【白い思い出と紅い約束】五、羽根(5)【小説】

2014.11.08 20:16|【約束】小説
「白い思い出と紅い約束」

五、羽根(5)


 ふわふわふわ。
 ヒナは空を飛ぶ夢を見た。
 ふわふわ。
 もっと昔、空が暗い頃のこと。
 ヒナがヒナと呼ばれていなかった頃。
 ふわふわ。
 最初はどこで何だったんだろう――。
 落ちてきた。誰かと落ちてきた。
 誰かを探していた気がした。
 でも、途中で忘れてしまった。
 忘れたあともふわふわしていた。
 空を飛んでいるうちに、飛ぶのに飽きてきた。
 だから黒い土地に降りてみた。
 ふわふわ。

 そして何もかも忘れてしまった――ような気がする。


 ……な……ヒナ……。
 名前を呼ばれた気がして、ヒナは目を覚ました。
 目を開けると部屋は眩しかった。しばらく顔をしかめていたが、目が慣れて部屋を見回した。薄いレースのカーテンのある窓から、昼の暖かい陽射しが差し込んでいた。
「目を覚ましたんだね、ヒナ。ずっとうなされていたよ」
「マリ……か」
「マリか、って先輩じゃなくてすみませんでした! ……じゃなくて、大丈夫? 首」
「もう、大丈夫だよ」
 心配そうに顔を覗き込むマリに、ヒナは笑顔で答えた。
「ごめんね、ヒナ。あんなこと言って」
「あんな、こと?」
「命がどうとかっていうこと。先輩もヒナも本気なんだってわかった。ヒナ……もう絶対無茶しないでね」
 優しいマリの笑顔に頷いた。ヒナは元気なマリの笑顔が好きだった。
「マリの笑顔。おひさま、みたい」
 マリの頬が赤くなった。異性にも今まで言われたことがなかったので、照れたマリは憎まれ口を叩こうとした。しかし、ヒナの純真な笑顔を見て何も言えなくなり、嬉しさに頬を赤らめたまま微笑みを浮かべた。
 午後の柔らかな雰囲気の中、二人はぼんやりと話をする。
「ヒナ、この国は山に囲まれていてさ、私たちは他の国がどうなってるか知らないんだ。ヒナは他の土地で何を見てきたの?」
「あまり、覚えてない、けど。今、じゃなくて、ちょっと昔。うすぐらい空、とか火を吹く山。川はあふれてた。地面はずっとぐらぐらしてて上がった所や、下がったりして水びたしになった所もあった」
 やっぱり天変地異はこの国だけに限らないんだ。マリは思った。
「他の場所で誰かに会った? みんなどうだった?」
「誰もいない場所もたくさんあった。ケガしたり、家族がいなくなった人もたくさんいた、よ。すごく怒ってた。すごく泣いてた。話そうとした、けどこわがられて、逃げる人、いた。私をみて石投げたり……でも、でも。翼があるけど体が女だからって、嫌なこと、されたり……」
「もう、それ以上はいいよ」
 そこでマリは話を止めさせた。マリの声も震えていた。
「……おばあちゃん、会いたいな」
 窓の外に目をやりながらぽつりとヒナが呟いた。
「お、お! おばあちゃん?」
 驚いたマリは咄嗟に訊き返していた。このヒナに祖母がいるのか?
「この国にね、来たときに会ったの。しばらく一緒にいてくれたの。いなくなったマゴさんの服をくれたの」
「優しい人だったんだね」
 ヒナの服の入手先がようやく分かった。盗みもできないような人(のようなモノ)が、どうやって服を手に入れたのか気になっていたのだ。
「あのおばあちゃん、優しかった。会いに行きたいな」
「今度行ってあげなよ」
 マリが優しい口調で言うと、ヒナは嬉しそうに頷いた。
「少ししたら先輩も来るからさ。それまで休んでおいたら?」
「そうする」
 笑顔で頷いて、ヒナは目を閉じた。

 次にヒナが目を覚ますと、傍らにトオルがいた。椅子に腰掛けて心配そうにヒナの顔を見つめていた。ヒナが笑顔を向けると、安堵の表情を浮かべながら、ヒナの額に手を載せた。トオルの骨太の大きな手だ。
「気分はどうだ?」
「悪くないよ、大丈夫だよ」
 にっこり笑いながらヒナが普通に起き上がったので、トオルは慌てて止めようとした。
「あんなに出血したのに……本当に大丈夫なのか?」
「うん、大丈夫。寝たから大丈夫だよ」
 寝たから大丈夫なのか? と心の中で呟きながらも、トオルは黙ってヒナを見た。首に巻いた包帯には、もう血は滲んでいない。本当に傷はふさがったようだ。
「……頼むから、もう無茶はしないでくれ」
「トオルのためなら、何でもする、よ。でも、本当に大丈夫」

「今日は仲間と打ち合せなんだ」
「なかま?」
「同じ地方から来た仲間と、他の地方から来た軍人だ。少し前に、首都警備の精鋭以外はほとんどが僻地の警備か地元に戻されたから、同じような境遇の、同じ志の軍の人間ばかりだ。マリも参加させるから、ヒナは一人で部屋で休んでいてくれ」
「ひとり?」
 不安そうにヒナが繰り返す。
「すぐ帰ってくるから、な?」
 トオルはヒナの目を見つめ、優しい口調で諭す。
「私も行きたい。ひとりイヤ」
「ヒナ……。じゃあ、マリと一緒にここで……」
 ヒナがトオルの腕に縋りつく。
「トオルのえもの、で付いていく! それでも……ダメ?」
 涙ぐみ懇願するヒナを見て、トオルは眉間にしわを寄せ、黙り込む。
 二人のやりとりを見ていたマリが、二人分の飲み物を運んでくる。ベッドサイドのテーブルにカップを置きながらヒナに言った。
「ねーぇ、ヒナ。先輩はヒナを見せ物みたいにしたくないんだよ。翼を広げてほしくないの。みんなの前に連れていきたくないの。わかる?」
「わかんない……」
 ヒナは俯いて下唇を噛む。マリはしゃがんでベッドの上で俯くヒナの顔を見上げた。そしてヒナの手をそっと握った。
「私たちはヒナが良い子だって知ってる。でも、翼ある者の噂は、良くも悪くもいろいろあるから、そういうのをヒナに聞いてほしくないんだよ」
「がまんするから、連れていって。ダメ?」
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コメント

誰かと落ちてきた...
普通に考えたら同じ翼持ったものなんだろうけど
ひねって考えて双子とか

これは今回は強制的にマリちゃんとお留守番かな~
ただ、こっそり抜け出さないかが心配だったり

荒ぶるプリンさん

コメントありがとうございます(о´∀`о)

推敲前の文章のまま載せてます。以前のも見返すと誤字がひどいですが(;´д`)

ヒナが誰とどうやってここに来たのかは忘れてしまってるんです(´・ω・`)
二人か三人か……(天然三つ子とか大変そうだ(;´д`))

マリが守ってくれるので、(二人にとって)マリが支えになってるので
結局三人で行くことになっちゃうんです( ̄▽ ̄;)
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