【白い思い出と紅い約束】一二、逃亡(3)【小説】

2015.02.25 22:00|【約束】小説
「白い思い出と紅い約束」

一二、逃亡(3)


 度々ヒナは夢でうなされた。涙を流す晩もあれば、苦しそうに「死なせて」と呻く晩もあった。その度にトオルはヒナの肩を揺さぶって起こしてやり、優しく体を抱き寄せた。
 寂れた宿に泊まったその晩もうなされた。トオルは横で苦しむヒナを揺すり起こした。しばらくの間ヒナの視線は宙をさまよう。
「ヒナ、ヒナ。大丈夫か?」
 潤んだ瞳の焦点が合い、トオルの顔を捉えることができ、ヒナは安堵の息をもらす。
「夢、見ちゃった。私、が燃やしたこと」
 掛け布を握りしめ、震えるヒナをトオルはただ黙って抱きしめた。
「全部、夢、じゃなかったんだよね。人、燃えてた。いろいろ燃やした。あの炎、ぜんぶ、私がやった、んだ、よね?」
「俺たちを助けてくれたんだ。辛いことは、もう、忘れるんだ」
 優しく肩を叩かれたヒナは嗚咽をもらした。
「マリ……、マリは大丈夫かな?」
「あいつは死なない。俺の後輩だ、しぶとく生きているに決まっている」
「みんな、苦しんで、死んだんだよね? 仲間、みんな……大丈夫かな……私……のせいで」
「ヒナのお陰で俺たちは助かった。たくさんの人が救われたんだ。心配するな。もう、忘れるんだ」
「うん……うん」
 トオルの胸に顔を寄せ、ヒナは静かに涙を流した。

 統制がとれないながらも、軍は逃亡者を、二人を追いつめていた。二人は町の人間を装いつつ逃亡する。ヒナは翼を隠していたが、羽根は少しずつ落ち、顔色は悪くなる一方だった。
 湖に接したルトゥチの町――定期船の船着場が唯一ある町――にやって来た。トオルが初めてヒナに会った場所の近くだった。船は北のミタールの町まで直通ではなく、湖の東にある町を経由して運行されている。出航日は明日……船に忍び込めるかどうか。

 顔も名前も確認しないような安宿に、二人は身を潜めた。
 狭く小さなベッドの上、トオルはいとしそうにヒナの白い頬を撫でた。彼女の艶やかな黒髪がトオルの頬をくすぐる。骨太で大きな手。その手をヒナは冷たい華奢な両手で包む。
「お前はただの獲物だったのに」
「私は、トオルにつかまった、よ。トオルが生きてきた場所で、できるなら、トオルに殺されたい」
「殺すもんか」
 トオルはヒナの背に腕を回した。今は背に翼が小さくたたまれていた。華奢な体、白磁の肌、美しい長い黒髪。黒耀石の瞳。
「お願い、があるの。トオル」
「なんだ?」
「トオルを運ぶ力がないなら、この翼、必要ないよ。目立つだけ。なら、この翼を切りおとしてほしいよ。トオルの手で」
「……ヒナ?」
 怪訝な表情のトオルに、ヒナは微笑んだ。
「カクゴ、できてる。だから、大丈夫」
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コメント

なんとなく体が辛いのは
ただ疲労してるだけじゃなくて
羽根が抜け落ちてることも含まれてそうですね

また唐突なヒナちゃんのお願いしかも翼を切り落として欲しいとは...これはやる方も相当覚悟いりそうですね

荒ぶるプリンさん

コメントありがとうございます<(_ _)>
お返事が遅くなってしまいごめんなさい。

翼のある女の子が逃げているという情報があること、船に乗る時に確かめられるということを
ヒナなりに知っていたので、もう使い道のない、使えないものならいっそなくしてしまいたい・・・といった感じです。
トオルにだからこそ頼めることだったんです(*´ω`*)ここからトオルの苦悩が始まったわけなのですが・・・
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