【白い思い出と紅い約束】九、回想(3)【小説】

2015.01.05 22:00|【約束】小説
「白い思い出と紅い約束」

九、回想(3)


 屋上への階段がある場所のドアが、突然開く。
 二人が同時に目をやると、スーツ姿のマリがトレーを持ってやって来た。角灯を腰に下げている。トレーにはカップが二つ。
「先輩、珈琲どうぞ! ……あと、ついでにサトルさんも……」
 トオルがトレーからカップを取る。
「サンキュ」
「何で俺は先輩って呼ばれないワケ? しかも、ついで?」
「部隊違いますし。さん付けなだけ、マシですから。ちなみにそれ、私の分だったので」
 サトルは不満そうにしながらも、「ありがとう」と礼を言い、カップを受け取った。
「マリっちの煎れた珈琲は美味いね。良いお嫁さんになれるよ」
 珈琲を飲みながらサトルが言った。トレーを抱えたマリは「ん?」と顔をしかめる。
「そんな話、聞いたことないぞ」
 トオルが鼻で笑う。
「じゃ、良い愛人になれるっつーことで。マリっち、俺の愛人にしてあげるぜ」
「サトルさんの愛人は遠慮しておきます。と、言いますか、サトルさんの場合は結婚すら出来るか怪しいじゃないっすか。先輩のなら、なってもいいっすよぉ」
「申し訳ないが、俺はいらないな」
 マリがわざとらしく残念そうな顔をしてみせた。「俺にしとけ」とサトルがマリをからかう。
「サトルさん、後輩ほったらかしで良いんですか? メチャ探してましたよぉ」
「じゃ、行くかねぇ。首都に何人連れてこうかな~って、トオルに相談しようと思ったのによ。マリっちに邪魔された。て、いうか今は俺が邪魔者みたいだし」
 サトルが気を利かせて屋上から去る。
 それを見届けてから、マリはトオルの隣の柵に寄り掛かり、夜空を見上げた。
「この町も災難続きだな」
 マリは無言で頷いた。
「災難続きで、うちらの部隊、先輩って呼べる人、先輩しかいなくなっちゃいましたね」
「そーだな」
 愁いを帯びたトオルの顔。天変地異で環境も変わった。鉱山での事故が続き、救助にあたった同僚も幾人か死んだ。
「頼れるのも先輩だけっすね」
「それは、どーかな」
 トオルが笑う。
「今まであったものが無くなったり変わったりするのって、怖いっすね」
 マリの言葉を聞きながら、トオルはカップの珈琲を見た。揺れる珈琲。揺れる心。
「そーだな」
「電気、本当に止められましたね。他の地方の都市もやっぱり?」
「らしい。あのスマラグダスって会社、燃料も資源も独り占めってわけだ」
「ていうか『政府が』ですね」
 マリは霞んだ夜空からトオルに視線を移す。軍服姿のトオル。ぼんやり見つめてしまっていた。
「先輩は、部下なしで首都に行くって本当ですか?」
「そのつもりだ。シンを偵察に回すつもりだ。あとはこっちの護りだな」
 正規の軍人は数人の志願兵をまとめ、日々の訓練を行っていた。そのまとまりで救助活動など行っている。今回も、軍人が後輩を指揮する形で首都を目指す。
 部隊関係なく編成する偵察部隊に、何人か志願兵の若者を使うことになった。トオルの部下にはマリの他にシンもいた。彼を偵察に向かわせるつもりでいた。
「私も行きたいって騒いだら、先輩どーします?」
 騒がれても困ると、苦笑するトオル。
「……マリは人を殺す覚悟があるか?」
「頑張ります」
「死ぬ覚悟はあるか?」
「先輩となら!」
 トオルに鼻で笑われて、マリが怒った顔をした。
「偵察以外の俺の部下は、こっちの警備にまわす気でいたが。マリ、付いて来るか?」
「先輩が行くなら、付いて行ってあげても良いっすよ」
「こそこそ潜入する、ってやり方が好きじゃないが、ガツンとやってくるか?」
 嬉しそうに笑顔を浮かべたマリ。
「やっちゃいましょーよ!」
「やっぱりそうこなくっちゃ!」
 階段のある場所のドアが開き、サトルが顔を出した。
「サトルさん! 何聞いてるんすか!」
 マリが顔を赤くして怒る。サトルは隠れて二人の話を聞いていたのだ。
「なんか聞いちゃいけないこと、言ってたの?」
「言ってないですけど! ……サトルさんに聞かれるのが、本当に嫌なだけです!」
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コメント

サトル君は案外所帯を持ったりして幸せだけど自由奔放に生きそうだなっとふと思いました

殺す覚悟は難しくて、好きな人としぬ覚悟があるって所がやっぱり女の子なんだなって
多分「先輩となら!」の時想いも込めて言ってそう


来月で2周年!継続ってすごいですよね

荒ぶるプリンさん

コメントありがとうございます(о´∀`о)
すっ、鋭い!www
サトルっちはなかなかいい人です(*´ω`*)
おバカだけど。

マリにとって憧れの先輩なんですよね。
先輩と行くならば二人なら!、って想いで来たから現状が……(;´д`)
今のところ楽しんで?いるからいいのですが……

もうすぐ2年経ちます(о´∀`о)
去年はリクエストに協力していただいてどうもでした(*´ω`*)
今年はどうしようかな……
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