【白い思い出と紅い約束】一〇、潜入(1)【小説】

2015.01.11 22:00|【約束】小説
「白い思い出と紅い約束」

一〇、潜入(1)


 歩く三人の目にも、首都ニフリートの町並みが見えてきた。霞んだ空に高い建物が聳える。政府の官邸や軍本部の建物よりも、まず高く立派な建物が目に入った。
「いつの間にか、すごい物を建てたもんだ……」
 感心しているのか呆れているのか、トオルが呟いた。その横ではマリが興奮していた。
「あんな建物初めて見たっ! たかっ! すごっ! でも……スマラグダス社って言っても、建物は緑じゃないんすね」
 マリが眩しさに目を細めた。陽光を浴び、銀色に煌めく建物は、この国のエネルギーを独占する会社のビルだった。
 都に近付くにつれ、家が増えた。それは決して立派なものではなかった。ニフリートの外側には貧しい者が多く住んでおり、度々薄汚れた物乞い達に囲まれた。ヒナがトオルにしがみつく。ヒナとマリを庇うようにトオルは歩いた。

 都内に入ると、マリとヒナは人の多さに驚く。高い建物に賑やかな町並み。車も多く走っていた。華やかに着飾る人々。
「人、こわいよう」
「うへ、人がすごい沢山っすね。こういうトコ来ると、私って田舎者って思っちゃう。迷子になりそ……」
 怯えて震えるヒナと、都会にはしゃぐマリ。トオルは無言のまま二人を連れて入り組んだ路地を歩く。家々が密着して建てられている。見上げると洗濯物が干されて微風に揺らいでいる。路地が谷底のように深く細く続いた。
 着いたのは縦に細長い煤けた家だった。小さな鉄のドアをトオルが叩くと、ドアを隔てた向こうに気配がし、男が顔を出す。
「トオル! 無事だったか……早く中に!」
 顔を出した男はトオルの同僚だった。この建物は隠れ家として使われている。他の地方から来た仲間もいた。
 中に入ると、皆が安堵の表情を浮かべて歓迎してくれた。不思議に思っていると、トオルは指名手配されており、皆に安否を心配されていたらしい。
「……やっぱりな」
 椅子に腰掛けながら、トオルが息を吐く。
「何かしたのか?」
 その問いにトオルは沈黙し、ヒナは俯いたまま体を硬くする。マリが「喉乾いた~」と、天井を見上げながら大きな独り言を言ってみた。
 後輩のくせに、とぼやきつつも仲間は茶を出してくれた。ヒナは「トオルの女」と話したが、昔のトオルを知っている仲間は半信半疑だった。
 一息ついてから、お互いの情報交換をする。
 ヒナは声が聞こえない離れた場所で、小さな窓から外を見ていた。窓からは隣家の外壁しか見えなかったが、それでも静かに外を見続けた。
 仲間はテーブルの上に首都の地図を広げた。トオルも何年か首都配属だったので、スマラグダス社以外のことなら粗方分かった。
「失敗してもたたみ掛けるように攻撃するつもりだ。こちらに賛同したい仲間もいるかもしれない」
「首都では情報操作されていて、地方への電気とガスが止められていることすら知らされてないらしいからな」
「まじっすか」
「ああ。とりあえずは……籠城か?」
「施設を乗っ取るのが判りやすいだろう?」
「籠城するのはいいが、資源の鉱石はまた違う場所に保管しているらしい」
「だとすると、またそこを狙うのか?」
「いや、場所が判らないんだ。政府が石を持っていても、こっちが装置を奪えば交渉できるだろう」
 籠城した後、どうするかなど、先のことは考えていなかった。無計画に等しく無謀だった。必死だった。
 トオルは他の仲間の動きを訊く。どこから攻めるべきか悩んでいたようだ。マリも地図を睨む。
 仲間の一人が溜め息をつきながら地図を眺める。
「緑の会社の警備は半端ないんだ。お前が行くなら確実に攻め込んでもらいたいな」
「陽動はいるんだよな? どう動くかな」
 腕を組みつつトオルが悩む。
「昔使われていた工場のあたりは警備は手薄みたいだ。しかし……」
 仲間の言葉の後を、地図に視線を向けたままのマリが続けた。
「工場跡……ちょっと本社ビルからも遠いっすね。どうします? 先輩」
 顔を上げたマリの挑戦的な瞳に、トオルがニヤリと笑う。
「ここから行く奴がいないなら、ここもアリだな」
 トオルとマリが頷きあう。
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コメント

ニフリートを見た時ニートとフリーター
と読んで思わず2度見しましたww
そんな私はフリーry

街の外側に貧しい人々、内側は普通~の生活者って所にどこの世界にも格差社会(世界観も合わさって)あるんだなって妙にリアルな感じがしました

1番無難に入り込めそうだけど、やっぱり距離があるのがネックですね
陽動がどれだけ時間かせげるか...
ちょっとワクワクしてる自分がおります

荒ぶるプリンさん

コメントありがとうございます(●´ω`●)

ニートとフリーターしかいない町・・・ニートがどれだけいるかで税収がやばそうですね(;´∀`)
国の中心が貧富の差が激しいとかありきたりなんですが、そうでもしとかないとかなって(適当
マリがお買い物が出来なさそうなのが申し訳ないなって思ったり・・・
(所持金少なそうだし物価高そうだし・・・先輩に買ってもらっておくれ・・・)


潜入できるかな?かな?

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