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2017-04

【白い思い出と紅い約束】一三、おかえり(2)【小説】 - 2015.03.05 Thu

「白い思い出と紅い約束」

一三、おかえり(2)



 廊下を歩いていると、前から足音が響いてきた。トオルはヒナを気にして歩いていたから、前を見ていなかった。その足音が途中で止まり、ファイルが落ちる音が響いた。ヒナがトオルの服を引っ張る。ようやくそこでトオルは顔を上げた。
 そこに、懐かしい顔があった。マリがいた。
「マリ!」
「……先輩! ……ヒナ!」
 廊下にファイルを散らしたまま、黒のスーツ姿のマリが駆け寄った。他に誰もおらず、辺りは静かだった。ヒールの音が硬い床によく響く。
 あの時、別れ際に肩より下まで伸びて結っていた栗色の髪は、肩の上で切り揃えられ短くなっていた。顔色も良く、怪我もなさそうだった。無事だったのだ。トオルは安堵した。
 走り寄ってきたマリは、トオルの三歩前ぐらいで立ち止まる。
 トオルの軍服の襟元から、手首から、白い包帯がのぞいていた。頬にも傷があり、ふさがりかけてはいるが痛々しかった。頬が少し痩け、全体的に痩せた気もする。
(私が逃げ出してから大変だったんだ……)
 マリの心が痛んだ。申し訳なくて。だから近寄れず、そこで立ち止まった。
 その横にヒナはいた。力なくトオルにもたれかかっていた。顔色は悪く、白い柔らかな素材のワンピースの上から、黒い軍服の上着を羽織っていた。無骨な男物の上着の大きさが、ヒナを前よりさらに弱々しく、儚げに見せていた。
「無事で良かった……でも、でも、どうして帰ってきちゃったんですか?」
「どうして、って俺の故郷だろうが。帰ってきても悪くないだろう? 任務もあったしな」
「任務なんて……」
 マリの唇が震えた。震える口元をきゅっと結び、肩を震わせて俯いた。
「……た」
「え?」
 聞き取れないほどのマリの小さな呟き。トオルが訊き返す。マリは顔を上げず、床を見ながら低い声で言った。
「ヒナと違う国に逃げたと思ってた」
「マリ?」
「二人楽しそうだったじゃないっすか? わ……私、二人に楽しくいてほしかったですよ。それなら良いなって。だから私、先輩は捕虜になって、逃げるのに失敗して亡くなりましたって、上に報告しちゃいましたよ!」
 マリの足元に涙がこぼれ、床に小さな水たまりをいくつも作った。
「すまなかったな、マリ」
 トオルが近付き、骨太の大きな手でマリの頭を撫で、栗色の髪をくしゃくしゃにした。見た目には荒っぽかったが、トオルの不器用な愛情が溢れていた。
「……私、始末書ですよ」
 低い声でぼそっと言うマリ。
「いつものことだろう」
「ま、そうですけど」
 マリは顔を上げて笑おうとした。笑おうと目を細めた途端に涙が溢れた。涙が頬を伝うまま、拭おうともせず、今度はヒナを睨んだ。
「あんたもなんで来ちゃったのよ! 頑固な先輩にちゃんと駈け落ちくらいさせてよ!」
 涙を流しながら怒るマリに、ヒナは力なく笑った。
「トオルの生まれたとこに来たかった。行くとこ、ないから」
「ここにきても、あんたの命……危ないかもなんだよ? 何もないんだよ? 滅んでいくだけの土地なんだよ?」
「それでも、いいんだ。本当に、マリは優しいんだね。ありがと」
 そう言われてマリは、辛くて苦しくて嬉しくてヒナに抱きついた。抱きついた勢いで、ヒナの肩から上着がはらりと落ちた。ヒナは微笑んでよろけながらも彼女を受けとめた。
「あんたはいつも体が冷たい。もう一緒になんか寝てやんないか……ら?」
 ヒナの背に手を回し、驚くマリ。
 腰まである漆黒の美しい髪に隠れていた背には、小さく折りたたまれた翼があったはず。今は、ただそこには服の感触しかなかった。
 言葉を失ったマリは、ヒナの体から離れる。そしてヒナを見つめた後、トオルを見た。トオルは低い声で言った。
「翼を、切り落としたんだ」
「私、ゴミなの。翼も役立たずになったの」
「役立たずだなんて……」
 淡々と話すヒナに、マリは何も言えなかった。
「だから切ったの、翼」
 トオルをそっと見上げ「ごめんね」とヒナが呟く。トオルは黙って首を横に振った。
「あの場所でも私、役立たずだった。だからここでも役立たず、だよ」
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● COMMENT ●

みじか...いやトオル達にとっちゃ再開まで長かっただろうな~

マリちゃんはマリちゃんで自分から去っていったから会った時は本当に気まずかっただろうな
だから髪を切って決意みたいなものを
出したんだろうな


荒ぶるプリンさん

コメントありがとうございます。
そしてお返事遅くなってごめんなさい<(_ _)>

みじか・・・いのはスカート丈、髪でしょうか?w
髪を切らせたのは二人と別れてからの時間の経過とか、
逃げてきて荒んでいる二人と、身ぎれいにしているマリとが
対比できればなという考えもあったりします(*´ω`*)


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