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【Cry*6】6-9、しらせ(前)

2018.01.27 22:16|【Cry*6小説】第6章


6-9、しらせ(前)

「いない……ここにもいないわ……」
 リルを捜して宮殿を走り回るレイリアが、宮殿に戻って来たロニーと鉢合わせになる。頭を下げ、慌ててその場を去ろうとするロニーをレイリアが呼び止めた。
「ロニー、何処かでリルを見なかった? ずっと捜しているの」
「いえ。……レイリア様、ルアトを見かけませんでした……か?」
 ロニーもルアトを捜し回っている。二人は顔を見合わせ、同時に溜め息を吐いた。腰に手を当ててレイリアが頬を膨らます。
「まーた、二人でどこかに隠れちゃったのね」

 月の神殿の奥にユーファの宮殿があり、その宮殿の裏は森の様に樹々が生い茂っている。
 ルアトは捨てられていた長椅子を見つけ、樹々の中に置いて腰掛けていた。暇があれば、書庫かここにきて時間を潰した。誰もいない場所を探してしまう。何も考えないように、思わないように。願わないように、妬まないように。瞼を閉じると、風に戦ぐ枝葉の音に囲まれ、懐かしい自分の故郷、そしてリルと共にいた村を思い出した。
 瞑想するかのように目を閉じているルアトの傍に、誰かが近付く気配があった。ルアトには見なくともすぐに解る。誰かはルアトの横に座り、遠慮しながらも手を伸ばし、右手を優しく握った。髪が肩に当たり、穏やかな息遣いを感じる。
 距離感の心地良さに、ルアトはこのままでいたかった。少しだけ迷ったが目を開ける。横にはそっと自分の手を握るリルの姿があった。
「もう手を握らなくてもいいんだよ。呪いはないんだから……」
 目を閉じたままで、リルはこくりと頷く。
「判ってるよ。でも、こうしていると落ち着く気がするの。前と変わっていないような、気がして。右手が精神安定のお薬なのかな」
「俺の手が薬なの?」
 ルアトの笑い声に、リルは目を開け、はにかんだ笑みをルアトに向けた。変わったのはリルだ。彼女の止まっていた意識や思考は成長し、前進している。将来を見つめて歩み始めたリルは、負い目のあるルアトには眩しかった。
 何も言わないが、彼女は気付いている。自分が皆と距離を取っているのを。それでも淋しいことを。知ってて傍にいてくれ、引き止めてくれている。言葉に出したら崩れてしまいそうだから、何も言えないまま、ひたすら甘えていた。
「レイリアが呼ぶ声がするね」
 レイリアがリルを呼んでいる。だいぶ探しているのか、レイリアの声音は怒り気味だった。ルアトに言われて、リルは「仕方ないなぁ」と唇を尖らせながら立ち上がる。離れる手に縋りたい衝動を堪えた。
「先に行くね。ロニーもルアトのことを探していたよ」
 ルアトもカイトに稽古をつけてもらう予定だった。待たせてはいけない。そしてここにいることを知られたくなかった。
 リルが歩み去った後、ルアトも立ち上がる。静かに自分の右手を見る。もう何の変哲もない、普通の手だ。握りしめた右手を額に当て、呻くように呟いた。
「ごめん。いつもありがとう……」

 ユーファとレイリアは、宮殿のテラスでビーズでアクセサリーを作っていた。リルも後から混ざる。秋の涼しい風が吹き、爽やかな昼下がりだった。
 午前中に巫女の仕事を終わらせて、ユーファはかつらをとって部屋着でくつろいでいた。夕刻から政の仕事に戻るが、リルの負担を減らしたいと思っていたユーファは、夕刻の会議から一人で向かうと決心していた。リルが嫌がるので、リルが見ていない場所で彼女の為に魔力を使い、調べものを続けている。
「こんなことするの初めて。とても綺麗で楽しいのね」
「本当。すごく可愛いね」
 小皿に分けられた色とりどりのビーズは、レイリアが都で買ってきたものだった。二人が楽しそうにアクセサリーを作る様子を見て、レイリアは満足そうに笑みを浮かべる。
 テラスの近くでは、カイトがルアトとロニーに稽古をつけている。
「カイト、髪が伸びてきたわねぇ」
 頬杖をついたレイリアから、木剣を下ろしたカイトが前髪をかき上げているのが見えた。カイトは口をへの字にする。
「エドヴァルド王が髪を切るなと言っていたんだ。どういう理由か知らんが」
 レイリアは立ち上がって、足元にすり寄って来た猫の前にしゃがむ。神殿に住みついている猫だった。
「邪魔しちゃダメにゃー」
 テーブルの上に飛び乗らないようにと、猫を抱き上げたレイリアは、目を丸くしてカイトを見た。
「カイトの髪、そのうち結えそうにゃー。王様はカイトに女装でもさせるんじゃにゃいのー? ねぇ、猫ちゃん?」
「あのな……」
 レイリアの話し方に、リルとユーファが吹き出した。ルアトが木剣を肩に載せながら歩いてくる。
「リルは手先器用だから、髪を切ってもらったらどうですか? 長さはそのままで邪魔なところだけを切るとか」
「いや、それは……」
 言葉に詰まるカイトに、猫を抱いたままのレイリアがにじり寄った。
「やぁだ、照れてるにゃ? 照れてるにゃー!」
 レイリアがからかうと、カイトはますます不機嫌になる。相変わらずの二人のやりとりを見て、ルアトもつい吹き出してしまう。
「ねーぇ、リル! カイトの髪切ってあげて!」
「いいよ。……でも、カイトすごく嫌そうだよ?」
 座ったままのリルが、不安そうにカイトを見た。リルの視線を受け、さらにカイトは顔をしかめる。
「嫌なわけないじゃないの! カイトったら照れてるのよぉ」
「――おい!」
「あ、あのカイト様、もしよろしかったら俺が……」
 ロニーが目を輝かせてカイトに近付く。
「すまん、ロニーは……あまり……」
 カイトが言葉を濁し、皆が黙り込んだ。
「そんな……俺じゃダメです……か……」
 ロニーは不器用だ。多少のことには目を瞑るカイトだが、髪を切ってもらう勇気はない。レイリアがロニーを励ます。
「そんなことないわ。ただこういう時はね、好きな女の子がね」
「だからレイリアは余計なことを言うな」
 ロニーはますます落ち込み、レイリアとカイトが励まし、言い合いをして皆が笑った。

