【Cry*6】4-3、来訪者

2017.06.01 00:00|【Cry*6小説】第4章
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4-3、来訪者

「カイト様が異国のお姫様をさらって来たって本当? 朝帰りしたって噂になっているわ」
「あれは……城に着いたのがたまたま朝だっただけですよ」
「そうなの? そのお姫様、馬に乗ったカイト様に抱かれていたんでしょ?」
「あー、うらやましいなぁ、私もカイト様にさらわれたいなぁ」
「そうですか……」
 町でもカイトのことが噂になっていた。仕立て屋で品物を準備してもらう間、リルとルアトは女性の店員と客から質問攻めに遭う。夢見る娘たちの噂話に二人は困惑するばかりで、ルアトは笑顔を浮かべていたが、リルは俯いたまま硬直している。

 ――ルアトとリルは、ブリッタのお使いで、城下の仕立て屋を訪れていた。城の外に出るのはカイトの屋敷で過ごすようになって初めてだった。一人留守番を言い渡されたレイリアは、二人と一緒に行きたいと泣き喚いていた。
「いじわる、意地悪! 私もお外に行きたいわ! 行きたいわよぉ!!」
 笑顔のイリスが鉄壁となり、喚くレイリアを引き留めた。後ろ髪を引かれる思いで二人は屋敷を出た。

「ブリッタさんのお使いってことは、カイト様のお屋敷にいるんでしょう? あなたたち知ってるんじゃないのぉ?」
「そうなんですが、つい最近来たばかりで……」
 ルアトが話をかわそうとするが、若い店員がずっと黙っているリルの顔を覗き込み、目を輝かせた。
「あなたじゃないの? 黒髪の女の子って噂になってるもの!」
「そういえば! 可愛いし」
「あなたがカイト様の? えっ! 本当にぃ?」
 好奇心むき出しで自分に迫る女性たちに恐怖を感じ、リルは足まで震えながら後退りをした。
「ち、違います!」
 リルは悲鳴のような声で否定して、ルアトの背に隠れて震えた。

「どうしよう、お城の外でもすごい尾ひれの付いた噂が流れてる……!」
 顔を赤くしたままのリルが、震えながら歩き、その横を、荷物を持ったルアトがゆったりと歩いた。
「リルは異国のお姫様ってことになってるんだね。――リル姫様、どうぞお見知りおきを」
「もう、やだ! ルアトまでそんなこと言わないで」
 立ち止まり、腰をかがめて大仰な礼をしてみせたルアトに、リルは顔を赤くして涙目で怒った。その様子にルアトが慌てて謝る。
「ごめん、リル。……やっぱりカイトさんは町でも人気だね」
「そうだね……」
 頬を膨らせてリルは不服そうだ。その様子に苦笑いをするルアトだが、ふとリルから視線を逸らし、近くを流れる川を見た。
「でもさ、馬に乗って連れてきてくれたのはカイトさんだし、否定するほど噂話は嘘じゃないと思うよ」
「ルアト?」
 リルが訝し気にルアトを見た。
「リルが無理していたことも、カイトさんが気付いたし。ここまで急いで来てくれたからリルも無事でいるんだし。そんなにカイトさんを邪険にしなくてもいいんじゃないかな。カイトさんは優しいと思うよ」
「ルアトは、カイトの肩を持つの?」
 憤慨して語気が強くなるリルに、ルアトは内心驚いた。
「そうじゃないけれどさ、本当のことでしょ? カイトさんはいろいろと心配してくれているじゃない。俺には何も出来なかった。リルの命が危ないことにすら気付けなかったから」
「私が勝手に無理したんだもの。ルアトは心配してくれたでしょ。それだけで嬉しかったの」
 俯くルアトを心配そうに見るリル。その不安そうな様子を感じて、ルアトは慌てて顔を上げるが、そのまま視線が止まった。
「どうしたの?」
 川に面した通りに並ぶ出店の一つを、ルアトが指を差す。
「リル、少しだけ寄り道していかない?」
 ルアトが指差したのは串焼屋だった。比較的人通りが少ない橋のたもとで荷物を持つルアトを待たせて、リルが店に走り、二人分の串焼を買って来た。
「こんなドレスでこんなことをして、ブリッタさんに見られたら怒られそう」
「内緒にすれば大丈夫だよ。たれをこぼさないでね」
 ルアトは荷物が汚れないように、荷を脇に抱えて串を持つ。橋の欄干に背を預け、二人で串焼きを食べた。
 湖の神殿の夜の祭りを思い出す。――あの祭りは途中で終わってしまったけれど。
「やっぱり、レイリアも一緒に来たい……」
 串を持つ手に雫が落ち、慌ててリルが目元を擦る。その様子をルアトは切ない眼差しで見ていた。
「そうだね。泣かないで。もう少し様子を見て、今度は三人で遊びに来よう?」
「うん……」
 涙を拭きながらリルは頷いた。


