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【Cry*6】6-2、月の都

2017.09.21 22:28|【Cry*6小説】第6章


6-2、月の都

 旅は順調に進む。四日目の夕刻に到着した宿場町から、月の都は目と鼻の先だった。
 美味しい郷土料理を食べたいというレイリアの強い希望で、宿の食堂ではなくレストランへ向かった。落ち着いた雰囲気の中、和やかに食事をしていると、近くのテーブルに数人の旅行者たちが座る。
 料理を口に運びながら、視線だけ動かして、カイトは彼らの様子を伺う。
 温和な雰囲気の彼らはどこかの村から出て来たのだろうか。身なりは慎ましいながらも整っている。月の都の話題がちらほらと出ていた。話しぶりからすると、彼等は月の神殿に行っていたようだが、旅の疲れとは違う、疲弊した様子が気になった。神殿で何かあったのだろうか。カイトが視線を戻すと、正面に座ったルアトと目が合った。ルアトも聞き耳を立てていたようだ。目配せすると、ルアトは頷いて、酒の瓶を手に、レイリアを誘って立ち上がった。
「どうしたの?」
 食事中にルアトが席を立つことは珍しい。二人が視線を合わせていたのを見ていたリルは、怪訝な顔をして横に座ったカイトに小声で訊いた。
「隣のテーブルの旅行者たちが月の神殿に行ってきたという話が聞こえたんだ。月の神殿に行ってきたにしては、浮かない顔をしているのが気になったから、ルアトに訊いてもらおうと思ったんだ。俺はそういうのが下手だからな」
 カイトの話を聞いて、リルはルアトとレイリアをそっと見た。

「巫女様が? それは大変だったのねぇ。本当にご苦労様」
 騒ぎ立てず穏やかに笑顔を振りまいて、レイリアは酌をしながら旅行者たちを労った。
「巫女様がずっと御病気なんですか?」
「そうなんだよ。半月くらい……。ずっと神殿の門が閉まっていて、祈りすら捧げられなかったよ」
「半月も閉まっているんですか?」
「そうだよ。いつもは朝から晩まで門が開いていて、神殿に入ることが出来るんだよ。巫女様のご病気が重いからか、門が閉まっていてね。全く入れてもらえなかったんだ」
「神殿の人は口を堅く閉ざして、都の人たちは病だって嘆いて。私たちは豊作祈願のお礼に行ったんだけれどもね。お礼の品のみ置いてきたけれど。お姿を拝見できずに淋しいもんだよ」
「簡単に巫女様に会うことってできるの?」
 レイリアが目を輝かせる。
「偉い方たちは直にお会いできるらしいよ。俺たちみたいな下々の人間は、神殿の祭壇にいる巫女様のお姿を遠くから拝見するだけさ」
「美しい巫女様のお姿、拝見したかったわよねぇ」
 レイリアが酒を注いだ。
「ありがとう、お嬢ちゃん。少しでも見たかったよ」
「巫女様の病気が治るようにって神殿の外から祈りを捧げてる人もいたけれど、俺たちは時間がなかったんだ……」
「冬が来てしまいますもんね……」
 隣のテーブルのカイトたちは、二人と旅行者たちの会話を聞いていた。
「巫女が病……あり得ない」
「あり得ないんですか?」
「あり得ないの?」
 二人に同時に訊かれて、カイトはどう答えていいものかと黙り込む。同意を求めるようにリルを見たが、リルはカイトが何を考えているのか解らず、首を傾げるばかりだった。ルアトとレイリアが席に戻って来た。
「ルアトとレイリア、ご苦労」
 二人は笑顔で応える。
「巫女様はご病気らしいわ。都では涙にくれる人も多いって話らしいわよ」
「城では聞かなかったな。半月も経つのか……」
「王様はご存じだったのかしら?」
 皆が顔を見合わせる。エドヴァルド王はこの事態を知っていて、カイトたちを向かわせている可能性がある。
「それで療養……か」
 額に手を当ててカイトが唸る。ロニーとレイリアが酒瓶を手に、カイトを慰める。
「カイト様、元気を出して下さい」
「まぁ、飲んで飲んでぇ」
 リルとルアトがいたわりの眼差しを向ける中、レイリアがカイトのグラスにワインを注ぐ。

