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【Cry*6】間章「新しい家族と自己紹介と」

2017.11.02 00:00|【Cry*6小説】間章
「レイリアとウルリーカ」


間章、「新しい家族と自己紹介と」

 ルアトの右手。カイトの命を執拗に狙っていた。自分の首に伸びた手を見ても、怖くはなかった。彼は怖くない。だってリルが怖がらないから。呪いだって怖くない。ただ、怖いものは……こわいのは……。
 そこではっとしてレイリアは目を覚まし、横に寝ているだろうリルにしがみつく。しかしレイリアの手が抱いたのは枕だった。
「リル? リルが……いない」
 レイリアが慌てて身を起こすと、掛けられた毛布が床に落ちた。朝陽が差し込む静かな部屋には、レイリア一人。リルの姿はなかった。彼女がどこに消えたのかとレイリアが焦っていると、外から楽しそうな声が耳に届いた。
 裸足のまま床に降り、慌てて窓へ駆け寄ると、眼下にルアトとロニー、そして彼らの仕事を手伝っているリルが見えた。なぜか旅の服を着て笑っている。昨日に比べるとルアトの表情も穏やかに見えた。レイリアは頬を膨らませる。
(また私のいないところで二人で何かしてたのね。……また私だけ置いてけぼりだわ)
 カイトとリルが城へ、ルアトとロニーが共に出掛けてしまうと、留守番のレイリアは日課となった屋敷の探索をする。本当はカイトにでも愚痴をこぼしたかったが、カイトも王様の面倒を見るので忙しい。呪いの手の件があって昨日の今日。これ以上彼の手を煩わせてはいけない。
 屋敷ではドアが閉まっている部屋には入らないようにしていた。イリスとブリッタ、カイトの部屋にはなかなか入れない。ロニーの部屋のドアはよく開いているが、綺麗ではないので入らない。
 手の空いた侍女に遊び相手になってもらおうかと考えていると、珍しくブリッタの部屋のドアが開いているのが見えた。レイリアは忍び足で開いたドアにそっと近付き、中を覗いた。
(――誰もいない。ブリッタの部屋のドアが開いているなんて珍しいわ!)
 音が立たないように慎重にドアを開けて、するりと部屋へと入った。思った通り、部屋は整頓されていた。棚には本が並んでいた。
「ブリッタってば真面目ねぇ」
 余計なものは置いていない、上品な色合いの落ち着いた空間。ただ一つ、場違いに鮮やかなものが置かれていた。
(あら、これって?)
 机の上に置かれたものを見て、レイリアはつい手を伸ばす。
「レイリア様?」
 夢中になるレイリアの背に、ブリッタの声が掛かった。レイリアが固まる。つい夢中になって時間を忘れてしまったが、どれくらいここにいたのだろうか。身を強張らせたまま、恐る恐る後ろを見た。

