【白い思い出と紅い約束】三・再会(3)【小説】

2014.06.18 09:20|【約束】小説
「白い思い出と紅い約束」

三、再会(3)

 人の世界は自然の犠牲の上に繁栄を極めたという。幾つもの犠牲からなる歯車は軋みつつも噛み合い、安定した日々を人々にもたらしていた。
 変化は何の前触れもなく突然に起こったという。
 空は霞み、海は荒れた。度重なる地震は急速な地殻変動を起こした。海に沈み、突然に隆起する大地。激しい異常気象、自然環境の悪化の加速は、終末への歩みを速めたかのようだった。
 僅か数十年という短期間での劇的な変化で、人類の発展と繁栄は停止した。それはまさに「天変地異」だったという。
 生活の荒廃。少ない資源を巡って争いが度々起こり、人が死んだ。
 病が流行り、さらに人が死んだ。
「神の怒り」
「天罰」
 そんな言葉までもが、人々の口から漏れるようになる。
 美しくも恐ろしい「精霊」が地に降り、大地を穢した人間に怒りの鉄槌を下している……そんな話までもが囁かれていた。

「精霊、じゃないよ。私は。違うの。みたいの」
 宿のベッドに腰掛けてヒナが言った。荷を置いて背伸びをしていたトオルが振り返る。
「精霊じゃない? じゃあお前は……?」
 人差し指を口元に当てつつ、悩むヒナ。
「うーん、何か、だと思うの。忘れちゃった」
「忘れたってお前……大事なことだろうに」
 唖然とするトオルにヒナが抱きつく。
「大事なことだから、忘れさせられちゃった、んだと思うよ?」
 顔を上げたヒナは寂しそうな笑みを浮かべていた。
「ちゃんとしていたら、こんなことしてなかったと思うんだ。だからいい」
 何がだからいいんだとトオルがヒナの頭を荒っぽく撫でる。
「まぁ、どうなっても、お前はヒナなんだろうな」
 口許に笑みが浮かんでいたのを見付けた。嬉しかったが、あえて「髪グシャグシャ」と頬を膨らましながらヒナは文句を言う。

 船着き場のあるルトゥチの町から首都のニフリートまで大きな街道が南西へと伸びていた。
 あえて街道を逸れて、目立たないようにと人通りの少ない道を選び、二人は歩いた。足が棒のようになりつつも町を一つ一つ歩いて越える。
 行く先々の町では、他の地方から来た同志に会えた。トオル達と同じように政府に反逆を誓った――反逆するしか術のない地方に配属されていた――軍人だった。情報交換をし、共に戦うこともあった。トオルは難なくその場を切り抜けていた。
 トオルは銃を所持していたが、小刀のみで戦っていた。その様子をヒナは物陰から怯えつつ、不思議そうに見ていた。
「トオルは、みんなみたいな長い刀、ないの? 銃は、使わないの?」
 敵対する軍の人間や、他の者達と違い、トオルは長刀を装備していなかった。不思議そうにしているヒナを見て、トオルが苦笑する。
「俺はいろいろと問題があって目立つらしいからな。刀は後から持ってきてもらう予定だ。銃は使いたくない。今は」
「今は?」
 ヒナが首を傾げたが、それ以上のことをトオルは言わなかった。

