【Cry*6】5-2、禍を招く想い

2017.07.27 00:00|【Cry*6小説】第5章
「足はもういたくない」


5-2、禍を招く想い

 一人アウローラ国の宮殿へと戻ったフローラは、自室に駆け込んだ。侍女たちが部屋に入って世話をした方がいいのかと心配する中、さっさと入浴を済ませ、新しいドレスに袖を通すと、すぐさま部屋を飛び出した。ヒールの硬い音が静かな廊下に響く。硬い足音はアニタの部屋の前で止まった。
「アニタ! 今日の私はなんだかおかしいの! イライラする!」
 アニタは一人でクローゼットの整理をしていた。豪快にドアを開け、部屋に駆け込んだフローラはアニタに抱きついた。何が起きたのか解らず呆然とするアニタ。手に持っていたドレスが床に落ちる。
 フローラはアニタの首筋に腕を回し、すんすん匂いを嗅ぐといつもの甘い香りがした。
「やっぱりアニタに抱きつくと安心する。やっぱりアニタは可愛い妹ちゃんだー」
 栗色の髪がフローラの頬をくすぐった。
「どうしたの? また一方的に人を殺してきたの? たくさん?」
 フローラはアニタに抱きついたまま無言になった。無言は肯定で、反省しているのかどうかは解らない。
「フローラ。無関係な人を殺しちゃダメよ……」
「だって、あっちの国がむかつくんだもの。だってアニタが姉さまって呼んでくれないんだもの」
 ひとしきり愚痴をこぼした後で、アニタの顔を覗き込む。
「今日はカレヴィと一緒に過ごしたね」
「うん」
 柔らかい表情を見て、ほっとするフローラ。その後、目を細め、低い声で訊いた。
「足の調子は?」
「今日はカレヴィに魔力をもらえたから大丈夫。ちゃんと歩けるわ」