 宿に泊まり、翌朝リルが目を覚ますと雨音が聞こえた。
「雨音がする……」
 起き出して窓の外を見ると町はしっとりと濡れていた。ルアトとレイリアはまだ眠っていたので、リルは静かに身支度を整えて居間に出る。
「おはよう」
 居間ではロニーは床に荷物を広げながら項垂れ、険しい表情を浮かべたカイトが外を眺めていた。今回は寝室二部屋と居間がつながった大部屋に泊まっている。何もなかったとはいえ、レイリアの一件の後、安全を考慮して大部屋に宿泊するようにしていた。
「おはよう、リル」
「リルさん、おはようございます」
 ロニーに笑顔を向け、窓辺に立つカイトの傍へと歩いた。
「二人ともそんなに難しい顔をしてどうしたの?」
「この旅は晴れのはずだったのに雨に降られちゃったから……」
 床の上に小さな四角い布を広げながらロニーが嘆いて落胆していた。綺麗な模様が刺繍されている厚手の布を、彼は宿に泊まる度に床に広げている。
「晴れのはず、ってどういうこと」
 ロニーの言葉と彼が広げた布を見て、リルは首を傾げる。カイトはリルの顔を見下ろした。
「この国では、今でもベアトリス様の水の魔術で、雨が降る日はだいたい決まっている。この旅では降雨はない予定だったから、雨の準備をしていなかったんだ」
 リルは吃驚した。村では雨続きだったが、村を出て湖の都を過ぎてからは確かに雨は定期的に降っていた気がした。
「知らなかった。おばあちゃんの魔術で雨が降る日が決まっていたの? 宮廷魔術師辞めてから何年も経っているのに……」
 亡くなって数年だ。
 頷きながら、カイトは窓の外の重く暗い雨雲が垂れこめた空を見上げる。
「城を去ってからも、ベアトリス様の魔術は作用して雨を制御していた。嵐すら来なかった。しかし、最近は雨の時期が少しずれる。自然までは完全に制御は無理だということか、もしくは魔術が弱まっているのかもしれないな……」
「あと、ロニーが広げている布って、一体何なの?」
「これは王様の命令です。城を出て、どこかに留まる時にはこれを広げておくようにって。出来たら風通しのいい場所にと仰っていました」
 今朝出発するかと思ったロニーは、一度布を片付けかけて、再び広げ直したらしい。
「巫女様への贈り物なの?」
「さあ……」
 カイトとリルはロニーの広げた布のところでしゃがむ。布は厚く織られたものでタペストリーの様だった。紺の布地に、輝くエメラルドグリーンの糸で模様が織り込まれていた。
「綺麗な刺繍ね。不思議な雰囲気」
「俺には全く解らないんですが、王様はできたら月の神殿に置いてこいって仰ってました。そっちの長い箱は巫女様への贈り物だそうですが、これは何なのか……」
 ロニーの視線の先に、宝石で装飾された長細い箱があった。運搬時は厚手の布で包まれている。
「得体のしれない布を置いて来いって……王はとんでもないことをロニーに頼んだな」
「雨の日に風通しも何もないよね……」
「どんな日でも、どこかに滞在したら広げるようにって……。そうしておかないと俺の首が飛ぶって、笑顔で、言って……言うから……」
 青ざめて震えるロニーの肩を叩き、カイトが無言で励ました。

