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【Cry*6】6-1、黄金の光の彼方

2017.09.14 00:00|【Cry*6小説】第6章


6-1、黄金の光の彼方

 貴方が纏う黄金の光。それは眩しくて、とても神々しい光だった。
 あの時、貴方に出逢い、救われて今の自分がある。清らかな空気を纏った貴方は、穏やかな陽光のように、優しい微笑みを向けてくれた。触れるのを躊躇うほどに、尊い存在だった。
 その貴方が私に手を差し伸べてくれた。「巫女」にではなく、ちっぽけな一人の娘としての自分に。
 溢れるほどの喜び。幸福になるはずだったのに。同じ場所に行けると思ったのに。

 ――残ったのは、眩しくて穢い私――。

 眠りから覚めた巫女は、寝台から重たい体を起こした。また夢を見ていたようで、目元が濡れていた。涙を拭いながら、窓の外を見やると、地平線に紺と朱の混ざったような線が描かれ始める――もうすぐ陽が昇る。
 自分を包む世界は暗いのに、自分だけが眩しい。息苦しくて落ち着かない。灼熱の太陽に照らされ、体中の水分が蒸発し、干上がるような感覚。震える指先。魂の渇きを感じ、深く息を吐く。
 裸足のままで床に降り、そろそろと鏡台の前へと歩いた。蒼白い肌、噛み締める唇、泣き腫らした目。――そして、髪。
「……こんなの……嫌……」
 自分の姿を見て、碧の瞳をきつく閉じる。蹲って、自分の震える体を強く抱きしめる。
 俯いたまま、震える手で鏡台の引き出しの中を乱暴に探り、鋏を掴み、取り出した。床を見つめたまま、髪を掴み、じゃきじゃきと手を動かす。


 カイトは全ての仕事を休み、「療養」という名目で月の神殿へと赴くことになる。王曰く、身分を忘れて自由に行動していいとのことだった。
「カイトが城にいると皆が気にするからね。だったら湯治ということにしておこう。神殿のある月の都には、温泉もあるから何も問題はない。のんびりしておいで」
「ですが、アウローラ国の方は……」
 先日の話を思い出し、困惑するカイト。緊迫した情勢だったはずだが、目の前のエドヴァルド王は緊張感の欠片もなく、穏やかに昼下がりのお茶の時間を楽しんでいる。
「今の兵力で抑え込めるよ。ウルリーカの魔力もじきに戻るだろうしね。カイトが元気になったからもう大丈夫だ」
 カイトはがっくりと肩を落とす。楽しそうな王の前で、カイトは額に手を当てて大きな溜め息を吐いた。
(またやられたな……)
 呪いの悪化で臥していて状況を把握していなかったせいもあるが、王が打った芝居にまんまと騙されてしまった。馬鹿真面目な自分はいつも騙される。
 リルとルアトの返事を聞いてから、王の機嫌はすこぶる良かった。
「カイトが元気なら王様もやる気になるわよね」
 王の背に抱きついたレイリアが楽しそうに言うと、王も顔をほころばせて頷いた。
 二人の様子にカイトは文句を飲み込んだ。
 レイリアとウルリーカ、王、そして皆で話し合い、レイリアはウルリーカの養女として新しい人生を歩むことに決めた。それからレイリアは城へも自由に出入りし、ウルリーカや王の元を頻繁に訪れている。
 ルアトは正式に騎士見習いとなり、騎士団の仲間や城の同年代の青年たちとも仲良くなった。リルはウルリーカの弟子たちとも共に勉強するようになった。ルアトもリルもそれぞれの思い思いの場所に赴いて、自分のすべきことをしている。
(まぁ、こういうことなら仕方ないか……)
 カイトは目を閉じ、息を吐いて口元を緩めた。
「明日出立だね。――レイリア、カイトを頼むよ」
「はぁい」
 満面の笑みで返事をするレイリア。その様子に王は嬉しそうに頷いた。そしてカイトを見つめる。
「気を付けて行ってくるんだよ」
 エドヴァルド王の笑顔の中の真剣な眼差しを受け、カイトは姿勢を正して返事をした。

