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【Cry*6】間章「凪ぐ心 ときおり時化」

2018.03.29 15:34|【Cry*6小説】間章


間章「凪ぐ心 ときおり時化」

 レイリアが正式にウルリーカの孫になる。以前からレイリアの後見人になりたいと話していたウルリーカ。二人が家族になることに皆が賛成だった。
 孤児院に泊まった後も、レイリアはウルリーカの部屋に泊まる晩が続く。昼はカイトの屋敷で過ごし、夕食前にウルリーカの元へと向かうのがレイリアの日課になっていた。寝衣の入った包みを手にしながら、スキップで玄関ホールを飛び出てくるレイリア。くるりと振り返り、見送りに出て来たリルをきつく抱きしめ、耳元で囁く。
「リルぅ、今日もおばあさまのところに泊まりに行ってくるわ。リルはベッドで一人、のびのびと寝てねぇ」
「……楽しんできてね。ウルリーカ様にもよろしく伝えて」
 抱きしめたリルの体をあっさりと離し、レイリアは笑顔で屋敷を後にした。
 リルは玄関から手を振って見送ったが、レイリアの姿が見えなくなると、振った手は宙で留まり、貼りついた笑顔のまま固まった。一度も振り返らなかった。
 ――祖母と孫。共に過ごすことはごく自然なことで、いいことなのに。何故か心は落ち着かず、隙間から風が入り込んで心が乱れる。自分の心持ちが解らず、リルは呆然と立ち尽くす。その後姿を、ブリッタが静かに見つめていた。

 リルはウルリーカの元で本格的に魔術の勉強をしていた。ウルリーカの部屋で研究と勉強、地下にある施設で実技。リルは攻撃の魔術を使わないし覚えようともしなかった。その頑なな態度に、ウルリーカも困惑していた。そんな中、ウルリーカの元に度々レイリアが顔を出した。
 ウルリーカがレイリアを諭すが、レイリアは反省の素振りも見せない。それでもウルリーカは優しくレイリアを抱きしめてやる。弟子や自分に向けるのとはまた違うウルリーカの笑顔。初めて見る表情に、リルは戸惑った。二人とも満ち足りた表情で、幸せそうだった。

「んー、俺は特に持っていくものはないかなぁ」
 屋敷の居間で、ルアトが腕を組んで天井を見上げる。
「じゃあ、俺ゲーム持っていくよ! 皆でやろうと思って。カイト様強いんだ。ルアト勝てるかな?」
 楽しそうに珈琲を飲むロニーを横目で見ながら、ルアトは意地悪く笑った。
「そう簡単には負けないよ。ロニーほど顔に出ないし」
「そうそう。ルアトはそんなに純粋じゃないのよぅ、腹黒、腹黒!」
 レイリアがカップを置き、身を乗り出す。人差し指を唇に当てて意味深な笑みを浮かべている。
「レイリア、その言い方は誤解を招くよ……」
「だいたいあっているでしょう?」
 ティータイム。リルとレイリア、そして休憩に戻ってきたルアトとロニーの笑い声が響く。月の神殿へ行く話から、月の都の名産品、旅の持ち物の話になった。皆の横で給仕をしていたブリッタがふとリルを見た。
「そういえば、リル様の旅のお洋服が準備できておりませんよ」
 皆が一斉にリルを見る。ブリッタの言葉にリルは無言だった。
「リルにしては珍しいね」
「準備遅いわよぉ。お披露目のパーティーのドレスも仮縫いのままでしょう?」
 ソファの横に座るレイリアがリルに寄り掛かって顔を覗き込んだ。
「私にドレスなんて勿体ないよ……誰かが着たおさがりじゃダメなの……?」
「勿体なくないわ。リルに合ったものを着た方がいいわよう。絶対似合ったものがいいの!」
 膨れっ面のレイリアに強く言われ、ルアトを見て助けを求める。肝心のルアトは、リルの視線の理由が解らず、きょとんとする。
「ん、どうしたの?」
「旅の……なんだけれど……」
「旅がどうしたの?」
「な、なんでもないの」
 不安そうなルアトの様子に、リルが慌てて頭と両手を振って笑顔を作る。
 ティータイムの茶器を下げた後、リルはブリッタを捜した。先程まで一緒にいたのに、いつの間にかいなくなっていた。この時間は侍女たちに編み物や勉強を教えていることが多い。厨房、食堂と歩き回り、ようやくホールでブリッタを見つけた。カイトと話している姿を見て立ち止まった。
 二人は他愛もない世間話をしていた。カイトは自分たちに向けるのとは違う、棘のない爽やかな笑顔だった。視線は穏やかで、時折はにかんだような笑みが浮かぶ。佇まい、振る舞いが、絵に描いたような好青年だった。ブリッタも目を細め、優しい眼差しで、冗談を言いながら楽しそうに笑っていた。
(カイト、あんな顔するんだ……ブリッタさんも、楽しそう……)
 初めて見る二人の笑顔。大人の魅力が溢れる落ち着いた様子に、リルは立ち止まってしばし見とれてしまう。
「あら、リル様。何か御用ですか?」
 カイトから視線をずらしたブリッタが、離れたところに立つリルに気付く。続いてカイトもリルを見た。
「どうした?」
 二人に見つめられて恥ずかしくなり、リルは逃げるように走り去った。ブリッタとカイトが目を合わせ、首を傾げる。

