【Cry*6】5-5、禍を招く手

2017.08.17 00:00|【Cry*6小説】第5章


5-5、禍を招く手

「まずいわ。リルが怒ってる。あんなに怒ったの初めて見たわ」
「そうか? 怒るとあんなもんだろう?」
「カイトにはねぇ……ねぇ?!」
「何でそこで笑う? エドヴァルド王も……。だいたい王が余計なことを言うから」
「ごめんごめん、つい笑ってしまって。もう話し合ったのかと思っていたんだよ。これ以上は引き延ばせないだろうからね」
「これ以上?」

 部屋を飛び出したリルは、肩を震わせながら廊下を歩く。その後ろ姿を、ルアトは不安な気持ちで追った。
 リルが無言で礼をして退席し、慌ててルアトが後を追う。王の前で無礼な行いだったが、リルは感情が渦巻いて平静を保てなかった。それが怒りだと気付いたのは廊下を歩いている時だった。 
「ねぇ、どうして……どうして私に言ってくれなかったの? ルアトが騎士になるなんて私はいや。人を殺すんでしょう?」
 庭に出た途端にリルが振り返り、ルアトを問い詰める。リルの剣幕にたじろぐルアトだが、負けじと反論する。
「言うタイミングがなかったんだよ」
「でも、他の皆は知ってた。知らなかったのは私だけじゃない」
「俺が騎士になることを、なんでそんなに怒るの? カイトさんだって騎士じゃないか。カイトさんが人を殺すのはいいの?」
 リルは眉をひそめ、唇をすぼめながら視線を泳がせる。
「なんでカイトが出てくるの?」
「カイトさんみたいには俺はうまく戦えないからやめとけってこと?」
「そんなこと思ってない! ルアトには、そんなことしてほしくないの……」
 自分を心配する不安そうなリルの顔を見て、とげとげしい言葉をルアトは飲み込んだ。
「じゃあさ、リル、お城を出ようよ。どこかの村で暮らそうよ」
 リルが目を瞬かせた。
 以前の様に、ひっそりと。
 畑仕事をし、食事を作って帰りを待つ、ささやかな日々。小さな畑。家畜を飼っていたらもっといい。近くには森があって、川が流れていて。憂鬱な雨音も穏やかに聞いて過ごせるかもしれない。たまに街に買い物に出る。そんな生活。
「村……。れ、レイリアはどうするの? 置いていくの?」
「レイリアも一緒に暮らせばいいよ」
「三人で……暮らせるの?」
 望んでいる言葉を聞いたのに、簡単には頷けないことは苦しかった。
「やってみよう。何とでもなるよ」
「私がいたら、他の人に迷惑掛けちゃうよ。光の魔術師が私のことを殺そうとしてるんだよ……?」
「闇の気配は追えないってウルリーカ様が言っていたろ? 俺が護るから」
 実現困難なことは解っていたが、次々と言葉になって出てくる。前よりは理解し合ってもっと寄り添えるはず。彼女の望むことを、してあげられるはず。
「もし見つかったら……」
「俺がなんとかするよ! してみせるよ!」
「で、でも……」
 ルアトがリルを睨んだ。
「俺じゃ信用できないってわけ? カイトさんみたいには強くないから頼りにならないってこと?」
「違う! そうじゃないよ。そうじゃないけれど」
「そういう意味でしかないだろ?」
 鋭い視線にリルの心が冷えた。いつも笑顔で優しい眼差しのルアトを、こんなにも怒らせてしまった。
「関係ない人が巻き込まれるのが怖いからリルは城にいたいんだろ? 俺は騎士にでもならないとここにはいられないんだよ。俺はどこでどうしたらいいんだよ?!」


