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【Cry*6】6-9、しらせ(後)

2018.02.22 00:00|【Cry*6小説】第6章


6-9、しらせ(後)

 リルの住んでいた村が消えたという。光の魔術師の仕業だろうが、今回は様子が違うらしく、王も困惑しているとのことだった。
「カイト、今から出るの? 明日の朝にしたら?」
「慌ただしくてすまないが、出来るだけ早く俺は現場に向かう。休んで向かっても変わらない気もするが、嫌な予感がするんだ」
「カイト一人で行くの? 誰か一緒の方がいいんじゃないの――?」
 馬を走らせてきた部下を休ませて貰っている間に、カイトは旅の支度を始めた。モニカはカイトたちの馬の準備を頼みに厩舎へと向かい、カイトはロニーに手伝ってもらいながら鎧を身に着ける。ユーファとカイトが話し合う中、リルとレイリアはそっと部屋に入った。
「その……襲われてから時間が経っているんでしょう? 今頃分かるって、ちょっと不穏じゃないの」
 ユーファが腕を組みながら、鎧を身に着けているカイトを睨む。
「どうして今頃分かったのかは知らん。不穏でも何でも、俺が確認に行かないと」
 見知った魔術師の犯行かを確かめにいかねばならない。そして、一番身軽なのは療養中の自分だった。
「そう……なら仕方ないわね」
 これ以上言葉が見つからず、ユーファは口をつぐみ目を伏せる。サーコートを身に纏ったところで、リルがカイトにしがみついた。
「カイト行かないで。罠だから行かないで!」
「心配するな。見に行くだけだから――」
「じゃあ私も一緒に行く! 連れて行って……!」
「リル?」
 必死に言い募るリルの様子に、皆が困惑する。
「俺は大丈夫だ。様子を見てくるだけだ。どうした?」
 俯いていたリルが顔を上げた。顔は青ざめ、瞳は潤み、震える下唇を噛んで、泣くのを必死に堪えている。
「……私のせいで皆を死なせちゃう。おばあちゃんも、村の人も、みんな……今度はカイトも!」
「リルのせいでも魔力のせいでもないわ」
 ユーファの言葉にリルは頭を振る。
「リル……」
 リルから視線を上げると、開いたドアの隙間から部屋を覗くルアトが見えた。カイトと目が合うと、ばつの悪そうな顔をしてドアから離れ、視界から消える。
「俺は死なない。無事に戻るから。リルは皆とここで待っていてくれ」
「不安だから……私も……一緒に……」
 カイトの服を離したリルの手は、彷徨い震えていた。その手を握りたい衝動に駆られたカイトだが、彼女の言葉には頷けない。続きを話すのを制するように、リルの肩にそっと手を置き、リルの後ろに立つレイリアを見た。
「レイリア、リルを頼むぞ」
「わかったわ」
 いつもの調子のレイリアの返事に、緊張の糸が切れたのか、リルはその場に座り込んで肩を震わせる。レイリアがリルを支え、カイトに目配せをした。カイトは剣を腰に着け、無言のままリルの横を通り過ぎて廊下に出た。その後をユーファが追う。
「リルのことは心配しなくて大丈夫。貴方のことが心配で泣いているだけよ」
「……」
 すでに廊下にはルアトの姿はなかった。カイトは立ち止まって、ユーファを見た。
「ユーファ。リルとルアト、レイリアを頼む。俺が戻るまで、皆を護ってほしい」
 真剣な眼差しのカイト。ユーファは腰に手を当てて、カイトを見上げながら微笑んだ。突然のことに動揺してはいるが、皆を落ち着かせようと口元には優しい笑みを含んでいた。
「ええ。でも、私じゃ貴方の代わりにはなれないわ。だから早く無事に帰ってきてよね」

 カイトは単身で村へ、ロニーは部下と共に城へと向かう。カイトは議会の役人と長老へと挨拶をし、月の神殿の警備を強くするようにと進言する。長老も理解を示し、カイトたちの無事を願った。
 厩舎の前で出立の準備を整えた騎士たちに、ルアトが駆けてくるのが見えた。
「あ、ルアトだ」
 騎乗したロニーが吃驚した顔をする。ロニーは馬車の荷台を外し、馬に鞍を付けている。カイトは馬から降りてルアトを迎えた。
「カイトさん、俺も連れて行ってください……!」
 ルアトの想いを知ってか、カイトは困ったような顔で微笑んだ。
「それはできない」
「でも、俺は……」
 リルの傍にいたくない。我儘だった。カイトの顔を見ることが出来ず、足元を見ていると、カイトは諭すように優しい口調で語りかける。
「辛いかもしれないが、リルの傍にいてあげてほしい」
「……でも……」
「リルを助けられるのは、ルアトしかいないんだ。すまないが、彼女を頼む」
 必死に涙を堪えるルアト。顔を上げることも出来ず、カイトの哀願に無言で頷くことしかできなかった。

