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【Cry*6】6-3、白夜に震える月

2017.09.28 23:18|【Cry*6小説】第6章


6-3、白夜に震える月

 ユーファは空いている席に着き、後ろで心配そうに控えるモニカに目で合図をする。
 モニカが飲み物の準備をする様子を確認してから、皆を見回した。ユーファの視線の動きと共にカイト、ルアト、レイリアと名を名乗り、最後にリルが名を名乗ると、ユーファは目を細めてリルを見つめた。
「あなたはナトゥレーサね。とても優しい魔力を感じるわ」
 巫女の熱い眼差しに緊張し、リルが俯いてしまう。
「優しいかは……解りません。生まれつきなので、ナトゥレーサです。魔力を封じたまま魔術を使って命を削っていました。命が危ないとのことで、もとの魔力を取り戻しましたが……」
 その先を言い淀む。リルは先程カイトが門で渡した手紙とは別の、ウルリーカからの書状をモニカ経由で巫女へと渡す。ユーファはじっくりと時間をかけて読む。
「そう……命が戻らないのね。魔力が体と馴染んでないのかしら。でも穏やかな闇で、目立たないわ」
 時間をかけて調べたいと巫女は言い、優しく微笑む。弧を描く眉、細められた目、笑みを湛えた唇。その慈愛に満ちた笑みに、リルも隣に座るレイリアも見とれた。その後、ユーファはカイトとルアトをじろりと見る。
「な、何か?」
 先程とは打って変わっての巫女の鋭い眼差しに、二人はたじろぐ。
「そっちの男二人はギスギスした呪いを持っているのね。穏やかな夜を望んでいたのに眩しすぎるわよ」
 カイトは無言で頭を下げ、横のルアトは真っ青になって謝罪をする。
「ご、ごめんなさい! ……も、申し訳ありません……!」
「冗談よ」とルアトを落ち着かせ、ユーファはカイトを睨んだ。カイトはその視線を受け止める。
「騎士のあんたはたち悪いのを持っている。あんたの呪いは私には解けないことは判るわよね」
「ああ」
「……重たくて強すぎる。でも、ルアト君の方が殺気だっていて危険。包帯を取ってもらえる?」
 巫女に手招きされ、ルアトは慌てて巫女の傍に移動し、自分の右手の包帯を慌てて取った。
「ルアトの右手の呪い、解けますか? 私の力では抑えるので精一杯でした……」
 命を削って出来たことがそれだけだったと、リルは項垂れた。
 ルアトの手を取り、傷を診るユーファが驚嘆の声を漏らす。
「こんな呪いを背負って、あなた良く死ななかったわね……。リルちゃんが呪いを抑えていたから無事だったのよ……普通なら死んでたわ。ずっとルアト君の命を護っていたの。頑張ったわね、あなた」
 ユーファの心からの労いの言葉に、リルが吃驚して顔を上げた。
「ルアト君、本当によく死ななかったわね。リルちゃんにお礼を言いなさいよ」
 ユーファはルアトの手を見ながら涙を溢した。
「大丈夫ですか? 俺、何か……?」
「ユーファ様!」
 ルアトも見ていた一同も慌て、モニカがユーファの元へ駆け寄った。ユーファ自身も自分の涙に吃驚したようで、ルアトの手を離し、慌てて涙を拭って誤魔化すように笑ってみせる。
「違うの違うの。大丈夫よ。――すごくいいなって思って。それだけなの」
 駆け寄るモニカを落ち着かせるように彼女の肩にそっと抱き寄せ、目を細めて「大丈夫」と口だけ動かす。安堵するモニカが涙目のまま笑って頷いた。その様子をレイリアが胸の前で指を組んで、目を輝かせながら見ていた。
 巫女は大きく息を吐き、皆の顔を見た。
「今日は呪いに触れるのはよしましょう。準備を整えてから呪いを解きます。時間が掛かるから、それまであなたたちにはここにいてほしいの。いいかしら?」
 皆が一斉にカイトを見た。視線が集中し、少々面食らった様子のカイトだったが、不機嫌そうに頷いた。
「巫女の指示とあれば。俺は構わない」
 カイトの言葉に、両手を上にあげてレイリアが喜び、ユーファが安堵の表情を浮かべる。
