【白い思い出と紅い約束】一四、雪天(3)【小説】

2015.03.15 22:00|【約束】小説
「白い思い出と紅い約束」

一四、雪天(3)


 幸福でありそうで不安定な様子のトオル。マリは心配だった。だから上官を訪ねることにした。手が震えたが意を決しドアをノックする。中から入るよう声がし、マリは深呼吸して室内に入る。
「失礼します。お話があります」
 少し前まではどの建物も暖房が入る状態ではなかったが、トオル達の働きで今はどの家も部屋も暖かい。
「マリくんか。君の愚痴はもう聞き飽きているぞ」
 笑顔の上官を前に、マリはいつもの調子で軽口を叩こうとしてしまう。
「違います、残念でしたね。……じゃなくて、先輩の……トオル先輩のことで話があります」
 静かに頷き、視線でマリに言葉を続けるように促した。
「ヒナの看病をさせているのですか? ヒナはもう助からないって、そう聞きました。先輩……辛そうで見ていられません」
「彼に仕事を与えたほうが良かった……そういうことかね?」
 嫌味ではなく、穏やかな口調で上官が答える。
「そういうわけじゃ……そうじゃないんです……」
 マリが口篭った。
「マリくんは、口は悪いけど優しいからね。トオルが心配なんだろう?」
「……」
 返事を出来ず、マリは頬を赤くして俯いた。
「トオルは首都に行く前から、今回の任務を最後にしたいと話していたんだよ」
「そう、だったん……ですか?」
 その話はマリにとっては初耳だった。
「彼は疲れたから辞めたいとまで言って、首都から故郷に帰ってきていた。何年も彼を引き留めていたんだ。そして、今回の騒動があった。
彼は今回の件が片付いたら、正式に引退したいと私に言ってきた。後輩たちに後を任せたいと。生きて戻れたら、この地でひっそり暮らしたいと話していた。彼にとって、目的を失った時には姿を消すと、言っていた……」
(先輩は……失いかけているんだ)
 俯いたマリは、唇を噛む。
(ヒナの存在……)


 暗闇のベッドの中、トオルはヒナの背に触れた。翼があっただろう箇所は、傷跡が残っているだけになっていた。ヒナは俯せに寝て、トオルの手の温もりを背中で感じていた。
 ヒナの背の傷跡にトオルは唇を這わせる。ヒナは小さく震えた。
「痛かったろう、ごめんな」
 ヒナは首を振り、トオルを振り返るようにして見上げ、微笑んだ。
「トオルが助かったから、大丈夫。あまり飛べなかったし。ちょっと痛かった。けど、大丈夫」
「すまん……ヒナ」
 トオルはヒナを背から抱きしめた。
「すまん、じゃないよ。トオルの体、あったかいね」
「お前の体が冷たいんだ」
 いとおしい存在を両腕に閉じ込めつつも、トオルは険しい表情を浮かべていた。
「また、翼は生えるのか?」
 険しい表情は、ヒナには見えていない。ヒナは無邪気に答える。
「眠ったら、はえてくるかな? わからない。けど、大丈夫だよ」
 トオルの熱い吐息に、ヒナはうっとりしていた。
「お願いだ、ヒナ。ずっと傍にいてくれ……」
「うん。トオルのそば、にいるよ」
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コメント

やばいな...
話が進むごとに、絶望とか悪い方に向かっている
そんなイメージが膨らんでいく

トオルは既に引退したかったんだな
きっと任務中に命を落とすことになっても
それはそれでいいと思ってたんだろうな

荒ぶるプリンさん

コメントありがとうございます
返事が遅くなってごめんなさいm(._.)m

番外編には載せてはいるのですが、
トオルは生きることよりも
死ぬことばかり考えていたのです。

悪い方へ悪い方へと転がり始めちゃってます(´;ω;`)
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