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2017-04

【Cry*6】3-4、無理矢理 - 2017.04.06 Thu

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3-4、無理矢理

「食糧を運搬するための馬車ですけど、毛布を敷いたのでお嬢さんを休ませてあげてください」
 明るいうちに少しでも距離を稼ぎたいとのことで、移動中は荷馬車で寝かせてもらうことにする。準備をする間、ルアトがリルを背負い、レイリアが傍に付き添う。
「ありがとうございます」
「ありがと!」
「カイト様は少し気性が荒いところもありますが、優しい方です。たまに口が悪いですが……、気にしないでくださいと、お嬢さんにも伝えてください」
 ルアトと同い年くらいの騎士見習が笑顔で言った。リルが怖がっていることがすでにばれている。ルアトも苦手なことがばれているのかもしれない。レイリアが近くの小川に水を汲みに行っている間に、リルを寝かせた。
 馬車が走っているうちにリルが目を覚ます。カイトは愛馬にまたがり隊の先頭を走っていた。
「リル、怖いのは解るけれど……、あんなにを怖がらなくてもいいんじゃないの?」
「美形なだけじゃなくて優しい人だよ? そうじゃないと部下の人たちも信頼しないし楽しそうにしていないもの。そんなに怖がらなくて大丈夫よぉ」
 ルアトだけではなく、レイリアにも諭され、背に掛けられた毛布にくるまりながら、リルは膝を抱えた。
「そう、なのかな……」
 村人に怒鳴られ、叩かれ蹴られたことを思い出す。そんなことをする人ではないだろう。リルも理解はできるが、どうしても怖かった。

 野営の目的地まで来る。ルアトも騎士見習と一緒に、食事の準備をする。粗方準備が終わったルアトが馬車の中に入ると、毛布にくるまってリルが寝ていた。そっと傍に座ったルアトはリルの額に手を当ててみると額は冷たかった。
「ルアト、どうしたの? 不安そう」
 リルがうっすら目を開けてルアトを心配そうに見ている。どう話していいか解らず、ルアトは笑ってごまかす。
「騎士様はやっぱり緊張するよ。身分が違うし。リルこそ体調は?」
「どうしたのかな。湖の神殿で風邪でも引いたのかな」
 風邪で熱は下がらないだろうと思ったが、何も言わないでいた。
「ルアトは大丈夫?」
「今のところ平気だよ。あっ……いいって」
「少しだけ……今なら」
 様子を見に来たカイトが、馬車の外で聞き耳をたてていた。話が途切れたところで馬車に入った。
 リルは毛布にくるまり、その横にルアトが座っていた。手を重ねたまま二人はカイトを見てきょとんとする。カイトも状況が掴めずぽかんとする。二人で手を繋いで何をしているのだろう。
「……こんな時間から手を繋いで何しているんだ? 取り込み中だったか?」
「違います!」
 ルアトが慌てて手を離す。リルは毛布を被って顔を隠してしまう。カイトは二人の前に座り、胡坐をかく。
「もしかして……つわりなのか?」
「違います!」
 ルアトが強く否定した。その様子にカイトが少し驚いた。
「お前たちは夫婦か?」
「違います!」
「恋仲には見えないが……」
「恋人じゃないです」
「お前たちは、一体何なんだ?」
「一緒に旅しているだけです……」
 ルアトの声が段々小さくなる。
「普通なぁ、男と女で旅してて何もないわけないだろうに」
 否定はしない。ルアトもそう思っている。カイトが呆れているのが伝わってくる。
「詮索されるのが嫌なら、本当のことを教えろ」
 追求しようと鋭く光るカイトの目を見て、ルアトは観念した。
「俺は、光の魔術師に呪いを掛けられたんです。その呪いをリルが抑えてくれているんです」
 その言葉にカイトの目が真剣になる。
「どんな呪いだ? その呪いは今はどんな状態なんだ?」
「呪いは……リルのおかげで大丈夫です」
「リルは、ベアトリス様に魔術を習ったのか? 魔術を使いこなしているのか?」
 毛布に顔を埋めたまま返事もしないリル。カイトの眉間にシワが寄るのを見て、慌ててルアトが謝罪する。

 宿場町に着くと一軒の宿を貸し切った。久方ぶりの宿だった。馬車では臥せっていたリルだが、宿ではレイリアの世話をしていた。
「髪を乾かすから待ってね」
 湯あみを先に済ませて着替えたリルが、レイリアのタオルを持って待っていた。
「リル、休んでいていいんだよ? 私一人でできるから」
「出来ることをしていないと体調悪くなりそうだから」
 湖の神殿では、レイリアは身の回りのことを侍女にやってもらっていた。少しずつ、出来るようになっていけばいいとリルはレイリアを手伝うことにしていた。
 体が動くときは、髪を拭き、梳いてあげた。慣れない化粧もしてあげる。最初は出来なかったが髪を結うのもだいぶ上手くなった。レイリアに頼られることがリルの対人関係を良好にしている感もあった。
「ありがと、リル」
 レイリアの笑顔を見るだけで、元気になれる気がした。

