【Cry*6】1-1、ちぐはぐな出会い

2014.08.10 18:27|【Cry*6小説】第1章
「目覚める」


【cry*6】1-1、ちぐはぐな出会い

 ──彼は静かに目を開けた。
 カーテンのない窓から、昼の暖かな陽射しが直接顔へと降り注ぐ。眩しいと、彼は顔をしかめた。
 目が慣れるまで、しばし目の前を眺めていた。低い、粗い作りの素朴な木の天井があるだけだった。
(どうして生きているんだろう。俺、崖から落ちたのに)
 天井を見つめながら考える。走って崖から落ちたはずなのに、見知らぬ部屋の中にいる。
 背に当たるのは硬い石ではなく、流れる冷たい川の水でもなく、ごく普通のベッドだった。
 皆に逢いに行こうと思っていたら、残念なことに死に損ねたらしい。今のこの状態が現実だ。
(……大怪我もしてないの? 夢でも見ているのかな?)
 全身の骨が砕けていてもおかしくはない程に高い崖から落ちたはずなのに、大きな怪我は負ってないようだった。痛みすらない。手足にもしっかりと力が入る。

 無言のまま彼は――ルアトは、身を起こした。
 身体が重い。だるいというのだろうか。思考を停止させようと睡眠を欲する頭を振って意識をはっきりしようとした。身体の至る所に包帯が巻かれているようだ。額にも包帯が巻かれていた。この程度の怪我で済んだのが、不思議だった。
 幸か不幸か、何処かの誰かに助けてもらったようだ。どちらにしても礼は言わねばなるまい。靄のかかった頭のままで部屋を見回すと、暖炉に鍋がかかったままだった。
 野菜を煮込んだスープだろうか、温かい匂いを漂わせていた。
 心は沈んだままだというのに料理の匂いに腹が鳴る。それが悔しかった。
 動く気力もわかず、しばらく鍋を見ていたが、思考だけは勝手に働いた。ちょっと火が強い。あのままだと鍋底が焦げてしまう。
(誰もいないのかな?)
 せめて鍋を火から下ろそうと思い、ベッドから降りようとした。そこで気づいた。右手が重いと思っていたが、手を繋いでいたのだ。手を繋いでいる、誰かと。
 そこまで考えを巡らせてルアトは慌てて視線を自分の右手に移した。
(って……誰だ!)
「な、なんで」
 手の主の顔は見れなかった。
「え? どうして倒れてるの?」
 看病していたのか、手の主はルアトの手を握ったまま、椅子から滑り落ちたままの格好で倒れていたのだ。手の主は黒髪の娘だったが、気を失ったのか、片手に手拭いを握りしめたままで意識を失っている。
「ねえ、き、君! 大丈夫?」
 握った手を揺すったが反応がなかった。慌ててベッドから降り、恐る恐る娘の肩に手を置き、軽く揺すってみた。
 起きない。この娘は何故倒れて昏睡しているんだろう? もしかして寝ずに看病をしてくれたのだろうか。
 そして今は鍋が危うい。鍋蓋が震え始めている。吹き零れそうだ。
「大丈夫ですか? あ、あの、大丈夫ですか!?」
 乱暴、とまではいかないが大きく肩を揺すると、娘は顔を上げて瞼を開けた。震える睫毛と潤んだ黒い瞳まで間近で見てしまい、ルアトはドキリとした。
 娘はゆっくり視線をさ迷わせ、ルアトを見、驚き赤面し、ルアトの手を放す。
「きゃああ!」
 両手で顔を隠し、座った姿勢のままで後ずさりをした。後ろの棚にぶつかり、棚の中で何かが落ちる音がした。娘はぶつけた頭を押さえて痛みを堪えつつも、必死に顔を隠している。
「あの……」
 助けられた側のルアトが困惑してしまう状況だ。だが、娘は純粋に恥ずかしがっている様子だ。
「あああ」
 赤面した娘は手拭いで顔を隠したまま俯いていた。そんなに顔を見られたくないのだろうか? ルアトはあえて気さくに声を掛けた。
「助けてくれてありがとう。君が助けてくれたんでしょ? 俺はルアト。君は?」
「わ、私はリル、です。……わわ、あ、あの、き、気にしないで」
 何を言われているのか解らなかったので、ルアトは首を傾げる。
 助けてくれた恩人がいた。目を覚ましたら倒れていて、起こしたら逃げられて、叫ばれてしまった。しかも謝罪までされてしまう──。
「あ、あの、手を、繋いでてごめんなさい。か、看病というか祈るようなもので! あの、そ、そんな気はなくて」
 リルと名乗った娘は両手で顔を隠しながら肩を震わせた。弁解だろうが、ルアトは気にしていなかった。
 ――手を繋いでいたことは少し気になったが。
 もう顔だってしっかり見てしまっている。可愛い顔なのに、とルアトは思ったのだが、これ以上娘を困惑させまいと、言葉にはせずにいた。
「気にしてないよ。ありがとう。ただ──」
「ただ?」
 ますます不安そうな表情を浮かべるリルに、ルアトは苦笑した。彼女が心配することとは違う理由だ。
「鍋が相当やばそうだよ」 
 もう一度リルの悲鳴が上がった。
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コメント

使い分けれてすごいです!!

トオルとルアト、ヒナとリル、一見同じような性格に見えてちゃんと違うところがちゃんとわかります。
書き分けがちゃんとできててすごいなー…。
私なんて強気、弱気、ネタキャラの3パターンしか分けれてない(;∀;)
細かな仕草やセリフにちゃんと現れてますもんね♪
すごいと思います(^ヮ^)私もそこらへんも意識しなきゃ…!

freilさん

コメントありがとうございます(*´ω`*)

書き分けできてますか?
私の中では、トオルとヒナは異質な存在です。
あの二人は動かしづらい……というか、動かないキャラです。
どちらかというとルアトとリルぐらいの性格の子に主人公してもらうことが多いです( ̄▽ ̄;)
リルはちょっとズレがありますが、ルアトはごく普通の青年です。
ちょっと鈍感かな。……いや、普通。普通だす。
平凡、天然、臆病、皮肉屋が多いです。

こんな感じなのでイマドキの流行りっぽい話にはならないです(´・ω・`)

そして今は鍋が危うい。の文章が

緊迫してる状況とのアンバランスさで
思わず笑ってしまいました

こちらの二人は静と動で言えば
動なコンビですね
ルアト君のほうが良く動きますね
リルちゃん行動が可愛すぎる

荒ぶるプリンさん

コメントありがとうございます(●´ω`●)

こっちの話はどうしていこうかなと思って、あえて会話主体で行きます。
(台本小説にならないようにしたいです・・・)

しばらくルアトが主人公ポジで進むと思います。
鍋が危ういんですwwwどうしてこんな文章になったんだろう(;´∀`)
お前が一番危ういんだと突っ込みいれたいとこですがw
リルはドジっ子ではないのですが・・・いろいろとドジっておりますw

>「きゃああ!」

え、どうなって、今の状況は?と・・・思っていたら。
叫び声、男としては、最大の危機の一コマが自分に、って感じで。
ドギマギ、ってもんじゃない、このシーンでは誰かが来て、
「お前は何を、この子にしたんだ!と、拘束されかねない状況で。
ハラハラドキドキ、の心で読んでいます。。ポチ

雫さん

読んでくださってありがとうございます<(_ _)>

誰がどうしているんだかわからない状態ですよね(笑)
助けてもらった方が面倒みているという大変な状況です(´艸`*)
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