【Cry*6】4-6、黒い夜
2017.06.29 00:00|【Cry*6小説】第4章|
4-6、黒い夜
ウルリーカとカイトが調べて分かったこと。
精霊の化身と言われる、強い魔力を持った存在がいること。
リルの力は「闇の司の化身」の力であろうということ。
そして「闇の司の化身」は今まで男性だったこと。
約束を果たした精霊は「元の場所」へと戻った。精霊の力で、化身の力は水、闇、炎、光が今でも大地に残り続けていること。
封じた闇の魔力をリルに戻せば、リルの寿命が伸びる可能性があること。
「大地に風に命……。ほかの精霊の化身は誓いを成就して空に戻ったってことかな?」
書物から顔を上げたルアトが頭を捻る。ルアトも古い記録を読むのを手伝っていた。
「私が闇の司の化身……なのかな。でも、私、男じゃないよ」
リルは魔術書を取り落とし、顔面蒼白になっている。レイリアが盆に載ったティーセットと菓子を慎重に運んでくる。
「……そこは心配しなくても」
「でも、女なのは私だけなんでしょ?」
「例外もあるだろうし、気にしなくていいんじゃないかな」
涙目になるリルをルアトが慰めた。
「わ、私、カイトの目を見ても何ともなかった……」
「それは闇の魔力が守ったんだろう」
テーブルにティーセットと菓子を置いたレイリアが、リルに抱きついて頬を摺り寄せた。
「リルは可愛い女の子なんだから、心配しなくていいわよぅ」
魔力を取り戻すための準備を進める。使われていない地下の一室を使用する予定だった。木箱や樽など使われていない物を運び出す。
「城の地下牢に置いておく方が安心なんだけれどね」
部下に指示するカイトにウルリーカが言った。城には魔力を封じる仕掛けのある牢がいくつもあった。
「まさかそんなところにおくわけないだろう。俺の屋敷でいい」
荷物の上に座って一休みしていたルアトは、黙って二人の話を聞いていた。カイトは自分の書斎でも使えばいいと考えていたが、魔力を開放する場所に地下室を薦めたのはウルリーカだった。
「力が暴走したらどうするんだい?」
「ばあさんが結界を張ってくれるんだろう?」
「私の結界が効けばいいけどね……。闇の司の化身の力だ。何が起きるか想像もできないんだよ」
荷物を運び出し、がらんとした地下室。運んできた椅子に座り、リルは目を閉じた。リルの前に、ウルリーカが静かに立ち、黒い珠をかざす。するとウルリーカの持つ珠から中身が消えた。
「空っぽになったわ」
たまたまウルリーカの横にいたレイリアが珠を受け取り、まじまじと中を見つめた。
「リル、気を付けておくれ」
沈痛な面持ちで、ウルリーカは、自分を見上げるリルをそっと抱き寄せた。
「何に、気を付けたらいいのですか?」
「自分自身にだよ。申し訳ないが、私は分離した力の融合と、その制御の仕方までは知らない。でも、あんたを助けるにはこれしかない」
リルの元を離れたウルリーカは、部屋を出る前にカイトの元へと歩く。
「ルアトたちも一緒で大丈夫なのかい。無事でいられる保証はないんだよ」
カイトだけではなく、ルアトもレイリアもリルの傍にいることを選んだ。
「俺が何とかするさ」
「カイト。あんたは甘く見すぎている。何かが起きたらみんな死んでしまうよ」
「ばあさん、心配しすぎだよ。その時は眼の光の魔力を使ってしのいでみるさ」
相変わらずのカイトの様子に、ウルリーカは溜め息を吐いた。
「頼むよ。あんたにもし何かあったら王様も悲しむんだからね。……私もだけれどもね」
王にも今回の件は話してある。だからこそ晩にウルリーカがリルの傍にいることができて、カイトの配下の騎士以外にも、魔術を扱える者を配備することが出来た。
王は新しい宮廷魔術師を欲しいのかもしれない。今は無くなった魔術の学校を作りたいのかもしれない。カイトへの友情か情けか、自分への借りかもしれないが、リルの命を救える方法が見つかり、試せるだけでも有難かった。王を悲しませるわけにはいかない。誰も悲しませない。
ウルリーカは屋敷の地下に結界を張り、屋敷の一階で様子を伺うことにする。
カイトの部下たちと魔術を扱える騎士たちは屋敷内、屋敷の周りで警護している。ロニーとイリス、ブリッタがウルリーカと共にいるだろう。
何事もなく時間が過ぎた。地下倉庫で四人は穏やかに過ごす。ブリッタが作った弁当を食べ、運んであった簡易ベッドでレイリアとリルが寝ることにした。
「どうしよう、緊張して眠れない!」
ベッドの上でレイリアが落ち着かない様子だった。その横でリルがクスクス笑っている。
「レイリアが緊張してどうする?」
「少しでも体を休ませた方がいいよ」
カイトとルアトにたしなめられ、レイリアが頬を膨らます。
「そうなんだけど。寝衣に着替えてないし寝にくいわ」
「あの姿は目のやり場に困るから」
ルアトがげんなりし、その様子にレイリアが頬を膨らませる。二人を見ながらリルが笑っている。
「リル、変化あるか?」
カイトがリルの顔に手を当て、顔を覗き込んだ。リルは目を細めて首を傾げ、カイトに笑ってみせる。
「……」
その様子をルアトが不思議そうに見ていると、カイトと目が合った。カイトは険しい表情をしていた。
「レイリア、休んでね」
リルが微笑んでレイリアの髪を撫でる。
「はーい」
静かに夜が更けた。リルもレイリアも静かに寝息を立てていた。
ルアトはリルたちの眠るベッドに寄りかかり、うつらうつらする。念のためカイトは鎧を身に着けて佩剣していた。壁に寄りかかりながら仮眠をとっていた。
「リル? どうした」
カイトがリルの異変に気付いて声を掛ける。寝台で体を丸めてリルは震えていた。
「ダメ……ダメ……苦しい……や……」
「どうしたの? リル」
起きたレイリアがリルに触れようと手を伸ばす。ルアトが、カイトが立ち上がった。
「黒い霧?」
部屋には魔術で灯りがともっていたが、ベッドで震えるリルの周りには黒い闇が渦巻いていた。
「ダメ……、駄目みたい、なの。みんな逃げて……早く。お願……い……」
リルのうめき声。レイリアが触れようとしたリルの手が、体が、黒い霧になって消えた。レイリアは恐怖に叫んだ。
その瞬間に闇が溢れ、辺りは漆黒に包まれた。黒い闇にはじかれ、床に倒れそうになるレイリアをルアトが抱きとめた。
カイトやルアト、レイリアに、黒い闇が襲い掛かる。
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