【cry*6】2-4、湖の乙女

2016.12.05 00:44|【Cry*6小説】第2章
「祭り」


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2-4、湖の乙女

 食事を口に運びながら、二人は湖の乙女について考える。
「何か特別な力を持っているのかな」
「魔術かな……魔術を使える人が大勢いるのかな……」
 食事を終えて、二人は椅子に緩く座りくつろいだ。昼時はとうに過ぎ、客も減って店は静かになっていた。女将も椅子に腰掛け、煙草の煙を燻らせている。
「リルの村は雨続きだったのに、ここは……」
 背もたれに寄りかかって天井を見上げるルアト。言いかけて途中で言葉を切ってしまう。その後をリルが続ける。
「この都の近くだけ雨降らないなんておかしいよね……村から近いのに。私のせいかな」
「リルのせいじゃないよ! やってないでしょ」
「そうだけど、私自身が原因……」
「雨をどうこうすることは出来ないでしょ? 気にしないの。誰かが降らせているとしたら怖いけど」
 確かにリルには降雨を制御できない。それが出来ていたら村でももっと役に立てたはずだった。うじうじ悩んでいるとまたルアトを困らせてしまう。リルは「もう、気にしない」と笑顔で頷いてみせた。
 歩き疲れた二人は、結局この食堂の経営する宿に泊まることにする。


 女将の話だと、今夜が儀式が行われ、祭りも一番賑やかになるらしい。
 夕方まで部屋で休んだ二人は元気に祭りへと繰り出した。都も、都の祭りも初めてだ。屋台で見つけた造花の髪飾りと帽子を頭に載せ、緩やかな人の流れに乗って祭りを楽しむ。人の流れは儀式の行われる湖へと向かっていた。
 祭りを楽しむ人々の頭上に、突如轟音が響いた。一斉に皆が静まった。音は神殿の方から聞こえた。視線を向けた。夕闇で視界は悪いが、神殿から上がる煙と、塔の一部が崩落しているのが見えた。
 一瞬の静寂の後、雪崩のように人が逃げてきた。それを見てさらに逃げ出す人々。屋台は倒され、灯りは消える。暗闇の中、絶叫が響き渡る。
「な、何? 何が、あったの?」
 ジュースのカップを手から落とすリル。体が硬直していた。ルアトが身を寄せ、押し寄せる人の波からリルを庇いながら、何とか路地まで逃げ込む。
「大丈夫?」
 リルは突然のことに震えていた。暗く、視界が悪いが、ルアトが見降ろしているのが雰囲気でわかった。
「うん、吃驚しただけ。ルアトは? どこも怪我していない?」
 ルアトが頷くのを見てリルは安堵した。それでも鼓動は早いままで、息苦しかった。
「神殿で何かあったみたいだね」
 そっと大通りを窺う。まだ騒ぎは続いているが、あれから音も煙も上がっていない。
「まさか、光の魔術師――が追ってきたとか」
 右手に目をやるルアトの顔は青ざめているのだろう。
 とても嫌な予感がした。無言のまま、人の流れに逆らって二人は走り出す。