 廊下を走ってテラスに辿り着き、カウチの上に縮こまるように座る。廊下で雑談をしていた侍女たちは、目の前を通り過ぎたリルに興味を示す。何事かと後を付けてきて、丸まるように座るリルに声を掛けた。
「リル様どうなされたのです? ルアト様とご一緒じゃないのですか?」
「嫌われたとか?」
「カイト様とルアト様に相手にされないんですか?」
「……」
 リルは何も答えずにカウチの上で膝を抱えて座っていた。俯いたまま、侍女たちのちょっかいにも反応がない。
「リル様、どうされたんですか?」
 反応がないリルを見て、侍女たちも狼狽える。本当に二人の何方かと喧嘩でもしたのだろうかと心配になってくる。
「……」
「あ、あの……ごめんなさい……リル様……?」
 泣いているのかと慌てる侍女たちの元に、静かにカイトが歩いてきた。侍女たちは頬を赤らめて、慌てて逃げていく。
「どうした? 何かあったのか? 何か言われたのか?」
 リルが少しだけ視線を上げる。カイトが横に立って自分を見下ろしていた。
「……なにもないの。そんなもの、なにもないの」
 リルの目線に合わせるように、カイトはしゃがみ、優しい声音で問い掛けてきた。
「ルアトと喧嘩でもしたか?」
 頭を振った後、リルはカイトを見つめた。
「あのね……」
「ん?」
 カイトの心配そうな顔。自分の些末な悩み事で、彼をまた心配をさせている。リルは自分が情けなくなってくる。
「たいしたことじゃないの。だから、大丈夫! 大丈夫なの……」
 それだけ言うとリルは顔を伏せてしまう。カイトがいくら呼びかけても顔を上げなかった。黙り込んだリルにお手上げのカイトが立ち上がると、心配そうに様子を伺っている侍女と目が合う。カイトは大袈裟に肩をすくめてみせた。

 ルアトに相談したいリルだったが、レイリアがいない晩はルアトも部屋を去る。手を握っていても、寝る前には部屋を出てしまう。二人になるのは気まずいのだろうか。
「ねぇ、ルアト。今日も誰かの部屋に行くの?」
「うん。レイリアもいないからね、その方がいいかなって」
 リルの手から、ルアトの右手がするりと抜ける。
「でも、右手は……」
「たぶん大丈夫だと思う。俺がしっかりしていればきっと……ロニーやイリスさんにも呪いのことは話したんだ。俺も呪いに負けないように、頑張るから、リルも心配しないで」
 辛さを堪えて笑うルアトを前にして、リルは震える両手を握りしめ、ルアトを見つめた。
「ねぇ、ルアト……」
「ん?」
 立ち上がったルアトが首を傾げ、心配そうに見下ろしている。
「おやすみなさい……」
「おやすみ、リル」
 笑顔を浮かべたままルアトが部屋を出る。リルは閉まったドアを見つめた。
(淋しいから、ここにいてなんて言えない……)
 一人部屋に残されたリルは、自分の体を抱きしめた。震えが止まらない。
 皆、何処かに消えたわけではない。レイリアは朝には戻るし、ルアトは屋敷のどこかで夜を過ごしているだけだ。今までルアトか、しつこいくらいにレイリアが傍にいてくれた。時折一人になりたいと思ったことがあったが、実際一人になると、手持ち無沙汰でひどく心許なかった。
 ベッドに潜りこんだり、起き上がってドアを見たりを何度か繰り返す。ルアトが何処にいるのかカイトに訊きに行こうか。しかし、彼は神殿に向かうまでの間に片付ける仕事もあり、傷も癒えていないというのに夜遅くまで城で会議をしていた。これ以上、自分のことで迷惑はかけられない。
(イリスさんのお部屋、ロニーのお部屋……行けない……どうしよう。寂しい……さびしい……)
 ルアトは自分の意志でこの部屋を出ていった。探しには行けない。
 不安に押しつぶされそうになり、リルは慌てて部屋を出た。