「村の人はリルに酷いことをしていたんでしょう。そんなに悲しまなくても……」
 床に座ったまま、リルは泣いていた。その傍にレイリアも座り込み慰める。ルアトから聞いた話だと、リルは村で虐げられていたはずだ。そこまで悲しむ理由がレイリアには判らなかった。
「最近は、ずっと嫌なことばかりだった。でも、昔は楽しく住んでいたこともあったの。おばあちゃんがいた頃とか。ずっと忘れていたのに、思い出しちゃって……」
「うん」
「昔は、村の子と、楽しく遊んでいたこともあったの。おばあちゃんがいなくなった頃は、心配してくれる人だっていたのに、心が冷えてしまって、無愛想で、うまく話せなかった。私だって悪かったのに、全部そのままで。挨拶もしないで、お礼もできてないままで……もう、会えないなんて」
「リル……」
 床に泣き崩れるリルの背をレイリアが擦った。
「私がいたせいで、皆が死んじゃったんだ……」
「それは違うわ。リルのせいじゃない」
 きっぱりと否定するレイリアの言葉に、リルは頭を振った。リルは両手を握りしめ震えている。
「リル? 大丈夫? 寒いの?」
「……苦しいの、淋しい……こわい……怖いの……」
 リルの手を見つめながら、レイリアはルアトを呼ぶことを思いついた。――何かあると、二人は一緒にいて、いつも手を握っていた。
「ルアト、呼んで来ようか?」
 立ち上がりかけたレイリアの手をリルが無言で掴んだ。
「どうしたの?」
「ルアトは自分のせいだって苦しんでいるから……呼ばないでほしい。悪いのは、呪いを追ってくることを想定しなかった私なのに。何もしなかった私が、悪いのに……」
 自分を責めて後悔するリルを見て、レイリアは溜め息を吐きそうになる。
 湖の神殿でリルたちに助けられた時のことを思い出した。姉たちには邪険にされ、神殿にいた人すべてがレイリアを愛してくれたわけではなかった。それでも神殿が燃えた時は、心細くて哀しかった。
(私も湖の神殿でいろいろなことが在ったっけ……。いいことと悪いこと、どっちもあって、多分悪いことの方が多かった。ずっと夢見ていた私だって、神殿が無くなった時は辛かったもの……)
 出会ったばかりの雨の夜、レイリアは雨が怖いとリルに縋った――あの時の人見知りのリルは、馴れ馴れしい自分の行動に相当緊張しただろう。無理強いしてしまったと、レイリアは今になって深く反省する。それでも、リルはレイリアを受け止めてくれた。
 レイリアは深呼吸をして心を落ち着けた。静かにリルを見つめた。
「あの村で、リルはベアトリスおばあさまがいらした頃から、長い時間を過ごしてきて、いろんなことがあったのよね。楽しいこと、つらいこと……。どうしてかこういう時はいい思い出が浮かんでくるの。悲しいのは仕方ないわ。泣きたいだけ、泣いて」
 いつもより穏やかな声音のレイリア。吃驚したリルが顔を上げると、レイリアは切なさを帯びた透明な微笑みを浮かべていた。
「悲しいだけ悲しんでいいの。私は大事な人を失った時、悲しさすらも忘れたら、自分すら見失っちゃった。リルは、自分の気持ちに素直になって欲しい。そして、リルでいて。リルが自分を責めるのは嫌だけれど、そういう気持ちになるのは解るから、我慢する。私は何もできないけれど、リルの傍にいるから」
 レイリアの言葉に、リルは子どもの様に声を上げて泣き出した。レイリアはリルを抱きしめた。