 湖の神殿の内部。湖に面した石造りの神殿の一階の最奥部に、儀式を行う祈りの場があった。
 祈りの場のある部屋の半分は湖面。大理石でできた部屋には白亜の石で設えた祭壇があった。祭壇は花とリボンで美しく装飾されていたが、今は煤と瓦礫が落ち、見る影もない。天井の一部は爆音と共に吹き飛んだ。
 その祭壇の上に娘が立っていた。
 金髪を結い上げて花を飾り、白いドレスを纏った娘は花嫁のようだった。娘は目の前の惨状に震えながらも、理解をして立ち尽くす。青い瞳は揺れていた。
 娘の周りには焼け焦げた亡骸が転がっている。
「あなたは……誰ですか? どうしてこんなことをするの?」
 震える声だったが、しっかりと静かに問い掛けた。娘の視線の先には長い杖を手にした女がいた。
 床を引き摺るようなドレス。ビスチェから出る肌は白く、波打つ栗色の髪が背を流れる、紅い光を湛えた瞳は優しい笑みを浮かべている。ゆっくりと歩みを進めた。
「私は光の魔術師よ」
 光? と金髪の娘は首を傾げた。
「光の魔術師を知らないの? あなた……湖の乙女ね。私と話すなんて、度胸があるのね」
「度胸なんて……ただ」
 目の前で起きていることを整理したかった。夢か現実かわからなくなってきたから。
「もう、生きていないかもしれないから」
 湖の乙女の声が震えた。
「あなたは儀式を始めていたのね。邪魔してごめんなさい」
 紅い目の女は淋しそうに微笑んだ。
「逃げた獲物を探していたの。そして力を持っている人間が神殿にいないかと見に来たの。けれど」
「力なんて……ない」
「そうね。残念なことに。力――魔力を持ってはいなそう。無力な人間ばかりだった」
「無力だなんて……」
「だから殺したの」
 嫌味でもなく、女は言い切る。
「雨乞いしても雨は降らないのに、あなたは水に身を投げようとしているのね。悲しいわ」
「どういうこと?」
 湖の乙女と言われた娘は大きな青い瞳を涙で濡らしながらも、目の前の女をしっかりと見ていた。
 幼い頃、神殿に引き取られてからずっと世話してくれた神官、侍女たちが、目の前で燃えながら死んだ。自分が命を絶たねばならなかったはずなのに。最後の湖の乙女だったのに。儀式すら出来ない。
 そして、儀式をしても、雨は降らないと目の前の女は断言している。
「湖の乙女が何人死んでも雨は降らないの。私たちが、降らせていないのだから。あなたも殺してあげるわ。この炎で。湖の乙女としては不本意だろうけれど、ごめんなさい」
 女が手を翳す手のひらに光が集まる。それは紅蓮の炎の塊となり、湖の乙女に襲いかかろうとする。

「あ、あそこ!」
 神殿は扉が壊れ、暗い口を開けていた。内部の人々は逃げ出した後のようだった。二人は開いた神殿の扉から中に駆け込む。黒焦げの物が通路のあちこちにあった。
「誰かに攻め込まれたの?」
「これ人!! なんでこんな……」
 異臭に二人はたまらず鼻と口を抑えて立ち止まる。通路に転がる物が人間だと解り、リルは吐き気を催した。
「人が黒焦げとか……何があったらこんなになるんだよ」
 ルアトは青ざめて辺りを見回しながらも、うずくまったリルの背中をさすってやる。
「この中に、すごい魔力を感じるの……怖いけど、行ってみよう」
 落ちていた角灯を拾い、灯りをともす。リルが感じる魔力の方向へと、角灯を手に二人は通路を走った。
 何度か突き当り、広い空間へと出た。湖に繋がっている石造りの部屋。祭壇のようなものもある。部屋は半分壊れていて、空が見えた。瓦礫の中、月光を浴びながら二人の女が立っていた。周りには黒い物体。
「戦いがあったのか? どうしてこんなことになってるんだよ」
 ルアトが後ずさった。その背後からリルがルアトの袖を引っ張る。杖を持つ女を指差した。
「ねぇ、ルアト。あの人が村を襲った人?」
「違う、髪がもっと派手だった……」
「派手ってどういうこと?」リルが呆れ気味に首を傾げる。しかし。
「あの女の人も魔術師だよ。とても強そうで怖い。あの子が湖の乙女?」
 どうしよう……、リルは震えた。女から溢れる強い魔力。勝てる自信がない。
「俺が右手で戦うから、その隙にあの子を」
 ルアトが腰に挿していた短剣を握る。それはほぼ装飾用の剣だ。そして右手を制御することも出来ない。
「そんなことしたらルアトが危ないよ!」
「だって、俺に出来ることはそれしかないんだよ」
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コメント

一瞬のうちに、景色が、人が、展開が変わってしまった。
凄いね。
でも、ふたり勇気があるというか、無謀というか・・
ハラハラして、読んでいます。
さっきまでの、お茶を傾けながら、ってのと、全く違いますね。

続きを・・怖いけれど、また読みに来ますね。
いつもポチ逃げですいません。
いつも訪問ありがとうございます。
応援して帰ります。ヽ(≧▽≦)/ポチ☆彡

雫さん

コメントありがとうございます。

この二人はいかにも主人公な行動をしてますよねw
主人公的行動をしてもらいました(*‘ω‘ *)自分なら絶対にしないですがw

いつもありがとうございます<(_ _)>
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清水結衣

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