 夜は灯りを消すが、カイトの屋敷の廊下は常時明るくなっていた。厨房へ降りると灯りは消されて、薄暗い。侍女たちも寝ているだろうと気を抜いて歩いていたリルは、暗がりに立つブリッタに驚いて、悲鳴を上げてしまう。
「あら、リル様」
「ぶ、ブリッタさん……吃驚しました……」
 リルは胸を押さえて息を整える。ブリッタは申し訳なさそうに頭を下げた。
「驚かせてしまってごめんなさい。ここ最近、風がざわついているので、眠れず起きていたんですよ」
 手には燭台。蝋燭の炎が揺らめいていた。寝衣ではなく、ゆったりとした部屋着にカーディガンを羽織っている。仕事中、一つにまとめている髪を今は下ろしていた。
 いつもと違うやわらかい雰囲気のブリッタに、リルは見とれた。
「温かいココアでもいかがですか?」
 リルが頷くと、ブリッタは震えるリルを支えて、椅子に座らせた。リルのところから、ブリッタは手際良く棚からカップを取り出しているのが見えた。鍋はもう火にかけられていた。
(ブリッタさん、起きていたんだ……私が、来るのを知っていた?)
 自分に背を向けてココアを作るブリッタ。その背に、リルは恐る恐る訊いた。
「ブリッタさん。この前、何があったのか……知っているんですか?」
 ――ルアトの呪いの右手がカイトを襲ったこと。
 ブリッタは一瞬動きを止めたが、落ち着き払った様子で、こちらを見ないまま静かに話す。
「いえ。何かがあったことは気付いていますけれど、それ以上は」
「そうですか……」
 リルは膝の上に置いた、自分の震える手をじっと見つめていた。盆を持ったブリッタが静かに戻ってくる。
「何があっても、皆さんのことを信じていますから、大丈夫です」
「信じて?」
 盆に載せて運んできたカップをリルの前に置きながら、ブリッタは深く頷いた。それだけカイトを信じているということだろう。
「……」
「リル様……私でよければお話をお伺いしますよ」
 驚いた顔をするリルを見て、ブリッタは微笑んだ。リル本人は気付いていないが、考えることは顔に出ていて、とても判りやすい。
「あの、ブリッタさんは……、カイトとどんな関係なんですか?」
 一番訊きたいことは、口に出せなかった。
「私のことが気になりますか?」
 涼し気にブリッタが訊くと、迷った様子ながらもリルが頷いた。
「イリスさんもですが、ブリッタさんも強い魔力を持っている気配がして……それに」
「それに?」
 少しだけ首を傾けて、リルの言葉をブリッタが繰り返す。
「カイトがとても気を遣っているから……」
 話しているうちにリルは情けない気持ちになった。まるで自分が妬いているようではないか。ブリッタはテーブルの向かいに座り、リルの顔を見て微笑んだ。
「カイト様は誰にでも丁寧ですよ」
「そうです、けど」
 リルが顔を赤くして戸惑う様子を見て、ブリッタの頬が緩んだ。話しても良い頃合いだろうか。
「カイト様が気を遣うのは、私の立場のせいかもれません」
「立場、ですか?」
 そこで一呼吸。ブリッタはリルを見つめる。真剣な眼差しにリルは姿勢を正した。
「私もイリスもカイト様のお役に立ちたいと思い、働かせていただいてます。私は、イリスと半分血が繋がっております」
「イリスさんと? 半分……」
 言葉の通りなのかと困惑していると、その様子を感じたブリッタは自分のカップを両手で包んで、目を閉じ、ゆったりと話し出す。
「父が同じです。私の母は病で亡くなって、新しく母が来ました。その新しい母がイリスを産みました。私は幼かったので実の母のことは覚えておりませんが、イリスの母にはとてもよくしていただいてます」
 さらりと話すブリッタの表情は穏やかだった。血がつながらない母とも上手くいってるようだった。
「私は生まれつき魔力が強かったので、幼い頃からウルリーカ様に師事してました。……ベアトリス様は先代の王や、王子だったエドヴァルド様やイリスの世話で大変そうでしたから」
「大変だったのですか?」
