【白い思い出と紅い約束】一〇、潜入(3)【小説】

2015.01.17 22:00|【約束】小説
「白い思い出と紅い約束」

一〇・潜入(3)


 仲間と打ち合せた襲撃予定日。
 念入りに装備を整えるトオルとマリ。この日ばかりはマリもブーツにパンツ姿になり、小刀や武器を装備する。ヒナは上着を羽織らず、翼を出しやすくした。
 三人は事前に調べた抜け道を使い、警備を擦り抜けて工場跡地に出た。人気はない。広大なダムのような貯水池が広がる向こう側に、潜入すべき目的の建物がある。
 銀色に輝くそれは、スマラグダス社のビル。発電施設はビル横に建設されており、突き出た多くのパイプも施設も、全てが銀に輝いていた。
 そして本社ビルは、空中の廊下で政府官邸と繋がっていた。スマラグダス社と政府の繋がりがうかがえる。
 貯水池の上に古びた工場跡があった。手入れすらされなくなり、警備すらされなくなった建物。古くなって錆びた梯子や通路。足場が悪かったが、ヒナは軽やかに先頭を歩く。後ろに続く二人は、慎重に足場を確かめ、ゆっくりと進んでいく。
 梯子を登る三人。その時、予定時間より早く警報のサイレンが鳴り響いた。
「サトルたちか?」
 陽動に失敗したか、気付かれたか。その音にトオルの気が一瞬緩んだ。握っていた錆びた鉄の棒が崩れたのに反応できず、落ちそうになる。
「先輩危ないっ!」
 下にいたマリが叫んだ時、ヒナはとっさに羽ばたいて、トオルの手を掴んだ。懸命に羽ばたくヒナに助けられ、トオルの体は宙に浮いた。白い翼が陽光に煌めいた。
「馬鹿か! こんなところでそんなことしたら目立つだろ!」
 怒るトオルに、ヒナは泣きそうな顔をした。
「だって! トオル、ケガしたら……イヤなんだもん……!」

 白い翼が目立ち、警備の者に気付かれる。さらにサイレンが鳴り響く事態になった。
 塀を乗り越え工場横の林に隠れる三人。人の声、走る靴の音。車のエンジン音が慌ただしく響く。
「しくじっちゃいましたね……」
「翼ひろげて、ごめんなさい」
「……すまない」
 自分への怒りを堪え、トオルが二人に頭を下げた。二人はただ首を横に振った。
「これからどうなるの?」と、ヒナが訊く。
「皆が無事ならいいが……。無事に逃げ切るのは難しいだろう。俺は捕まれば軍に連行されるだろうな。俺はルチルを殺している。仕方ない。マリは一般人として逃げろ。マリならばれないだろう。ヒナは羽ばたいて逃げるんだ」
 マリは俯いたまま、トオルの話を聞いていた。
「トオルは、レンコウ、されてどうなるの?」
「処刑されるか牢屋の中だろうな」
「イヤ! トオル死んじゃイヤ! トオルと一緒、じゃないとイヤ! トオルと逃げる! マリと逃げる!」
「逃げるって言っても難しすぎるって! 仲間は皆散り散りなんだよ? 頼る当てがないんだよ? 私らと一緒にヒナがいることもばれちゃったんだ。先輩は指名手配状態だし、ルチルって人の部下が、もう私たちのことを上に報告してるかもしれないんだよ?」
 マリがヒナの肩を掴み、怒鳴った。ヒナを責めているわけではなかった。自分だけが逃げたかったわけではなかった。ただ現実を理解してほしかった。しかし、ヒナは納得出来ずに、マリにしがみついて頭を振る。
「逃げたい! 殺されるなら、私はトオルに殺されたい!」


