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2017-05

【白い思い出と紅い約束】一〇、潜入(5)【小説】 - 2015.01.23 Fri

「白い思い出と紅い約束」

一〇・潜入(5)



 鍵が掛かっていたが、トオルが針金を使って開け、家に入った。
 中は埃が少したまっていたが、綺麗に整理されていた。居間に寝室。必要最低限の家具。老人一人が暮らすには淋しい場所。余計なものは一つもなかった。
 壁に写真が飾ってあった。トオルが腕を組んだまま、その写真を見つめる。
 ――あぁ、もしかしてお孫さん、よね? 春頃かしら。おばあちゃん、お孫さんが帰ってきたって、嬉しそうに話していたわ――。
 先程の女性の言葉がよみがえる。
(……確かにヒナに似ているかもな)
 ヒナに似た黒髪、黒い瞳の少女が可愛らしい笑顔で写っている写真。老婆の孫だろう。しかし、写真は古い……。もしかしてこの娘はすでに……。
 翼があることを知ったうえで、孫に似たヒナを助けたのだろうか。孫が天使になって帰ってきたと思ったのだろうか。
「ねぇ、トオル」
 ヒナに声を掛けられてトオルは振り向いた。隣室の小さめのベッドの上で、ヒナは両膝を抱えて俯いていた。
「ビョウキでナクナルって、死んじゃうこと?」
「そうだな」
 トオルはヒナの横に腰掛けた。不安げな表情を浮かべたヒナがトオルの顔を覗き込む。
「いつかトオルも死んじゃうの?」
「……まぁ、そうだろうな」
「私、さびしいよぉ」
 トオルはヒナの肩を抱き寄せた。
「俺はすぐに死なない。だから心配するな」

 電気は止まっていたが、水道は使えた。体の汚れを落とし、固いベッドを拝借する。真っ暗な天井を見ながらヒナが呟いた。
「みんな、いつかは死ぬんだよね」
「そうだな」
「私は、どうなるんだろう。死ぬのかな。死ねるかな」
 余計なことを考えるなと、トオルはヒナの体を抱き寄せた。それでも何か言いたげなヒナの開きかけた唇を自分の唇でふさぐ。
 まず死なないためには、ヒナと逃げ切らなければならない。

 翌朝、家に保管されていた保存食と手持ちの非常食とで食事を済ませた。ヒナは壁に貼ってある写真を見ていた。
「おばあちゃん、私の翼のこと知ってて、一緒にいてくれたんだよ」
 写真を見るヒナの後ろにトオルが静かに立った。ヒナは振り返らなかったが、トオルが優しい表情を浮かべていることが分かった。
「優しい人だったんだな」
 ヒナは写真を見つめたまま、微笑んで頷いた。
「それでね、おばあちゃんがね、名前を忘れてた私にね、『ヒナ』って名前をくれたの。マゴさんの名前なんだって」
 無言のまま、トオルがヒナを後ろから抱きしめた。ヒナは淋しげな微笑を浮かべていた。

 身仕度を整えドアを開ける。開けた瞬間、銃声が響いた。
「なんだ?」
 トオルが咄嗟にヒナを抱えてしゃがんだ。銃弾がドアに穴を開けていた。二人は息を呑む。家の周りには十数人の軍人が銃を構えて立っていた。この家に到着し、気が緩んでいたことをトオルは後悔した。
「翼ある者を渡していただきたい。そうすれば君の命は助ける」
(何故ここがばれた?)
 トオルがまず考えたこと。
「まさかマリが密告……」
「マリはそんなこと、しない!」
 縋りつきながらも、トオルの顔を見つめヒナが強い口調で言った。
 トオルは低い声で軍人達に言い放つ。
「……翼ある者を……ヒナを、渡すものか」
「そんなことを言っていいのか? 翼ある者は生かしておく価値はあるが、付き添いには用が無い。ここで撃ち殺す」
 一人が引き金を引く。銃弾がトオルの頬をかすめた。頬から一筋血が流れ、ヒナが小さな悲鳴をあげた。
「トオル!」
「ヒナ、奴らはお前を撃てない。まず、奴らに向かって歩いて行くんだ。俺が動いたら、振り返らないでお前だけ飛んで逃げるんだ」
 トオルが耳元で囁くのを聞き、ヒナは震えながら頷いた。

 怯えつつもヒナが立ち上がり、よろめきながら男達の前まで歩いた。ヒナは震える腕を掴まれる。皆の注意がヒナに逸れた時、トオルはヒナの腕を掴んだ男の腕目がけて、装備していたナイフを投げ付け、刀で斬り掛かった。
「ヒナ! 逃げろ!」
 恐怖にしゃがみ込んだヒナにトオルが叫ぶ。トオルは刀を振りかざし、何人かを斬り殺した。死ぬ気でいた。ここで死ねそうな気がした。
 トオルの指示に従い、ヒナは翼を広げて逃げようとする。しかし、後ろを振り返ったヒナは動きを止めた。
(トオル、撃たれる!)
 膝をついたトオル、そしてトオルに向けられた銃口を見た時、ヒナは走った。軍の人間達に向かって両手と両翼を広げ、トオルの前に立った。
「本物だ。本物の翼だ」
 周囲にどよめきが走る。
「ヒナ……何で逃げないんだよ……」
 トオルは地に両手両膝をつき、悔しそうに呟いた。ヒナは涙をこぼしていた。
「だって……だって、トオル死んじゃ……イヤなんだもん……」
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● COMMENT ●

老婆はうれしくもありさびしくもあり複雑だったろうな、ただ一目見たときはほんとに天使になって戻ってきたんだと思って娘と同じ名前をつけて...

靴跡とかトオルが気にしないはずないから、ほんとにホッとしてそれまで気をはりっぱなしだたからふいに途切れちゃったんだろうな

まさかついにヒナちゃん捕縛!!

荒ぶるプリンさん

コメントありがとうございます。
いつもお返事が遅くなってしまってすみません(;>_<;)

ここで孫娘の名前をつけてもらって、ヒナになったわけですが、
ここでお婆ちゃんに服をもらって、キャミソールに短パンブーツ姿になったのです。
それまではたぶん着てない状態に近かった……。

気の緩みと限界が来てたんですよね(´・ω・`)


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