「モニカ、他の星の乙女たちに伝えて。クレプスクロム王国の使者を手厚く歓迎すると」
「ユーファ様、皆様のお部屋は何処に用意致しますか?」
 モニカがそっとユーファに尋ねた。
「この屋敷の空いている部屋を整えて。もう他の星の乙女たちも屋敷に入れて大丈夫だから。皆で準備して頂戴ね」
 不安そうなモニカの背をそっと両手で叩いて元気づけたあと、ユーファはカイトを振り返った。その瞳には挑戦的な光を湛えていた。
「そこの騎士様。夜、私に付きあってくれない? よかったらリルちゃんも一緒に、どう?」

 夕食後、ルアトとレイリアは星の乙女のモニカに招かれた部屋で卓を囲んだ。自分は遠慮するというロニーを引っ張って来た。
「俺は遠慮しますってば。いいってば、いいですってば!」
「ロニーも来いって。絶対楽しいから、ほら」
 ドアに張り付き部屋に入るのを拒むロニーと、それを引っ張るルアト。二人の様子を見てモニカがくすくすと笑った。モニカの笑顔にロニーが顔を赤くし、その隙にルアトに引っ張られて転んでしまう。相変わらずの二人にレイリアは大げさに溜め息を吐いた後、ロニーを引っ張り起こした。
「なに緊張しちゃってるのよぉ。ささ、ロニーも座って楽しも? カイトがいない隙に気晴らし、気晴らしよぉ」
「ちょっとレイリア様……気晴らしって」
 席に着いた三人に、モニカが深々と頭を下げる。
「巫女様ではなく、星の乙女の私がお相手で申し訳ないです」
「そんなことないわ。こんな素敵な女の子と一緒なんて素敵すぎるわ。ねぇ」
 レイリアが目を輝かせて男二人に視線を向ける。ロニーは素直に頷き、ルアトが呆れつつも笑顔を浮かべる。テーブルには飲み物と軽食が用意されていた。モニカは飲み物を準備する。
「そのお洋服素敵ね、星の乙女の服なの?」
 モニカたち星の乙女が着用しているドレスは紺地で大きな襟がついている。襟は白、黒色のリボンで縁取られている。ウエストでくびれた後、スカートはふわりと広がりながら曲線を描き、上品に下に落ちる。ブーツは黒。一昔前の「制服」の様だった。モニカの立ち居振る舞いを、レイリアはうっとりしながら見つめている。
「そうです。ずっと昔からこの服だったそうです。……昔はもっと丈が短かったらしいですよ」
「可愛いわぁ。着てみたい……私も着れるかしら?」
 レイリアの様子を見て、モニカが笑顔で頷いた。
「はい。レイリア様のサイズの服を用意しますね」
「話が分かるぅ! 嬉しい、モニモニ!」
「もにもに?」
 酒が進み、穏やかな雰囲気が漂った。食べ物は何が好きか、今の流行は何かと他愛ない話で盛り上がる。話が途切れたところで、ルアトはずっと気になっていたことを訊いてみた。
「モニカさん、あの……巫女様に一体何があったんですか? ……様子がおかしいというか何というか」
 巫女は金色の髪だと聞いていた……そもそも髪の色が違う。
「ユーファ様は、苦しんでおられます。とても……無理をなさっているんです。髪の色まで変わられて……」
「あれは染めたわけではないのでしょ? どうして髪の色が変わったの?」
 男二人が口籠る中、単刀直入にレイリアが訊いた。モニカは涙を滲ませ俯いた。

 廊下を黙々と歩くカイトをリルが緊張しながら追う。夕食後、星の乙女が二人を呼びに来た。
「カイト、本当に私も行っていいの?」
 緊張するリルがカイトに問う。「私も行かなければいけないの?」が本心だろう。後ろを歩くリルを振り返らずに、カイトは答えた。
「巫女からの指名だ。リルは初対面で嫌なのかもしれないが……俺だけだと辛いから。少しでいいからいてほしい。頼む」
 前を見たままで話すカイトの声には、切実な響きが籠っていた。めったに弱音を吐かないカイトに頼まれたら断れない。リルは、カイトと共にユーファの寝室へ向かう。
「どうぞー」
 部屋の中から、お気楽な声がした。リルがドアを開けると、ユーファはゆったりとした部屋着を来て、ソファの上で丸まってくつろいでいた。髪を隠すためか、上着のフードを深く被っている。巫女の前のテーブルには酒の準備がされていた。