「まず、魔術を教えることよりも、おとなしくしていることを教えるのが大変でした」
 話しぶりからエドヴァルド王とイリスは、ベアトリスを相当に手こずらせたようだった。しかし二人の名が出てきて、カイトの名が出てこない。彼も一緒だったはず。
「カイトは一緒じゃなかったんですか?」
「カイト様もご一緒ですよ。二人とは比べ物にならないほどに素直で、真面目で、昔から真っすぐでした。よくエドヴァルド様とイリスの悪だくみに巻き込まれていました」
 エドヴァルド王は問題児だったのだろう。素行の悪い王子とその悪友。祖母もなかなかに気性が激しかった。そのベアトリスが手を焼いたということは、エドヴァルド王もイリスも相当だったのだろう。
「エドヴァルド様は魔力が強く、ベアトリス様は苦戦していたようです。私も魔力に翻弄されて、幼少は過ごしにくかったことだけを記憶しています。……そうですね。魔術学校があればよかったのでしょうね。自分の力を持て余して、窮屈な思いをしました。私は淡々と過ごしていましたが、そんな私が気に入らなかったのか、イリスは度々私に暴言を吐きました」
「暴言?」
「はい。魔女とか……悪魔の女と罵っていましたよ」
「イリスさんがそんなことを?」
 リルの知っている穏やかな佇まいのイリスからは想像できない。ブリッタが苦笑した。
「昔のあの子は酷かったんですよ、本当に。イリスは、私の方が魔力を持っていたのが悔しかったのでしょうね。それを隠すように過ごしていたことも好いていなかったのでしょう。私も、我慢できるほど人間が出来ておらず、何度か罵られた後、イリスをかまいたちでズタズタにしてあげました」
「ずっ、ズタズタ……」
 青ざめるリルに、ブリッタは満面の笑みを浮かべる。
「そうです。最初で最後の姉の制裁です。それから私たちは距離をとりました。イリスも容赦のない姉を恐れたのでしょうね。それから時が経って、カイト様のあの件があり、イリスは悔いて変わりました。王になったエドヴァルド様もですね」
「カイト様が解放され、禊を済ます頃、イリスが私に頭を下げてきました。城内のカイト様のお屋敷で働いて欲しいと。私は婚期を逃して行き遅れましたので、父母の世話をして過ごそうかと思っておりましたが、私はイリスの話を受けることに決めました」
「お父様とお母様は反対されなかったのですか?」
 ブリッタは静かに頷いた。
「イリスの犯した罪をカイト様が償ってくださったのですから。長男と長女が家柄的には格下になりますが、カイト様の従者になることを父母は止めませんでした。それだけの恩義があったのです……」
「罪……」
 リルが小さな声で呟いた。以前イリスも語っていた。彼の犯した罪とは一体何なのだろう。何が起こっていたのだろうか。カイトと光の魔術師の恋愛が絡んだ問題だけではないのだろうか。
「私は女中頭になることを決心しましたが、決めただけではなく、試験もあったのですよ」
「試験? 王様のですか?」
 口元に笑みを浮かべながら、ブリッタは頭を振った。
「とあるお方の……。これがなかなかに難しかったのですが、合格を頂きました。それから全てのことを勉強しました。カイト様の評判を落とさないようなお屋敷を作っていかなければいけませんでしたから」
 ブリッタの妥協しない姿勢の原点を見た気がした。
「カイト様の呪いが不安定な分、魔力を持った人間しか置けませんでした。この屋敷はイリスと私、二人でのスタートでした。王もウルリーカ様も全力でサポートしてくださいました」
 エドヴァルド王とウルリーカがカイトの元を訪れるのは、カイトが心配で大事だからだろう。
「ロニーが来たのも、騎士団の皆さまがこちらにいらっしゃることが増えたのも、侍女を入れたのも最近のことです。そしてすぐ、リル様たちがいらして……全て必要なことだったんです。今更慌てませんよ、風は必要なところに吹きますから」
「ブリッタさんは落ち着いているんですね」
「いつも心が凪いでいるわけではありませんよ。一度荒れると大変です」