 夕食を部屋に運んでもらい、二人で食事をとる。四人で食卓を囲むことは久しくなかった。カレヴィは奔放で、エーリスは仕事に追われている。空が赤紫色の、陽が沈んですぐのこの時間だと、エーリスはまだ会議に出席しているだろう。
 夕食を軽めに済ませて、アニタは酒を飲んだ。グラスを手にしないフローラを不思議そうに見る。
「あら? フローラはお酒飲まないの?」
「うん……。この前、酔っ払ったら魔力を暴走させちゃったのよ。エーリスの部屋壊して迷惑かけちゃって」
 自粛しているの、とフローラは嘆いた。つまらなそうに皿に盛られたフルーツをつまむ姿に、アニタが苦笑いする。
「エーリス兄様も大変だったのね」
 テーブルに肘をついたまま、フローラは向かいに座るアニタを睨む。
「なんでエーリスは兄様言うのに、私のことは姉さま言ってくれないのよ? 結局カレヴィとはどうなのよ。あいつはどこ行ったの?」
「フローラは姉さまって呼ぶと、照れて大変だから呼ばないの。カレヴィは何処かへ行ったわ。魔術の練習か、また、誰かを殺めているのか。私といると疲れるのかもしれない」
「あなたといて疲れる訳ないでしょ? アニタといるときが一番普通の顔をしてるわよ」
 アニタの顔を覗き込みながら、フローラが優しく微笑んだ。
「カレヴィと一緒にいるだけで幸せなの。私だけ勝手に幸せな気分になっていて、カレヴィはどうとも思ってないかもしれない。それは悲しいことだけれど、一緒にいられるだけで、私は嬉しい」
 アニタは嬉し涙を溢した。毎度のことだったがフローラは納得いかない。
「あいつ、相変わらずじゃない。そんなでいいの?」
「いいの。傍にいるだけで幸せなの。ああ見えて優しいんだ……」
 アニタの話を聞くのはフローラだった。魔術師たちもアニタを慕っても、なかなか近寄らない。アニタがカレヴィの恋人であること以外に、アニタが泣くと鬱陶しいからだ。
 どんな話でも、フローラはアニタの話を聞いて、どんな涙にも付き合った。
 ――アニタは私たちの分も泣いてくれてるの。泣き虫じゃないの――。
 皆と出会った頃の幼いアニタは泣いてばかりだった。その時、自分より年上の小さなフローラが皆の前で言った言葉を、アニタを今でも憶えている。
 アニタは涙を拭いながら、アニタのことを自分のことの様に心配して頬を膨らますフローラを見る。
「もっとアニタを大事にしてほしいんだけれどねぇ。私たちの妹なんだから」
「カレヴィだって家族みたいなものでしょう」
「あいつは家族にしてやらないの! ……家族の中に光の司の化身がいるだなんて羨ましくって殺しちゃうもの。あいつ、何にも話さないし感じわるいったらありゃしないわ」
 唇を尖らせて怒るフローラ。彼女にとってエーリスは兄、カレヴィは友人で、アニタは妹分なのだ。
 ここに来てから、カレヴィだけではなく、フローラにもエーリスにも随分守ってもらった。
「カレヴィがあんな風になったのは私のせいだわ。父さんが生きていた頃は笑ったりしてた」
「あいつの話はしないで! アニタは悪くないし、カレヴィだって悪くない」
 フローラがテーブルを強く両手で叩く。その肩が震えていた。
「どうしたの、フローラ?」
「ちょっと……ごめん。今日は私、変なの……」
 アニタが立ち上がり、フローラの傍へ行き、震えるフローラの体を抱き寄せた。震えは怒りだけではないようだった。 
「ねぇ、フローラ。……私、もう一度ね、カレヴィが笑ったところをみたいの」
 フローラを抱き寄せたまま、アニタは癖のない真っすぐなフローラの髪を手で梳いた。
「昔は笑ってたよね。楽しそうに。今じゃもう幻かなって思うけれど」
「生意気に笑っていたわね。俺はつぇぇんだ、みたいなこと言っててね。でも、本当に強くてむかついたわ」
 しゃがれた声でフローラが呟いた。アニタからは顔を見えないが、フローラは昔を思い出して、口元に笑みを浮かべているかもしれない。
「カレヴィは、出会った頃から、たくさんの人を殺してきたわ。ファルセーダになったせいか、カレヴィには罪悪感なんてない。ずっと罪の意識はないけれど、……もし、いつかカレヴィが善悪が解るようになって罪の意識にさいなまれたら、その時は傍にいて全てを包み込んであげたい」
「アニタ……」
 フローラが言葉に詰まると、アニタはフローラの体をそっと離した。アニタは淋しそうな微笑みを浮かべていた。
 アニタを助けて光の魔術師に導いたのはカレヴィで、アニタに魔術師として二つ目の魔力を与えたのはカレヴィだった。彼女の生まれもった魔力は炎、そこにカレヴィが祝福として光の魔力を与えていた。
 フローラは不安になる。もし、カレヴィが居なくなってしまったら、アニタはその現実を受け止めて、生きていけるのだろうかと。
「私は炎の乙女の化身だったら良かったのにな」
「ん?」
 突然話題が飛んで、フローラは訊き返した。
「カレヴィは光の司の化身でしょう。光の司と炎の乙女は永遠の恋人だって言われているから。そうしたらもっとカレヴィの為にもっと力を捧げられたのになって」
 アニタが潤んだ目でフローラを見ていた。光の司と炎の乙女は恋仲だった。そんな伝承が残っている。
「今だってアニタはカレヴィに捧げているでしょう? これ以上何をあげるつもりよ」
「命しか残ってない、かな」
「命捧げちゃダメでしょ。大事にしなさい。あいつの呪いが収まっているのはあなたのおかげでしょう。それだってすごいことよ」
「……そうなのかな。今日……カレヴィの呪いをうまく抑えられなかったの。カレヴィが苦しんでいた……」
「あいつが苦しんでいたの……?」
 フローラの問いに、アニタはぎこちなく頷く。
「本人の意思かもしれないわ。呪いを抑えることよりも、今、あの人にとって、考えることが大事なのかもしれない。でも、痛みを伴うのを見ていられないし、呪いが勝ったら死んでしまうかもしれないと思うと、怖い……」
「アニタ……」
「ずっと心がざわつくの。闇が現れて不安なのかな……怖いのかもしれない。カレヴィがいればそれで幸せ。なのに。それすら揺るぎそうで怖い」
「闇の小娘が怖いの?」
「怖いのかしら。ざわざわする」
「ざわざわ、か。心に風が吹いてるの?」
「風が吹いているのはあなたでしょう? いつまで呪い続けるの? あの人はフローラの所へは来ないでしょ?」
 嫌味ではなく、心底心配そうにアニタが訊いた。フローラは命を削って呪い続けている。
「私、何をしたかったのか良く覚えていないの。すごく大事なものをもらったような気もするのに」
「フローラ……」
 紅紫色の瞳には切ない光が宿っている。淋しそうに佇む姉の姿を見て、アニタの瞳は潤み、涙が零れた。どんなに悲しくても苦しくても、彼女は泣かないし、泣けない。
 フローラは窓の外の、夜の帳が降り、星々が瞬き始めた昏い空に向かって微笑んだ。
「でもね、終わるまで呪うの。だって来てくれないんだもの。そうするしかなかったんだもの」
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