【白い思い出と紅い約束】八、妬情(3)【小説】

2014.12.26 22:00|【約束】小説
「白い思い出と紅い約束」

八、妬情(3)


 草木が茂る中でヒナはうずくまって泣いていた。人に見つかるのが怖く、高くは飛べなかった。一人が怖かったから森の奥にも入れなかった。結局、中途半端な場所に降りて動けなくなった。容易く見つかってしまう場所だった。
(さびしいよ。トオルの匂い、ないよ)
 自分の体を抱きしめて震えた。いつも羽織っていたトオルのジャケットも投げてきた。ヒナは心細く、後悔もしていた。
(トオル、怒らせちゃった、かな。トオルに、バカ、って、言いすぎちゃったよう)
「ヒナ!」
 嗚咽が漏れそうになった時、トオルの声が耳に届き、ヒナは顔を擦りながら慌てて立ち上がった。遠くからこちらに向かってトオルが走る姿が見えた。
 嬉しそうに笑みを浮かべたヒナだったが、自分が怒っていたことを思い出し、ぷいと横を向いてトオルを迎える。
「無事で良かった」
 昨夜の疲労からか、少し走っただけで息の上がっているトオルを心配しつつも、ヒナは冷たい態度をとろうとする。
「トオル、私は動物並み?」
 息切れをしながら呆れた顔をするトオルを、ヒナは一生懸命に睨んでみた。
「そんなこと、一度も言ってないだろう?」
「最初、私をしばったよ」
 睨み続けることが出来ずに、ヒナは視線を横に逸らし、唇を尖らせてみた。
「逃げられたら困ったからな」
「逃げようとしてたら、今でもしばられてた? ペットみたいに」
 一瞬の沈黙。トオルが返答に困った。
「……それは、わからない」
「トオル……あの人のこと。いとしい、って思ってた」
 ヒナは地面を見つめて呟いた。その姿は駄々をこねた子供のようでもあった。トオルは小さく息を吐く。それは呆れた溜め息ではなく、ようやくヒナの胸の内を理解出来たという安堵の吐息だった。
「……お前は本当に人の心を察するんだな。人はいろんな場面でいろんなことを考えたり、感じたりするんだ。一瞬感じたことを全部にするな」
 俯いたままヒナは、無言のまま穏やかなトオルの言葉を聞いていた。
「そりゃあ昔……あいつと寝たことだってある。任務をこなしたこともある仲間だった。そんな奴の命を奪ってしまったんだ。昔のことを思い出して悪いか?」
 黙ったままのヒナに、トオルが静かに歩み寄った。
「お前と寝る時、他の女のことを考えていたことがあるか?」
 顔を上げないまま、ヒナは頭を横に振った。
「お前のことを動物みたく思ったことがあったか?」
 肩を震わせながら、ヒナは頭を横に振った。
「もっと自信を持て」
 トオルが華奢なヒナの体に腕を回した。
「……俺はな。翼込みで、お前が大事なんだよ」
 静かに抱き寄せられ、ヒナは顔を上げた。
「トオル?」
「……柄じゃないが、はっきり言っておく。俺は……お前みたいに壊れそうな、純粋な女に会ったのは初めてなんだ。昔の女と同じようには扱えない。お前を壊したくないんだ」
 顔を赤くし不機嫌な表情になりつつも、トオルはヒナの目を見つめた。真剣な眼差しだった。
「ムカシのオンナ、はたくさんいたの?」
 嫌味ではなく、純粋に疑問に思って問うヒナに、トオルは苦笑する。
「遊びでな。……もう昔のことだ。今は、お前がいるから、お前だけだ」
「トオル、変わったんだね」
「良くも悪くも、な」
 ヒナはトオルの胸元に顔を埋め、服を掴んだ。
「昨日、寝れてない、よね?」
「一晩くらい起きてても大丈夫だ」
 ヒナはトオルの胸に顔を埋めたまま「ごめんなさい」と呟いて肩を震わせた。
「なんで謝るんだ? ヒナは悪くないだろう?」
「疲れたトオル、走らせちゃった、もん」
 返答に困るトオルの耳に、ヒナのくぐもった震える声が届く。
「ねぇ、トオル。私はすごくキタナイよ。こわしてほしいよ。トオルになら、全部こわされたい、よ」
「穢くなんかない。お前は天使だ。綺麗で美しい。そんなお前を、壊せない」
 ヒナが顔を上げた。目を赤くし、涙を流した不安そうな顔。トオルはそんな彼女の顔ばかりを見ている気がした。
「天使じゃないもん。ただの、だめな火の粉なの。何で、何で……キタナクなる前に、トオルにもっと早く会えなかったのかな」
「駄目じゃないだろう? 大丈夫だ。大丈夫だから泣くな」
 トオルの腕の中でヒナは啜り泣く。トオルは何も言わず、静かにヒナを抱きしめる。


 黒い大地に降り立ったあと、ヒナはどうしていたのだろう。
 誰かに何かをしてもらいたかったような気もする。
 誰かに何かを渡したかった気もする。
 でも、何も、憶えていなかった。
 何もかも忘れてしまった。
 どうして忘れてしまったのだろう……?
 ぼんやりしたヒナは、いつの間にか穢くなってしまった。


 しくしく泣き続けるヒナの手を引き、トオルは黙々と歩いた。道を歩いていると、遠くから名を呼ばれた気がした。目を凝らすと、街道の向こうからマリが走ってくるのが見えた。心配で戻って来たのだ。
「お帰り、ヒナ」
「マリ!」
 ヒナは泣きながら走って、マリに抱きついた。マリはヒナを受け止める。
「もーぉ、泣かないの。先輩に探してもらって良かったね。先輩、慌てて追いかけたんだよぉ」
 ヒナの抱きつく勢いに、倒れそうになりつつもマリはヒナに腕を回し、優しく背を擦った。
「ごめんなさい、ありがと。トオル。マリ」
 安堵の溜め息と、啜り泣く声が漏れた。
 太陽は西に傾きつつあった。長く伸びた三つの影がゆっくりと動き出す。
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コメント

心を察するのが上手いのはいいけど、それを相手の全部だと思っちゃってたんですね
そりゃいい事ばかりじゃないから気持ちが辛くなったり悲しかったりしますからね

思い込んじゃう+内側のドロドロした思いで常に苦しいはず(さらに翼が人間とは違うってので拍車がかかってるし)

偏頭痛だいじょうぶですか
ご無理なさらずお身体お大事に

荒ぶるプリンさん

コメントありがとうございます(*´ω`*)
頭痛は大丈夫になってきました\(^o^)/ありがとうございます♪

ヒナはトオルの気持ちを察してしまっていたんです。
マリの気持ちもルチルの気持ちにも気づいてしまっていたんです。

トオルの心を心配していたのも、ルチルを想う気持ちがあったのを知ってなのですが・・・
自分を思う気持ちにはちょっと鈍感なのかもしれません(;´∀`)
というかトオルが本音を言わない人間なのがいくないんですが、
ヒナだからこそ気づいてあげられるのです。
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