 待ち合わせに指定した町まで、あと少しだった。
「トオル……」
 先を歩いていたヒナが急に振り返った。
「ん? なんだ?」
 立ち止まったヒナにつられ、トオルも足を止めた。
「トオル。なんでいつもそんなに悲しそう、なの?」
 心配そうな顔をして問い掛けるヒナ。トオルは軽く笑った。
「別に悲しくなんてない」
「そんなことないよ。いつも、つらそう、だよ」
 そう言いながら、ヒナがトオルの顔を覗き込んでくる。
「辛そう、か……」
 純粋な黒曜石色の瞳がトオルの瞳の奥を見つめる。トオルの心の奥が軋んだ。トオルはゆっくり歩き出し、それに合わせるように早足でヒナが横に並んだ。
「ガキの頃から――ガキの頃は、俺は軍隊なんて入る気はなかった。普通に生きていくつもりだった。今は陸が隆起して、山が高くなって争わなくなったが、昔は北の国とよくもめていたんだ。
 昔、北の国と戦っていたとき、敵の生き残りが、たまたま俺の住んでいた家の近くを通り、たまたま俺の家族が、殺された」
 ヒナは黙って話を聞いている様子だが、どこまで話を理解しているのかは解らなかった。
「俺だけ、たまたま家の外にいて助かった。家族が、父が……母が……妹が殺されるのを見てしまった。落ちていた刀を拾って、俺は奴らを斬った。斬ってしまったんだ。その時から、俺は人殺しになった。血まみれで死んでいる家族を見ても、何故か泣けなかった。……それだけだ」
「悲しいね」
 立ち止まったヒナを見ると、目には涙がたまっている。トオルは思わず慌てた。
「なんでお前が泣くんだ? もう昔のことだ、気にするな」
「トオルの心にはまだある、よ。つらいのと悲しいのと泣きたいの」
 トオルは地面を見つめた。そんな感情は消えたものと思っていた。
「……そうかもな。お前は優しいんだな」
 腕を組んできたヒナ。涙が頬を伝っている。顔を見られていることに気付き、慌てて涙を拭いて、ヒナは笑ってみせた。
「違うよ。トオルも優しいんだよ」
 その細い腕を、トオルは振り払う気にはならなかった。

 相変わらずヒナはトオルに懐いていた。夜はベッドに忍び込み、よく追い出され怒られたが、ヒナはそれでもトオルの傍に行きたがった。トオルも諦めて、ヒナと同じベッドで寝るようになっていた。
「トオルの心の音、聞こえる」
 ヒナはトオルの胸に耳を当てていた。トオルはそんなヒナの頭に手をやり、艶やかな髪を手で梳く。
「ただの心臓の音だろ? 別に珍しいもんじゃないだろう」
「トオルはあったかいね」
「お前が冷たいだけだ」
「じゃ、あっためて」
 トオルはヒナを見た。子猫のように横でうずくまり、トオルを見つめる娘。トオルはヒナの細い体に手を回し、自分の体に引き寄せた。
「あったかい」
 ヒナは幸せそうに呟きながら瞼を閉じた。その呟きを聞いて、トオルは眠りに落ちる。
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コメント

いいな~(;∀;)

こんなピュアなのいいな~♪
どんどん縮まる二人の距離…ところが!!
みたいな展開になりそうでドキドキです(;∀;)

でも本当にこういうピュアなのっていいですよね。
たまにピュアな絵を衝動的に描きたくなります。
それは私の心が汚れきってない証拠だと勝手に前向きに独善的に解釈しちゃう今日この頃w

たしかに、忘れてなかったらトオルとも合えなかったわけだからヒナちゃん的にはよかったんだろうね


トオルの過去も悲惨だな...そんな状況にあっても
逃げ出さずに生きてこれたのはトオルの強さと仲間がいたからなんだろうな

「じゃ、あっためて」 であらぬ妄想した私は
ヒナちゃんにビンタされてきますww

freilさん

コメントありがとうございます(*´ω`*)

なんつーか、あれですよねwなにこのリア充どもw爆ぜてしまえwwwって感じなんですがw
お互い邪な心がないってのがいいですよね(●´ω`●)(書いてる本人は邪に邪なんですが・・・(*ノωノ)←)

章わけについては問題ないと思うのですが、
章の小分け?((1)とか(2)とか)で文章の量に明らかな差が出てきてしまってます(;´Д`)
実力不足のせいなのですが、書き直したり足したりしたらこんなんなってしまいました(;'∀')

・・・読みにくくてすみません<(_ _)>

荒ぶるプリンさん

コメントありがとうございます(*^▽^*)

トオルはたまたま家族が殺されて、自分も他人を殺してしまったことがキッカケになっています。
ここの「たまたま」はあえて何度も使ったのですが、何度も出てくるのってやっぱりなんか変ですよねw
しつこいwww
生きてこられたのは友達のおかげなんですけど、友達はおバカなんですけどwでも友達なんですけどwww

「あっためて」でくっつく程度で今のところの二人の距離はこのくらいですw
あらぬ妄想・・・
ヒナはビンタするより「そう思うよね?よね?」とたぶん同意すると思うのです(´ω`*)
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