 雨が上がるまで町に滞在することになるが、結局宿からは出られない。ロニーは自分の荷からボードゲームを出し、カイトを誘った。賭けてもいいとカイトが挑戦的な笑みを浮かべると、ロニーは嬉々として居間のテーブルの上を片付けて準備を始めた。ルアトは二人の様子を見ながら何処で過ごそうかと考え、まずリルたちのいる部屋へと行った。
 雨音を聞きながら、リルとレイリアはベッドの上に座って編み物をしていた。
「これで間違っていない?」
「大丈夫よ。リルも編むの早くなったわ。それにとても綺麗」
 リルの手元を見て満面の笑みのレイリア。レイリアに褒められて、リルも頬を赤らめて、照れながらも嬉しそうに笑っている。
 城を出る前からレイリアが編み物を始め、その様子を見て興味を持ったリルがレイリアに教えを請い、今は二人で没頭していた。
楽しそうに編み物をする二人を見て、ルアトは疎外感を感じる。
「あのさ、リルとレイリアは……」
「ん? なに……」
「リルぅ、ここは模様を入れた方がお洒落だと思うの」
「え、そう? この先はどうしたらいいのかな。さっきと同じ編み方?」
「違う違う、ちょっと待ってねぇ」
「……」
 話に混ざれないルアトはそっと立ち上がり、居間へと逃げる。部屋のドアを開けると、カイトとロニーが同時にルアトを見た。
「ようやく来たか」
「こっちにいてもいいですか?」
 当たり前だ、とルアトの顔を見てカイトが嬉しそうに手招きする。テーブルを挟んでカイトの対面に座るロニーは、肩を落としている。……負けている様子だ。
「ルアト、カイトさんを倒してよ。俺負けっぱなしなんだよ」
 ルアトがロニーと交代する。椅子に座りながら、ルアトは悪戯っぽい笑みを浮かべてカイトを見る。
「俺がロニーの敵をとるよ」

「ねぇ……レイリア。最近何かあった?」
 ルアトが部屋を出てからしばらくして、編み針を動かしながらリルが静かに訊いた。
「何かって?」
 レイリアが顔を上げるが、リルは自分の手元を見つめたままだ。
「ルアトを避けているのかな。ルアトか……私のことを怖がっているでしょ?」
「避けてないわよう。怖くないわよぅ」
 顔の前で手を振って否定するレイリアを、顔を上げたリルは穏やかな瞳で見つめた。
「レイリア、何かあったら、本当のこと言ってね。……でも、ずっと本当のことをレイリアに話せなかったのは、私たちの方なんだよね。ごめんなさい。意地悪とかではなくて、卑怯なことしていたから、自分から、言えなかった……。レイリアに怖がられても、仕方ないって思ってる」
 レイリアは首を傾けながら淋しそうに語るリルを見つめる。
「話してもらえなかったのは悔しい。でも、謝ってくれたから許すわ」
 リルは編み物を膝に置いて、レイリアの言葉を受け止めた。
「みんなね、卑怯でずるいものなのよ。いろんな面があるのが人間でしょ? 私もおんなじよ。良いところも、悪いところもあるわ。そんなことでリルを嫌ったりしないわ」
 レイリアが目を細め、窓の外をそっと見た。
「怖いのはリルではないし、ルアトではないの。だから気にしないで。違うから。……でもね、何が怖かったのか、自分でも理解できていなくて……だから解ったらリルに相談するわ」
 誠実なレイリアの言葉にリルが頷いた。
「ねぇねぇ、リルはルアトやカイトにセーターとかマフラー編んじゃうの?」
 レイリアがにやにやしながらリルの肩を突く。
「や、やだ。そんな……。そんなこと出来ないよ。こ、これはレイリアのだよ……」
 赤面してしどろもどもになるリル。リルが自分のために編んでいると聞いたレイリアは目を輝かせた。
「もっとうまく編めるようになってからがいいと思うんだけれど、冬に間に合わせたいから……受け取ってもらえる?」
「リルが編んでくれるだけで嬉しいわ! リルにしては珍しい色を選ぶと思ったら。私に編んでくれていたなんて」
 すでにレイリアはマフラーを何枚も編んでいた。毛糸が足りなくなったようで、編み道具一式は持ち運び用の籠にしまっていた。リルも毛糸と編み物を自分の籠にしまい、レイリアの編んだマフラーを一枚手にする。目もそろっていて、とても上手だった。
「とっても素敵。レイリアはあとどれくらい編むの?」
「あと十五枚。またどこかで毛糸買わないと続きが編めないわ。そうそう、都に着いたらお土産も買わないと」
 楽しそうに話すレイリアをリルは嬉しそうに見ていた。笑顔のリル見て、レイリアは突然ベッドに寝転んでリルの膝に頭を載せた。 
「リルの膝枕ぁ!」
「ちょっと、レイリアってば。やだ! ……危ないよ」
「片付けしたもの。危なくないわよぉ」
 最初は体を硬直させて戸惑っていたリルだったが、観念して苦笑を浮かべ、体を丸めて寝転ぶレイリアの頭をそっと撫でた。下ろしたままの髪を手で梳くと、レイリアは気持ちよさそうに目を閉じる。
「私が一番乗り? もうルアトに膝枕したの?」
「そ、そんなことしてないよ。レイリアが初めてだよ」
 慌てふためくリルを余所に、レイリアが鼻歌を歌う。優越感に浸っているようだ。
「あのね、リル。前は逃げちゃったけれど、辛いことがあってもちゃんと逃げないようにするの。たとえ何かあっても、私は逃げないし、リルの傍にいるからね」
「――いてくれるの?」
 穏やかな声音。リルにではない誰かに、レイリア自身に、言い聞かせているようでもあった。彼女に何があったのかリルは知らなかったが、リルは静かに問い掛けた。
「もちろん、リルのこと大好きだもの」
「そうしてくれたら嬉しいな。私も、レイリアのこと好きよ」

