【Cry*6】5-3、禍を招くこと

2017.08.03 00:00|【Cry*6小説】第5章


5-3、禍を招くこと

 アウローラ国の光の魔術師たちは国境沿いで小さい争いを起こしている。
 クレプスクロム王国の戦力的には問題はないが、王としてはカイトの不在が気がかりだった。王という立場関係なく、一個人として接し、諫めてくれるのは彼だけだった。淋し気な表情のまま、言葉少なに会議に出席していた。
 行動力あるカイトの不在は、城の者たちにとっても心許ない状況だった。
 会議の後、エドヴァルド王は家臣を払った大広間に、イリスを呼ぶ。ウルリーカだけが残り、椅子に座ったまま項垂れていた。
「皆があれだけ頑張ったのに……魔力だけしか戻らないなんてね……」
 背を丸めて落胆するウルリーカ。実年齢よりも老いて見え、その姿はおとぎ話に出てくる魔女の様だった。リルの体に戻ったのは闇の魔力のみ。削った命までは戻らなかった。
「こんな時、ベアトリスがいたら、もっといい方法を見つけられたんだろうね」
「ウルリーカ、ベアトリスの名前は出さなくていい。……彼女はもういないんだ」
「ですが」
「……確かにベアトリスは大魔術師で強かったろう。でも、ベアトリスの魔術はウルリーカの魔術ほど私たちになじまないこともある。ウルリーカの支えのおかげで私たちはこの地位にいるし、この国があるんだ」
 王の言葉に、肩を落としたままウルリーカが頷いた。実際、ベアトリスがいたならまた違った方法を見出しただろうが、ベアトリスが全てを完璧にこなしていたわけではない。王の側近には向いていなかっただろう。王の側近として魔術師を置いたのはエドヴァルド王からだった。
 エドヴァルドに頼まれたウルリーカが、手探りで今の地位と信頼を築いてきた。
「イリス。カイトは? 皆はどうしてる?」
 王の問いにイリスは視線を床に落とす。
「皆さま、だいぶ落ち込んでいるようです。カイト様は……光の呪いを制御できずに苦しんでおられます」
 王が切ない眼差しを外に向けた。
「私が傍についていられたらいいのだけれどね。今は難しい。リルは? あの子に呪いを抑えてもらえばいいと思うのだが」
「カイト様は彼女の命が戻らなかったことを気にしておられます。彼女には迷惑を掛けたくないと……」
 魔力を使うだけなら問題ないと言うのに。一度嫌だと言ったら絶対譲らないだろう。
 玉座に腰掛けた王は溜め息を吐く。ウルリーカが持って来た闇の魔術書を何気なくパラパラとめくった。ベアトリスの魔術書の感触に懐かしさを憶える。
(――これは?)
 小さな紙切れが一枚挟まっていた。紙切れを手にしたエドヴァルドの口元に笑みが浮かぶ。そこには見知った懐かしい字が綴られていた。