「二人の仲が気まずくなったな。王様はいつも勝手で人を急かす」
 屋敷に戻りながらカイトが嘆いた。外に出て喧嘩していた二人の姿はすでになかった。
「まーまー落ち着いて。喧嘩するほど絆も深くなるんじゃないの? 自分勝手じゃない王様なんていないわよ」
 カイトの後ろをピョンピョン歩きながらレイリアが適当に励ます。
「実際アウローラ国の侵攻ってどうなの? カイトがいかないとダメな感じなの」
「そこまでひどくない。国境辺りの集落を攻めているようだ。俺一人が戦場に行ってどうこう出来るような力はないさ。ただエドヴァルド王は信頼できる人間に戦場に立って指揮してほしいんだろう」
 レイリアは頭の後ろで腕を組みながら、空を見上げる。
「こんな時にカイトが不在で他の人からいろいろ言われちゃうことも、王様は心配してるのかもしれないわ。その近くにリルもいるわけだし」
 カイトは何も答えなかった。図星なのだろう。レイリアが目を細めた。一つ、気になっていたことを、カイトに訊いてみる。
「例えばなんだけれど、リルが戦場にいて、魔術を使いこなしたら、戦いは一瞬で決まるの?」
「リルは戦わせない……。だが、リルの魔力は未知数だ。もし魔力と魔術を使いこなすなら、城にいて国全域を結界で護ることも出来るかもしれないな」
「すごいのね。王様がリルを宮廷魔術師にさせたいのも解るわ」
 前を歩くカイトの背を眺めながら、レイリアは口元ににやりと笑みを浮かべる。
(まぁ、もっと別の理由もあるだろうけれどもね)

 屋敷に戻ったレイリアは自分たちが使っている客間のドアをそっと開けてみる。リルがベッドに突っ伏しているのが見えた。声を掛けようか悩んだが、肩が震えているのが見えたので、そのまま静かにドアを閉めた。階段を降りると、ブリッタが茶の準備をしているのを見かけ、珍しく手伝いに向かった。
 驚いたブリッタが、カップを落として呆然とする。
「ちょっとぉ、ブリッタ驚きすぎよぉ」
 落ちたカップを拾って、無邪気に差し出すレイリア。天使の微笑みを浮かべているのだが、それを見たブリッタは青ざめている。
「レイリア様がお優しいなんて。……まさか……天変地異が起こるかもしれませんわ」

 カイトが居間へと向かうと、ソファに座ってルアトが項垂れていた。
「あ、あの、カイトさん」
 思いつめた表情をしていた。慌てて立ち上がろうとするのを見て、カイトが止めた。
「ルアトだってリルとちゃんと話す前だったのに、エドヴァルド王が急かして本当にすまない……」
 今にも泣きそうな顔のルアトは首を振った。カイトは腰から剣を外し、椅子に立て掛けた。未だに体は軋み、いつも身に着けている剣ですら重く感じる。窓辺へと歩き、外を眺めながら考え込む。
(リルにもルアトにも自分の人生を考える時間をあげたい。押し付けるくらいなら、俺が行かなければいい。イリスか、騎士団の誰かを同行させればいい……)
 一人、ルアトはきつく目を閉じた。
 辛かった。リルと言い合いをしたのは初めてだった。彼女を怒らせてしまった。簡単に近づけない彼女は、容易く自分から離れてしまう。
(リルは、俺からどんどん離れていく。カイトさんみたいな、真面目で立派な人がリルには合うのかもしれない。リルは魔力も持っていて、性格だって優しくて素敵な子だから、誰に好かれたっておかしくない。俺には釣り合わないんだ。どんなに魔術を勉強しても、頑張っても、だんだんかみ合わなくなる。だって俺は。俺には……。これからどうしたら……どうしたら)

 音もなく、動く。
 静かに、そっと――。するりと自然に。
(ん――?)
 考え事をしていたカイトは、窓の外の様子も硝子に映るものも見えてなかった。
 しかし不穏な気配を感じ、咄嗟に腰をかがめると、乾いた音を立てて、窓の桟に剣の刃が刺さった。ちょうどカイトの頭があった場所の後ろに。カイトの右眼が見開かれる。
「ルアト?」
 ルアトの右手には鞘から抜かれたカイトの剣。ルアト自身、斬りかかった現在の状況を把握できていない様子で、唖然としている。右手だけが殺気立ち、静かにカイトを狙っている――。
「俺、どうして……」
 震える唇。ルアトが疑問を口にする前に、右手はカイトの心臓を狙い、剣を繰り出した。