「突っ立っていないで、座って座って」
 巫女に勧められるがままに席に着くリルとカイト。
「星の乙女たちに準備してもらったけれど、実はお酒のこと良くわからないの。だから好きに飲んで」
 二人を前にして、フードを外しながらユーファは苦笑する。
「病み上がりで酒で、他の星の乙女たちには何か言われなかったか?」
 心配そうな表情で問うカイトに、ユーファは大げさに肩をすくめた。
「ちょっとびっくりしていたけれど、最近の私の奇行に比べたら大したことじゃないわ。快気祝いということにしたわ」
「それならいいが。俺はここに来ていいのか? 夜遅くに。しかもクレプスクロム王国の使者だぞ」
「あんた、療養中でしょ? 鎧も着てなければ紋章も掲げていないし。偉い人が入り込むことなんてよくあるから平気へいき」
 リルとカイトが目を合わせる。巫女は不穏なことをしれっと言った気がした。
 飲み物を準備しようと立ち上がったリルは、ユーファを見た。
「ユーファ様は何をお飲みになられますか?」
「あなたと同じでいいわ」
 軽く言われてしまったが、リルは不安げにカイトを見た。彼は渋い顔で頷いた。
「……同じでいいらしい」
 リルはグラスを二つ取り、酒の瓶のラベルを見て、自分好みに果実酒を割りユーファにも出す。カイトにはこの地方特産のワインを注いだ。
 三人は乾杯をし、それぞれグラスに口を付ける。
「うわ、お酒きっつい」
 ユーファは咳き込んで顔をしかめた。
「ごめんなさい。あの、ちょっとお酒濃かったですか?」
 リルは慌てて頭を下げるが、涙目のまま「大丈夫」とユーファが手を振って笑った。ユーファにとっては「ちょっと」ではないようだ。
「リルはこう見えて酒は強いんだ」
「人は見た目では解らないってわけね」
 リルが差し出したグラスを受け取って、ユーファは水を飲んで呼吸を落ち着かせる。リルが背を擦った。
 カイトは静かにユーファを観察していた。リルに話しかけようと口を開きかけたユーファは、カイトの視線に気付いて、挑戦的に見つめ返す。お互い、真意を探ろうと視線を逸らさない。
 緊迫した二人に挟まれ、状況が解らないリルは席に座って静かに酒を飲むしかなかった。
「言いたいことが在るんでしょう? 騎士さん」
 最初にカイトが視線を逸らす。テーブルの上の手は握りしめられていた。
「どうして……こんなことになった? どうして、お前は受け入れたんだ」
「どうして? どうしてって、どうしようもなかったのよ。それでこうなった。……で、あんたはどうして拒み続けているの? あの苦しみを、まさか、今でも耐えてるの?」
「呪いは、だいぶ落ち着いてきた。俺は、他人に変えられるのが嫌だっただけだ」
「そう……そこまで苦しんだのね。あんたは強いのね」
「しぶといだけだ。お前は巫女だろう? ほかの魔力が入って巫女の資格……月の魔力は損なわれないのか?」
「あのねぇ……」
 遠慮のないカイトの言葉にユーファがあからさまに不機嫌な顔をし、カイトを睨んだ。
「耐える? 祝福?」
 聞いたことのある言葉をリルは思わず口に出す。二人に同時に見つめられ、リルはびくびくしながらも訊いた。
「祝福って、一体何が、どうなっているのですか? 私には状況が解らないんです……ごめんなさい」
 正直にリルが謝罪すると、ユーファが目をぱちくりさせて助けを乞うようにカイトを見た。
「え? 解らないって……」
「リルはナトゥレーサとファルセーダがいるくらいしか知らん」
「それじゃあ……あんたの正体を知らないの?」
 険しい顔でカイトが沈黙した。カイトを見て不安げなリル。
「リルちゃん。私も、この騎士も受けたのは呪いなの。ルアト君の呪いとは違うもの。ルアト君の呪いは、投げつけただけの、呪った人とつながりが切れているもの。それでも、彼が受けた呪いはかなりたちの悪い呪いね」