 カイトが神殿を去り、ユーファの表情が硬くなり、月の神殿の雰囲気が暗くなった。黎明の神官が突如消え、月の巫女の不調があった後で、心細かったのだろう。皆が無意識に彼を頼りにしていた。
(ごめん。俺がリルの村に行ったせいで、村が襲われたんだ……俺が行かなければ……いかなければ……)
 陽が傾き、部屋に闇が漂い始める。夕闇に包まれながらルアトはベッドに寝転んでいた。今はカイトたちと同室だったので、二人が旅立った今は独りだった。
 事の始まりは呪われた自分が村に迷い込んだことだ。光の魔術師が自分の掛けた呪いを追えないわけがない。なのに、リルは自分自身を責めている。ルアトが傍にいると村のことを思い出させ、彼女を苦しめてしまう。だから少しでも離れていようと思った。
 涙を堪えて横になっていると、うっすらと眠気に包まれる。寝て忘れてしまえたらと、ルアトは眠気に身を任せる。
(そこに、誰がいるんだろう?)
 現実と夢との間、誰かが傍に立っている気配がした。誰だろうか? 夢の中のルアトが振り向くと、冥い影が漂っていた。目を凝らしても影の正体は見えないが、動かず静かに佇んでいる。夢の中の自分はその影に何の恐怖も感じなかったので、じっとその影を見つめていた。
 うとうとしていると、現実の自分の手を誰かがそっと握った。
(――リル?)
 ルアトは目を開けてぎょっとする。自分の手を握っていたのはユーファだった。
「ど……、どうして俺の手を握っているんですか?」
「この前のお返しよ」
 慌てて手を離して、ぶっきらぼうに言い放つユーファ。目元をこすりながら、ルアトは不機嫌な顔をして起き上がった。ユーファはかつらは取っていたが、巫女の衣装のままでベッドに腰掛けている。
「あの時はわざとしたわけじゃ……」
 苛立つルアトの前で、ユーファは首を振って項垂れた。
「解ってる。わかっているのに、ごめんなさい。違うの。……落ち着かなくて、苦しくて。でもリルはそれどころじゃないし、あなたの雰囲気が似てるからと……思って……それで」
 ユーファの顔は青ざめ、血の気がなかった。呼吸は浅く、片手で胸を押さえている。ユーファは闇の魔力を欲しがっているのだ。ルアトでは何もできないが、彼女の気持ちが落ち着くならばと手を差し出す。
「俺の手でよければ握ってていいですよ」
「そう言われるのは悔しいわ……」
 ルアトは戸惑っているユーファの手を握る。冷たく、柔らかく華奢な手だった。思っていたよりユーファの手の節は硬かった。
「苦労を知っている手だね。結構働き者でしょ」
「そりゃまぁ、力仕事も炊事もしていたから……」
 頬を赤らめて狼狽えるユーファを見て、ルアトはつい吹き出してしまった。
「ユーファって、初心だね。本当に男性経験がないんだ」
「そういうこと言わないでよ。あなたみたいに遊んだことがないのよ!」
 涙目になったユーファが睨んだ。文句を言った後、ベッドに顔を埋め、そのままの格好で「ごめんなさい」と謝った。ユーファは手を離して逃げようとしたが、ルアトは彼女の手をしっかりと掴んだまま俯いていた。
「……ルアト?」
「酷いこと言ってごめん。俺、皆に酷いことばかりしているんだ。……今頃になって、昔のことを後悔しているんだ。今更、どうにもならないことなのに……」
 少しだけベッドから顔を上げ、ユーファがルアトを見上げる。その俯く顔は泣きそうだった。元気づける様に、ルアトの手を強く握る。
「過ぎたことだもの、後悔ばかりじゃどうにもならない。乗り越えて、変わっていくしかないわ。自分の為に」

