【Cry*6】4-7、せめぎ合う

2017.07.06 00:00|【Cry*6小説】第4章
にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説へ
にほんブログ村


4-7、せめぎ合う

「皆、どこ? どこに行ったの? 誰もいない……ルアト、レイリアどこ? カイト、どこにいるの?」
 目覚めると、黒一色の何も見えない世界で、リルは独りだった。何が起こっているのか、何処にいるのかすら解らず、リルの恐怖は膨れ上がる。体の奥から力が溢れてくるような、感情が溢れてくるような感覚を伴う。自分で抑えることが出来ず、呼吸は乱れ、苦痛が全身を走る。
「やだ! 苦しいよ、何が起きているのかわからないよ! 痛い。いたい……っ、痛い」
 体が、手が、足が裂ける感覚。火花が散り、身体に傷を付け続ける。
「痛い! あつい! どうしてこんなに熱いの? いや、もういや!」
 蹲り、悶え苦しむリル。裂かれた箇所から闇が忍び込んでくる気がした。惨めで、陰湿で重苦しい、昏いものが。
「気持ち悪い。嫌だ! 入ってこないで……穢い……。きたないよ。私、すごく気持ち悪いよ。……私の体が、なくなっちゃう……」
 しゃくりあげながらリルは辺りを見回そうとする。叫び、のたうち回っているはずだが、リルは体を認識できない。見回す目はあるのだろうか。手は、足はあるのだろうか。自分はまだいるのだろうか?
「みんな、どこ? ルアト? 痛い、いたい……」
 三人は何処にも見えなかった。レイリアの恐怖に引きつった顔が脳裏に浮かぶ。
「こんな、力を持った、ぼろぼろになった私がいたら、皆が怖がる。私、このまま消えちゃえば……死んじゃえばいいのかな」
 昏い眼差しで微笑んだ。
「そうだ、消えちゃおう……」

 漂う闇の奥から、三人に黒い刃が飛んでくる。
「ルアト! レイリア! 外に出ろ!」
 カイトが剣の柄に手をかけながら叫ぶ。震えて動けないレイリアに、黒い刃が襲いかかる。
「きゃぁっ」
 カイトが刃を剣で受けた隙に、ルアトがレイリアを抱きかかえて部屋の外に連れ出した。刃と共に、黒い手のようなものが波の様に現れて、カイトに巻き付こうとする。カイトは倒れそうになるが、斬るのをためらい、魔術で風を起こして払った。ルアトたちは部屋から出たが、結界で閉ざされていて廊下の先にある階段から上へ上がることは出来ない。
 闇は震えているのか力が脈打っているのか。壁や天井に黒い刃と職種のような手を幾つも突き立てる。
 その様子を見ながら、カイトひとりが部屋に残っていた。
 闇の中に、黒い人の形をしたものが立っていたが、音もなく崩れた――そして闇はねっとりとうごめく。
「リル! しっかりしろ!」
 カイトが呼びかけた。震える力は声に反応し、黒い刃がいくつもカイトに襲いかかった。カイトは身をかわすが、飛び退いた場所の床は抉れていた。
 カイトは息を呑んで抉れた床を見た。黒いものはベッドを飲み込んで暗く脈打ち、蠢いている。
 黒い手が鞭のように伸び、カイトを狙って黒い刃を打ち込んでくる。カイトは剣で受け止めるのが精一杯だった。
「リル! 自分を信じろ! 闇になるぞ!」
 カイトが叫ぶとその声に反応して、闇から何本もの黒い手が伸びた。カイトは剣で薙ぎ払ったが、力で負けて膝をついた。執拗にカイトを攻撃し、カイトは壁に打ち付けられた。
「っく……」
 風の魔力を防御に回したが、黒い刃と手の攻撃力が勝り、鎧の鎖は飛び散った。カイトは痛みに歯を食いしばり、堪える。
 部屋の外から様子を伺うルアト。その横で、レイリアは壁に寄り掛かりながら目を見開いたままガタガタ震えていた。目の前でリルが消えてしまった。湖の神殿で起こったことを思い出す。レイリアの手を取って歩いていた侍女が、一瞬で黒焦げになり息絶えた。黒い手、崩れ落ちる手。
「どうして……さっきまでは大丈夫そうだったのに」
「リルは結構しんどかったはずだよ」
 沈んだ声でルアトが呟いた。カイトに触られても微笑んでいた。いつもならレイリアを叱るところなのに、ずっと笑っていた。無理をしていたのかもしれない。
「リルはどこに行っちゃったの? 闇の中なの」
「あの闇がリルなのかもしれない。苦しんでいるリルが段々遠くに行ってしまう気がするんだ」
 震えるレイリアの横で、ルアトが落ち着いた声で呟いていた。
「ねぇ……ルアト。あなたには、リルの姿が見えてるの?」
 レイリアがルアトに縋りつく。ルアトは暫し考えた。
「見える訳じゃないけれど、感じるんだ。リルのいつもの気配が段々薄くなっている気がする……」
「それって、リルがリルじゃなくなっているってこと?」
 悲鳴になりそうな声でレイリアが訊いた。ルアトは静かに部屋の中を眺めていた。彼はどうしてこんなに冷静なんだろう。
「俺はちゃんと魔術を知らないけれど、そんな感じがするんだ。ウルリーカ様も解らないって言っていたし、誰も解らないのかもしれない。けれど、このままだとよくない気がする」
「このままだとリルじゃなくなるの?」
 ルアトは肯定も否定もせず、黒い闇を見つめている。
「リルでいてもらうためにどうしたらいいの? ルアト! リルがいなくなったらイヤだよ」
 ルアトに縋りながら、顔面蒼白のレイリアは震えていた。

