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2017-04

【白い思い出と紅い約束】五、羽根(4)【小説】 - 2014.10.20 Mon

「白い思い出と紅い約束」

五、羽根(4)

 

 翌朝、シャツにジーンズ姿のトオルが、あくびを噛み殺しながら新聞に目を通していると、ドアをノックされた。
 声を掛けても返事がなかった。緩慢な動きでテーブルに新聞を置き、深く息を吐きながら立ち上がる。
ドアを開けるとスーツ姿のマリが立っていた。無言のままドアの前から動かない。トオルが促し、ようやく部屋に入ってきた。目の下にはくまができていた。
「マリ、何でスーツ?」
「そんな気分なんです」
「そうか」とトオルは言うしかなかった。
「昨日はすまなかったな。あれから寝られたか?」
 沈黙したマリは、俯きがちの姿勢のまま動かない。トオルが首を傾げていると、マリは唇を震わせ、深く頭を下げた。
「ごめんなさい! 昨日のヒナの一件は、私のせいなんです!」
「ん?」
「私……が、私がヒナに言ったんです。先輩のために、命捨てる覚悟があるのか、って。最近、先輩もヒナもまるでこ、恋人同士みたいだし、心配で……からかい半分で嫌味を言っただけのつもりだったのに……こんなことに」
 そういうことか、とトオルが苦笑する。
「ヒナには嫌味も冗談も通じないからな。ま、純粋、ってことなんだろう。今後、気を付けてくれ」
「ヒ……ヒナは?」
 トオルが顔を動かす。その先にヒナが眠っていた。ベッドの白いシーツの上、白い顔。死んだように静かに眠っていた。
「血は止まって、今は眠ってる。何故か血痕すら残ってない。服もタオルも汚れていないんだ。……普通の人間なら死んでもおかしくない出血量だったんだが、無事だった。……翼があるくらいだ、ヒナは普通の人間じゃないんだろう。出立を遅らせて、少し休ませようと思う」
 静かにマリは頷いた。あれほどの出血をしたというのに、彼女は生きていた。血の痕一つも残ってないことを疑問に思いつつも、睡眠不足のぼんやりとしたマリは、職場にいる時と変わらぬ手つきでトオルに珈琲を煎れていた。
 椅子に腰掛け、トオルは珈琲を飲む。やはり人に煎れてもらった珈琲は美味い。
「あの、先輩」
「なんだ? 謝罪はもういらないぞ」
「あ、違います」
 自分の分の珈琲を煎れたマリは、カップを手にトオルの向かいの椅子に腰掛けた。
 テーブルに置いてある新聞をちらっと見てから話しはじめた。
「世界的に何十年にわたって異常気象があって、天変地異みたいな災害続出でこんなことになって、もうだいぶ経ちますよね。この国じゃ、新たな鉱物資源でエネルギーを作れたけど。……外の世界って、どうなってるんでしょうかね」
「さーな。どうにかなってるのかもな。もしくはどうにもなってなかったりしてな」
 言いにくそうにしながらも、マリが言った。
「あの、噂の『精霊』なんているんでしょうか? ヒナは……精霊なんでしょうか?」
「さーな。本人も憶えていないようだし、ヒナが噂の精霊かは怪しいな。自分のことを精霊じゃない精霊とか言ってたが、自分が何者かも憶えていないらしい。ヒナがいるくらいだ。何がいてもおかしくはない時代かもしれないな」
「ですね」
 マリも思う。翼がある人間がいるのだ。何がいてもおかしくはない。
「東の国には行けるって噂もあるけど。警備が厳しいらしいです。あ、そうそう、珈琲は東の国から仕入れているって噂ですよ」
「とりあえず、珈琲だけはどこからでもいいから仕入れてほしい」
 切実なトオルの願いに、吹き出しそうになるのをマリは必死で堪えた。トオルは珈琲が好きなのだ。
「東の国以外で……唯一、外界と接触できる海が荒れて、船を出せないんですもんね」
 しかも私たちの住んでるところは山奥だし、とマリがぼやく。
 西にある小国は、海に突き出しており、この国を通過せねば大陸まで逃げられない。しかしトオルの国では西から逃げてくる者を受け入れなかった。西の国は完全に孤立した半島になっていた。
「ヒナに訊いてみるか。飛んできたなら、何か見てきたかもしれないしな。午後に仲間と打ち合せがある。何か有益な情報を聞ければいいけどな」
「そうですね」
 マリは砂糖を入れて珈琲を飲む。
(あと……ヒナにちゃんと謝らなきゃ)
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● COMMENT ●

きっと自分への戒めのために
スーツを着たんだろうな...

寝不足気味だったり、目の下にくまができるほど
一晩中自分を責め続けたんだろうな


トオルはやっぱブラックコーヒーなのかな
こっそり砂糖入れてたらおもしろいけれどww

荒ぶるプリンさん

コメントありがとうございます(*^▽^*)
またもお返事が遅くなってごめんなさい<(_ _)>

マリっちのスーツはけじめというか戒めというかですね。
一人で自己嫌悪で嘆いていたんだと思います。
トオルの、もうヒナには何があってもおかしくない、という状態に慣れているのが怖いところです
(異様なことにも慣れてきている・・・)

トオルはブラックです。
マリはお砂糖にミルク多めが好き、みたいなw
ヒナは飲めません。にがいのきらいーですw
ちなみにマリとヒナは紅茶派ですw

関係ないけれどサトルもブラックです。たまにお砂糖入れます。甘いのも欲しいなっていうお年頃ですw


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