 月の神殿までは休憩を入れながらでも、一週間はかからない。街道を走り、宿場町を経由して進む予定だった。カイトは乗馬し、その横をロニーが手綱を取る馬車が並走している。見習いの彼だけが旅に同行することになり、騎士団の皆から羨ましがられ、弄られた。
 カイトの馬にはレイリアも一緒に乗っていた。以前の日焼けの件を踏まえて、レイリアは袖の長い服を着て、肩や腕を隠していた。
「レイリアは乗馬が好きなのか?」
「そうね、風を受けるのって気持ちいいわ」
 カイトの後ろで、レイリアは楽しそうに鼻歌を歌っている。
「もし馬に乗りたかったら教えるぞ?」
「私は誰かに乗せてもらいたいの。だから教わらなくていいわ」
「はいはい」と、呆れた声でカイトが適当に返事をする。その声を聞きながら、レイリアは考え込み、そっとカイトの耳元に顔を近づけた。
「――カイトはルアトの手のことはいつから気付いていたの? 隊長さんの手紙で……わかっていたの?」
 唸るカイト。振り返ると空色の真っすぐな瞳が自分を見ていた。レイリアには正直に話すことにした。
「呪いを抱えていることは気配で判った。……だが、手紙に書かれているのがルアトのことだとは、確信はできなかった。徐々にだな。いつか話してくれると思って、ずっと待っていたんだが、情けないことに俺がやらかした」
「カイトは頑張ったと思うよ? あんなに酷い呪いだなんて知らなかったわ。結局話してはもらえなかったし……。あーあ、どんな呪いか、私以外はみんな知っていたのね」
 悔しい、とレイリアが嘆く。一緒に旅していたレイリアとしては、ルアトの呪いについて二人から詳しく話してもらえず、相当悔しかったようだ。
「教えてもらえなかったのは俺も同じだ。……リルが必死に手を握っていたから、ただ事ではないとは思ってはいたが。まさかあそこまでとはな」
「あの二人、最初は恋仲かと思ったのだけど、そういうわけじゃなかったのよね……」
「レイリアは安心だったろう?」
「さあー、どうかしら。むしろ心配よ」
 不機嫌そうにレイリアが言い放った。カイトは視線を前方に向けて、馬を走らせる。
「それよりも」
 とレイリアがカイトの服を掴んでゆする。包帯を巻いているカイトは、鎧を着ていなかった。
「ねぇねぇ、カイト。巫女様はどんな方なの? 可愛いの? 素敵なの? 美人なの?」
 熱心に訊くレイリアの様子に、困惑し戸惑うカイト。巫女に興味があるらしく、レイリアの瞳が輝いている。
「……巫女は、月の光のような美しい髪をした慎ましい女性らしい。……エドヴァルド様が惚れているらしいが、俺はまだ会ったことがないんだ」
「え? 王様はカイトのことが好きじゃないの?」
 心底残念そうなレイリアの声に、カイトは振り返って睨んだ。
「おい……」
「でも、王様と仲がいいカイトが巫女様と会ったことないなんて」
「俺はしばらく籠っていたからな」
 何と答えたらいいのかとレイリアは言葉に詰まってしまう。黙り込んだレイリアを気にしている様子が、カイトの背中から滲んでいた。
 レイリアは小悪魔の笑みを浮かべて、カイトの体に回す腕に力を入れ、さらに密着した。
「ねーぇ、リルが見てヤキモチを妬かないかしら!」
「どうだかなぁ」

 リルとルアトは馬車に揺られていた。馬車の後部には荷物が詰まれていたが、前には椅子が設えてあり、二人は椅子に座り、時折ロニーの横に座ったりもした。荷運び用の馬車に乗せてもらった前回の馬車旅より快適だった。夜までには宿場町に到着する予定だ。リルは窓から顔を出し、レイリアに手を振る。
「レイリア楽しそう。……カイトが呆れているみたい。何かあったのかな? 神殿まではまだかかるけれど、早く神殿でルアトの呪いが解けるといいね」
「そうだね」
 リルの言葉に頷くルアトだが、それ以上は話が弾まない。リルは頬を膨らませた。
「ルアト元気がない」
「そんなことないって」
 ルアトは無理矢理に笑顔を作るが、リルに見つめられているうちに、段々と口角が下がってしまう。リルの優しい眼差しに、ルアトは俯いた。
「今頃、思い出すんだ。いろんなこと」
 肩を震わすルアト。城でロニーや他の騎士見習いたちといるときや、仕事に没頭しているときは忘れていられる。何もしない、穏やかな時間は怖かった。考えて、思い出してしまう。
「私も付きあわせて」
 震える右手を、リルが両手で包み込んだ。
「リル、俺の為にもう魔力は使わないで……」
 リルの手を振り払えないルアトは懇願する。リルは首を横に振って、震える手を離さなかった。