 翌日は晴れ、青空が広がった。一行は神殿へと急ぐ。
「そういえば、月の魔力って一体何ができるの?」
 御者席からレイリアが横を並走するカイトに訊いた。今日は馬車の御者席にロニーと座り、地図と景色を眺めて楽しんでいた。
「満ちて欠ける月の様に、命やあらゆる事象を司って満たすらしい。俺も月の魔力には触れたことがないから詳しくは知らないが、命の賢者と同じような力だと思っている。あとは予言もするらしい」
「予言だなんてカッコいいわ」
「月の巫女の力は転生ではなく、人から人へ継がれていくって文献で読んだんですが」
 後ろの馬車の窓からルアトが顔を出した。ルアトの言葉にカイトは頷いた。
「月の魔力は地上で人から人に継がれていくんだ。資格がなくなると、新たなる資格を持つ者に魔力が宿るそうだ」
 月の神殿と呼ばれるようになったのは、前代の月の巫女が自らを「神」と名乗った時に、巫女がいた建物を「月の神殿」と呼んだからだった。
 神を名乗った巫女は、権力や欲に溺れて大きな争いを起こした。彼女は精霊の化身たちによって巫女の位から引きずり降ろされ、その後新巫女が立って平穏を取り戻したという。――それも二百年も前のことだった。
 月の力自体が稀な存在であること、巫女がいる建物に名前がなかったこともあって、便宜上、今でも神殿と呼ばれている。

 月の都へ到着すると、思ったよりも人々は平穏に生活していた。政を行う議会があるらしく、混乱がないのかもしれない。神殿が開いていないせいか、観光客は少なく、都は閑散としていた。
 都の高台に神殿があった。月の神殿はぐるりと塀で囲まれていた。通用口を除いて門は正面の一箇所。塀は深い夜空の紺色で、白銀で文様が描かれている。塀の奥の神殿は白銀に輝いて見えた。神殿の正面側まで行くと、門扉は固く閉ざされていた。
 門の前には参拝に訪れた人々が溜まっている。閉まった門の先の、白銀の神殿に手を合わせる姿も見られた。
「そんなに重いご病気なのかしらねぇ」
「……どうなんだろうな」
 馬車からリルが顔を出し、騎乗したままのカイトに話しかける。
「カイト。理由を話して、巫女様がどんな様子だけでも聞けないのかな」
「そうだな……」
 続きを言おうとしたまま、カイトがリルを見つめた。カイトに見つめられて、リルは首を傾げた。
「どうしたの?」
「巫女の魔力が強ければ、リルの闇の魔力に気付いているかもしれないと思って」
「あれ? 闇の魔力は判らないんじゃなかったの?」
 不思議そうにレイリアが訊いた。
「月と闇は近しい存在だから、神殿の人間……巫女なら気付いているかもしれないな。悩んでいても仕方がない。王から預かった手紙を渡してみよう」
 カイトは素性を明かし、衛兵に手紙を渡した。指示された通り、門の横に馬車を付けて待つ。巫女に逢えるようにと願った。
 
