【白い思い出と紅い約束】一五、おやすみ(1)【小説】

2015.03.22 22:00|【約束】小説
「白い思い出と紅い約束」

一五、おやすみ(1)


 夜の町は暗かった。節電のため、町中の外灯は全て消されていた。家が並んでいても明かりはほとんどもれていない。雪は止み、降り積もった雪が月明かりに青く染まる。冷たく静かな夜だった。
 カーテンが少し開いている。月明かりが差し込む部屋。小さなベッド。トオルの腕枕でヒナが眠っていた。
「どうした?」
 青白い光の中で、ヒナが目を開けてトオルの顔を見ているのが分かった。トオルは身を起こし、ヒナの顔を覗き込んだ。
「具合でも、悪いのか?」
 ヒナは首を横に振る。
「あのね。私、死なないよ。死なないから。トオル、心配しないで、ね?」
「何を突然……」
「私は眠るだけ。眠るだけだから、心配しないでね?」
「ヒナ……今も眠ってただろ?」
「違うの。長く深く眠るの」
 深く眠るってなんだよ。どれくらい眠るんだ、トオルが問う。
 わからないけど、ちょっと長く眠るの、ヒナは言う。
 トオルは思う。ヒナは「死」を分かっていない。人間ならすでに死んでいてもおかしくない出血もした。しかし死ななかった。
 トオルは考える。本当に眠るのだろうか? どうやって? いつまで? 俺は待てるだろうか? それは、俺が待てるほどの時間だろうか……?


 ある晩、トオルは町のバーにマリを呼び出した。薄暗い店内に客は少なかった。ヒナを一人にすることに不安があったが、彼女は「大丈夫」と見送ってくれた。
「遅くなりました、先輩」
「寒い中、すまんな」
 いえいえ、とマリは赤いコートを脱ぎ、トオルの隣に座った。丈の短い黒のワンピース。網タイツにブーツ。いつもより大人っぽく見えた。
 グラスを手にしたトオルは険しい顔つきだった。
「私を呼び出しちゃうなんてどんな用事っすか? 私を口説いちゃうとか? 口説いちゃいたい、とか?」
 マリがわざと冗談を言い、ようやくトオルの顔が緩む。
「そーだな、そうするか?」
「そーしてくださいよぉ」
 と、言いながらマリも酒を注文する。とりあえず二人は乾杯をした。グラスを手に、トオルはまた黙り込んだ。躊躇したが、マリは静かに話を切り出してやった。
「ヒナのこと、ですか?」
「ああ。もう、あいつ、ダメかもしれない」
「……ダメ、って?」
「ヒナは眠る、ってしきりに言うようになった。死なない、眠るだけだから心配するな、って。もともと死ぬことをよくわかっていない。だから、もう……」
 マリもグラスを手に黙り込んだ。
 死のうとして首を切ったこともあったが、あんなに出血したのに彼女は無事だった。翼も切り落としたのに、無事だった。
 ヒナは普通に死ぬことはないかもしれない。でも眠ること……普通に長い時間眠ることは、さらにない気がする。
「先輩、どうしたらいいのか悩んでますね」
「ああ」
「先輩、ヒナのために何をしたらいいか悩んでますね」
「ああ」
「先輩、かなり良くないことを考えてますよね」
「ああ、そうだな……」
「……先輩。先輩、ヒナのこと……本気で、愛しちゃってますね」
「……ああ」
 黙り込むマリ。しばらく俯いた後、顔を上げた。
「あ~あ、先輩も普通の男だったんですね。ヤな予感的中」
「マリ?」
 マリはグラスに口をつけ酒を一気に飲む。ちらと、トオルの顔を見た後、手元の空になったグラスを見つめた。
「私も先輩のこと……ずっと好きでした。先輩は優しい人だって知ってた。いつも人に無関心そうでいて、任務では冷酷だって聞いていたけど、そうじゃないことわかってた。好きだった……けど、だけど。ヒナには……あの子にはかなわない……」
 トオルは俯いたまま、何も言えなかった。
「たぶん先輩が考えてることは、良くないことのような気がします。そんなこと、やめてほしい。けど……けど、私には、何も……」
 立ち上がったマリは、座ったままのトオルを背中から抱きしめた。トオルは動けなかった。ただ、マリの体は温かかった。
「そんなことしてほしくない……ずっと先輩でいてほしいです」
 マリはコートを手に、店を走り出た。トオルはグラスを手にしたまま動けずにいた。
 店を飛び出し、そのまま路地裏に隠れ、マリはコートを抱きしめてうずくまった。涙が溢れてきた。励ますつもりだったのに、もう限界だった。ちらちらと、また雪が降り始めた。
 憧れの先輩だった。だから訓練も頑張れた。今回も頑張れるはずだった。二人で任務をこなすはずだった。悔しかった。悲しかった。淋しかった。
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コメント

とうとうエンディングに…(;艸;)

最後のシーンは、実は何回か描かせてもらおうかと思ったんです。
でも私の画力ではまだダメだなって思って、描けないでいます。

やっぱり難しいのが「雲が覆っていて太陽や月が見えない」という設定です。
でも最近は朧月を使えばいけるかも…なんて思っています。
あとはエフェクトかな。
いつか描かせていただきたいと思ってます。

freilさん

コメントありがとうございます(о´∀`о)
ブログではようやく最後の章です。
最後のシーンは何パターンか描いてますが全て没です( ̄▽ ̄;)
どうやら楽しそうなのを描いていたいらしいですw
描いていただけるのですか?!嬉しいです(〃∇〃)
しかし私のハードル上がってしまうですw(;゜∇゜)


ヒナちゃんの眠るだけって言葉が
逆に素直な言い方よりも堪えるかも

深く長く眠るなんて、ヒナちゃんなりに必死に
考えてだしたんだろうな

青白い光って表現が月明かり+ヒナちゃん自身の顔色にリンクしてる感じですね

荒ぶるプリンさん

コメントありがとうございます( ´∀`)
眠る……ヒナの優しさととらえてくださったんですね。

青白いのは月明かりとヒナもですね……(´・ω・`)
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