 カイトは風の魔術で馬を早く走らせ、村があった場所へと辿り着いた。
 眼前には森が広がり、村があった痕跡が全くない。人の亡骸も、家の残骸も、破片一つ落ちていなかった。
「これは一体、どういうことだ?」
 カイトは馬から降り、辺りを見回す。話で聞いた通り、村は消えていた。
 草木も自然に生え違和感もない。村があったことすら気付かれず、時間が経ったのだろう。光の魔力の気配に気付いた偵察隊の報告で、ようやく異変に気付いた。
 カイトが心を落ち着け、目を閉じた。至る所に沢山の魔力の痕跡があった。微かだが、彼女の魔力も感じた。
 しかし、こんな手間がかかることをする人間ではなかった。彼女はもっとわかりやすく、単純で、大胆で素直だ。
「――ようやく出て来たか。隻眼の騎士」
 思案するカイトの背後から声が掛かるのと同時に、カイトは剣を抜きながら振り向いた。
「お前は……四天王……」
 カイトの剣の刃先には、男が一人立っていた。
 神々しいほどの光を身に纏っているが、その光に似合わないほど冷酷さを体から滲ませている。銀髪と白のローブが風に靡く。感情が読み取れない勿忘草色の瞳が、カイトを見つめる。
 ――カレヴィだった。
「お前も馬鹿だな」
 身も蓋もないカレヴィの罵りに、剣を構えたカイトはムッとした。目の前の男は鎧も纏わず隙だらけだが、光の魔術で護られている。容易くは近づけない。
「罠だと判っていただろうに。真面目に出てくるもんだな」
「そうしないとさらに悪いことが起きるだろうに。――お前がやったのか?」
 不機嫌そうに言い放つカレヴィを見て、カイトは構えた剣を下ろし、低い声で問い掛ける。
「あの馬鹿がやったんだろう。厳密に言うとあの馬鹿の馬鹿真面目な部下、だろうな。俺は何もしていない。俺は、失せものを探しに来ただけだ」
 カレヴィは腕を組みながら、カイトの問いにつまらなそうに答えた。
「失せものだと?」
「そうだ。お前の気配がないと、あの馬鹿が騒いでいたからな」
 カイトは返答に困る。カイトの気配が消え、彼女が気に掛けていたのだろう。だが、彼女が呪いに魔力を使い続けていることは変わらず、死んでいないことは判っていたはずだ。カレヴィが動いたのだろうか。
 腕を組んだまま、カレヴィは腰の剣に触れることもなく静かに佇んでいた。戦う気がないらしい。
「お前は今まで闇の女と一緒にいたのだろう?」
 カイトは無言で、剣の柄を握りしめてカレヴィを見ていた。 
「闇がお前や……あの馬鹿が呪った男を隠しているのだろうな? たぶん無意識に。お前の気配は判りやすい。気配を辿れば、その先に闇の女がいるのだろう……」
 風の魔力に光の呪い。そして知った人間の気配は追いやすいのだろう。リルの魔力――闇の魔力が結界を作ることに気付かれていた。カイトは平静を装って、カレヴィを睨む。
「どうして闇の魔力を狙う? 魔力を持っているだけで普通の娘だ。見逃すことは出来ないのか? お前たちにとって、脅威なのか?」
 目の前のカレヴィの様子を見て、カイトが首を傾げる。腕を組んだまま、カレヴィが目線をさ迷わせている。考え込んでいるかのような仕草をしている。
「俺の……脅威ではないが、目障りだ」
「誰の目障りなんだ?」
「……」
「闇が憎いのか? お前の、精霊の頃の記憶なのか?」
 カイトの問いに、カレヴィは無言を貫いた。無表情のカレヴィだが、普段より苛立ちと焦りが見えた。
「――先に行かせてもらう」
「待て!」
 咄嗟にカイトが風の魔術の刃を放つと、カレヴィはその場から姿を消した。風の刃は地面を抉った。移動の魔術を使ったのだろう。
 カイトは剣を納めながら、急いで自分の馬に跨り、手綱を握る。
(リルたちが危ない……! 早く……行かないと!)