 大きな門の横にある通用口から娘が一人現れた。リルたちと同い年くらいの小柄な娘だった。柔らかい亜麻色の髪、くるぶし丈の紺のドレスを身に着けていた。カイトは馬に乗ったままだったが、リルとルアトは馬車から降りる。娘は皆に頭を下げた。
「私は巫女様に仕える侍女『星の乙女』のモニカと申します」
「星の乙女?」
「はい、この神殿では巫女様に仕える女性をそう呼んでいるんです。巫女様があなた方にお会いしたいと仰っています。ですが、外に出ることが出来ません。……申し訳ありませんが、私と一緒に神殿の奥までいらしてくださいますか?」
 横に回って、使用人用の通用門から馬車を入れた。馬車に積んだ荷を守るため、ロニーは馬車で待つことにする。
 門の先にある神殿はドーム型をしていた。白い石畳の道が門から神殿へと続いていた。公園の様に整えられており、花壇には色とりどりの花が咲き乱れていた。その閉じた神殿の横を通り過ぎる四人。神殿の奥、巫女に仕える者たちが生活する建物へと案内される。
「こんなところまで男が入っていいんですか?」
 建物内を行き来するのが女性ばかりだったので、ルアトがおっかなびっくり訊いた。
「ええ、大丈夫です。神殿内には男性もおります。あなた方のことはもう、皆に伝えておりますので、ご心配なさらずに」
 巫女の下には巫女に仕える、次の巫女候補である「星の乙女」がいる。彼女たちは巫女の仕事を手伝いつつ勉学にも励んでいる。その他に侍女、警備の衛兵、男性の使用人もいるとの話だった。
「……」
 深々と礼をする衞兵、涙目で自分たちを見る星の乙女たち。モニカという娘が、皆に何をどう伝えたのかが気になったが、カイトは何も言わなかった。
 侍女たちが行き交う建物を過ぎ、さらに奥の建物へと進む。神殿の周りの塀、塀の内側に生い茂る樹々に囲まれた、奥にある建物に入った。入り口には警備の衛兵が立っていたが、建物の周りには侵入者を防ぐ魔術の結界も張られている。
 レイリアがきょろきょろした。明らかに雰囲気が変わった。今までの石造りの壁ではなく、壁紙や絨毯に暖色系が使われ、廊下にあるテーブルには季節の花が飾られている。
「ここって、巫女様の私的なお屋敷ですか?」
「はい。ご公務以外のお時間を巫女様はこの建物で過ごされます」
「巫女様がご病気って本当なのかしら?」
「……」
 その質問にだけはモニカは無言だった。皆も、それ以上は何も言わずに黙る。そして応接室に案内される。王宮のような豪華な応接間で、四人はソファに座った。
「すごいわね。まるでお城みたい」
 静かにモニカが退室すると、レイリアは立ち上がり、興味の赴くままに遠慮なくテーブルや調度品を眺める。天井からは大きなシャンデリアが下がっていた。置物や花瓶を食い入るように見る。
「これ、本物の宝石よ。花瓶や置物に宝石使うなんて、すごい贅沢……あ、シャンデリアにも!」
「月の都は独立国家のような存在だ。クレプスクロム王国内にあるが、権力は独立している……しかし」
 辺りを見回しながら居心地悪そうにカイトが唸る。
「静かだね。誰もいないのかな」
 リルもルアトも不安そうにカイトを見た。巫女の屋敷に入ってから、誰ともすれ違わなかった。モニカ以外、この宮殿には人がいないのだろうか。モニカという星の乙女以外、人が入れないのか……。
「巫女様がいらっしゃいました」
 静かにドアが開き、モニカの声が響いた。不安になっていた四人が視線を向ける。
 一人の女が入って来た。紺地の光沢のある布の少ない服を纏い、首には三日月型のモチーフのネックレスが掛かっている。碧眼に整った顔立ち。唇は朱に染めている。緑とも青ともいえぬ珍しい髪色をしていた。短髪だが、耳のあたりだけ長く伸ばして、宝石をあしらった金色の紐で結っていた。
(巫女様って金髪じゃなかったっけ?)
(あの髪、もみあげが長いの? 横の髪かしら? 今は髪を短く切るのが流行なのかしら!)
 新しい流行なのかと、レイリアが巫女の頭から足の先まで凝視して目を輝かせる。
「どうして……」
 カイトが絶句している。
 体のラインが露の巫女のいでたちに、ルアトは目のやり場に困り赤面して目を逸らす。リルのいた村含め、山間部の村の女性は慎ましい服装をする。大胆に太腿を見せ、胸元をはだける格好にも町で慣れたとはいえ、裸体同然の巫女の姿にはリルも顔を赤らめて俯いた。

