【Cry*6】3-8、夢語り

2017.05.04 00:00|【Cry*6小説】第3章
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3-8、夢語り

 ルアトは草むらに寝転び、空を見ていた。
 今はもう失ってしまった故郷の、自宅のそばにあった小高い丘で。揺れる草、空の色、風の匂いも思い出せる。
 横にいるのは亡くしたあの娘……。収穫祭で着ていたドレスを着て、ルアトの横に座っていた。以前と変わらない優しい微笑みを湛えている。
「また、来てくれたんだね」
 笑みを浮かべながら、髪を揺らして頷く。薄茶色の髪は柔らかな三つ編みに結われていた。ルアトは空に目をやる。青い空には千切った綿菓子のような小さな雲が浮かんでいた。
「君に何度謝っても、もう遅いし、もう会えないんだね。夢ではこんなにはっきりと思い出せるけど、だいぶ」
 ――記憶が薄れてきてしまった。
「もう一度、逢いたいんだ。謝りたいんだ。せめて、一度……」
「いいの。もう、責めないで。謝らないで。あなたのこと恨んでなんていない。だから」
 娘は体を起こしたルアトの手をそっと握って、ルアトの耳元に顔を近づけて優しく囁く。
「だから、大丈夫。あなたのこと……」

 一吹きの強い風が通り過ぎ、世界は一瞬で暗くなる。空は紫になり、冷たい風が吹く。
 ルアトが右手を見ると巻かれたはずの包帯がなかった。――夢だから?
 袖をめくると傷口から血が流れていた。慌てて立ち上がる。激しい痛み。そして右手が獲物を求めて疼く。
 儚い恋人は消えていた。あの娘はもういない、助けてくれない。
「リルはどこ? これ、どうしたらいいんだ」
 腕を押さえて痛みをこらえながらリルを探す。夢の中に彼女はいない。
「リル? リル!」
 手を、あの手を握ってないと恐い。こわいんだ! 助けて……。助けて!
 恐い、自分が恐いんだ――!