 暖炉の前のソファに横たり、リルは脱力して過ごしていた。ルアトは傍の床に座り、彼女の手を握っている。ユーファが巫女の公務でいない間はレイリアかルアトがリルの傍にいた。思いつめた表情を浮かべるリルを心配していた。
「カイト、どのあたりにいるのかな……」
 天井を見上げながら、リルが独り言の様に呟く。
「そろそろお城かな。ロニーとは別に行くって言ってたけれど。カイトさんは風の魔術で馬を早く走らせることができるって言っていたよ。すぐ戻るさ。大丈夫、無事だよ」
「……そうだといいけれど」
「そうだって」
 ここ数日、同じことの繰り返しだ。彼女は同じ問いを口にして、自分を責め、自分の存在を疎んじる。皆でリルの気を逸らそうと必死だった。リルが笑ってくれないとルアトの心もふさぐ。気分転換をさせようと、ルアトはあることを思い出した。
「ねぇ、リル。お菓子を作ろうよ」
「え?」
 目を丸くしたリルがまじまじとルアトを見つめる。何を言っているのか解らない、そんな顔だ。
「ブリッタさんに教えてもらっていたでしょ? 俺と一緒に作ろう。で、カイトさんが帰ってきたらお茶会をするんだよ」
「そ、そんな気分じゃないし……。心配でそれどころじゃ……そ、それに、何処で作るの? ルアト、お菓子作ったことあるの?」
 焦って起き上がり、両手を振って慌てるリルを見て、ルアトは上手くいったと心の中でガッツポーズを取った。
「俺も少しは知ってるよ。本を読んだし、見ていたし。リルが教えてくれたら出来るよ。お茶会のやり方も教えてもらったでしょ? 気分転換に、やろうよ。準備しよう」
「ほ、本読んだの? み、見たって、見たってどこで?」
「どこだろうね……そんなことより、やろうよ」
 カイトの屋敷にいた時に、親しくなった侍女が菓子を作るのを見ていたのだが。それが役に立つことになるとはルアトも思わなかった。話し声に呼び寄せられたのか、レイリアが居間のドアを開けてひょっこりと顔を出した。
「何々? 二人で何盛り上がっちゃってるのよぉ」
「レイリアもリルの作ったお菓子でお茶会したいと思わない?」
 ルアトの提案を聞いたレイリアが目を輝かせ、二人の傍に走り寄った。――最近のレイリアは、リルに付き合い、暗い表情で二人黙々と編み物をしてばかりだ。
「何それすっごく楽しそう! 私、応援するわ。あと、味見する!」
「ちょっと、レイリア……私はそんな気分じゃ……」
 頬を膨らませたレイリアが、リルの肩をぐいと掴んでリルの顔を正面から見た。
「リルは夜は寝ないし食べないしで昼寝はするしで、そんなんじゃカイトが戻る前に病気になるわよぉ! カイトが悲しんじゃうことはさせないの! さっさと気分転換にお茶会の予行演習をするのよ!」
「え、えええ……」
 レイリアがリルの肩を掴んで揺さぶっていると、巫女の仕事を終えたユーファとモニカが居間に戻ってくる。
「お茶会ですか? 楽しそうですね」
 ふんわりと微笑むモニカに、頬を赤くしたレイリアが抱きついた。
「モニモニはロニーの好物を知りたい? 作りたい? 作ってプレゼントしてみるぅ?」
「え、え。そんな、ロニー様はお友達です……」
「またまたぁ」
 恥じらって顔を赤くするモニカ。レイリアがユーファに目で合図する。ユーファも察したようで、リルの肩に手を置いて微笑んだ。
「リル、暗い顔して待っていても、カイトは喜ばないわ。楽しいこと、考えるのも大事なのよ」
 ユーファに言われて、リルは唇を尖らせたまま頷いた。その頬には赤味が差している。ユーファがルアトに笑顔を向けた。
「厨房に行きましょう。エプロンを借りてこようかしらね」
 ユーファに引っ張られてリルが立ち上がった。ユーファの優しい眼差しに、リルは弱々しい笑みを浮かべた。

 ――その時、神殿に、衝撃があった。
 空気が振動したわけでもない、地が揺れたわけでもないが、激しい衝撃を感じ、立っていられずに身を屈めた。都、神殿にいる人間が感じただろう。
「これは――」
 リルとユーファが抱き合うようにして立ちすくむ。モニカはその場に尻もちをつき、突然の痛みにルアトは右手を押さえた。
「モニモニ、どうしたの?」
「怖ろしい……気配が……」
 モニカに伸し掛かるように倒れたレイリアの前で、モニカが青ざめて震えていた。レイリアだけは何も感じておらず、モニカの様子を見て首を傾げている。
「おそろしい気配って?」
 月の都の前に現れた気配。――それは殺意の塊だった。丁寧にも都の正面から侵入しようとしている。この場所に踏み込まれてはいけない。
「強い、光。光が、刺そうとしている、殺そうとしている……? 私を?」
「リル、大丈夫よ。そんなことさせない!」
 呆然としたまま呟くリルを、ユーファが抱き寄せた。
(呪いはなくなったのに……右手が痛い。心がぞわそわする)
 ルアトは右手に突き刺すような痛みを感じていた。そして背筋に、心に、寒気を感じた。
 レイリアはきょとんとし、リルは胸元を押さえ、ユーファが険しい表情を浮かべながら窓の外を睨んでいた。
「最悪なものが、来たわね。――このタイミングで」
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