 ユーファは、茶化すことなく静かにリルに説明する。ルアトの右手の呪い。呪われた人間の意思に反して他者を殺め続け、のちに自分を殺める呪い。
「私たちの呪いは呪った人間と、つながりがある重い呪い。こっちの騎士は拒み続けて、『呪い』として体を蝕まれ続け、苦しんでいる。
 そして受け入れた私は呪いは『祝福』となって、ファルセーダに変わったの。ファルセーダになれば、繋がりは切れ、苦しみからは解放される。私は苦痛から逃げるために、呪いを受け入れたの。私には新しい魔力が宿ったけれど、外見も中身も変わってしまったわ」
 この髪の色みたいに、と髪に触れながらユーファが自分を嘲るように笑う。
「ファルセーダ……じゃあ、光の魔術師と同じってこと……?」
「同じ存在にはなっているわ。でも、望んでならなかった分苦しんでいるから、ほとんど呪いだわ」
 切ない笑みを浮かべるユーファ。リルははっとしてカイトを見つめた。
「カイト、光の魔術を使っていた……あんなことして大丈夫だったの?」
「呪われ損なんて嫌だからな」
 ユーファが青ざめる。
「呪いを魔力として使って耐えてるなんて、あんた……本当に普通じゃない。恐ろしいわ」
「そうでもしないと、やっていけなかったんだ」
 月の巫女であるユーファが恐れる様に、リルも不安になった。
「俺のことはどうでもいい。巫女がファルセーダになって、月の奇跡は起こせるのか?」
「で、出来るわ! 幸か不幸かまだ私は月の巫女のままだから。リルちゃんのことだって解決するし、ルアト君の呪いだって解くわ!」
「なによ、その目」
 カイトの右目が探るようにユーファを見ていた。
「――死人を生き返らせたのは本当か?」
 リルには何のことを話しているのか解らない。鋭い眼差しから、ユーファが目を逸らした。
「本当、だけれど。あれはもうしない、出来ない。あれは月の奇跡ではないわ」
「月の奇跡じゃないというのはどういうことだ? エドヴァルド王が気にされていた」
「へぇぇ、王様がね。王様が気にしてるのは月の巫女の力で、生身の私じゃないでしょう? 嫌になるわ」
「おい……」
 手元にあったグラスの酒をちびちび飲んでいたユーファの視線が虚ろになっている。
「酒も強くないのに無理をするな。自棄になっても自分を苦しめるだけだ」
「解ったようなことを言わないでよ! 私だって、気が変になりそうなのを踏みとどまってるのに。好きでこんなことに……なったわけじゃないのに、皆どうしてそんな目で見るのよ!」
 テーブルに手を付き声を荒げる。俯いたユーファの細い肩は震えていた。テーブルに涙の雫がいくつも落ちた。
「納得してファルセーダにならないと、後が酷くつらいらしいからな」
「どうしたら納得できるのよ? こんなこと。どうしたら……」
 泣き崩れ、テーブルに突っ伏すユーファ。カイトは席を立ち、ドアへと向かう。どうしていいか判らず、二人を見るリルを、カイトが目で合図して廊下に呼んだ。廊下に出てドアが閉まったことを確認してから、カイトはリルに小さな声で話しかける。
「リル、巫女の傍にいてあげてほしい。相当拒んだ後の祝福なんだろう……。その分、ひどい後遺症が出ているんだろう」
「後遺症?」
「髪や目の色が変わるが、記憶とか性格にも歪が生じる。本人は相当苦しいと思う」
「そんなにつらい状態なの? 私は何をしたらいいの?」
「傍にいるだけでいい。光の魔力で祝福されたんだろうから、リルがいるだけで安心すると思う。闇が傍にいれば少しは落ち着くだろう。リルも疲れているから無理はしないでくれ」
「わかった。あ、あのカイト――」
「おやすみ。無理だけはしないで、リルもちゃんと休むんだぞ」
 手を振って廊下を歩き出すカイト。小さくなる後姿を見ながら、リルのきつく結んだ唇が震えた。カイトを気遣う言葉は、いつも彼に遮られて届かない。
「心配すらさせてくれないなんて、いつもずるいよ」
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