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【Cry*6】6-6、信頼と風の恋文

2017.11.30 00:00|【Cry*6小説】第6章


6-6、信頼と風の恋文

 月の都はクレプスクロム王国の東部に位置する。クレプスクロム王国の領内にあるが、自治は独立し、巫女と議会で政治を行っている。
 ユーファがリルを連れて巫女の仕事に就くことと、自分たちの巫女の宮殿への滞在を許可してもらう為、カイトの案で神殿に併設されている議会室へと向かった。療養中とはいえ、カイトはクレプスクロム王国の騎士。リルも宮廷魔術師になる身。ユーファが良いと言っても、他の人間がどう思っているのか判らない。政の中心にいる役人と直接話をすることにした。
 議会室で待っていた役人は五名ほど。彼等は紺色のローブを纏い、カイトと同じ年頃の若者から老人までと様々だった。
「モニカから話は聞いています。リル様、本当にありがとうございました」
 議長を勤めている最年長の白髪の男性が穏やかな表情で、リルに深々と頭を下げた。その様子にリルは呆然とするが、我に返ると慌てて頭を上げてほしいと懇願する。
「リル様のお陰でユーファ様のお心と気配が落ち着かれました。感謝の言葉もありません。私たちも、リル様にはユーファ様と共に過ごしていただきたいと思っておりました」
 ユーファがファルセーダになったことまでは知らない様子だったが、彼らは魔力で不具合があったことは察していたようで、心から年若い巫女を心配していた。
 大半の星の乙女たちは、ユーファが情緒不安定になって部屋に籠ったと思っているらしい。巫女の気まぐれだ思われているとモニカがこぼしていたのを聞いていた。
「ユーファ様が心健やかにお過ごしなれるなら、多少のことには目をつむります」
「巫女……ユーファ様の傍に、この私がいてもですか」
 カイトはつい「巫女」と言ってしまい慌てて言い直す。
「瓢風の騎士団のカイト殿……お噂はかねがね伺っております。クレプスクロム王国の騎士殿でも、ですな。ここまで、リル様を連れてきてくれたことへの、感謝はせねばなりますまい」
 含みある言い方をされてもカイトは表情を変えずにいた。厳しい視線を受けつつも、ルアトも穏やかな表情を浮かべている。彼らにもルアトの呪いが判るのかもしれない。リルは体を堅くして俯いている。ただカイトに付いてきただけなのに、自分だけが歓迎されている。
「――リル様がベアトリス様のお孫様だと言うのは本当ですか?」
 若い役人が興味津々に訊く。
「はい。ですが、血はつながっていません」
 リルは小さな声で言った。老人たちは笑顔で頷いた。
「水の大魔術師のベアトリス様のお孫様とは」
「気高い佇まいでいらっしゃる」
「素敵な闇の雰囲気です」
 皆に褒められて、照れたリルはますます体を小さくする。
「あの……私の、魔力が怖く、ないんですか?」
 か細い声で問うリルに、役人たちはあたたかい笑みを向けた。
「怖くなんてありません。夜は必ず訪れるものでしょう? 私たちに安らぎを与えてくれるものです」
 ようやく彼らの気配に気付き、リルは視線を上げた。
「皆さんの魔力……」
 彼らも闇の魔力を持っていた。
「都の人間の多くが闇の魔力を持っております。貴方の魔力はとても優しく、心地良いのです」
「ごめんなさい。今までずっと気付きませんでした」
「月の巫女のユーファ様の気配、月の魔力に隠れているんです。……隠してもらっているとも言えます。闇は月の魔力に惹かれるものです。その反対も然り」
「ユーファ様が星の乙女たちに会うことが出来たと聞いて本当に良かった。私たちにももうすぐ会えるとお手紙をくださった。リル様のお陰です。私たちは感謝してもしきれません」
 頬を赤らめたリルは再び俯いた。リルの肩を突くルアト。リルが横を見ると、ルアトが微笑んでいる。
「リルがみんなを幸せにしているんだ。すごいことだよ」
「そうなのかな、嬉しいけどとても恥ずかしい……」