「……!!」
 部屋に入って来たレイリアが声にならない悲鳴を上げ、茶器の載った盆を落とした。毛足の長い絨毯の上に落ち、鈍い音を立てた。
 床を転がりながら剣をよけるカイトは、咄嗟にルアトの腰にあった短剣を奪って剣を弾いた。カイトに怪我を負わせずに済み、ルアトはほっとする。
 しかし右手は剣を握ったまま殺意を滲ませていた。体制を整え、間合いを計るカイト。ルアトから目を逸らせないまま、部屋にいるだろうレイリアに叫んだ。
「レイリア! リルを……いや、ばーさんを呼んできてくれ!」

 返事もできないまま、レイリアは部屋を飛び出した。カイトはウルリーカを呼ぶように言ったが、カイトは怪我を負い、短剣でルアトと戦っていた。城まで走っても間に合わないかもしれない。震える足には力が入らず、上手く走れない。レイリアは何度も転びつつも、リルの元へと急いだ。
「リ! リル! 助けて!」
 ドアを思い切り開け、客間に飛び込むレイリア。その勢いに驚いたリルが身を起こす。
「レイリア? どうしたの?」
 レイリアのただならぬ様子に、リルは慌てて涙を拭いて、ベッドから降りた。
「ルアトがカイトをね! カイトがね!」
「二人に何かあったの?」
 泣き出しそうなレイリアがリルに縋り、腕を掴んだ。リルがレイリアの肩を支えてあげた。恐怖で言葉が上手く出てこない中、レイリアは必死に伝えようとする。
「このままじゃ殺しちゃうの! ルアトが殺しちゃう! リル、助けて!」
 レイリアを残したまま、リルは靴も履かずに部屋を飛び出し、廊下を走る。途中、不穏な空気を察したイリスとブリッタが居間に向かおうとするのを、後から来たレイリアが何とか止める。

 ルアトの右手は容赦なく斬り込む。ルアトの攻撃を防ぎつつ、カイトは冷静にルアトを観察した。
(闇の魔術まで使えるとは……ルアトの素質だろうか)
 魔術の勉強、剣の稽古で得たもの全てを、右手は自然に容易く使う。今まで勉強していても魔術は使えなかったルアト。しかし、魔術で魔力を剣の刃に纏わせている。躊躇しなければ魔術も使えるということだろう。
 先日カイトと打ち合いをしたばかりだが、その時に比べ、躊躇いのないルアトの攻撃は鋭く重かった。ルアト自身は右手に引き摺られているが、転ばないように足も使えている。
「ルアト、その手をどうにかできないのか?!」
 顔面蒼白のルアトが頭を振る。
「駄目なんです! カイトさん! 俺の、俺の手を切り落としてください!」
「そんなことできるか!」
「でも、俺。自分じゃ、どうにもできなくて!」
 このまま打ち合うとルアトを傷付けるか、自分が負かされる。
 カイトは短剣。ルアトの腰から奪ったベアトリスの形見の短剣だった。しかも傷が癒えておらず、体中が軋んだ。傷口が開くような痛みすらある。ルアトの右手は、カイトが怪我をしている場所を知っていて、執拗に狙っていた。
 ルアトの意思を無視して、右手は剣に闇の魔力をこめて攻撃していた。魔術を使い、剣を覚えた右手――ルアトは手強かった。
「――ルアトは、呪いに負けるつもりか?」
 短剣で付き飛ばしながら、カイトが低い声で問う。
「そ、そんなことは!」
 慌てるルアトを、カイトは真剣な眼差しで見つめた。
「お前のその手は、ずっとリルの命を狙っていたのか? ――それほど、リルを殺したかったのか?」
「えっ――」
 一瞬、ルアトの動きが止まった。
 その隙を逃さず、カイトは踏み込み、短剣でルアトの剣をなぎ払った。
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