそれほど厚くないようだ。警備が厳しいのは船着き場のある隣町のルトゥチの方だろう。今、地方から人が入ってくるのを警戒している。
 茂みに隠れ、トオルは身に付けていた汚れた服からカジュアルな服に着替えた。黒のジャケットにパンツ、革靴。変装に使っていたものは全て捨てた。
 そして横にいる娘の顔を見る。すでに涙は乾いていたが、頬は涙の伝った跡と土埃とで汚れていた。
 仕方なく娘の顔の汚れを拭いてやり、娘の翼と締め上げた紐を隠すために、荷の中から取り出した自分の上着を羽織らせた。

 娘をきつく抱き寄せるように歩いた。逃げられないように。そして不審に思われないように。
 この町にもこの娘を探している者がいるだろう。細心の注意を払い、トオルは娘の腰に手を回していた。娘は折れそうなくらい細かった。娘は逆らうことなく、トオルに寄り添うように歩いた。傍から見たら恋人同士のように見えるだろう。
 すでに辺りには闇が漂う刻限だった。それなりに値段のする宿に入る。トオルは偽名を使ったが、問題なく二人は部屋に案内された。娘がしきりにトオルの顔を見上げて、嬉しそうにしていたので、全く怪しまれなかった。
 部屋に入ったトオルは、ドアに鍵をかけ、灯りのない部屋の床に無造作に娘を放る。娘は床に打ち付けられ、小さな呻き声をあげたが、トオルはそれを無視し、無言のまま、娘の横を通り過ぎた。厚い絨毯で、靴音はしなかった。
 トオルはそっと窓に近付いて外を窺う。怪しい者はいない。そして遮光のカーテンを閉めてから灯りをつけた。床に肩にかけていた大きな鞄を置く。旅が続けば中身は減るだろう。
 安くはないホテル。調度品もしっかりしている。壁を軽く叩く。部屋の壁は薄くはない。フロントで見た感じでは客も多くなさそうだった。少々騒いでも大丈夫だろう。
 トオルは床に落ちた自分の上着を拾いあげた。なんとか自力で絨毯の上に身を起こした娘が、その様子を見ていた。
 露出した白い肌は土埃に汚れていた。縛られたままの腕と手首が紐でこすれて赤黒くなり、翼は娘の背で小さくたたまれ、きつく縛った紐が食い込んでいた。
「逃げたいか?」
 冷たい視線で娘を見下ろすトオル。娘は顔を上げ、トオルの顔を見つめた。その後口を尖らし、俯いた。
「逃げて自由になりたいだろう?」
 絨毯を見つめたままで、娘は頭を振った。
「逃げても、行くところ、ないから」
 娘の声が震えていた。
「人、こわいから。いじめるから」
 そこで娘は顔を上げ、トオルの顔を見た。目に涙をためていた。
「あなたも、そうする?」
 トオルは冷たい視線で娘を見ていた。手にナイフを握っていた。
「さあな。殺しはしないが、お前の出方次第では怖い思いはするかもしれないな」
 ナイフと言葉の冷たさに怯え、自由にならない姿のままで、娘は大粒の涙をこぼす。
「真実を話せば傷つけはしない。知っていることを話せ」
「こわいのや! やだ」
 泣き出す娘を見て、ナイフをしまいながらトオルは腰に手を当てた。苛立ちを何とか抑えようと大きく息を吐いた。娘はしゃくり上げながらその様子を見ていた。
「こ、こわくしない?」
「……そう心がける。お前、名前はなんという?」
 しゃがみ込み娘の目を見つめ、出来るだけ優しい声音で問い掛ける。
「……ひっ、ヒナ」
「ヒナというのか……。お前は何者だ? 天使か? どこから来た? 何の目的で?」
 ヒナと名乗った娘は、何も知らないと言うばかりで、強い口調で問い詰めても刃物をちらつかせて脅しても、涙をこぼしながら頭を横に振るだけだった。
「わからない、の」
「わからないわけないだろう? どこで生まれて、何故背に翼が生えていて、どんな理由でここに来た?」
「わからない! ……わからない、の。気が付いたら、私はみんなと違ってて、翼があって。翼を見ると、石を投げられたり、いじめられるから、逃げてきたよ。山も越えた、よ。でも、でも捕まっちゃって、逃げた、の。だから、だから町はこわくて、こわいから、来たくなかった……」
 記憶を失ったのだろうか。何も知らないわけはないはずだが、ヒナと名乗った娘の言うことに嘘はないようだった。
 簡単すぎるほどにあっさりと獲物は捕まえた。あとは仲間と会い、もう一つの目的を遂行すること。
 できたら無事に故郷に帰ること。この、得体のしれない獲物を生かしたまま。
 トオルは無言で立ち上がった。ヒナが涙で濡れた顔を上げる。
「どこに行くの?」
「お前に言う義務はない」
 ヒナはますます泣きだした。
「どこ行くの? どこ行くの? ねぇ、ねぇねぇ、どこ行くの?」
 同じ言葉を何度も繰り返され、トオルは怒鳴りたい気持ちをなんとか堪えた。
「……メシだ。帰ってくるまでそのままでいろ。騒いだり、逃げようだなんて考えるなよ」
 灯りを消してトオルがドアノブに手を掛けると、ヒナの弱々しい声が聞こえてきた。
「ひとり、じゃやだ。連れていってよぉ」
「馬鹿か。誰がお前なんかを連れていくか」
 暗闇から嗚咽が聞こえたが、トオルは無表情のままドアを閉め、鍵をかけた。両の手をポケットに突っ込み、冷たい廊下を歩く。