「……ト、ルアト……」
 呼ばれてルアトが目を開けると、目の前にレイリアの心配そうな顔があった
 慌てて自分の手を見ようとする。いつもと変わらぬ包帯が巻かれた右手だったが、レイリアが握っていた。
「うなされて苦しそうだったから起こしちゃった。ごめんね」
「お酒を飲んだせいかな。久し振りに悪い夢見たよ」
 苦笑しながら、気まずそうに手を離して起き上がる。カイトの部屋のベッドに寝かされており、レイリアはベッドの上に座っていた。テーブルの上は綺麗に片付けられ、カイトの姿がない。
「あれ、カイトさんは?」
「リルの傍にいると思うわ」
 リルのところへ戻ろうと、ベッドから出ようとするルアト。レイリアはそっと両手で押し留めた。
「レイリア?」
 呼ばれても顔を上げず、彼女はルアトの胸にもたれ掛かった。羽織っていたであろうガウンはベッドに落ちている。薄い寝衣しか身に纏っておらず、彼女の肌の柔らかさと温もりが伝わってくる。甘い吐息が首元にかかった。
「ここで過ごそ?」
 首に回す細い腕、潤んだ空色の瞳がルアトを見上げている。ルアトは彼女の眼差しを受け止め切れず、視線を逸らした。
「レイリア。俺は」
 抱きつくそのやわらかい体に、手を回すことは出来なかった。
「私じゃダメ?」
 ルアトはそっと視線を落とす。手元の縒れたシーツが目に入る。――言って良いのだろうか。
「……ダメなのは、どっちも同じだろう? レイリアだって、本当に俺でいいとは思ってないんじゃないかな」
 今度はルアトがレイリアを見つめた。レイリアはルアトの胸元にしがみついて、視線から逃げようとする。
「レイリア、しっかりして。君のしたいことは何なんだい? こんなことしても何も変わらないよ」
「私は……」
「今、もし、君を抱いたら、お互い後悔すると思うんだ」
 酷いことを言ってごめん、とルアトは謝った。レイリアは頭を振って、ようやくルアトの体から手を離した。
「自分を解ってないなんて、情けないね」
 レイリアは頭をペコリと下げてから、唇をかんで俯く。
「俺も、自分のことが解らないよ」
「……カイトはね、きっとリルをそっと見ててくれるわ」
「レイリア?」
「カイトのこと、怖い? 私のことも、怖い?」
「カイトさんが怖いのは、俺にやましいことがあるからかな。レイリアは……心の奥まで見通していそうで怖いかな」
「見えないわよ」とレイリアは笑い、それにつられてルアトも軽く笑った。レイリアは淋しそうな笑みを浮かべながら、目を細める。
「リルは怖い? 好きだから大丈夫?」
「リルは、違う。怖くはない、けれど……俺は、リルのことを好きになる資格がないから」
「資格……。それくらい、大事なのね」
 レイリアが肩を落とす。ルアトは何も言えず、動けなかった。次にレイリアが顔を上げたとき、目に涙を溜めていた。
「ご、ごめん、俺」
「違うの……。あのね、私もそれくらいリルが大事。ルアトとは同じくらいではないかもしれないけれど……とても大事なの。リルがいなくなったらと思うと怖くて。どうしていいか判らなくなるの。私のせいだわ。闇の魔力を持っているのに、たくさん……雨を降らせてもらったから……」
 声を震わせ、レイリアはぼろぼろと大粒の涙を溢して泣きだした。
 ルアトも同じ気持ちだった。自分の呪いのせいで彼女が死ぬことを考えたら、居ても立ってもいられなかった。
「リルはレイリアに生きててほしかったんだよ。そんなこと思ったらリルは悲しむよ」
 まるで自分に言い聞かせているような言葉だった。ルアトは無理してレイリアに微笑む。
「そうかもしれない。でも、怖いの。リルのそばで泣いたらリルを困らせる。だから、ここにいさせてもらっていい……?」
 泣きじゃくるレイリアに優しくガウンを掛けてから、ルアトはそっと抱き寄せた。レイリアはルアトに腕を回して声を上げて泣いた。
「俺も怖い……どうしたらいいのか判らなくて、おかしくなりそうだよ……」
 レイリアの体を抱きながら囁いたその声は、微かに震えていた。


