【Cry*6】4-2、噂話

2017.05.25 00:00|【Cry*6小説】第4章
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4-2、噂話

「瓢風の騎士団のカイト様が御婦人をさらってきたんでしょう? どんな方なのでしょうね」
 ピアノの音が響くサロン。午後のティータイムを優雅に過ごす人々が集う。城内ではカイトの噂で持ちきりだった。
「波打つ金色の髪の美女でしょう」
「おや、黒い髪の姫だろう?」
 煙草の煙をくゆらせて談笑する貴公子。
「お屋敷には御婦人が二人いらっしゃるのか?」
「二人ってどういうこと?」
 砂糖菓子をつまみ、様々な刺繍の施された扇子で口元を覆い、笑う貴婦人。
「魔術師という話もあるぞ。いったいカイト様はどうしたんだ」
「まさか、光の? ……それはないですわよね」
「カイト様……」
 噂話の横をリルは静かに通り過ぎる。カイトは男女ともに人気で、リルとレイリアのことを含めて知らぬうちに話が大事になっていた。心はどうしようもなく震えたが、平静を保って静かに歩んだ。
(どうしよう。私のこと、噂になっている……違うのに、違うのに……)
 階段に差し掛かったところでリルは立ち止まり、ふと廊下を振り返った。
(光って……呪いのこと、かな?)

 カイトの屋敷の横の芝の上で、ルアトはロニーと剣の稽古をしていた。屋敷は王宮の横にあり、屋敷の横には巨木が一本、枝葉を天に向けて生えていた。緩やかな風が緑の葉をそよがせる。
「本当にルアトは筋がいいなぁ! すぐ俺を越しちゃいそうだよ」
 稽古で木の剣で打ち合った後で、笑顔のロニーが明るく言った。大きな青い瞳と栗色の癖っ毛のロニーは幼く見えたが、ルアトと同い年だった。ロニーから言わせるとルアトの方が幼く見えるそうで、暇があるとお互いにからかい合っている。
 しばらく稽古を続けて汗だくになってから、木陰に腰を下ろし、二人休憩する。ロニーが水の入った瓶を手渡した。
「今度カイト様に稽古をつけてもらったら?」
「そうだね。でもちょっと怖いなぁ」
「心配しなくても平気だよ。カイト様優しいもん。でさ……あのさ、ルアトはリルさんとお付き合いしているの?」
 急に話題が変わって、水を飲みかけたルアトは盛大に水を噴き出して咳き込んだ。
「なんで皆そればかり訊くの?」
「……ふつう訊くでしょ?」
「そうだよね……」
 ロニーの呆れた様子にルアトも苦笑する。そしてロニーに瓶を返した。炭酸入りだった。ロニーは炭酸入りを飲む。
「ごめん」と、ロニーは瓶を取り替えた。二人は水を飲めるだけ飲んで一息ついた。笑顔のロニーがルアトの顔を見る。
「二人ともいい感じじゃない。リルさんは不思議な雰囲気だよね。いるだけでその場が落ち着くというか」
「リルはそういう子なんだ。俺にはもったいない存在だよ」
「ルアトだって同じだよ。不思議で魅力的でさ。お城でも噂になってるよ」
 ルアトは黙り込む。カイトの屋敷に来て、ロニーと共に行動するようになってから、度々城の窓から視線を感じた。田舎者が珍しいのかと思っていたが、時折女性が声を掛けてくることがあった。最近はこっそり恋文を渡される。今も視線を感じるが、あえて見ないようにしていた。
「そういえば手紙を貰ったけれど、どうしたらいいんだろう」
 村にいた頃は手紙を貰うこともあったが、ここは城であり、ルアトには高貴な身分の礼儀が解らなかった。
「貰ったままなの? それはまずいんじゃないの?」
 そうか、とルアトは腕を組んで考え込む。
「……そういえばカイトさんって恋人はいるの?」
 腕を組んだままの姿で、ルアトがロニーを見た。
「呪いのこともあるし、今はいないと思うよ。結婚適齢期だし、そろそろ結婚してほしいんだけれどな」
「ふぅん、そうなんだ」
 考えるのをやめたようで、ルアトは頷いて地面に寝転んだ。気持ちよさそうに木漏れ日の優しい光に目を細めている。
 ロニーは寝転ぶルアトの横顔をちらと見た。
(カイト様はリルさんが気になってるよね。でもなぁ……) 
 木陰で二人が休んでいると、マントを翻して歩いてくるカイトが見えた。
「あ、カイト様!」
 ロニーが嬉しそうに立ち上がる。ルアトは身を起こしたまま、カイトが歩いてくるのを眺めていた。
「どうされたんですか?」
 カイトのそばに駆け寄って目を輝かせるロニー。飼い主にまとわりつく犬みたいだとルアトは思った。
「いや、ルアトに用事があってな。今、大丈夫か?」