 ブリッタが悪戯っぽくクスッと微笑んだ。
 二人でココアを飲む。夜の空気と沈黙が、ブリッタの優しさが、心地良い。
「……も、いいかもしれませんね」
「え?」
 ぼうっとしていたリルは、ブリッタの会話を聞き取れず、訊き返していた。
「丈が短いスカートもいいかもしれませんね。リル様には可愛らしい服で、元気にしているのが似合っている気がします」
 ポカンとするリルを見て、ブリッタが微笑んだ。
「あの服を着たかったのでしょう?」
 リルは顔を赤くし、震えた。口元は震えて、今にも泣きそうだった。
「……ルアトが、選んでくれたから……。はしたないかもしれないけれど、でも、初めて選んでもらった洋服だから……」
「着たらいいんですよ。私の言うことをきにしてばかりではいけません。あなたの意思だって大事ですもの」
「でも、駄目だって言われたことをするのはいけないかなって……」
「年を取った私からしたら良くないものでも、若い方からしたら良いものだってあります。リル様は若いんですもの。たまにはわがまま言ってください。レイリア様もルアト様も息抜きが上手なようですが、カイト様もあなたもわがままを言わず、まじめすぎます。母というには頼りないですが、私を年の離れた姉だと思ってわがままを言って困らせてください」
「ブリッタさん……」
 泣き笑いのような顔で、リルは頷いた。
「ウルリーカ様のお部屋に、若い頃のベアトリス様とウルリーカ様の絵が飾ってあります。貴方よりももっとはしたない服です。でも、流行は繰り返すのかもしれませんね」
「おばあちゃんの?」
「お二人とも個性的な服装をしていらっしゃって……。お二人はお城へ来る前、旅に出たこともあったそうですよ。ウルリーカ様は恥ずかしいのか、見えにくい場所に飾ってあります。今度捜してみてくださいね」
「はい」
 ブリッタと笑い合って、ようやくリルは自分の気持ちを打ち明けることにした。
「ブリッタさん。私、最近、淋しいんです。レイリアにとってもいいことなのに、ルアトにとっても、いいことなのに。独りになると、孤独で淋しくて、怖いんです」
「リル様の元を離れることもありますが、皆さまリル様が笑顔でいてくれるからこそ、笑顔で傍を離れて戻ってくるんですよ。貴方のことが大好きですもの」
 面と向かって言われたリルは嬉しさと戸惑いと、恥ずかしさに顔を赤らめる。ブリッタは微笑んだ。
「心配しないで、自信を持って。皆あなたが大好きなんですよ。貴方が好きなのと同じくらいに」
「そんな……」
「レイリア様や、ルアト様のことも好きでしょう?」
 目に涙を浮かべながら、リルは小さく頷いた。
「カイト様は? カイト様のこと、どう思われているの?」
 優しい眼差しで見つめられて、リルは視線をさ迷わせた。ブリッタはまっすぐに見つめている。
「それは……どうって……」
「嫌い?」
 唇を結んで、リルは考えた。
「……すごく嫌なことも言われるけれど、頼りになる、し」
 最初は怖くて、彼に対してとても失礼なことをしてしまった。いつもごく当たり前のことを言っているだけで、カイトはリルを助けてくれる。
「カイト様のこと、好き?」
 好きか嫌いか。その二つだとすると、リルの周りにいる人は「好き」だった。でもそれを口にしていいのか解らない。リルには頷くのが精一杯だった。
「ならよかった」
 目を細めてブリッタが嬉しそうに笑う。
「私が好きなんて言ったら、困ると思います」
「そんなことありませんよ。リル様に好かれたら嬉しいですよ。私も、イリスも、カイト様も」
「皆さんのこと好きです。優しくしてくれて」
 震える唇で精一杯話すリル。緊張と羞恥とで目尻に浮かんだ涙がこぼれそうだった。初々しい様子を見守りながら、ブリッタは心の中で嘆いた。
(――違う好きになったら、嬉しいのですが)
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コメント