 夕闇が漂う頃、五人は宿場町へと辿り着いた。
「宿はどうしますか?」
 ロニーに訊かれ、カイトは辺りを見回す。リルとルアトも馬車から降りて町並みを見渡した。比較的大きな町だった。
「俺たちはどこでもいいです」
「うん、眠れればどこでも」
 皆で話していると、馬から降りたレイリアがきょろきょろした後、通りで一番豪華な宿に走っていく。
「王様が楽しんでおいでって言っていたし、あそこがいいわ」
「待って、レイリア!」
 リルの制止もむなしく、レイリアは宿のドアを開けて中に滑り込む。しばらくして外に出て来て、満面の笑みで頭の上で両手で丸を作った。
「お部屋空いてるわ! 大丈夫だってー」
 レイリアが嬉しそうに両手を振る姿に、皆が呆れた。
「カイト、ごめんなさい……レイリアが勝手なことして」
 頭を下げるリルに、カイトが苦笑する。
「リルが謝るな。レイリアらしいっちゃらしい行動だ」

「俺はいいです! 見習いなので寝室の準備をしていますから……」
「そうしたら俺も見習いだよ。ロニーと一緒にベッドメイキングしてなきゃならなくなるよ。まだどっちの部屋で寝るかも決めてないだろ?」
「ルアトは違うって。カイト様のお客様だろ? ベッドメイキングなんてしちゃダメだって」
 入り口で言い合う二人を、レイリアは無理矢理部屋に押し込む。
「私たちはロニーの仲間だわ。準備なんて皆ですればいいの、いいの。ロニーも一緒にいましょうよぉ」
 夕食後、別部屋に待機したがったロニーを何とか同じ部屋に留め、城から持ってきたワインを飲みながら今後のことを話し合うことにする。座り心地の良いソファに腰掛けて、乾杯をした。
 が、リルはワインを一気に飲み干して、グラスを空にしてしまう。
「ちょっと……ペース早くない?」
 心配そうなルアトに、ほんのりと顔を赤くしたリルはニッコリ笑ってみせた。カイトの屋敷で初めてアルコールを飲んだリルだったが、以外にも彼女は強かった。ブリッタやイリスを気にせず飲めるのが嬉しい様で、笑顔でいるが、その横でレイリアが不機嫌そうに膨れている。
「レイリアはどうした?」
「リルが一緒にお風呂に入ってくれなかった。ひどいわひどい」
「だってレイリア、胸揉むんだもん」
 コップを両手で持ちながらレイリアから逃げるように体を引いた。
「揉んだ方が大きくなるわよ? この先ね、恋人が出来た時のために私がね……」
「このままでいいの!」
「少しは大きい方がなぁ……」
 ぼそっと呟いたカイトの声を、リルは聞き逃さなかった。
「カイト、何か言いましたか?」
 膨れたリルに睨まれ、カイトは唇を横に結び、首を横に振る。ルアトは目を伏せて沈黙する。その様子を見たロニーが吹き出し、リルに睨まれる。
「リルはお酒入るとちょっとこわ」
「レイリア」
「はぁい」
「リル。飲み過ぎは良くないよ。――舞踏会のこと、忘れたの?」
 静かに諭すルアトの言葉に、顔を曇らせたリルが静かにグラスを置いた。
「気を付けます……」
 置いたグラスに酒が注がれたので、リルが吃驚して顔を上げると、カイトが笑って瓶を手にしていた。
「今日ぐらい飲んでいいぞ。今日は俺とロニーがルアトといるから、リルも酔っても大丈夫だ。リルとレイリアと休んでくれ。疲れているだろう?」
「私は馬車に乗っていただけで疲れてないから、大丈夫」
 ルアトが頷こうとする前に、リルは頬を赤らめながらも、真剣な眼差しで言った。