「私はこのまま消えるから、皆は逃げて。早く私から逃げて……!」
 黒い波が部屋に溢れる。駄々をこねる子どもが八つ当たりするように刃を飛ばし、鞭の様にしなる黒い手が何本も伸びる。

 カイトに襲いかかる黒い手。その前にルアトが立ち塞がった。
「ルアト?! 危ないぞ!」
 黒い手のようなもの――手、というより鞭のようにしなやかで、刃物のように鋭い――を、ルアトは素手で受け止めた。呻き声が漏れる。手の皮膚が裂け、血飛沫が飛んだ。
「ねぇ、リル。手を繋ごう? いつものように手を繋ごうよ」
 ルアトは両手で黒い手を握って、闇に微笑みを向ける。
「リルは寂しくて怖いんだよね? だから俺、リルのとこにいるよ。だから堪えて。ちゃんと傍にいるから。だから自分を見失わないでいてね?」

「どうしたの? 私は何かを切った? まさか……人?」
 自分の手が、生温かい液体で濡れる感触。暗い世界でリルが必死に目を凝らす。
(もしかして誰かに怪我をさせたの? これは、この感じは?)
 黒いだけの世界に、リルの手が引っ張られる感触が生まれた。
「この手――この手は」
 リルははっとした。懐かしい手。いつも握っていた、包帯を巻いていた、あの手。
「ルアトがいるの? 見えないけど、近くにいるの?」
 恐怖と嬉しさと、不安。リルの心に呼応するように力が動く。黒い波は部屋中に溢れて、リルの感情と同じように震えていた。
「こんなに昏くて怖い私の手を握ってるの? どうして? 私、消えたいんだよ。消えたい私を、どうしてルアトは引き留めるの?」

(俺、このままだとまずいのかな)
 目眩と寒気がし、ルアトの額には汗が浮かんでいた。眼前に闇が漂っている。
「俺はリルを見つけたよ。早くここに戻ってきて」
 暗い闇にルアトが微笑む。
「君の力で助けられた手で、君の手を握って見つめているからね」

