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2017-04

【白い思い出と紅い約束】七、昔の女(4)【小説】 - 2014.12.11 Thu

「白い思い出と紅い約束」

七、昔の女(4)



 刃を交える二人を、マリとヒナはしゃがみ込んだまま静かに見つめていた。
「ルチル……。あの人の名前、聞いたことあるよ」
 ヒナの耳元でマリが呟く。マリはヒナを庇うように、肩を抱き寄せたままの姿勢だった。
「首都に配属されている軍人の中で、女性なのに一、二を争うエリートだって。銃も刀の扱いもすごいって……」
「……心配だよ」
 マリの細い腕に支えられ、ヒナは震えていた。震える手で、小さなマリにしがみついていた。
「先輩なら。先輩なら、大丈夫だよ」
 ヒナは無言で頭を振ったが、二人の戦う姿を見つめるマリには見えていない。
(トオルの……ココロ。すごく心配)
「お前一人か? 部下は連れてきてないのか?」
「当たり前でしょ。邪魔されたくなかったのよ。私があなたを殺したかったから!」
 何度も刀を交えては離れ、刀を構えて睨み合う。トオルもルチルも剣の腕には自信があった。お互いそれは解っていた。
「お前は相変わらず強いな」
 刀を繰り出しつつトオルが笑った。戦いを楽しむ顔だ。
「あなたも変わらずね。昔を思い出すわ」
 刀を受け流しながら、ルチルも楽しそうに笑う。
 二人は同じ任務に就くことが多かった。共に訓練に励み、共に戦い、寝食を共にする仲間だった。
 戦いながら、ルチルはあの頃を思い出す。トオルもルチルも若かった。
 訓練では張り合うこともあった。ルチルが喧嘩を売って、こうやって刃を交えたこともある。お互い負けず嫌いだった。
 当時のトオルは刀を握ると殺意に満ち、攻撃的になった。しかし、今のトオルは何かに躊躇する様子がある。口許に笑みを浮かべ、ルチルは挑発を試みた。
「煙草はやめたの?」
「ま、な」
 ルチルがトオルの刀を弾いて踏み込む。
「ペットちゃんがいるから口淋しくなくなったの?」
「俺の勝手だ」
 地面の窪みにトオルの靴が滑った。危ういところでルチルの刃を受け止めて刀を弾く。ルチルは後方に飛び、刀を構え直し、低い姿勢からトオルに斬りかかった。
「あら? 田舎暮らしで腕が鈍った? それとも他にお熱をあげてて、練習をサボってたのかしら?」
「さあな」
 ルチルの刀をトオルは後退りしながらかわす。
 トオルが圧され気味に、ルチルが優勢に、マリの目には映った。
「先輩……いつもと違う。何だろう、斬り込んでかないよ。あの人……本当に先輩の彼女だったの?」

(あの頃も、こんな風に戦ったわ……そしてたまには寝たりもしたっけ……)
 思いを巡らすルチルの視界の端に、ちらりとヒナが映った。
 政府が逃がした翼を持つ者。青ざめて震える姿は「精霊」という言葉から掛け離れた、弱々しい存在に見える。
「あなたが女好きには見えないけれど、今じゃ化け物とも寝るのね」
 鼻で笑うトオル。
「俺には化け物くらいがいい」
「そんなに女に飢えてるの?」
「飢えてはいないさ」
「あらそうなの?」
「それに……あいつは化け物じゃない」
「あらそう? じゃあ天使?」
 ルチルが意地悪な笑みを浮かべる。トオルは自嘲し、ルチルを見つめた。
「さあな。あいつは俺の……だからな」
 低く掠れて聞き取れなかった言葉。
「なによ、それ」
 唇の動きを読んだルチルの動きが一瞬止まった。
「あいつは、そういう存在だ」
 その隙をトオルは見逃さなかった。渾身の力を込めて、ルチルに刀を繰り出した。
 二人の体が重なった。トオルの刀がルチルの胸を貫いていた。ルチルの手から刀が落ちる。トオルの耳元でルチルが囁いた。
「考えごとをしてちゃダメね。……あなたに殺されたら本望……とは言わない。私は……死んだら、あなたを憎むわ。トオル」
 手の力を緩めずにトオルは鼻で笑った。
「憎んでもいいさ。お前が憎む前に俺だってすぐ死ぬさ。あの時……」
 トオルが言葉を一度切る。そして優しく囁いた。
「あの時、俺は誰でも良かったわけじゃない」
「トオル?」
 ルチルの顔を見つめるトオルの表情は、微笑を湛え、穏やかだった。
「でも、もう昔のことだ」
 トオルは地面に視線を移し、素っ気無く言った。
「俺なんか恨まずに天国に行けよ。じゃあな」
 トオルが刀をねじ込む。ルチルは仰け反り、呻き声をあげた。トオルは静かに体から刀を引き抜いた。
 ルチルはその場に崩れ落ちた。彼女の周りには地面に吸い込まれながらも、赤い水たまりができる。
 刃に付いた血を振り払ったトオルは、しばらく倒れた女を見下ろしていた。
 刀を鞘に収め、マリとヒナを見る。暗い目つき。返り血を浴び、トオルも血に染まっていた。マリは恐怖で動けなかった。ヒナが立ち上がり、涙を流しながらトオルに抱きついた。
「泣くな。俺は大丈夫だから……」
「大丈夫じゃないよ。ココロが……」
「それ以上言わないでくれ、わかってる。すまん」
 トオルはヒナの細い肩を優しく抱いた。
「……マリ、早くこの町を出よう」
 頷いたマリは、震える足を励まして、慌てて立ち上がった。思い出して、地面に転がるトオルの銃を拾う。
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● COMMENT ●

いいですね!

刀と共に交錯するお互いの想い。

見え隠れするルチルさんの性格も想いもわかります。
こういう、人の想いって尊いというか、ちゃんと描きたいですよね!
(私は文章だけで伝える自信が全くないので絵まで描いてますが…)

freilさん

コメントありがとうございます(*´∇`*)

何年ひとりの男を想い続けたんだっていう、ルッチー。

ヒナはトオルにとってどんな存在か、それを聞いて(知って)
ルチルは動けなくなってしまうわけです……(´・ω・`)


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