「カイト様が不在の時にいらっしゃるのは珍しいですね」
「今日はまた特別な用事でね。カイトもだいぶ表情が明るくなってきたのかな。イリスも元気かい?」
 ウルリーカがカイトの屋敷を訪れた。弟子を外で待たせ、イリスに案内されて屋敷へと入るが、ブリッタの姿がない。訪問者があれば迎えに出る彼女にしては珍しいことで、イリスも不安そうに奥へ向かった。
 居間ではブリッタとレイリアが一緒に編み物をしていた。二人の後ろから侍女たちが二人の手元をじっと見ている。
 これから冬を迎えるが、クレプスクロム王国の首都はさほど冷えない。
 ベアトリスがいた頃、彼女の類稀な水の魔力で天候を管理したが、その名残か未だに温暖な気候が続いていた。雪が降るのは北西の山岳地帯だけだった。マフラーやセーターは防寒よりファッションとして身につける。
 湖の神殿で、様々な編み方を習得していたレイリア。レイリアが小さな花のモチーフを短時間で編み上げたのを見て、ブリッタはレイリアに教えを乞うていた。
「あら、ウルリーカ様。御機嫌よう」
 編み物から目を離して、レイリアが笑顔を浮かべた。ウルリーカは二人の様子に驚きを隠せない。
「そんなに集中しているレイリアを見るのは初めてだよ……ブリッタも珍しいね」
「申し訳ございません!」
 自分の仕事を忘れていたことに気付き、慌てて席を立つブリッタ。顔を赤くして恥じ入る様子に、ウルリーカは笑顔で彼女を落ち着かせる。笑顔を浮かべたイリスは、無言のまま部屋を出る。
「いいんだよ。ブリッタもたまには息抜きをしないとね。根詰めすぎないで、自分のこともした方がいいよ」
 ブリッタは恥ずかしそうに頭を下げる。侍女たちは二人の編み掛けのセーターを見ながら小声で話し合っている。
「ブリッタ様、レイリア様、この編み方教えていただけますか?」
 若い侍女たちは目を輝かせて二人を見つめている。毛糸を片付けながらブリッタが優しく微笑んだ。
「仕事が落ち着いたらいいですよ」
「じゃあ私がこの後、教えてあげるわぁ」
 リルにはきつく当たる侍女たちもレイリアには親しげに接する。格下とみなされているのか、彼女等の恋敵ではないからか。たとえ前者でもレイリアは気にしない。そしてリルと侍女たちの確執のことを知っていても、あえて彼女は動かない。女の嫉妬が絡む場合は、助け船が良い方向へと向かうとは限らないからだ。
 ブリッタたちの話を聞きながら、申し訳なさそうにウルリーカがレイリアに話しかけた。
「……レイリア、すまないけれど、これから私と一緒に出かけてくれないかい?」
「行っていいの? 行くわ!」
 侍女たちに謝罪し、玄関に向かったレイリアは、ウルリーカとブリッタに注意される。相変わらず肩を出したビスチェ風の服装だった。
「レイリア様、またそんな姿で……」
「そんなだらしない格好は困るよ……」
「じゃあ、ドレスぅ? また、帽子も被るの?」
 前回の買い物の際のドレスを思い出し、レイリアがブリッタを睨む。その様子を見て、ウルリーカが慌てた。
「そんなにおめかししなくていいよ……」
「じゃあこのままでいいじゃないのよぅ」
「そのお姿では外出させません!」
 呆れたブリッタが、普段着用の飾りの少ないドレスを用意する。侍女たちに手伝ってもらい、着替えを済ませ、レイリアはウルリーカと共に屋敷を出た。
「ねえ、ウルリーカ様。私、本当に外に行っていいの?」
 ウルリーカの後ろを配そうに歩くレイリア。その様子を見て、ウルリーカがにっこりと笑う。
「当たり前だよ。行きたいところは城の外なんだから」
 城門の外には馬車が待機していた。見送りをする弟子に、ウルリーカは着ていたローブを渡し、代わりに外出用のコートを受け取り羽織る。
 馬車に二人が乗り込むと、御者が静かにドアを閉める。馬の嘶きの後、ゆっくりと馬車が走り出した。
「これは?」
 カタカタと揺れる車内でウルリーカが小さな包みをレイリアに渡した。ピンクの可愛い紙に包まれて、リボンがかかっている。
「馬車は暇だからお菓子でもお食べ」
 可愛い紙に包まれていたのは色とりどりの砂糖菓子だった。
「可愛いわ、素敵! ウルリーカ様、ありがとう」
 目を輝かせたレイリアは、嬉しそうに砂糖菓子を指でつまみ、口に運んだ。
 鼻歌をうたいながら、窓の外の流れる景色を眺めていたレイリア。ふと、向かいに座ったウルリーカを見た。
「ウルリーカ様、これから何処へ行くの?」
「私の二番目の自宅だよ」
「二番目?」
 レイリアが首を捻る。ウルリーカの自宅は城の魔術師用の部屋になるのだろうか。他に何処に住まいがあるのだろうかとレイリアは考える。
(実家かしら……、てっきりお城の近くかと思っていたわ)
 二人は馬車に揺られて城下町のはずれに来た。家が点在し、畑と草原が広がっている。御者が馬車のドアを開け、ウルリーカ、次にレイリアが降りる。目の前には石の塀に囲まれた建物。若い二人の門番が立っていた。
 門番に挨拶すると、門番は木の門を開けた。門の奥には手前に広場が広がる。簡単な遊具があり、奥に二階建ての建物が見える。
 広場では子供たちが遊んでいた。小さな子供からレイリアに近い年齢の子までいたが、ウルリーカの姿を見ると皆が嬉しそうに走り寄って来た。
「ウルリーカさまだぁ! 帰って来た!」
「お帰りなさい、ウルリーカおばあちゃま!」
 子どもたち一人一人の顔を見ながら、ウルリーカは優しく抱きしめて、頭を撫でていく。
「ただいま。来るのが遅くなってすまないね。今日はお客様もいるんだよ」
「綺麗なお姉さん、ウルリーカ様のお友達?」
「おともだちぃ?」
 レイリアはどう名乗ればいいかと悩んだ。興味津々で見つめる子どもたち。ユーモアを利かせなければとレイリアなりに考えた。
「私はレイリアです。カイトの愛人なの、よろしくねぇ」
 冗談たっぷりに笑顔で挨拶をすると、その場にいた子どもたちからは絶叫と悲鳴が上がった。

