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2017-04

【Cry*6】2-7、雨音 - 2017.02.23 Thu

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2-7、雨音

 不穏な予感は半分当たり、半分外れた。
「いや、来ないで、レイリア。ちょっと、だめぇ……! お願いだから、や、やめて……!」
 宿の浴場の狭い脱衣所で、胸元を抑えながら壁際に追いつめられるリル。
「一緒にお風呂なんて、無理無理無理……無理だよ!」
 レイリアがリルのブラウスのボタンを外そうとする。リルはレイリアの手を阻止しようと必死だ。
「女の子同士だもの、無理じゃないよぉ。大丈夫だよ」
 レイリアは下着姿で笑みを浮かべながら、リルに迫る。
「駄目なの。人の傍にいるのも怖いのに。……外で待ってるよ。小さいお風呂だし、一人で入っておいで……っ、いや! やめてっ」
 リルの声はほとんど悲鳴になっていた。ようやく人見知りが治ってきたが、他人と入浴する勇気はなかった。レイリアは折れず、じりじりとリルの服を剥ごうと可愛い眼差しで狙っている。
「私のことも怖いの?」
 レイリアが悲しそうにリルを見つめる。リルは両手を振って否定する。
「怖くないけれど、緊張しちゃうの……。誰かとお風呂なんて……」
「今までおつきの人に手伝ってもらっていたから、一人だと何も出来ないの。だからちょっと手伝ってくれるだけでもいいの、お願い! ね、お願いぃ」
 手を合わせて懇願する。
「私ね、今までお風呂に一人で入ったことないの。だから、ね?」
 笑顔で引かないレイリアをリルは信用できなかった。天使の顔をした悪魔だとリルは心の中で叫んだ。
「そ、傍にいるから、レイリアだけ入っておいでよ。私は後で入るから……」
 ――ぴちょん。
 その時、浴槽に落ちる水滴の音がした。レイリアは小さな悲鳴を上げてリルに飛び付いた。
「レイリア?」
 ふざけているのかと思ったが、リルにしがみつくレイリアの肩が震えていた。俯いた目は涙で潤んでいた。
「どうしたの?」
 レイリアは振り返り、背後の浴室の暗闇を見つめていた。
「す、水滴の音……だよね。あんな音でバカみたい。ご、ごめんね」
 空色の瞳は揺れて、視線がさ迷っていた。
「……ホントはね、一人が怖いの。あの神殿であったことがね、今になって怖いの。水や、雨が怖いの。湖の乙女だったはずなのに、変だよね。リル、お願いだから傍にいてくれる? いてくれるだけでいいから」
 レイリアが震えていた。リルはレイリアの顔を初めて真正面から見た。甘え上手で社交的で強引に見えた彼女の内面まで見ていなかった。レイリアをそっと抱いた。
「私で良ければ、お手伝いするよ。うまくお話しできないけれど、うまくお手伝いもできないけれど、レイリアが安心できるなら」
「……ありがとう。私ね、本当に怖かったんだって今頃思うの。あの時、本当に死んでいいと思っていたの。でもね、生きてて、良かったって思えるようになったの。ありがとうね、リル。本当に生きてて良かったんだよね、私……」
 レイリアはリルに抱きついたまま涙を流して泣いた。リルはレイリアの髪を撫でる。
「あの時はひどいことを言ってごめんなさい。本当に生きててくれて良かった。ありがとう、レイリア」