 カイトの屋敷では地下室の改修工事が行われていた。大工が屋敷を出入りし、昼間は騒々しい。
 そんな中、リルは落ち込んで部屋に籠っていた。ルアトは魔術を勉強したり、レイリアの勉強に付き合って体を休めていた。ルアトとレイリアは欝々と過ごす。ロニーやブリッタも然り。カイトが臥せっていること、リルの命が戻らなかったことで、暗い雰囲気が漂っていた。
 そんな中、寝衣からドレスに着替えたリルが居間へと出てきた。それを見たルアトが笑顔で立ち上がる。
「リル、具合よくなったの?」
 久しぶりにリルが部屋を出た。落ち込んで臥せっていたリルは、ばつが悪そうな表情を浮かべる。
「リルぅー! 元気になったのね」
 レイリアが嬉しそうにリルに抱きついた。リルは笑顔で頷いて、寝室として使っている客間へと二人を呼んだ。
「ルアト、レイリア。頼みたいことがあるの」
「リルに頼まれるなんて! なになにぃ、何を頼まれちゃおうかしらぁ」
 人から頼まれ事をされたことがないレイリアの目が輝いた。部屋に入ると、リルはクローゼットから布に包まれたものを取り出して持ってくる。
「あのね、これを持っていてほしいの」
 厚手の布をめくると祖母の短剣と杖が入っていた。体力が持たないのか、すぐに椅子に座り、テーブルに杖と短剣を置いたままで、リルが話し出した。
「それってお祖母さんの形見でしょ? 俺たちが持っていていいの?」
 ルアトのもっともな問いに、リルは困り顔で笑う。
「闇の力が戻ったらね、持つのも辛くなっちゃったの。おばあちゃんの魔力が強かったから、そのせいかな。前に湖の神殿で、一度使ったけれど、もう使えなそうなの。お守りとか護身用とか、持っていて何かの役に立ったらいいのだけれど……お願いできるかな」
 触れることが出来ず、テーブルの上のものを淋しそうに見つめるリル。興味津々で近付いてきたレイリアが目を輝かせる。
「なら私は杖欲しい。杖持ってて魔術使えたら嬉しいもの♪」
 杖を手に取り、嬉しそうに振り回す。
「レイリア、欲しいって……。そういうことなら俺も前みたいに身に着けるよ。何かあったときに使えるかもしれないし」
「ありがと、レイリア、ルアト」
 二人の様子にリルは嬉しそうだった。だが、笑みを浮かべた顔が翳る。
「カイトの調子はどうなのかな? まだ、会えないの?」
 振り回していた杖を下ろし、レイリアが表情を曇らせる。
「うん……まだ無理みたい」
 ルアトとレイリアはそっと目を合わせた。左眼の調子が悪いとのことで、カイトは部屋に籠ったままでいた。リルがカイトの部屋に向かったが、その後ろ姿に何も言うことが出来なかった。
 カイトの部屋の前にはイリスが立っていた。壁伝いに歩くリルの姿を見て、慌ててイリスが駆け寄る。
「リル様、大丈夫ですか?」
「ごめんなさい。久しぶりに歩いたから疲れちゃって……。イリスさん、カイトに会うことはできませんか」
 肩で息をするリルを支えながら、イリスは視線を落とす。
「申し訳ございません。まだ……」
「お詫びだけもできませんか?」
 イリスは考えを巡らせ、リルをその場に待たせたまま、カイトの部屋のドアを開けて中に声を掛けた。ドアの隙間から漏れてきた空気にリルの体が強張った。イリスはリルを部屋の前まで連れて行った後、静かにその場を離れた。
「リルです。カイト、調子は、どう?」
 両手をドアに当て、部屋にいるだろうカイトに声を掛けた。
「大丈夫だ。リルの調子はどうだ? 戻ってきてくれて本当に良かった」
 少し間をおいて、カイトの声が聞こえた。ドアの傍にいるのだろうか。立っているのか座っているのか。どんな状態かも解らず、リルは額をドアに付けて、両目を閉じた。
「私は、元気です。あの、眼の調子は?」
「たいしたことはない、気にするな」
「ねえ、カイト、その……」
「心配しなくていい。余計なことは考えるなよ。自分が元気になることだけ考えて、ゆっくり休むんだぞ」
 リルを気遣う言葉。ドア越しに声を聞くことしかできず、カイトは多くを語らない。現状を教えてはくれず、謝罪のタイミングも与えてはくれなかった。部屋から漏れる魔力。張られていたのは風の魔力の結界……ウルリーカの魔術だろう。その結界を破るほどの光の呪いの鋭さに悪寒がした。床に座り込み、しばらくドアに額を付けて項垂れていた。イリスはそんなリルをそっとしておいてくれた。
「イリスさん、大事なお屋敷を壊して、皆さんを危険なことに巻き込んでごめんなさい。カイトまで……」
 イリスの元へと行き、リルが頭を下げると、イリスは首を振る。
「いえ、皆さんが、リル様が無事で良かったです。カイト様は自ら進んで怪我をなされたのでしょう」
 冗談を言ってくれたので、笑おうとしたが、気持ちとは反対に口はへの字になる。
「リル様?」
「イリスさんはどうしてカイトの執事をしているんですか? とても立派な騎士様に見えます……」
 リルの目には、イリスはカイトと同じく風を纏った騎士に見えていた。潜在的に持つ魔力も強く感じた。イリスは重い口を開いた。
「以前は騎士でした。私は恩義に報いるために、カイト様に仕えています」
「恩義……?」
「カイト様は私が受けるべき罰を代わりに受けてくださった。その償いと恩を、生涯をかけて返していきたいのです」
 いつもは穏やかなイリスの、力強く真剣な言葉。リルはそっと目を伏せ、唇を噛む。
(……大事な人に、ひどいことをしてごめんなさい)
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