 建物の一階の応接室に通されたレイリアは柄にもなくしょげていた。
「ごめんなさい、子どもたちを泣かせちゃった」
 俯いたまま項垂れるレイリア。ウルリーカとここで働いている女性は苦笑いを浮かべ、目を見合わせた。レイリアのあの挨拶の後、庭は阿鼻叫喚となった。
「昔からカイトはここによく来てくれてね、いろいろと世話をしてくれているんだよ。皆の憧れなんだから、言動には気を付けておくれよ」
 諭すウルリーカの言葉に、レイリアは小さく頷いた。
「愛人はまずかったわ。あとでちゃんと謝るわ。皆許してくれるかしら」
 レイリアは申し訳なさそうに項垂れる。レイリアが気になる子供たちが、今もドアの隙間や窓から覗いている。
「もっとまともな紹介の仕方があるだろうに。友人と言っておけばいいのに」
「そうなのだけれど、私はカイトの友達ではないわ。どちらかというと居候。皆を安心させるために、恋人候補のリルを連れてくるべきかしらね」
「おやおや。そんなことを言ったらルアトが怒るんじゃないかい」
「怒ってくれればましな方よ」
 素っ気なく言うレイリアの顔を、ウルリーカが不思議そうに眺める。

 二人にお茶を出してから、部屋にいた女性が席を外した。お茶を一口飲んで、心を落ち着かせたレイリアが改めて部屋を見回した。質素な木の部屋に、子どもたちが描いた絵や手紙が貼られていた。棚には書類が並んでいた。
「ウルリーカ様、ここは……孤児院なの?」
 レイリアが声を潜めて訊いた。ウルリーカは静かに頷く。
「そうだよ。私が責任者なんだ。私が不在時も問題ないように、何人かに働いてもらっているんだよ」
「ウルリーカ様ってお忙しいのにそんなことまでしてたのね。……ここの子どもたちの親御さんは……亡くなったの?」
 城の人間を数名選び、勤務させているとウルリーカが話す。ウルリーカの弟子、城の近衛兵も付けている。防犯には力を入れているようだ。
「私にできる罪滅ぼしだよ。戦いに巻き込まれて家族を失った子もいる……親の都合で手放すこともあるね……。あとは魔力が強くて捨てられることもある」
「魔力のせいで?」
 ウルリーカは無言で頷いた。
 酷いことをすると文句を言いたくなったが、レイリアは口をつぐんだ。リルも自分の魔力のせいで、捨てられたのかもしれないと話していた。自分もお金の為に売られていた。
「いろいろな子供たちがいるんだよ。私も年だからね、いつまでここへ通って管理が出来るかも怪しいんだ」
「まだまだ大丈夫よ、淋しいこと言わないで」
「そうかね。王は孤児院を援助するように政策をとってくれている。私がいなくなっても大丈夫だろうけれどね。できたらレイリアにここを任せたいなと思うんだよ」
「私に?」
 レイリアから視線を逸らすウルリーカ。
「レイリアも本当ならこういう場所に来ていればよかったと思う。生活に困窮していたのなら手を差し伸べたかった……そうすれば」
「お金があったのに手放したのかもしれないわ。ウルリーカ様がそんな顔しないで」
「いや、湖の神殿なんて作らせるべきじゃなかったんだよ。本当にごめんね……」
「ウルリーカ様が協力したわけではないんだし。神殿って名前だけで、アヤシイ場所だったことは判っているわ。でも、エドヴァルド様が守ってくれていたわ。それに、あそこにいなかったら、皆に逢えなかったんだもの。悪いことだけじゃないのよ。大丈夫」
 ウルリーカの横にしゃがみ、膝の上に手を載せてウルリーカを見上げた。
「レイリア、ありがとうね」
「あの、レイリア」
「なぁに?」
 ウルリーカにしては歯切れが悪い。どう話せばいいのか考えあぐねているようだった。レイリアは心配そうにウルリーカを見つめる。
「レイリア……よかったら、もしよかったら、私の養女にならないかい?」
 レイリアがぽかんと口を開ける。
「私が、ウルリーカ様の?」
「城での生活で、肩身の狭い思いをしないように、というのもあるけれど。ベアトリスとリルの関係が羨ましいというのもあるのかな……無理にとは言わないし、考えてほしいと思って……」
「じゃ、私、ウルリーカ様の娘になるわ」
 即答するレイリアにウルリーカが驚いた。
「そんなに即決でいいのかい?」
「あとでみんなに相談しなければいけないけれど、娘にしてくれるなら嬉しいわ。でも、お母さまって呼ぶのは……」
「もう母親って年じゃないからね」
 レイリアが慌てて手を振って訂正する。
「違うの……年のことじゃないの。私にとっては……母様はリルなの」
「その割にはあんたの方がしっかりしてそうだけれどね」
「私より年下で、すぐに泣いていじけるし、鈍感だけれど、私をここまで嫌な顔しないで連れてきてくれたのは、リルだけなの。私に外の世界を見せてくれた、大事な存在。リルはあったかくて包み込んでくれるし、私を見て叱ってくれるわ。頼りになる母様なの」
「そうだね。リルはあんたの母様だ」
 レイリアの言葉を聞いて、ウルリーカは微笑んだ。
「だからウルリーカ様のことはおばあさまって呼ぶわ。いいかしら?」
「ありがとう。レイリア。今後、書類を書くこともあるから自分の名前だけは書けるようにしておくんだよ」
「はぁい……」
 不貞腐れた返事をした後でレイリアはウルリーカを見つめた。しばらく見つめ合った後、レイリアはウルリーカに抱きついた。
「ありがとう、おばあさま」
 静かな部屋に、子どもたちの笑い声が聞こえてくる。暖炉の薪がぱちぱちと音を立てている。
 ウルリーカに抱きついたままで、レイリアが小さな声で訊いた。
「今日はこっちの自宅にお泊りするの?」
「そのつもりだよ」
 レイリアの背をさするウルリーカ。レイリアは体を離し、ウルリーカを見つめた。
「じゃあ、私も泊まっていくわ。リルたちに伝言してもらいましょう」
「カイトの屋敷ほど居心地は良くないよ?」
「おばあさまがいれば、どこだって居心地いいわ」
 二人は笑い合った。ウルリーカに抱きつくレイリア。嬉しさで震えるレイリアをウルリーカが抱き寄せた。
「これでレイリアの自己紹介は決まったね。孫になってくれたって皆に話さないとね」
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コメント

