【cry*6】1-8、呪われた手

2016.12.22 08:44|【Cry*6小説】第1章
「呪いの手」



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1-8、呪われた手

「死ぬつもりだったんだ。……苦しむのは嫌だったんだから。何もかも嫌だったんだ……」
 無気力に呟いた時、包帯を巻いたルアトの右手が光り、その手はリルの首に伸びた。無意識に素早く。躊躇いもなく自然に。
「えっ……」
 リルは逃れようとしたが、彼の右手はそれを許さずリルの細い首を捕らえる。
「いやっ!」
「リル!」
 ルアトには右手の感覚はあるが、制御ができない。自分の右手をどうにかしようと左手で自分の右手を掴み、リルから離そうとしたが、その思いを知ってか右手はさらにリルの首を強く絞める。
 手にはリルの首を絞める感触が伝わってくる。細い首筋、骨、呼吸を止めている――。
「っ、る……」
「どうして、俺リルを殺そうとか、首絞めようと思ってなんかない! ……ないよ! どうしてだよ!」
 ルアトは自分の右手を左手で掴んだが右手を止めることが出来ない。
「っく……」
「リル! 俺、俺どうしたら……右手が勝手に!」
 ルアトの右手はリルを床に押し倒して、ぎりぎりと力を込める。右手に引っ張られるようにルアトもリルの上に覆いかぶさる。
「っ、く……、あ……」
 魔術を使うリルに不信感を抱いてしまった。今までのリルとの生活のこと、魔術。考えることを放棄して、ただ、死を想った時に、ルアトの右手は勝手に動いてしまった。迷うことなくリルの首に。
 ルアトは右手を離したいと願うのに反し、手はリルの首をきつく絞める。空気を求め、リルは床の上で悶え苦しむ。
「俺、どうしたら!」
 涙ぐむルアト。
 苦悶の表情のリルがルアトの腕に手を伸ばした。手が触れた瞬間、小さな光が走ったのが見えた。少しだけ右手の力が緩んだ。
「これは?」
「る、ルアトは悪くない。これは、呪い……って、知ってる」
「の、呪い?」
 痛かったらごめんねと呟きながらリルはルアトの右手に両手を添えた。リルが触れると右腕に稲妻が走ったかのように光った。ルアトは腕に鋭い痛みを感じ、顔を歪めたが堪える。
 リルの首から少しだけ右手が離れた感触があった。魔術で首を護っているようだ。しかしそれでもリルの首は絞められていることに変わりなく、ひゅるひゅると少しの空気を必死に吸っている。
「このままじゃリルを殺しちゃうよ! その前に俺の手を、俺を、魔術でどうにかして!」
「だいじょ、ぶだよ。君のせいじゃな、い」
 声にならない細い呟き。苦しみの涙が浮かべながら右腕をさする。

 どれ程の時間が経っただろうか。蒼白のルアトの頬には涙が伝っていた。
 リルは苦しみに耐えつつ呟き続けていた。――呪文の詠唱だろう。リルの唇の動きが止まったとき、ルアトの右手がリルの首から離れた。
「り、リル」
 起き上がれず、体を丸めて咳き込むリル。その背を撫でようか悩み、少したってからリルの背に手を当てた。リルの背が強張るのがわかった。不安になるルアトに、起き上がったリルは涙目のまま笑いかけた。
「ごめんね。ずっと、ごめんね。本当のこと、言えなくて。
 ルアトが知っているように、私は魔術を使えるの。使いたくないけど使える。だから村の人に怖がられた。怖がられたけれど、この魔術を使うことでこの村に住まわせて貰っていた。言おうと思ったけど、言えなかった。ルアトに嫌われたくなくて。枝に引っかかっていたとか、薬師さんの話も嘘。
 助けてごめんね。本当は、ルアトが死にたいってわかってたんだ。――わかっていたの。右腕が、死にたがってたから」
「右腕が? ……も、もしかして助けられてからずっと、俺はリルを?」
 リルは無言だった。意識がない間、何度もリルの首に手を伸ばしていたのだろうか。
「それは、ルアトの気持ちに同調する呪いだと思う。最後にはルアト自身を殺してしまう呪い……魔術使えるのに解けなかった、調べるので精一杯だった。私の勝手であなたの命を……。ごめんなさい。本当にごめんなさい」
 リルは深く頭を下げた。ルアトはハッとした。以前村人が言っていた、命を削ってやっていることが魔術だとしたら、この呪われた右手のせいで、今までどれだけ目の前で涙ぐむ娘の命を削らせていたのか。
「今までありがとう。ずっと、ずっと助けてくれていて」
「いいんだよ。ルアトは悪くないよ」
 首を横に振るリルにルアトは涙を流しながら抱きついた。
「ひどいこと言って、ひどいことしてごめん。ありがとう、今まで俺を守ってくれてありがと」
「私にさわると、汚れるよ」
「リルは普通の女の子じゃないか。何でさわったら穢れるんだよ!? 俺の方が、俺の方がひどいやつで穢くて最悪だよ!」
 ルアトはリルに抱きついたまま号泣した。人の温かさにリルはどうしていいかわからずにいた。息を止めていたが、とりあえず呼吸をした。ぎこちなくルアトの背に手を回し、ルアトを落ち着かせようとした。
「ごめん、ごめんなさい。俺、怖かったんだ。淋しかったんだ。怖くて自分が怖くてどうしようもなかったんだ。だって、俺……」
「その気持ち、わかる」
 謝罪し続けるルアトの背を撫でながら、リルもまた泣いていた。