 首都を離れ、三人は逃げた。時に刀を抜き、行く手を阻む者を殺めた。
 行く先々の住民に怪しまれないようにと、町や村を点々とする。明らかに軍服を着た者が町に増えた。街道では頻繁に検問を行なっていた。仲間の元には行けない。安心できる場所はなくなった。
 リトス湖に面した町に行き、漁船を盗んで逃げようともした。しかし、船は一隻もなかった。軍の命令で撤去されたのだろう。
 ヒナの翼には湖を飛んで二人を運ぶほどの力はない。羽根は少しずつ落ちている。今のヒナには、マリ一人すら長い距離を運ぶことは出来ないだろう。
 トオル達は、ヒナが昔世話になったという老婆の家に行くことにした。ヒナはニフリート近くまで飛んできていたようだった。北から飛んできたというから、目撃者が多かったのも理解できた。
 疲れた足を励まし、なだらかな傾斜の山道を登る。疲労が限界まで来ていた。
 その晩は廃屋に身を潜めた。隙間から入り込む夜の寒さが身に染みた。何もなかったが雨風が凌げるだけで充分だった。
 蝋燭の頼りない灯りを三人で囲む。非常食では空腹は満たされなかった。
 始終俯いていたマリが、弱々しい声で呟いた。
「私、もう限界っす。先輩」
「……」
「先輩、ヒナを……ヒナを渡して逃げる、っていうことは考えてないんですか?」
 顔をあげたマリは、静かにトオルに尋ねた。ヒナはトオルの上着にくるまり、トオルの膝の上で寝息をたてていた。
「ヒナは……奴らには渡さない」
「こんな状態でも、この状況下でも、ヒナを連れて帰る……護る気なんですね」
 トオルはヒナの背に手を載せたまま、無言だった。
 マリの恐れていたこと。トオルの情がヒナにうつること。共に生活すれば情がうつる。それが男女ならなおさらだ。そして判断を狂わせる。
 彼はもう狂っている。マリですら、もう狂っている。それでも、彼は逃げきれるのだろうか。
「先輩……本気な話があります」
「何だ?」
「私……、先輩たちと別行動をさせていただきたいと思います。作戦に失敗して逃げ帰るのは最高に嫌だけど、もうこれ以上は……これ以上はホント無理です」
 肩を震わすマリの目には涙がたまっていた。
 護るべきは同志であり可愛い後輩のマリのはずなのに、自分の我儘で辛い思いをさせてしまった。……トオルの胸が痛んだ。
「わかった。……すまなかった。今までありがとう。無事に、逃げきろよ」
 マリは静かに頭を下げた。トオルが無言のまま、マリの肩を優しく叩いたから涙がこぼれた。トオルは俯いたまま肩から手を離せなかった。マリは頭を下げたまま、しばらく静かに泣いた。
スポンサーサイト

コメント

作戦はしちゃったか...

これでますます厳しくなったし、仲間も散り散りになっちゃたし...
状況は悪化した上、ついにマリちゃんも別行動

ヒナちゃんを渡して助かるかは微妙だけどその考えにいって口にしちゃうほど心身ともに
疲弊してんたんだな

絵を見て、そうかもう2ヶ月くらいすれば春なんだなと
太陽の光を浴びて花が綺麗に咲いてて
春の聖みたい

この頃になると

トオル、変わりましたよね。
一番最初にヒナちゃんを捕まえたときのトオルとはまるで別人。

ヒナちゃんと出会ったことで少しずつ変わっていくトオルの変化が、ストーリーをとおして描写されてて素敵だと思います(^ヮ^)

荒ぶるプリンさん

コメントありがとうございます(*´∇`*)

トオルはマリに甘えていたんですよね。
ついてくると信じていたので。
マリの限界が来てしまいました(´・ω・`)
マリにとってヒナは仲間になってしまっていて、トオルはヒナを愛していた。
マリが最初に抱いた不安が的中した形です。

雪女リベンジのはずが季節が変わってしまったです(;´д`)

freilさん

コメントありがとうございます(*´ω`*)
トオル、変わっちゃってちょっと印象薄くなってますよね(笑)
加筆していくうちに、トオルのアクの強さ的なものが薄れた感があります(;´д`)

ちなみに、この辺りの断片的なシーンからこの物語は始まりました(^q^)
非公開コメント

07 | 2017/08 | 09
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -
プロフィール

清水結衣

Author:清水結衣
いつもご訪問いただきありがとうございます。

オリジナル中心でお絵かき。たまに版権絵。
そしてぼちぼち文章を。
プロフ画は野分シムロさんに描いていただきました
(*´ω`*)

にほんブログ村 イラストブログ オリキャライラストへ
にほんブログ村 イラストブログへ
にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説へ

※現在ブログ村ランキングには参加しておりません。

現在、毎週木曜に物語を予約投稿しています。

ブロとも&リンク募集中です♪

最新記事

カテゴリ

月別アーカイブ

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

リンク

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

アルバム

カウンター

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
小説・文学
390位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
ファンタジー
10位
アクセスランキングを見る>>

ブログ村