No title

こんばんは。

レイリアちゃんがウルリーカ様の養女…孫となった経緯ですね。
心温まるお話で日頃の心の疲れが癒されました。
こんな娘さんが養女になったら毎日がにぎやかで楽しいかもしれませんね。

これから寒くなりますが風邪など引かないようご自愛下さい。


ひもたかさん

こんばんは(*´ω`*)

コメントありがとうございます♪
形になるまでに時間がかかった話ですが、心の疲れが癒されたとのことで本当に良かったです。
我儘というわけではないけれど自由奔放すぎるレイリア。
これからウルリーカさまの心労が増してしまいそう(;'∀')
(王様、カイト、レイリアを心配する……となるとウルリーカ様大変そう(;´∀`))

急に寒くなりましたね(>_<)お互い風邪などには気を付けましょう(`・ω・´)

No title

いつもお世話になってます!

はぁー、この間章とっても幸せな気持ちになれました(*´ω`*)
カイト様の屋敷に来てから、つまらなそうに少し寂しそうにしていたので、レイリアちゃんが気にせず甘えられる存在ができて、とても嬉しい!!
とっても素敵な親子、もといおばあちゃんと孫になるんだろうなとほっこりしました♪

それと孤児院っていうのがレイリアちゃんにとっていい環境ですね><
きっと子供たちが賑やかだから今後寂しい思いしなくなるな~と...^^
5章が大変な局面だったから、なおさら心落ち着きました!

みーぷさん

コメントありがとうございます(*´ω`*)

ウルリーカならレイリアを心配しているだろうな……と考えて今回のお話になりました。
カイトの屋敷で居候しているにしても、出自がはっきりしないままだと悪い噂になるだろうと考えただろうとか……。
(お城で名を名乗るにも、湖の乙女という肩書では良く思われないので……)

甘えて面倒を見てもらってばかりだったレイリアが、初めて他の誰かの面倒を見ることになるはずです(笑)
(なるはず……面倒を見ているかは不明です(;´∀`))

今まで魔力のことで蚊帳の外状態だったレイリア。6章からははっちゃけはじめます(笑)
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Author:清水結衣
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プロフ画は笹間シムロさんに描いていただきました
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