 朝陽が眩しくて、リルは手を翳す。ふと横に視線を動かすと、間近にルアトの寝顔があった。無邪気な寝顔だな、とほほえましい気持ちになりかけたが、ぎょっとして目を覚ます。 慌てて飛び起きようとしたが体が重かった。ルアトが抱きついていた。
(えっ、なんで? えっ、どうして……どどどうしよう……動けない……)
 昨晩のことを思い出す。魔力を使ってくたくたのリルは、大泣きしたルアトを寝かしつけようとして、ベッドまで行った。そこで転がったような気がした。そのまま寝ていたのだろうか。
 昨日雨と土に汚れた衣服が湿っぽかった。せめて服を変えていればと思ったが、服が変わっていても問題だったと考える。何もなかったんだと複雑な気持ちで安堵する。
 密着するほど人と近い距離にいたことがないリルは、どうしていいのか解らず、体を硬直させる。あまりに固まっていたせいか、違和感を感じたのか、少ししてルアトも目を覚ます。
「ん……」
 寝ぼけたルアトに体を引き寄せられ、リルの緊張は頂点だった。
「お、起こしちゃって……ごめんね」
 震えるリルの声に、えっ、とルアトがリルの体を離して飛び起きた。
「ごめん! あ、えっと、昨日は、俺」
 顔を赤くしてルアトが話す前に、リルは緊張を隠して微笑んだ。
「大丈夫だよ。私の方こそ、ごめんなさい」
「いや、俺こそ本当にごめん……」
「手のことは気にしないよ。心配はしてるけれど……」
 二人で布団を見つめ赤面して黙り込むこと数分。
 頭を掻きながらルアトは頷いて、そのままの姿で静止してしまう。しばらく同じ姿勢のまま動かなかったので、リルが心配そうにルアトの顔を見つめていた。
「あのさ。リル。考えたんだけれど……」
「え? なっ、何?」
 リルの顔が強張るのを見て、慌てて手を振って落ち着かせる。
「ちがうよ、違うんだ。いや、あの。深刻なことではなくて。でも、どうなのかな。真剣なこと、かな」
「真剣なこと?」
「前に話したように、俺は城まで行くつもりでいる。その後はどうするかは決まっていないけれど。もしよかったら、良かったらさ、一緒に来ない? 一緒にこの村を出ない……かなって」
 リルは目を丸くする。
「私が、この村を?」
 考えたことがなかった。考なかったわけではない。日々の生活の中で、夢は捨て、思考も希望も放棄し、ただ無気力に過ごすだけになっていた。
「昨日ひどいことしたばかりで言うことじゃないかもしれない。でも、言いたいんだ。村で頑張って辛い思いをしてきたんだ。もうこれくらいでいいんじゃないかな。命を削ってまで頑張る必要はないんじゃない? ここに住めなくなるなら、一緒に行ってみない? 何があるか、リルを守り切れるか保証はないけれど、俺が頑張るから。無理にとは言わない……いや、やっぱり出来たら無理してでも連れて行きたい。このままでこの村でリルが死んだら困るから」
「ルアト……。私、行っていいの。この村出てもいいの、かな……?」
「リルが出たいときに出るべきだよ。誰も文句は言えないさ。そして、俺は出ることを望むよ」
 頷いたリルの頬を静かに涙が伝う。それはいつもとは違う、あたたかい嬉し涙だった。
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コメント

おぉ。ほっとした、最初は、まさかの展開だったから、心配で。
でも、次も、きっと・・かな?
また来ますね。

応援して帰ります。
ヽ(≧▽≦)/ポチ☆彡

雫さん

いつもありがとうございます<(_ _)>

この章でリルがルアトと共に旅立つことを決心しました。
この呪いの手とうまく付き合っていければいいなと思っています(物語を作っていくうえで……)
なんだか難しいです(;'∀')
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清水結衣

Author:清水結衣
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そしてぼちぼち文章を。
プロフ画は野分シムロさんに描いていただきました
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