 議会室から出た三人は、神殿の廊下を歩いていた。
「ユーファって本当にみんなに信頼されているんだね」
 頬に手を当てたまま、リルがしみじみと呟いた。皆に歓迎されて、手放しで褒められて歓迎され、頬が紅潮してしまった。
 ユーファの宮殿へ滞在することも容認され、監視も付いていない。神殿の中も自由に出入りをしていいとのことだった。
「そうだな。月の巫女として誰よりも頑張っていたんだろう。しかし、誰も神官の心配をしていないというのがまた……」
 カイトが言葉を切る。政治の補佐をしていたという話なのに、一言も話題に上らなかった。
「いなくてもいいってことみたいに感じちゃうな……」
 ルアトの言葉に二人が頷く。宮殿内の部外者より、不在の神官よりも、巫女のことしか心配していなかった。しばらく無言で歩いていると、ルアトが突然立ち止まった。二人が振り返る。
「どうした?」
「俺は書庫に寄っていきます」
 先程、月の神殿にある書庫へ行くことも許可をされ、ルアトは調べものをしに行くという。
「私も一緒に……」
「リルは魔力のことは調べたくないでしょ? カイトさんと先に戻ってて」
 確かに攻撃の魔術には触れないようにしているが、誘われたら一緒に行きたかった。置いていかれたリルは、寂しそうにルアトの後姿を見送る。
「最近ルアトは独りでいることが多いな」
「うん……。おばあちゃんの魔術書じゃ納得できないことが在るらしくて、調べたいって言ってた」
 確かにベアトリスの魔術書は基礎しか記されていない。しかし、ルアトが調べたいことは何だろう。淋しそうなリルの横顔を見て、カイトは考え込む。
「リル、良かったら……これからちょっと都に行ってみないか?」
「え? ど、どうしたの?」
 何を言われたのか解らないリルが首を傾げた。
「いや。さっき買い物に行けなくて、随分寂しそうだったから。これから忙しくなるし、息抜きにでもと思って」
「え? え? で。でも、あの」
 からかっている様子はなく、カイトの穏やかな表情を前に、リルはおろおろする。
「だって、えっと、あの」
「俺と一緒が嫌だったら、無理にとは言わないから」
 自分も買い物に行きたかったし、帰ってきた後のレイリアの話を聞いて羨ましく思ったのも確かだ。
 カイトと二人で行くことに緊張もあり、張り切って行きたいと言うのもはしたない気もする。ルアトに何か言われるだろうか。でも、彼に声を掛けてもらえなかった。考え込むリルを見て、拒否されたと捉えたカイトは、無言で宮殿に向かおうとする。リルが慌ててカイトの背に声を掛けた。
「ま、待って。行く……一緒に、行きたい!」

 月の神殿の門をくぐり、正面から神殿に入ると通路の両側の壁面には、精霊の歴史が絵で描かれている。その奥に一般客が訪れて祈りを捧げる「祈りの間」がある。
 月の巫女の姿を見て、祈りを捧げると願いが叶うと言われており、白銀の広い大広間には祈りを捧げる人が集う。朝一時間ほどユーファが姿を見せ、祈りを捧げる人々へ、願いが叶うようにと魔術を降らせる。高い場所に佇むユーファ。リルはユーファの後ろについている。ユーファは白い巫女のドレス、リルは星の乙女が着る神殿用の紺のドレスを着ていた。
 リルは恥ずかしがってヴェールを深々と被ったが、それがかえって目立ち、リルの顔を見ようと一生懸命目を凝らす人もいた。
 政の会議、拝謁と午前の巫女の仕事の間、リルはユーファと共に過ごした。ユーファが祝福に耐えられない時、そっと手を握って笑顔で励ました。

 ユーファの宮殿の庭で、カイトが剣の素振りをしていた。傷は癒えてロニーやルアトに稽古を付けたり、ルアトと共に神殿の書庫に出入りしていた。レイリアとロニーは神殿の手伝い兼見物に行っていた。
 ユーファが扇子で仰ぎながらテラスへと歩いて来た。かつらは取っていた。昼間は星の乙女は巫女から離れて勉強中だった。
「仕事は終わったのか?」
「ええ、おかげで溜まっていたことは済ませたわ。リルを借りちゃってごめんなさい」
「それはルアトに言うべきじゃないのか」
 そうねぇ、と言いながらテラスの籐椅子に座るユーファ。だいぶ表情も柔らかくなってきて、穏やかな佇まいになった。
「リルはどうした?」
「疲れているみたいで寝ちゃったわ。本当に申し訳ないことをしているわ……」
「今日もまた? 最近ずっとじゃないか」
 心配そうな面持のカイトがユーファの元に歩いてくる。ユーファが俯いた。睫毛が震えていた。
「リルのストレスになってるのね……私一人で頑張れるようにしないと」
 初日は巫女が久しぶりに宮殿を出たとあって、皆にもみくちゃにされ散々だったという。リルは人混みにもまれ、涙目で戻ってきた。その日は相当緊張したらしく、ぐったりしていた。しかし騒ぎが落ち着いた後も、ユーファに付き添った後は部屋で休んでいる。
 部屋にはルアトがいることが多かったが、ユーファは何も言わないでいた。ルアトは神殿の書庫から借りた本を読み、魔術や歴史を勉強している様子だった。リルの傍で本を読んだり、眠るリルを一心に見つめていることもあった。
「ルアトが部屋にいたわよ。二人にしておいていいの」
 タオルで汗を拭いながら歩いてきたカイトは、ユーファの傍の籐椅子に座る。
「いいも悪いも。たぶん二人でいる方が安心するんだろう」
 カイトは籐テーブルの上に置かれた印刷物を手にしながら、ぶっきらぼうに言った。
「そぉ。で、あんたは? リルとうまくいってるのかしら?」
「どうだろうな」
「リルが星の首飾りを持ってたわよ。あれってあんたが贈ったんでしょ? やるじゃない」
「あんなに気高く尊い人に、陳腐なものしか贈れない自分が情けない」
 低く沈んだ声で呟くカイトに、ユーファは何も言えなくなった。
 周りには隠しているが、リルは身に着けて嬉しそうにしていた。カイトをからかおうと思っただけなのに、気まずい沈黙が流れる。
「ねぇ、――ルアトのこと。あなたはどれくらい気付いている?」
 話題を変えようと、一番気になっていたことをユーファは訊いた。
「さあな。俺は王ほどは繊細じゃないからな。はっきりとは……」
 カイトは折りたたまれた印刷物を広げながら曖昧に答える。肯定ととらえ、ユーファは続ける。
「いつまで今のままでいくの? 後戻りはできなくなる」
「と言っても、それを決めるのは二人だろう」
 そうねぇ、とユーファが静かに呟く。
「エドヴァルドさま……か」
 何気なく呟いた言葉に、カイトがちらりと見た。
「あの方は……怖い。何もかも見通されている。それに、エドヴァルドさまは本当は私のことを嫌っている。私、こんな姿になって会うのが怖い」
「王は巫女のことを好いてる様だぞ」
「まっさか……」
「……巫女はいつ王に会ったんだ?」
「そうね、十年は前じゃないけれど、王に即位してすぐが初対面。その時の印象が拭えないの。優しそうなのに、とても怖い。数年前にお会いしたときには、神官は付けない方がいいって言ったわ」
 確かにそうだったわ、とユーファが呟いた。
「即位した頃の王の雰囲気は今とは違うかもしれないな……」
「どういうこと?」
「巫女にもそのうち解ると思う」
 曖昧な返事にムッとするユーファ。
「いつもそうやってはぐらかすんだもの、いやになる。あと、騎士さん、私のこと巫女って言うのはやめてよ。名前で呼んで。私もカイトって呼ぶから」
 そのほうが普通だし、と言いながらユーファはそっぽを向く。頬が赤くなっているのを見て、カイトは口元に笑みを浮かべ、目を細めた。
「そうする」