 リルは夢の中で祖母と再会していた。
 何もない暗く、広い世界で二人はテーブルの上に置かれた黒色の珠を見ている。ベアトリスは生前のように青を基調としたローブを纏っていた。短く切り揃えた青味かかった銀髪。不機嫌そうに見えてしまう吊り上がり気味の目元。全てが懐かしい。
「おばあちゃんが夢に出てくるなんて久しぶり。昔もこんなことをした気がする」
 頬杖をつきながら祖母を見るリル。幼い頃から遊びと勉強を兼ねて、二人でよく水晶玉を眺めていた。
「あんたの夢に出るのは本当に久々だよ。――リル。かなり無茶をしたようだね」
 ごめんなさいとリルは頭を下げる。口をきつく結んだベアトリスは首を横に振った。
「私の命、自然には戻らないの?」
「ここまで命を削って魔力を使ってしまうとね。リルに苦しい思いをさせるなら、しっかり魔術を教えておけばよかった」
 ベアトリスの沈んだ声に、リルが慌てて声を上げた。
「私が勝手にやったことだもの、おばあちゃんのせいじゃないよ」
「リルに勝手やらせるような状況にしたのは私の責任だよ。そろそろ封じた魔力も戻す頃だね。魔力を扱う力が必要だったんだよ」
 祖母の話を聞きながら、リルが首を傾げた。
「力って? 私の力?」
「自分の力だけではなく、支えてくれる力かな」
「支えてくれる力? ウルリーカ様のこと?」
「ウルリーカもだが、あんたには仲間が出来ただろう? あの子たちがあんたの心を支えてくれる」
「私の仲間だなんて言ったら、皆に悪いよ」
 彼らは仲間なのだろうか、リルは胸に手を当て考える。そうであってほしいが自分には解らない。リルは言葉に詰まる。
「あんたが思っているよりも、みんなはあんたを好いているんだよ。そろそろ自信を持ちなさい」
「おばあちゃん……」
 前々からルアトたちにも言われていたこと。改めて祖母に諭されると、昔を思い出し心が震えてしまう。口元に手を当て泣きそうになるリルを見て、祖母がにやりと笑う。
「そんなつれない態度ばかりとってルアトやカイトを泣かせないでおくれよ」
「なっ、何でそんなこと! どうしてルアトたちを知ってるの?」
「私が知らないわけないだろう? 頭を撫でられたくらいで泣いたら駄目だよ」
 リルが赤面して睨むがベアトリスは動じない。意地悪い笑みを浮かべたまま、楽しそうにリルを見つめている。孫をからかうのは昔からの悪い癖だった。
「もう! 夢だからって意地悪いなぁ」
「私は夢じゃないし意地悪くもないよ。これでも孫の将来を心配してるんだから」
 二人で笑い合うが、リルの笑い声は段々と小さくなる。ベアトリスが心配そうにリルの顔を見る。
「どうしたんだい?」
「おばあちゃんは、私のために死んだの? 私を護るために力を残したんでしょう? おばあちゃんは私のせいで……」
 ウルリーカが話していたベアトリスの気配。リルが村を出るまであったとしたら、祖母は自分の為に力を残し、死んだのではないかとリルは気になっていた。
「リル。それは違うよ。私は私のために、あそこで命を終わらせたんだ。水の戦士の化身として、やらなければいけないことがあるんだよ」
 強い力を纏って地に降り、大地を救って、大地を壊した精霊たち。その精霊の力と記憶と共に祖母の魂は転生してきたと話した。
「おばあちゃんが水の戦士の化身なの……?」
 ベアトリスは頷いた。
「水の戦士は双子のように分かれて大地に降りているんだ。精霊が分かれ、その力も二つに分かれていた。分かつ力を合わせることが必要だったんだ。私はその水の欠片も手に入れていたんだよ。二つの力を合わせなければいけなかった。水の精霊――ほかの精霊たちの悲願を実らせるためにもね。
 水の戦士のため……その力を持つ私のためでもあるんだ。だから、あんたは悪くないんだよ。そのことで悩まないでおくれ」
「でも、私の魔力は黒い闇だから……」
「闇だが星のように輝いている光もあるだろう。とても綺麗な力なんだよ、リル」
 祖母は目を細め、黒い珠を見つめている。リルは膝の上に置かれた、自分のきつく握った手を見た。
「綺麗な力なの? 私は、この力を取り戻していいの? おばあちゃんを死なせた私がこの力を持ったら良くないこと、起きたりしない?」
 背を丸めて小さくなるリルの様子に、ベアトリスは口を尖らせる。
「何言っているんだい。リルが死ぬより悪いことなんてないだろう? あんたが幸せに生きていることが、一番大事であたしは嬉しいよ」
「おばあちゃん」
 温かく力強い口調にリルが顔を上げ、ベアトリスを見ると、彼女は優しく微笑んでいた。
 その笑顔を見た途端、祖母との沢山の記憶が鮮明に蘇った。
 字を憶えた時。初めて名前を書いて喜んでくれた時。褒めて抱きしめてくれた時。泣いたリルを抱きしめた時。頭を撫でた時。料理が上手くできて、二人で喜んだ時。寝る前のお休みのキス。口喧嘩した後、ごめんなさいを言い合った時。
 様々な、取こぼしそうなほど小さな沢山の幸福な時間を思い出し、リルは大粒の涙を溢した。
「私はあんたの幸せを願っているんだよ。自慢の孫娘だ。ウルリーカに助けてもらいなさい。出会った皆を頼りなさい。自分を信じなさい。そして自分の力を大事にして、生きていきなさい。幸せになるんだよ、リル」
 椅子から立ち上がり、遠ざかる祖母を追おうとする。しかし、ベアトリスはリルからどんどん遠ざかってしまう……。走ろうとしても足がもつれ転んでしまう。体が重く、起き上がれないリルは、笑顔を浮かべるベアトリスに必死に手を伸ばした。
「ま、待って! おばあちゃん!」


