【Cry*6】1-7、その力

2016.09.19 00:36|【Cry*6小説】第1章
「出かける」


1-7、その力

「こんな時間から行くの? 昨日の今日で……ふらふらじゃないか。それに物騒だよ」
 夕闇が漂う刻限に、リルはローブを被り、ドアを開けた。外出を何とか思いとどまらせようとルアトが後ろからついて出てくる。
「平気だよ。今日のうちにやっておかないと、ダメな気がするから」
 雨がひどくなったら困るし、私は一人で平気だよ、と無理して笑顔を作るが、足取りは重い。弱い雨が降り始める。
 ルアトの引き留めは失敗し、リルは暗い森へと向かった。心の入ってない引き留め工作だった。失敗して当然かもしれない。
 いつもと変わらず家の前で見送った後、急いで雨具を羽織って彼女の後を追った。
 ルアトの前では無理をしていたようで、歩くのも辛い様子だ。足元がおぼつかないようで、木に寄りかかり、何度も転びそうになりながら歩いている。リルが向かった先は山だった。
 雨続きで地盤が緩んでいたのだろうか、土砂崩れを起こして、大きな岩が細い山道をふさいでいる。男たちが数人その岩の前にいた。
「来たか」
 あの、とフードの影から小さな声。
「この岩を、壊すの?」
 リルの声は震えている。多分、青ざめて震えているのだろう。
「そうだ。お前に頼みたいことはこれだ。お前は物を壊すことは苦手だったろうから、礼は弾むさ」
 村人たちはリルから離れて立っている。誰も近付こうとしない。
「できるか?」
「やります。そうしないと……」
(ここにいられない、ってことなのかな……でも、どうやって?)
 リルは岩に手を当てる。岩の大きさを測るように見上げて目を閉じる。リルの手から淡い光が出たが、それ以外には何も起こらず、岩には変化はない。しかし今の行動でリルは疲弊したようで、額に手をやり、肩で息をしていた。
(今のは、何だろう……)
 ルアトの体がぐらりと揺れた気がした。胸のあたりがざわざわした。
(何だろう……あれ)
「しっかりやれよ! 出来損ないが!」
「お前のばあさんだったらもっとしっかりやっていたぜ」
 得体の知れない不安に呑み込まれる。気付くと、村人がリルを言葉汚く罵り始めた。リルは俯いてやりすごしていた。勢いの付いた一人に蹴られ、小さい悲鳴を上げてリルは地面に転がった。地面は連日の雨でぬかるんでいる。泥で汚れながらもリルは無言で痛みに耐えている。
「なに転んでるんだよ! 早く立てよ」
 なんでそんなに冷たくできるんだよ。無抵抗の娘に暴力を振るうなんて! 飛び出したいのを歯を食いしばって堪える。
 蹴られた腹を押さえ、服についた泥もそのままにリルは立ち上がった。もう一度岩に手を当て、そっと上を見た。
「ごめんなさい、壊れて」
 リルが小さな声で何かを呟く。手からは眩しい光ではなく、光というには重く、澱んだ冥い、黒い靄のようなものが散る。それと同時に、岩は粉々に弾け飛んだ。

 夕闇の中、震える足で帰宅するリル。それでもドアに手を伸ばすときは背筋を伸ばす。いつものように、何事も無かったかの様に。
「ただいま。遅くなってごめんね」
 リルの空元気の声が暗い部屋に響いた。暖炉も入っておらず、ランプの橙の灯りだけが丸く浮かんでいた。灯りの近く、ルアトはベッドに腰掛けたまま俯いていた。
「……」
「どう、したの?」
 泥で汚れたローブを丸め、隠すようにドアの傍に置いた。無反応なルアトを心配して、リルはルアトに近づき、その肩に手を伸ばした。
「――ルは、リルは魔法使いだったんだね」
 息を呑む。リルの手はルアトに届かず、宙で止まる。
「俺、俺さ、見たんだ。見たんだよ……大きな岩を粉々に壊しているのを」
 部屋の空気は肌寒い。闇と沈黙の中、ルアトの震える声が響いた。
「あれは。あれはさ、魔術だよね」
 ルアトは顔を上げない。リルは蒼白の顔で無言のままルアトを見ていた。
「リルはさ、俺を魔術……で助けたってことだよね。俺が、俺が殺されかけたものと同じでもので。俺たちを殺したものと同じもので。俺は、俺は助けられたってことだよね」
 ルアトは立ち上がり、リルを見た。その視線は憎悪より困惑を帯びていた。
「リルは魔術師なんだろ? どうして俺を助けたんだよ?! 俺、助けてくれなくてよかったのに。俺なんて死んでしまって良かったんだよ。どうして、どうして助けたんだよ! 魔術師になんて、助けてほしくなかった!!」
「ご、ごめん、なさい」
 リルは震えながらも、じっとルアトを見ていた。ルアトの視線はリルから離れ、宙を彷徨った。
「俺なんて、もう、死んで良かったんだ」
「それは……それはダメだよ」
「もう、ダメだったんだから……。あの時、あのまま死にたかったよ……」
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コメント

う~~ん、これから先が分からないからだけど・・
リルが、可哀そうすぎる、今はね。

応援して帰ります。
ヽ(≧▽≦)/ポチ☆彡全部

雫さん

コメントありがとうございます。
今はリルは不憫ですが皆もいろいろと……あれです(;´∀`)

いつもありがとうございます<(_ _)>
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