「……傷つけるから、傍に来ないで欲しいのに。どうして、どうしてそんなことするの……」
 リルは思い出す。ルアトを助けてから、右手の呪いに気付くまで、リルは何度も暴れる右手に手を焼いていた。自らの首を絞めようとする右手、それを阻止するとリルの首に手を伸ばし始めた。
 首を絞められながらも必死に魔術書を調べ、呪いが原因だということしかリルには解らなかった。ただ右手に絡む光を無理矢理剥がし取ることより、自分の力で包むことを選んで、何時間でも祈るようにルアトの手を握っていた。
 あれからずっと傍にいる手だった。何とか振り払おうとする。ルアトから離れるために。

 ルアトは血を流しながらも懸命に、逃げようとする黒い手を握り続けた。
「リル、お願いだから戻ってきて。前はひどいことを言ってごめん。死んだ方が良かったなんて思ってなかったんだ。だって、ずっとリルが手を護ってくれたの知っていたから、怖くなかったんだ。でも、リルがいなくなるなら、俺もいなくなりたいんだよ」
 闇から手が数本現れるが、ルアトを攻撃するのを躊躇い、壁や天井を叩いた。ルアトが手を繋いだ先に、黒い人の形が現れた。脆く今にも崩れそうだった。その人の姿をしたものの、光のない瞳から黒い涙が溢れる。

「リル……どうしよう……ルアト……」
「レイリア、危ないぞ!」
 よろよろと歩くレイリアを、カイトが引き留めた。
「リルがいなくなったら嫌だ、嫌だよ……」
「どういうことだ?」
「ルアトは感じているの。このままだとあの闇がリルじゃなくなっちゃうって。ルアトは感じているの。だから……」
 ルアトが闇を掴んでいる。それは手を繋いでいるようにも見えた。
「レイリア、ちょっと目を見ないでくれ」
 レイリアが両手で目を隠す。カイトは眼帯をずらし、呪われた左眼で闇を見つめた。
 一人でリルが泣いていた。輪郭は曖昧で、闇に溶け込んでいるようだった。そのぼやけたままのリルに、ルアトは手を伸ばして、リルと手を繋いでいた。
(もしかしてこの闇は全部リルだったのか? 俺はリルに剣を向けて……なんてことを)
 血を流しながらもルアトは手を差し伸べているというのに。
 カイトが歯を食いしばり、自分の行いを悔いた。
「――レイリア、闇自体がリルだ。闇が俺たちのことを感じているんだろう」
「ここの闇、どれもこれもがリルなの?」
 辺りを見回すレイリアに、たぶん、とカイトが頷いた。
「あいつは一人で泣いている。どんなことでもいい、とにかくリルに、ここにいてほしいことを伝えるんだ」
「でも、リルの体はどこにあるの? ルアトがいるところ?」
 カイトは考える。
「闇を纏めるにはどうしたらいい?」
「光が当たれば闇はなくなるわ。光が当たれば、影が出来るけれど、影は太陽の光が強ければ濃くなるわ。それと同じなら、光を当てる? ……光の魔術で照らす、とか?」
 レイリアが思いつく単語を並べていく。
「それしか思いつかないな。俺は呪われた目を使って光で照らしてみる。レイリア、俺の目を絶対に見ないでくれ」
 カイトの言葉に、レイリアは力強く頷いた。
「レイリア?」
 痛みを堪えて手を握っているルアトが驚いた。ルアトの傍にレイリアが近付いていた。
「リル、お願いだから帰ってきて……!」
 ルアトの傍の人型になってきた闇をレイリアは抱きしめた。人を抱きしめる感触があった。レイリアは触れることが出来て嬉しかった。これがリルであってほしい、そう強く思った。
「レイリアなの? そこにいるの? 私は恐ろしいのに……なんでここにいるの?」
 リルの形になりつつあるものは後退りしようとしたが、握ったルアトの手がそれを阻む。
「ごめんなさい。私の大好きなリル。私たちはリルが闇でも何者でも大好きだから。お願い、帰ってきて」
 レイリアはリルの頭を撫でたつもりだった。レイリアの手に、いつものリルの髪の感触があり、レイリアは嬉しかった。
「愚かな私に話を合わせて、雨を降らせてくれてありがとう。現実から私のことをずっと護ってくれてありがとう、リル。たくさん、ごめんなさい……」
 最後の方は言葉になっていなかった。涙を溢し、謝罪するレイリア。無音の世界のリルの耳に届いた。
「レイリアは悪くないんだよ。気にしないで。泣かないで……お願いだから」
 