「すまないな。ロニーと稽古中だったのに」
「いえ、稽古は終わって、ちょうど休んでいたところだったんです」
 カイトと共に城の廊下を歩くルアト。
 ルアトだけが呼ばれ、ロニーは泣きそうなほど落胆していた。項垂れたロニーの頭をカイトが撫でると、すぐに機嫌を直し、嬉しそうに手を振って二人を見送っていた。
「時間が出来たら連れてこようと思っていたんだ。ここの湯は怪我に効くんだ。ルアトの傷は呪いだが、少しでも効いてくれるといいと思ってな」
 仕事の合間を縫って、カイトは城の浴場にルアトを案内した。大理石でできた浴場は広く、葉の大きな観葉植物が置かれていた。天窓から陽射しが入り、明るく開放的な雰囲気だった。時刻は昼過ぎ。早い時刻のせいか、利用者は少ない。
 いつも包帯をしているルアトの傷を気に掛けていたらしい。カイトも日頃の疲れを癒したいと笑う。
「こんなに立派な場所に、俺がいても大丈夫ですか?」
 利用する人間が偉い人ばかりかと思うと、ルアトは緊張していた。腰に布を巻いただけの姿では、役職も身分も判別できない。
「大丈夫に決まっているだろう。ゆっくりしてくれ」
 カイトはのんびりと湯につかる。
 今はルアトの右手の包帯は外していた。人差し指の長さほどの傷痕がうっすらと走っている。かさぶたにならないままだが、ただの切り傷のように見えた。包帯は毎日リルが巻き、ウルリーカに注意されてはいるが、リルは毎晩手を繋いだ。そのことをカイトは黙認している。
「血行が良くなっても血はにじまないんだなぁ……」
 自分の右手を眺めながらしみじみと呟くルアトを見て、カイトが頷いた。
「呪いは、精神状態に影響されるんだろう」
「精神状態……カイトさんの呪いもですか?」
「そうだな。最初は酷かった」
 ルアトはまだカイトの呪いの正体を知らない。呪いもだが、ルアトはカイトの背の傷痕が気になっていた。古い傷の様だったが、背に幾筋も傷跡が走っていた。戦いで受けた傷だろうか。背に傷を受けたとなれば騎士としては不名誉だろう。訊いていいものかと悩んでいると、カイトに気付かれてしまった。
「さっきから落ち着かないな。どうした?」
「あの、カイトさんの背中の傷は……」
「これは昔の傷だ。どうってことはない、俺への罰だ」
 ルアトを心配させないように気を遣ってか、笑顔で話すカイト。罰、その言葉の意味を汲めず、ルアトは何も言えなくなった。ルアトの気持ちを知ってか、カイトが話題を変える。
「ルアト、これから先、どうする?」
 これから、ルアトは顎まで湯に浸かりながら呟いた。湯は鉄の臭いがした。
「何も……考えてないです」
 城へ来ることだけを考えてきたルアトには、この先の目的は何もなかった。もっと長く旅は続くと勝手に思っていたのに、駆け足で城まで来てしまった。
 リルはどうするだろう。この城はかつて祖母のいた場所だ。ここに留まっても問題はないし、光の魔術師に狙われているのだから城にいた方が安全だろう。ルアトが口を出せる立場ではない。
 レイリアは湖の神殿がなくなった今、湖の乙女の立場はどうなるのだろう。何にしても城にいるのが一番だろう。
「ルアト、ずっとロニーの仕事を手伝ってくれてありがとう」
 天井を見上げていたカイトがルアトを見た。
「いえ、俺も仕事が楽しいんです。ロニーは明るくて、一緒にいると楽しいんです」
 自然と笑顔になるルアト。年が近いロニーと軽口を言い合いふざけたり、畑作業や薪割りをしていると、村で平穏に暮らしていた頃、村の友人たちを思い出した。ルアトは自ら進んでロニーと働いていた。
「そうか……良かった。ロニーはルアトの剣の筋がいいと言っていたぞ。ルアト。もしよかったら彼と一緒に騎士見習いをしてみないか? 最初は雑用ばかりだが、剣術や乗馬の練習もできる。……ゆくゆくは騎士にならないか?」
「俺が、騎士に? ……無理ですよ」
 ルアトが笑って流そうとするが、カイトはそれを許さなかった。
「ルアトには素質があるだろう」
「素質なんて……。それに騎士になれる身分じゃないし」
「俺か……俺が嫌なら友人に頼んで養子という形がある」
「そこまでしてもらったら悪いです」
「そこまでしたいんだ。もしルアト自身が嫌じゃなかったら、素質があって機会があったら無駄にはしない方がいい」
 カイトが本気だと判り、ルアトも真面目な顔で黙り込んだ。
「リルにも、聞いてみます」
 即答せずにリルに相談すると言ったら、冷やかされるかとルアトは身構えていたが、カイトは静かに頷いただけだった。
「――そうだな。それがいいな」
「カイトさん……あの、一つお訊きしたいことがあるんです」
「ん? なんだ?」

