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2017-04

【白い思い出と紅い約束】五、羽根(6)【小説】 - 2014.11.09 Sun

「白い思い出と紅い約束」

五、羽根(6)



 酒場・紫水晶。こぢんまりとした木造の店の前には「定休日」の看板が出ていた。辺りを警戒しつつ、トオルとマリ、そしてヒナが店内に入っていく。

 黒光りする程使い込まれた木のドアを開けると、重く軋む音が店内に響いた。鋭い視線が入り口に集中した。カウンターとテーブルが十あるかないかの小さな店。店内には男達が集っていた。
 朗らかに会釈をするマスターはミタール出身だった。
 見慣れた懐かしい顔。今日集まっている仲間の数は二十程だ。他の地域から来た、昔の仲間も数名混じっていた。トオルと同じ正規の軍人だった人間だ。
「トオル。無事だったようだな」
「まぁな。そっちは?」
「ぼちぼちだ。いつもの小さいのも付いて来ていたのか」
「小さくてすみませんねぇ。でも、小さくても可愛いですからネ」
 マリがわざとらしくウインクしてみせると、皆の顔に笑みが浮かぶ。
「こんな可愛い軍人いたっけか?」
「ミタール出身。志願兵でトオル先輩の後輩です」
 マリの挨拶に、皆が納得する。現地で訓練を受けた若者は、マリ以外は参加していなかった。待機、もしくは偵察や先に首都に向かうことを命じ、この場に後輩を連れて来る者はいなかった。
 今回、首都に乗り込む反乱軍の中で女性はマリのみ。体力や腕力は男性には劣るが、機転の利かせ方、行動の迅速さは負けない。そして、先輩に敬意を払いつつ軽口を叩き、いつも場の雰囲気を和ませる。
 以前、資料を提供してくれた他の地方の軍人を店内で見つけ、マリは挨拶をした。
「トオルの後輩だったのか。ミタールから来たと話していたから、もしかしたらと思ったんだ。あの時は助かったよ」
 お互い簡単に挨拶を済ませた後、仲間達はトオルの後ろに隠れるように立っているヒナを睨んだ。トオルはほぼ入り口近くから動かずにいた。その視線に怯えつつも、ヒナは逃げずにただ静かに受け止めた。
「後ろのオンナは?」
「こいつはヒナっていうんだが……」
 仲間の一人が、ヒナの頭から足先まで見て首を傾げた。
「お前のオンナか? ……にしては、違う気が」
 ちらりとヒナを振り返り、思い迷いながらもトオルは事実を口にした。
「こいつは……ヒナは、『翼ある者』だ」
 仲間達に衝撃が走った。その空気にヒナが震えたが、トオルにしがみ付こうとはしなかった。
 促されたヒナは羽織っていた上着を脱ぎ、翼を広げた。皆が息を呑む。
「本当にいたのか! 何か情報を持っているのか?」
「いや……政府に捕まった時に忘れてしまったらしい」
「残念だな」
 落胆の声が上がる。
「化け物だと聞いていたが、見た目は人間と変わらないんだな」
 翼を広げたまま、ヒナは震えていた。
「化け物じゃなくて天使だろ?」
「天使か悪魔かわからないって話だぜ」
「願いを叶える……という話だけど、見た感じじゃあ、無理そうだな」
 マリは俯いていた。
「普通に可愛い子だねぇ」
「こいつの血が本当に何か資源になるのか?」
 皆の言葉を聞きながらヒナは俯く。震える手から抱えていた上着が落ちた。
「資源になるという噂は、……どう考えても無理だろうなぁ」
「捕まえたとなれば、いろいろと有利だろうな」
「化け物なら……」
 トオルの肩が震えた、その時。
「化け物化け物って……ヒナは普通の女の子っすよ!」
「マリ……!」
 掴みかかろうとするマリを、トオルが制止しようとした。しかし、先に誰かが動いた。
「サトルさん! 何っすか!」
 マリを止めたのはサトルだった。
「……なんで俺を先輩って呼ばないワケ?」
「部隊違いますしぃ、さん付けなだけマシですし、先輩て認めてませんので! ……って言うか、ヒナに謝って下さいってば!」
「落ち着けって、マリっち! 可愛い子だけどさぁ、翼がある時点でもう人間じゃないよね? トオル」
 喚くマリを羽交締めにしながら、サトルはトオルの顔を見た。
 きつく口を結んだトオルは、返事もせず沈黙していた。
「化け物」……その言葉に震えながら、トオルの後ろに立つヒナ。怒りに震えるトオル。そのトオルの広い背中を、ヒナはそっと見た。
(トオル、すごく怒っている)
 ヒナは俯いて翼をたたんだ。
(トオルが怒っている。の、私、のせい)
 涙がこぼれそうだった。
 その肩に、サトルから逃れてきたマリが、トオルの上着を羽織らせてくれた。そしてヒナの横に立つ。
「ヒナ、大丈夫だからね。先輩が護るから。私も、ね」
 前を向いたまま、マリが横に手を出してきた。それに気付いてヒナはマリの手を握った。マリの手は温かかった。