 浴室の外ではルアトが待っていた。レイリアとリルが入るとなると時間がかかるだろうと思い(主にリルの説得に)、貸し切りにしたいと女将に話したら、覗きや侵入を用心して、入り口の見張りをした方がいいと言われたのだ。
 ――今の時代、物騒だからねぇ。お風呂場からきゃいきゃい女の子の楽しそうな声がしたら、男だったら気になって覗けたら覗くものでしょ?
 宿泊客はほとんどが男性だったので、用心するに越したことはないだろう。
 やることもなく壁に寄りかかり、手持無沙汰に待っていると、夕食の片づけが終わった女将がエプロンで手を拭きながら歩いてきた。
「お嬢ちゃんたち、入ってるのね。お客さんは男ばかりだからねぇ。あなたが見張ってくれて安心だわぁ」
 ルアトは軽く会釈した。
「あら、あんたは一緒しないの?」
「しませんよ。俺は見張りです」
 あらそう、と女将は通り過ぎかけ、ルアトを振り返った。その顔はにやついていた。
「最初に連れてきた子も可愛いけど、次に連れてきた子も美人さんねぇ。あんな豪勢なドレス着てたけど、どこのお嬢さん? どこから拐ってきたの?」
 ずぶ濡れで宿に戻った三人を女将が手助けしてくれた。ルアトはリルを運ぶのに精一杯で、濡れたレイリアの世話をしてくれたのが女将だった。
「拐ってませんよ! 家出した後、大雨になって困ってたみたいで……心配で連れてきたんです」
「本当に? だいたいあんな格好の女の子が夜に一人で町を歩いている事自体おかしいじゃない。……あんた、まさかたぶらかしてきたんじゃないでしょうね」
「してません!」
「怪しいねぇ。女の子二人と一緒なんてあんたも隅に置けないじゃないのぉ。ねぇ、どっちが好みなの? どっちなの?」
 女将は楽しそうに身を乗り出して追求をしてくる。ルアトは後退りをしながら否定する。
「やめてください! どっちでもないですよ!」
 ルアトが強い口調で言ってしまうと 「ふぅん」と鼻を鳴らし、女将は追求をやめた。
「怪しいけどねぇ。……まぁ、家出のことはあの子もそう言ってるからそうなんだろうけどねぇ」
 宿に来る前にレイリアと打合せをしてあった。女将の執拗な追求に、レイリアは笑顔で嘘を吐き通した。
 廊下まで、中の二人の声が聞こえる。
「楽しそうねえ」と女将は笑っているが、リルの声は明らかに悲鳴だったので、ルアトは苦笑いをする。
「私が見ているから一緒に入ってきたら? 三人なんてなかなかないわよ」
「俺は入らないですよ!」
「手を出さないなんて、あんたも真面目なのねぇ」
 女将がにやにやしながら見つめると、ルアトは視線をそらし、黙り込む。
「俺はそんなに真面目じゃないですよ」
 自分で真面目だっていう真面目な子はいないわよ、とつまらなそうに女将は言った。


 三日後、ようやく太陽が顔を出し、三人は町を発つことにした。
 旅支度を整えたレイリアの足取りは軽やかだった。旅用の上着をなびかせて走り出す。
「久しぶりに神殿の外をちゃんと歩いているよ」
 二人より早く外に出てサンダルで大地を踏み締め、飛び跳ねた。靴ずれを起こすだろうが、今のレイリアには何を言っても聞こえないだろう。
 ルアトの背負う荷物は大分増えたが、気にした様子もなかった。レイリアの不安混じりの笑顔が消えて良かったと思っていた。世話になった女将に、三人分の弁当までいただいてしまう。女将に頭を下げ、笑顔で宿を去る。
 この数日、レイリアに翻弄されて疲れていたリルだが、不思議と気持ちは晴れやかだった。
「レイリア。次の町まで歩くんだから、最初からそんなに歩くと疲れちゃうよ」
 リルに注意されても「それでもいい」とレイリアは走り出す。


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● COMMENT ●

最初、何が起こるのだろうとおもったが、安心した。
血なまぐさい事件や事故にならなくて。
また新たな出発が始る。。
全く予想がつかないです。。

いつも訪問ありがとうございます。
いつもポチ逃げですいません。
応援して帰ります。ヽ(≧▽≦)/ポチ☆彡

雫さん

コメントありがとうございます。

特に何か事件があるわけではないのでした(´-`*)
ただただ信頼し合う姿をかきたくて作った場面です。

いつもありがとうございます<(_ _)>


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オリジナル中心でお絵かき。たまに版権絵。
そしてぼちぼち文章を。
プロフ画は野分シムロさんに描いていただきました
(*´ω`*)

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