 その日もリルはカイトの書斎に手紙を届けていた。イリスや部下の騎士たちにも緊張することがなくなり、カイトにも自然に笑顔を見せるようになったリルを見て、カイトも安堵していた。
「どうしたの?」
 机に肩肘を付き、手を頬に当てた格好のまま、自分の顔をじっとみるカイトにリルが緊張する。その姿勢のままカイトは笑顔を浮かべた。
「いや、何でもない。リルは笑っていた方が可愛いと思っただけだ」
「なっ……」
 リルが顔を赤らめた。からかう様子もないカイトにどう反応していいのか解らず、手で顔を隠して戸惑う。からかわれる方が言い返せるのにとすら思ってしまう。
「リルも緊張さえしなければ誰とでも普通に話せるじゃないか。その様子だったら村でも上手くいったんじゃないか?」
 顔に当てた手先が震え、一気に心が冷え込んだ。
 村の話題に無意識にリルは緊張し、体を強張らせる。ルアトが話したのだろうが、自分のことを他所で話されていたと思うと気分が良くなかった。何事にも真っすぐに向き合うカイトには、惨めな自分の過去は知られたくなかった。
「おばあちゃん……が亡くなった後、私に相談事が来て、魔力を使ったけれど、失敗すると、怒られたり。蹴られたりして怖かったから……」
 俯いたまま指先をいじるリルに、カイトは真面目に訊いた。
「どうして村の男たちはそんなことをしたんだ。リルはちゃんと理由を聞いて、やめてくれといったのか?」
 口を結んだまま、リルは首を振った。
「わからない……そんなこと。思わなかった……」
「どうして何も言わなかったんだ? 嫌なことは嫌だって言えば良かったんじゃないか?」
「そんなこと……」
「村の人間だってリルの力を借りていたんだろう? リルも自分の意見を言ったらよかったんじゃないか?」
 カイトは受け身すぎるリルの性格を心配し、諭しただけだったが、リルは今までの自分を否定されたと感じ、聞き入れることが出来なかった。
「そうかもしれないけど。けどそんなこと、できなかった。だって私、カイトみたいに強くない。恵まれてないもの。そんなことできなかったもの……」
 口に出したらさらに自分が惨めになった。リルは唇を噛み、きつく目を閉じる。俯いて床に涙の染みを作る様子を見て、カイトは静かに席を立った。
「――余計なことを言い過ぎた。すまなかった」
 リルを残してカイトは部屋を出た。
(悔しい……すごくくやしいよ……)
 ドアが閉まる音を聞いた後、リルはその場に蹲って泣いた。
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清水結衣

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