(どうしたのかな、息苦しい)
 寝室で休んでいたリルは起き出す。胸に手を当て、息を吐いた。食事は部屋に運んでもらっていたが、食欲がなく口をつけていなかった。
 夕刻に食堂では宴が開かれた。食堂からは騎士たちの笑い声が響いてくる。皆、優しく礼儀正しかった。そして皆がカイトを慕っている様子だった。宴にはルアトもレイリアも混じっている。あの人たちならレイリアが女一人でも大丈夫だろう。彼女なら皆とも楽しく過ごせるだろう。
 騎士たちはレイリアだけではなくリルにも礼儀正しく接してくれている。自分が行けば皆に気を遣わせてしまうと、食堂は通らずに宿の裏口から外へ出てみた。夜空は澄んだ青だった。冥い青空を見ていると、心が落ち着く気がした。深呼吸をしてみる。温暖な気候だが、夜は気温が下がる。涼しい風が心地好い。

 カイトは夜道を静かに歩いていた。部下数名と抜けて外の酒場に飲みに出かけていた。女を抱いてきたが、気分が晴れず先に帰ってきた。
 好みではないが、どうしてもあの黒髪の娘が気になっていた。部下たちには魔術師好きと笑われているのだろう。気になるものは仕方ない。空を見上げ、溜め息を吐いた。
 入り口から戻ると宴を楽しんでいる部下たちに気を遣わせる。ルアトも緊張するだろう。宿の者に謝礼も渡しておきたい。と、あえて宿の裏口に回った。
 ふと前を見ると、リルが立っていた。静かに夜空を見上げていた。黒い髪も瞳も夜の青に染まり、肌は青白く見えた。壊れそうなほど華奢な体。闇に溶け込んでしまいそうな細い輪郭。その儚さと脆さに、カイトは暫し見とれた。
「ーーリル、調子はどうだ?」
 我に返ったカイトは気を取り直し、平然を装って声を掛けてみる。
 リルは虚ろな視線をカイトに向けた。焦点が定まらない目でカイトを見る。我に返り、目の前にいるのがカイトだと判ると、相変わらずの様子で後退りしてしまう。その様子に、カイトはムッとして近付いた。
「どこへ行く?」
「……部屋にもどっ……て」
 聞き取れないほどの小さな声で言い訳を残して宿のドアに入ろうとしたところを、カイトは無理矢理手首をつかんで止めた。酒に酔ってはいなかった。今までの鬱憤が噴き出しただけだった。
「――あのなぁ、俺のことがそんなに嫌いか?」
 リルは俯いたままカイトの手から逃げようとするが、カイトは無理矢理に壁に押し付けて顔を見ようとする。
「ち、……違い、ます」
 リルはかたくなに顔を上げない。カイトはリルの顎に手を伸ばす。
「じゃあ一体その態度は何なんだ。話すときくらい人の顔をな――」
 そこでようやく問い詰めるカイトの顔を見上げたリル。
 震える睫毛、黒曜石のように深い黒い瞳は潤んでいた。一瞬だけ絡む視線。カイトはその瞬間に囚われた。深い底なしの黒い闇。冥い深い瞳。
 しかし、リルの視線は彷徨い、がくりと前のめりに倒れかける。カイトは慌ててリルの体を支えた。
「おい、どうした? しっかりしろ。また目まいか……?」
 リルは意識を失っていた。触っていた手首が冷たい。服越し伝わる体温、抱いた体も冷たかった。カイトの血の気が引いた。何故今まで気づかなかったのか。
「おい! 誰かいるか?!」
 その声に反応してドアからレイリアがのんびりと出てくるが、カイトの腕の中のリルを見、慌てて駆け寄り、カイトを睨んだ。
「カイト! リルに何したの?!」
「何もしてない。勝手に倒れたんだ。ルアトはいるか?」
 ――何もしていないわけではないが。レイリアは文句を言わずに、宿に駆け込みルアトを呼んできてくれた。
「こいつは、今までどうやって魔術を使っていたか知っているか?」
「俺も、よくは知らないんです。村の人は、命を削って使ってるって……言って……もしかして」
「――俺は先に城へ戻る」
「カイト? 一体どうしたの?」
 リルを抱き、立ち上がるカイトを呆然と見上げるレイリア。
「このままだとこいつが死んでしまう! お前たちは後から来い!」
 カイトは騎士見習が持ってきた毛布でリルを包んだ。その間に馬が用意される。
「ちょっと待ってください!」
「カイト様?!」
 部下たちに呼ばれてもカイトは無言のまま、リルを抱いたまま鞍にまたがり馬を走らせた。
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Author:清水結衣
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