 隣り合わせの四人部屋を二部屋取り、片方の部屋ではロニーが就寝の準備をしていた。月の神殿への旅路の確認、月の巫女への献上品などの確認をしているうちに、夜は更けていた。
「包帯を替えるのは、リルさんにやってもらった方がいいんじゃないですか? 俺だと縒れてしまいます」
 カイトと同室で浮かれていたロニーだったが、包帯を上手く巻けず、自分の不器用さに凹んでいた。
「リルに余計な気を遣わせたくないんだ。傷はほとんど塞がってるから適当に巻いてくれ」
 包帯と格闘しながら、ロニーがぼそりと溢した。
「ルアトはリルさんとレイリア様と一緒なんですね……」
「呪いのこともあるが、多分リルとルアトは一緒にいて安心するんだろう。……レイリアは知らん」
「リルさんとレイリア様と、どちらとも……とか?」
 包帯を巻き終わり、カイトはシャツを羽織る。
「さあ、ルアトはそこまではしないとは思うが。ロニーも気になる年頃か?」
「いえ、そんなことは」
 カイトが振り向くとロニーが顔を赤くして慌てた。その時乱暴にドアを開け、レイリアが部屋に入って来る。
「レイリア様? ど、どうしたんですか?」
 ガウンを羽織ったレイリアは、ムスッとしたままドアを乱暴に閉める。
「突然入ってくるな。俺が眼帯を外していたらまずいだろう」
「そんなことどうでもいいわよ! もう、知らないんだからっ。私はこっちで寝るわ」
「そんなことって……。レイリア、何かあったのか? ルアトが何かしたか?」
「何もしてないわよ。そんなんじゃないんだから。とにかくこっちで寝るの! リルが心配だけど、私はこっち!」
 一人で憤りながら、空いているベッドに潜りこむレイリア。目元をしきりにこすっている。泣いているようだった。
「大丈夫か? 心配って……リルは今、どうしているんだ?」
「寝てる!」
 掛け布にくるまってレイリアは震えていた。何があったのか、カイトも心配になる。
「何があったんだ。レイリアがいなかったら、リルが心配するだろう?」
「な、何もないわよ。……寝てるから心配してないわ。置手紙したから大丈夫よ」
 レイリアは自分の名前以外の字を覚えようとしなかった。殴り書きのような手紙を残したのだろう。カイトは部屋を見に行こうとしたが、レイリアが大丈夫だと言って行かせない。
「ロニー。もし、レイリアに何かされそうになったら拒んでいいからな。レイリアには気を付けろ」
「ちょっと! 普通は私のことを心配するものでしょう? カイトったら意地悪い! いじわる!」 
 怒って掛け布を被り、眠ってしまうレイリア。その様子にカイトとロニーが顔を見合わせた。

 翌朝、隣の部屋を訪ねるカイト。ドアを開けたルアトがあくびをしながら首を傾げる。
「夜中にレイリアがカイトさんたちの部屋に行ったんですか?」
「ああ、昨晩こっちに来て、怒って不貞寝したんだが……特に何もなかったか? 大丈夫か?」
 ルアトは寝癖の付いた髪のまま後ろを振り返る。
「リル、何もなかったよね?」
 部屋を仕切っている布を捲って、リルが顔を出した。寝衣のままだからか顔だけしか出さない。
「私、すぐに寝ちゃったから何も知らないの」
 俺も、とルアト。
「お酒入ると良く寝ちゃうから……ごめんなさい。イビキがうるさかったのかな。それとも寝言でレイリアの悪口言ったのかな……どうしよう」
 思い悩むリルと、その様子を見て心配そうなルアト。二人とも全く心当たりがない様子だった。
 目覚めたレイリアに、昨晩あったことを訊くと、レイリアは何も憶えていないと言って、不思議そうに目をしばたたかせた。彼女は嘘を付いている。あんなに取り乱して、忘れているわけがない。一体何があったのだろうか。
「何もないなら良かった。朝から騒いですまないな。……にしても、ルアトの寝癖、すごいな」
 不安な表情を浮かべるルアトの寝癖を指で弾いてみた。ルアトが慌てて髪を押さえ、顔を赤くして笑った。カイトも笑顔で部屋を後にする。疑問は残るが、カイトはこれ以上詮索はしないことにした。
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