 食事をとり、トオルは部屋に戻った。
 暗いままの部屋で、ヒナはうずくまるように体を丸めて寝ていた。顔は涙で濡れている。
 今まで泣いていたのだろう。
 灯りをつけても起きる気配はなかった。悔しいことにこの町では停電もなければガスも使えた。
 久方ぶりに温かい湯のシャワーを浴び、上半身裸のまま、トオルはベッドに横たわり、酒を軽く飲んだ。今日は疲れた。精神的に疲れた。
(よく眠れるな。あんな格好で。……疲れていたのか?)
 トオルは首を傾げた。そして寝ている娘を見下ろす。肌には傷一つなかった。
(新聞には怪我を負ったと書かれていたが、治ったのか? あの情報自体が嘘なのか?)
 不思議な娘を見下ろしながら、溜め息をついた。
 ――仲間に連絡をとるべきか? もう少し様子を見ようとトオルは思った。娘のこの様子では話にならないうえ、こちらも全く状況を把握できていない。待ち合わせの日を待とう、その場所まで行こうと、トオルは考える。……ただこの幼稚な娘と共にいることを考えると、憂鬱だったが。
 掛け布を頭まで被った。今日は寝よう。これからのことは、明日考えよう。
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コメント

本を

出版したほうがいいと思います(;艸;)
二人の状況や環境だけでなく、気持ちの内面まですごく伝わってきます!!
次が楽しみです!!←ありきたりな言葉ですが心からそう思います(;∀;)

これだけ文章が上手いということは、たくさんの本を読まれたからなんでしょうね。
本当にうらやましいです。
私もタイムマシンがあったら、昔の自分に「FFばかりしてないで本を読め!」と言ってあげたい(;皿;)

freilさん

コメントありがとうございますY(o0ω0o)Y
本だなんてそんな( 〃▽〃)落選しかしたことないです。
平凡だとかありきたり、という批評をもらいました(^o^;)
出すなら自費(;゜0゜)
同人誌みたく出してみたいなと思うことはあったのですが、
勇気なくて……二次創作に比べるとなかなか厳しいらしいし。

本は読んでないですΣ(゜Д゜)←
気に入った作家の本ばかり読むという(´д`|||)
(しかも同じ本をずっと読んでるとか)
とても視野が狭いんです。
FFとDQに明け暮れた日々でした(;゜0゜)

さりげなく腰に手を回すトオル、イケメンやな~
とはいえ、ヒナちゃんにしてみればいきなり縛られ歩かされ腰に手じゃいくらかっこよくても怖かったでしょう

ヒナちゃんが記憶がないのがほんとに知らないのか

それともなんらかの力とかで封印?されてるのか
気になる話の引き方ですね

>「人、こわいから。いじめるから」
>「あなたも、そうする?」

ここでぼのぼののシマリス君が頭をよぎって
シリアスな話なのにクスッとしちゃいましたww

ヒナ、まだ謎が多いですね、この世界は
翼がある人間に何か嫌な印象があるのかな?

新聞の内容を見ると傷が癒えるのが早いのか、
そうじゃないのか、この先が気になります。

荒ぶるプリンさん

いつも読んでくださってありがとうございます(*´ω`*)

トオルイケメン設定ですw
イケメンなんです!声を大にして言っときますwww
荷物多いけどw服持ってきすぎだけどwww
友人に「洋服もちすぎでない?」と突っ込みをうけたこともあるけどw

ぼのぼののシマリス君www懐
かしいけどたしかにそんな感じでしたよね(∩´∀`)
久しぶりに読みたくなってしまった・・・もう本屋にはないかしら・・・

トサカランさん

コメントありがとうございます(*^▽^*)
読んでくださってありがとうございます(´ω`*)

おかしくなった世界におかしなものが混ざりこんだ、そんな感じです。

おかしくなった世界に精霊がでた、という話がでて
翼があるものがなぜかいて、
人間はそれをどうにか利用したいと思ってる・・・そんなかんじなんです(´・ω・`)
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清水結衣

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