 仕事がひと段落し、時間が出来たウルリーカがカイトの屋敷を訪れる。リルに魔術の使い方を教えるためだった。
 皆が書斎に集い、大きなテーブルを囲んで座る。ウルリーカの近くにカイト、向かいにリル。その横にルアト、レイリアが、それぞれ取り組むべき課題に向かっていた。
「魔術は心で使うんだよ。頭じゃないんだ。自然の魔力ならなおさら。頭で考えたらだめだよ。心を落ち着けて」
「自然ってなぁに?」
 字の練習をしているレイリアが首を突っ込む。ルアトはレイリアに字を教えながら、リルが持ち歩いていた魔術書を眺めていた。初歩的な魔術書で、魔力の属性関係なく扱える魔術が記されている。
「自然と言っているのはね、生まれつき強い魔力を持っている人のことだよ。『ナトゥレーサ』と私たちは呼んでいるよ」
「リルみたいに強い魔力を持ってる人をナトゥレーサっていうのね。じゃあ、自然のナトゥレーサじゃない魔術師もいるの?」
「そうだねぇ、『ファルセーダ』のことだね。後天的に魔力を魂に入れた人間のことだね。後天的にいくつも魔力を持たせることも出来るんだよ」
 なるほどと三人が頷いたが、ファルセーダがどのようなものかは想像できないでいた。
 ウルリーカたちは、リルが持ってきた黒革の装丁の闇の魔術書を開いてみた。
「全く読めないな」
「魔力を使って読めば読めるはずなんだけれどね……」
 魔力を使えばどの属性の魔術書でも読めるはずだが、闇の魔術書はリルやカイトだけではなくウルリーカにも読めなかった。
「この闇の魔術書は名前を書かないといけないらしいな。よくわからんが、『この本を読みたければ名前を書け』とベアトリス様の落書きがあるぞ……」
 闇の魔術書を眺めていたカイトが、背表紙の裏の落書きを見つけてにやにやしていた。文字だけでなく、似顔絵らしき絵も描かれていた。
「おばあちゃん、魔術書に落書きしているの?」
 呆れ顔のリルにウルリーカが笑った。
「……ベアトリスなりの遊び心なのかもね。どれ、書かれたとおりに名を書こうかね」
 ウルリーカにカイトにリル、そしてルアトも名前を書いた。
「え? ルアトも?」
「読めたらいいなって思って。俺も読めるようになるかな」
 三人の後ろからレイリアもペンを手に本を狙っていた。
「ルアトは素質がありそうだから大丈夫だろうね。ほらレイリア、あんたはまず字を覚えなさい」
「えー! 私も魔術使いたいのに」
 ウルリーカだけではなく、ルアトからも目が笑っていない笑顔という無言の圧力を受け、レイリアはしぶしぶ字の練習に戻っていく。
「本当に読めるようになったな……」
「名前を書いたら読めるようになった! 不思議」
 本から顔を上げたカイトとリルの目が合ったが、リルはすぐに視線を逸らす。カイトは何も言わず、横で悪戦苦闘しているルアトに魔術書の読み方を教え始める。
 二人の気まずそうな様子に、レイリアが目をぱちくりさせる。リルの眉間に小さなしわが寄っているのを見逃さなかった。
「ねぇカイト。お城にベアトリス様がいらっしゃったのなら、カイトもベアトリス様に会ったことはあるの?」
 レイリアは唇に人差し指を当て、ルアトの持つ本を覗いているカイトに訊いてみた。
「ベアトリス様には世話になったんだ。俺は五つの時に城に奉公へ来たが、ベアトリス様が勉強と魔術を教えてくださったんだ」
「え? じゃあリルがここにいた時にはカイトもいたってこと?」
 レイリアだけではなく、リルもルアトも驚いた様子でカイトを見た。カイト本人は三人から熱い視線を注がれて困惑していた。
「そのはずなんだが、俺はリルに会ったことがないんだ」
 カイトが首を傾げている。ベアトリスとカイトが頻繁に会っていたのに、リルに会っていないのは不自然だ。
「ベアトリスは、孫にはカイトを会わせたくないと言っていたよ」
「会わせたくないってどういうこと?」
 ウルリーカが笑う。俺は嫌われていたからな、とカイトが苦笑する。小さな軋む音が響いたが、若者たちは騒いで気付かない。ルリーカだけがそっと振り返り、目を丸くした後、笑みを浮かべる。
「え? カイトさんがそんなに嫌われていたの?」
 ルアトが吃驚し、リルは哀しそうな表情を浮かべた。
「どうして? おばあちゃんは人を嫌うことなんてなかったのに……」
「それはカイトが自分に似ていたからだとベアトリスは言っていたよ。そして、ベアトリスがカイトのことをとても気に入って、好きだったからだよ」
 声のしたのは書斎の入り口。皆がドアの方を見ると、そこにいたのは。
「エドヴァルド王!」
 笑顔のウルリーカ。カイトが慌てて立ち上がった。レイリアは目を丸くしてペンを手から落とした。リルとルアトはしばらく誰なのか理解できずにいた。
 優しい微笑みを浮かべ、入り口に立っていたのは、クレプスクロム王国のエドヴァルド王だった。
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清水結衣

Author:清水結衣
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