 月のモチーフのついた杖を手に、優雅――には程遠い、貫禄ある力強い足取りで杖を突きながら皆の前まで歩みを進めた。
「二、三日前から不思議な気配がしていると思ったら、こういうことだったのね」
(気付いてたんだ)
「月の……巫女様」
 リルにしがみつきながら、レイリアが「カッコいい」とうっとりする。
「そう。私が現月巫女、ユーファと申します。気が向いたので会うことにしました。可愛い女の子が二人いるっていうし」
 うふと笑う巫女のユーファ。皆が困惑する中、レイリアだけは頬を赤らめて嬉しそうにしていた。
「お前は一体……そういう趣味なのか?」
「カイトさん……!」
 呆れ果てて失言するカイトをルアトが慌てて諫め、リルが青ざめる。
「可愛い女の子は愛でたいものでしょう? 素敵な男もね。あなた、見たことのない騎士だけども。巫女に対して失礼なことを言うのね。でも、そういうの嫌いじゃないのよ」
「無礼で申し訳無い。俺は国王の使いをするような立派な人間じゃないんでね。その髪色……本物か?」
 控えたモニカもリルも顔面蒼白で震える。レイリアだけは楽しそうに二人を見ていた。
「か! カイト!」
「それ、誉め言葉かしら? 髪についてはノーコメントで。で、ガラの悪い騎士さん。今日はどんな用事でいらしたの?」
「手紙の通りだ。一人の呪いを解いてほしいのと、一人の魔力を見てほしい。あとはクレプスクロム王国の国王がお会いしたいと……」
「やだ、最後のは勘弁して欲しいわ」
 ユーファは眉間にしわを寄せて、手をヒラヒラさせた。
「いくら独立政権だとしても、国王に対してその態度はどうなんだ? 巫女が仮病で仕事をさぼって、お前のその髪は……」
「そのことは!」
 モニカが青ざめて叫ぶのを、巫女は手で制す。怒るのではなく面白そうにカイトを見つめた。
「一体何があって、巫女はこんなになったんだ?」
 眉間に手を当て嘆くカイトを見て、巫女は楽しそうに笑いだした。
「楽しい集団ね。気が乗ったから話をゆっくり聞くわ」
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プロフィール

清水結衣

Author:清水結衣
いつもご訪問いただきありがとうございます。

オリジナル中心でお絵かき。たまに版権絵。
そしてぼちぼち文章を。
プロフ画は笹間シムロさんに描いていただきました
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