No title

こんにちは。攻撃の魔術を使わず覚えようともしないのは、リルちゃんらしい
ですね。顔に出ちゃうロニー君、レイリアちゃんがルアト君の事を腹黒、腹黒!
と言うシーンは笑っちゃいました~! やわらかい雰囲気のブリッタさんには
私もリルちゃん同様、見とれちゃいそうです…!イリスさんとは昔色々
あったのですね…。ブリッタさんは私もリルちゃんと同じく、落ち着いて
いる、と感じましたが…悪戯っぽく微笑む姿は可愛らしく感じました。
そしてカイトさんの事もリルちゃんの事もしっかり見ていて
リルちゃんに「年の離れた姉だと思ってわがままを言って困らせてください」
「心配しないで、自信を持って。皆あなたが大好きなんですよ。」…等々
温かいお言葉がたくさんで、とても嬉しい気持ちになりました。最後の…
「違う好きになったら」の部分に今後の展開がまた楽しみになりました!


先日はコメントありがとでした☆大好きな南美希、サウラーに反応頂け
とっても嬉しかったです♪敵からの友情、恋…最高ですよね!彼を知る
結衣様からも髪キスも自然にしそう、と言って頂け嬉しいです!
Off-White、ロックはマフラー体でうちわの裏側に名前もなかったですが、
皆個性的でかっこよくてお気に入りです☆ 人間体のロック…いつか誰か、
他のシリーズの男キャラ等と一緒組んで出ないかなぁと思っちゃいます(笑)

いつも丁寧なお返事もありがとです!ジュースの色によっては雰囲気が
変わりそうですね…!カイトさんは王様のおもちゃでも…の所は笑っちゃい
ました!プリキュアはオールスターズだと人数多すぎて、まさに、めっちゃ
たくさんの先輩に囲まれて指導される新人…!やはりあれだけ多いと
しゃべらない先輩もいたりでしたね。三作品だと少なくて寂しい気持ちも
ありますが、やはり華やかですよね! 秋の映画も今から楽しみです♪
では読んでくださり、ありがとでした☆

風月時雨さん

コメントありがとうございます(*´▽`*)

リルとブリッタの話で、こんなに長くする予定はなかったのに、のびてのびて……結局長い!!(;・∀・)
未だにリルがうじうじしていて、ちょっと面倒なのですが、それが彼女の個性なので(´ω`)
ブリッタとイリスは話にどこまで食い込ませようかと悩んだのですが、今回の間章では優しくて時に怖い(笑)ブリッタさんを見せられたらと思いました。
カイトもブリッタに対しては使用人として接していますが、やっぱり友人の姉なので気を遣っています。
お城の人々、お屋敷の人々はルアトとリルを引き離そうと言う気はないのですが、やっぱりリルとカイトをくっつけたいと思っているようです(*´▽`*)

風月さんの描かれるサウラーは優しさ満開で、南美希幸せそうでとってもほっこりです(*´ω`*)
Off-Whiteにはロックは入っていないんですね。
誰かとユニットを組んだロックも見てみたいです(*´▽`*)

こちらこそいつも丁寧なお返事ありがとうございます(*´ω`*)
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プロフィール

清水結衣

Author:清水結衣
いつもご訪問いただきありがとうございます。

オリジナル中心でお絵かき。たまに版権絵。
そしてぼちぼち文章を。
プロフ画は笹間シムロさんに描いていただきました
ありがとうございます(*´ω`*)

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