 カイトは剣を鞘に納めて立ち上がった。
「どんな姿になってもリルはリルだ」
 カイトは剣を放り、手袋を外して床に落とした。
「お前は頑固だからな。俺たちだってしぶとくお前の傍にいてやる」
 カイトは目を閉じ、心を落ち着かせる。次に目を開いた時、左目は輝いていた。光で闇を照らした。チリチリと火花のようなものが上がった。
(夜明けみたいだ)
 ルアトが振り返ると、カイトの左目が金色に輝いていた。レイリアは目を閉じて必死に闇を抱きしめる。
 ちょうど、ルアトの影になったところが深い濃い闇になった。そこにリルがいた。リルはうっすらと瞼を開ける。世界が明るくなった。気付くとルアトと手を繋ぎ、レイリアが抱きしめてくれていた。
「光が、あたたかい。もしかして、カイトが目を使っているの? 呪われた目……その目は使っちゃダメ。呪われているのよ……」
 カイトの耳に、か細いリルの声が聞こえた。はっとしたが、変わらず魔力を使い続ける。
「お前に向けた剣に比べたら、たいしたことじゃない。リルが戻ってくるなら安いもんだ」
 カイトは笑っている。その笑顔が見えた。いつもの皮肉交じりの、でも優しい笑顔。
(すごくあたたかい)
 繋がれた手が、抱きしめられた体が、眼差しが暖かかった。
「夜は怖くないわ。優しいもの」そうレイリアが微笑んでいたことを思い出す。
「リル、戻ってきて!」
 ルアトが叫んだ。レイリアの手に力がこもる。その時、部屋中に溢れていた黒い波はリルに吸い込まれるように消えた。
 カイトが膝を付き、肩で息をする。レイリアの腕の中には気を失ったリル、その傍に手を繋いだままのルアトが倒れていた。
スポンサーサイト

コメント

No title

こんばんは(*'ω')

一体どうなるのかとハラハラしましたが、
一旦は無事に収まったようで良かったです(*´∀`*)
しかし黒い波動はリルの身体に戻ってしまいました。
いつまた暴走するかわからないんですね~

決して仲間を見捨てない友情、素晴らしいですね('∀`)

らすさん

コメントありがとうございます(*´ω`*)
そしてお返事遅くなってしまってごめんなさい(>_<)
闇の魔力はいったん収まって、少しくすぶってしまうんですが、
皆のおかげで体に戻っていきました(*'ω'*)

冒険系ファンタジーの仲間っていいですよね。旅の仲間っていいですよね~(*´ω`*)
(……この話、ほとんど冒険してないですが(;´∀`))
非公開コメント

09 | 2017/10 | 11
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -
プロフィール

清水結衣

Author:清水結衣
いつもご訪問いただきありがとうございます。

オリジナル中心でお絵かき。たまに版権絵。
そしてぼちぼち文章を。
プロフ画は野分シムロさんに描いていただきました
(*´ω`*)

にほんブログ村 イラストブログ オリキャライラストへ
にほんブログ村 イラストブログへ
にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説へ



現在、毎週木曜に一時創作の物語を予約投稿しています。

ブロとも様&リンク様募集中です♪

最新記事

カテゴリ

月別アーカイブ

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

リンク

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

アルバム

カウンター

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
小説・文学
428位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
ファンタジー
11位
アクセスランキングを見る>>

ブログ村