 これからの任務について打ち合わせが行われる。今までは漠然と首都のニフリートを目指していたが、今後の動きと方針を話し合った。
 マリとヒナは店の隅に座っていた。マスターが二人に飲み物を出してくれたが、ヒナは何も口にせず、俯いたままだった。震えるヒナの手を、マリは優しく握り続けた。
 話し合いの結果、施設への籠城、発電装置とその管理者達を人質にして政府と交渉することが決まった。仲間の中に、装置の開発を手伝い、扱いに詳しい者がいた。軍の科学部門の人間が政府管理のスマラグダス社に多く流れているそうだ。
 隣国から供給が止められるまで、エネルギーを他国に頼っていた、この小国で作り上げた、未知の鉱物を使用した発電装置。装置を人質に、地方への電気の供給、拘束されている罪なき人々の解放を政府に求める。
「トオルはこれからどうするんだ?」
 仲間の一人に訊かれ、トオルは首を傾げた。
「そりゃ、首都へ行くさ」
「違うよ。翼ある者だよ。ミタールの町か、どこかに送るのか?」
「送るって?」
 意味が解らず、トオルが訊き返した。
「最後の駒として拘束しておくべきだろう? 人じゃないんだし荷物として送っても大丈夫じゃないか?」
 店の隅で俯いていたヒナの体がビクンと震えた。傍に立っていたマリが、ヒナの華奢な肩に手を置いた。そのマリの手も震えていた。
「……」
 仲間の視線の先にはヒナがいた。
「こんな小さな子なんだし、それはいくらなんでも……」
 トオルは無言だった。いつもの軽い調子で、サトルがトオルに言った。
「化け物でも荷物は可哀想だよな? トオル」
 椅子が倒れる音が店内に響いた。無言のままトオルはサトルに詰め寄り、胸ぐらを掴んだ。椅子がいくつか倒れた。皆が動きを止め、息を呑む。一瞬だったのでサトルも動けなかった。
「ヒナは……こいつは俺の獲物だ。俺が連れていきたいように連れて行く……! それだけだ」
 殺意まで感じる程のトオルの剣幕に、サトルも言葉が出なかった。
 サトルはトオルの鋭い視線を静かに受け止めていた。しばらくして息を吐き、いつもの調子で言った。
「……りょーかい。好きにしてよ。お前は言い出したら聞かないからね」
 やれやれとサトルが大袈裟に溜め息をついてみせ、トオルがサトルから手を離した。それがきっかけになり、皆の緊張が解けた。
 仲間の一人が、場の空気を変えようと、皆に声を掛けた。
「……みんな気を付けて。無事に各々の故郷に帰ろう」
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● COMMENT ●

これは、よく殴らずにこらえてくれたよ

たしかに、初めて目にする日と達にとっちゃ噂や元の簡単な情報だけだからこう判断してもってのはわかるけどね...

私も読みながら憤慨しそうだったのは内緒ですww

2人にとっちゃもう仲間や家族って認識だから
頭にきたのもわかる

荒ぶるプリンさん

コメントありがとうございます(*´ω`*)

二人にとってはヒナは長い間一緒にいて性格も普通の女の子ですが、
初対面の噂しか知らない人たちがどう思うかなともやもやして書いた場面です。
こんな頼りない女の子でがっかり
翼があって人外で吃驚、
そして得体が知れないので恐怖
そんな感じですね。

トオルより先にマリが飛び出してしまったマリ。
性格ですね(;´∀`)
なんだかんだとヒナが大事なんです。
そして可愛いとか言ってるのはサトルですw
化け物、と言ってしまっていますが、彼はそこまで悪い性格ではないのです・・・(;´∀`)


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