 その時、モニカがユーファを呼びに来た。クレプスクロム王国の急使が到着したとのことだった。エドヴァルド王の使者は三日に一度という頻度で書状を届けていたが、今回は様子が違った。
「緊急なの?」
「はい。ユーファ様とカイト様に至急の伝言があるそうです」
 皆と騒いでいたカイトの顔色が変わる。ユーファは思案した後、宮殿内に使者を呼ぶことにする。かつらは寝室に置いたままだったので、近くにあったフードを慌てて被り、髪を隠して杖を手にした。
「――それでいいのか?」
「急ぎだもの、雰囲気でなんとなく隠せていればいいのよ」
 月の幻術の魔術を使い、ユーファは自分の姿を曖昧に見えるようにする。
「便利というか……何というか」
 モニカに案内されて、宮殿に入って来たのは二名。カイトの部下だった。
「カイト様!」
 ユーファとカイト、二人の前で跪くが、カイトはすぐに彼等を立ち上がらせる。ロニーも駆け寄った。
「――本当か? いつのことだ?」
「それがさっぱり、奇妙なことになっていて――」
 カイトたちのただならぬ様子に、リルやルアト、レイリアも傍へとやって来る。蒼白のロニーがちらちらとこちらを見ていた。
「カイトさん、どうしたんですか?」
「いや、なんでも……」
 リルは嫌な予感がした。皆が険しい表情を浮かべて話し合っていた。リルは静かにカイトに近付く。
「カイト、何があったの?」
 ユーファが心配そうにカイトとリルを見る。カイトは唇をきつく結び、押し黙っていた。カイトの部下は、リルから目を逸らす。
「もしかして……」
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コメント

No title

こんばんは。レイリアちゃんの猫ちゃんな話し方に萌えきゅんです…!
猫耳も似合いそう!…と思ってしまいました(笑)そして 女装でも
させるんじゃにゃいのー? 発言には爆笑しちゃいました…!!
照れるカイトさんへのからかい、容赦にゃいレイリアちゃん(笑)
途中でシリアスな展開になりましたが、拍手絵の照れカイトさん、
かっこいい横顔…だけど照れてて可愛いぃぃぃ!…と悶えました(笑)

先日はうっかり1か月と1日の盛大なフライング失礼しました(汗)
正也を描いて頂ける事、と~っても嬉しいです☆結衣様に描いて頂けたら
真面目で優しい感じで…惚れ直すと思います(笑)でも変身するとダメな
チャラ男になっているかもしれないので(苦笑)それはそれで嬉しいです!

そしてカイトさんリクありがとうございます!私のカイトさん
推してますオーラを察して頂けた…!?と思ってしまいました(笑)
過去に色々抱えながらも優しいお兄さんなカイトさんが
大好きなので、すっごく嬉しいです☆どんな感じで描かせて
頂こうかなぁと今からわくわくです!シリアス路線になるかも
ですが、カイトさんの幸せを願いながら描かせて頂きます…!
では読んでくださり、ありがとでした♪

風月時雨さん

コメントありがとうございます(´-`*)
お話を読んでくださってありがとうございます(*´ω`*)

猫化したレイリアと、定番のカイトからかいです(笑)
レイリアは猫耳が似合いそうです♪行動も猫に近いかもしれません(笑)
王様はカイト大好きなので本当に女装させるのかもしれないです。
(むしろ、もう女装くらいさせているんじゃないかなって……げふんげふん)

拍手絵にも触れていただいてありがとうございます(*´ω`*)
リルに髪を切ってもらったのかどうなのか。拍手絵では髪を触るので眼帯は外しています。
2人でいい雰囲気かと思いきや、皆が覗いているに違いないのです(笑)

正也くんを描かせていただきますね(*´ω`*)
髪型と優しそうな雰囲気が難しいですがイメージ掴めるよう頑張ります(`・ω・´)
眼鏡がとてもむずかしくて、眼鏡なしになってしまうかもしれません……!(´;ω;`)

カイト描いてくださるとのことでありがとうございます(人''▽`)
怒っているか照れているかしか描いていない気がするキャラです。
あまり描いてあげていない幸薄いキャラなので描いていただけるのとっても嬉しいです♪
風月さんテイストでどんなふうになるのか楽しみにしています(*´▽`*)
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プロフィール

清水結衣

Author:清水結衣
いつもご訪問いただきありがとうございます。

オリジナル中心でお絵かき。たまに版権絵。
そしてぼちぼち文章を。
プロフ画は笹間シムロさんに描いていただきました
ありがとうございます(*´ω`*)

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