 月の神殿の扉は開かれ、祈りを捧げる人々で賑わう様になった。ユーファは寝室でかつらをかぶって過ごすことが多くなったので、宮殿にも以前の様に多くの星の乙女が出入りするようになった。
「カイト様、お願いがあるんです」
 モニカに連れられて、警護の兵士たちがカイトの元を訪れた。年若い彼らはカイトを羨望の眼差しで見ていた。
「カイト様のお噂はこの都まで届いています。卓越した剣術と魔術で戦場では圧倒的な強さを誇る王国一の騎士であると。療養中だとは存じています。ですが、もしよろしかったら、私たちに稽古をつけてもらえませんか?」
 ロニーがにこにこしていた。神殿に来てから世話になってばかりで、出来ることをしたいと常々思っていたカイトは快く引き受けた。
「俺で役に立つなら、是非」

 カイトは兵士に稽古をつけに神殿の広場に向かい、一人で何処かに行ったルアトを探すため、リルとレイリアは神殿を探索していた。
 ユーファは一人寝室に入り、静かにドアに鍵を掛けた。
 深呼吸し、ずっと床に置かれたままの箱に手を当てる。エドヴァルド王からの贈り物。
 とうとうロニーに泣きつかれてしまった。
 ――お願いします、箱を開けてください。そうしないと俺、殺されてしまいます。戦で命を落とすならともかく……まだ騎士にもなってないのに……ユーファ様、どうか贈り物を見てください――。
 本当に殺めるわけではないだろうに、王が言えば恐怖し、傷つくことが解らないのだろうか。どうして純粋な彼をいじめるのかとユーファはエドヴァルド王を叱りつけたい気持ちになっていた。
(ロニー君にも泣かれちゃったし、そろそろ開けて中身を見ないと。お礼のお手紙も書かないとだしね……)
 意を決して蓋を少し持ち上げると、隙間から風が溢れでた。ユーファの髪を揺らし、風は部屋をぐるりと流れて、開けてあった窓から外へと抜けていった。柔らかい風がおさまった後で、ゆっくりと蓋を取り去る。
 箱の中には柔らかい臙脂の布に包まれた、一本の杖が入っていた。
(すごい存在感――風の魔力?)
 杖に込められた魔力に、息を呑むユーファ。触れるのを躊躇って、箱の中の杖をじっと見つめていると、布と杖の間に小さな手紙が入っているのが見えた。そっと手に取り、開いてみる。
 ――不穏な風が入り込んだ時には、この杖を手にして頂きたい。この杖は私の心。貴女を必ず護ります――。
 純情な娘だったら瞳を輝かせて喜ぶのだろうか。負い目がある自分にはただただ心に痛い。ユーファは苦笑する。
「エドヴァルド様……一体、何を考えていらっしゃるの?」
 杖を手にしてみる。材質は金属ではないだろうが、ひんやりと冷たかった。
 頬にそっと杖を当て、目を閉じる。ユーファの口元には笑みが浮かんでいた。
「何を考えているんだか、さっぱりわからない。ほんと怖い方だわ」
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