 カイトはベッドに腰掛けたままうとうとしていた。
「待って……行かないで」
 リルの声で目を覚ます。夢を見ているようだ。誰かの後を追おうとしてか手を上げ空を掴もうとしている。
「待って……行かないで、おばあちゃん」
 祖母の夢だろうか。目じりから涙が一筋。耳元へと流れて落ちる。
 覗き込んでいるカイトの顔にリルの手が伸びる。あまりにも自然だったのでカイトも反応できなかった。頬を両手で抱えるようになぞる手。カイトはなされるがままだった。
 するりと眼帯がとれ、リルの上に落ちた。
「おばあちゃん……?」
 リルがゆっくりと目を開けた。目の前にカイトの顔があったのだが。
「眩しい……光……」
「お、お前」
「……あ、れ? どうして……?」
 寝ぼけたリルはしばらくカイトの顔に手を伸ばしたまま首を傾げていた。
 カイトは呆然として動けなかった。
 しばらく見つめ合う二人。目を覚ましたリルが慌ててカイトの頬から手を離すと同時に、カイトは左目を手で隠し、リルから離れた。
「見るな!」

「何があったんですか?」
「カイト? リル?」
 声に驚いて、客間に向かって廊下を歩いてたルアトとレイリアが駆け込んできた。二人が見たのは床に蹲るカイトと、起き上がったままベッドで茫然とするリルの姿だった。
「何か、あったの?」
 ――どうみても何かあったのは蹲るカイトだったが。
「何も……ない、と思う」
 言った後で、リルはカイトの顔に触れていたことを思い出し、小さな悲鳴を上げて顔を隠した。
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コメント

こんにちは。

故人に夢の中で逢えたらと思うこともありますが、
ルアト君は恋人と壮絶な別れをしたので痛々しいですね。
リルちゃんとおばあちゃんとの語らいも切ない。
二人には幸せになってもらいたいものです。
カイトさんの眼帯は負傷したからではないのでしょうか気になりますね。

シリアスなシーンなのに水の戦士という言葉になんとかマーキュリーが
頭に浮かんできて、自分ちょっと疲れているなと思いました。

ひもたかさん

こんばんは(*´ω`*)
コメントありがとうございます♪

ルアトはとても深い傷を負わせてしまい可哀想なことになってしまいました……
(そんな設定を盛ったのはあたいなのですがw)
リルとベアトリスの夢ではもっと別のことを話していたのですが全没になりましたw
夢の中のばあちゃんめっちゃ楽しそうですw
カイトの目はいろいろと難しいことになっています(;'∀')

水の戦士っていうとマーキュリーというかもう亜美ちゃんが思い浮かびますよね!(声は久川さんでw)
水の戦士って安易な名前だと思ったのですが、もう考える余裕がなくて昔考えたままを使っています(*‘ω‘ *)

昨日は時間が無く、ポチ逃げ。

でも、カイトが登場してから、色々と問題が出てきたような気が。
女性がその役割をしている?今回はカイトが。
ルアトには特に困った存在になるような気がしで心配。

応援して帰ります。ヽ(≧▽≦)/ポチ☆彡

雫さん

コメントありがとうございます。
いろいろと問題出ていますか…?
ルアトにとって、困った存在になるかと思いますが
みんなをまとめるお兄さんになってくれるかと思います……

それを聞いて、安心しました。
ちょっと、先行きが不安で、トラブルとか、仲間割れとかが。
出来たらそうじゃない方で、読みたいと思っただけで・・
作者の思い通りに書くのが一番ですからね、ここは大切です。

応援して帰ります。ヽ(≧▽≦)/ポチ☆彡
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