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【Cry*6】7-5、蒼海の瞳の父

2018.08.31 00:00|【Cry*6小説】第7章


7-5、蒼海の瞳の父

「王様って……どんな方なの? 怖い方?」
 青空が広がった穏やかな昼下がり。アウローラ国の宮殿内の魔術師たちは思い思いに過ごす。新国王に従う動きも見られ、国内では争いは続いているが、その喧騒は宮殿には届かなくなっていた。
 幼い四人も陽光が届く庭で、のどかな時間を過ごす。手入れされかけの庭には野草の花も咲いていた。アニタは花を摘みながらフローラを見た。
 宮殿で過ごしてだいぶ経ったが、幼いアニタは彼等の養父に会えずにいた。アニタの問いに、「うーん」と唸って、フローラは空を見上げる。
 魔力を持つだけで迫害されることに憤り、アウローラ国の役人と共謀して国を乗っ取ったという。新国王として、魔術師として、様々な場所へと出向き、争いを収めている。王が不在の間、エーリスが代理として、大人たちの会議に出席していた。
「父さんは古い国を壊して、そりゃあもうたくさんの人を殺したけれど、怖くはないのよ。うん、全然怖くないの。女癖が悪くて、気の弱いおっさんなの」
「え……そんな、人なの?」
 刃物を持っただらしない中年男性を思い浮かべ、アニタは青ざめた。父として慕えるだろうか。怯えるアニタの顔を見て、近くの木陰で薬草をより分けていたエーリスが慌てる。
「フローラ、父さんのことを酷く言わないでくれよ。確かにいつもは気が弱くて頼りないけれど、知識は豊富でいざというときには頼りになるんだよ。昔は、学者だったらしいんだ。性格は……ちょっと抜けていて天然なのかな。年の割にハンサムだからもてると言うか……淋しがり屋で、女性の知り合いが多いだけだよ」
「それってヒモだったんだろ」
 アニタの傍に寝転んだカレヴィが、葉っぱを咥えながら太陽を睨んでいる。美味しいのだろうかと、アニタも近くの葉を摘んで、カレヴィの真似をして咥えてみる。
「カレヴィもそういうことを言うのはやめるんだ。親しくなった女性のつてで役人と知り合って、今回の反乱を起こすきっかけが出来たんだから。――アニタはカレヴィに魔力をもらっただろう? 僕たちは皆、父さんに祝福されて魔力をもらって、ファルセーダになったんだよ。僕たちは人に魔力をあげる方法……ファルセーダにする方法は父さんに教えてもらったんだよ。カレヴィは最初から自分で出来るだろうけれどね」
 エーリスやフローラからファルセーダの説明は受けた。アニタも瞳の色が変わっていたし、たぶん、アニタが使わないだけで、既に光の魔力も持っているのだろう。
「兄様たちは、祝福……出来なかったの?」
 アニタの問いにエーリスは残念そうな様子もなく、涼しげな笑顔で頷いた。――視界の隅に、フローラがむくれているのが見えたが。
「僕たちは魔力が足りなかったんだ。でも、カレヴィは精霊の化身だから出来るんだ」
 彼等の養父も、カレヴィと同じように精霊の化身なのだろうか。むくりと起き上がったカレヴィを見ながら、アニタが考え込む。
 葉を咥えながら、頬に手を当てながらアニタが悩んでいると、カレヴィが傍にきて、アニタの横に座った。
「そんなもん咥えるな。お前には似合わない」
 カレヴィはアニタの口から乱暴に葉を取った。そして自分が咥え、そのままアニタの膝に頭を載せ、昼寝を始めた。フローラが出来上がった花の冠を引き千切った。
「あいつったら、アニタの膝枕を……!」


 それから数日後に、アニタは彼らの養父・ヴァリスに会うことになった。朝食後、本を読んでいるアニタの部屋へフローラが駆け込んで来る。
「アニタ! 父様が帰って来たわよぉ!」
「本当? どうしよう、お洋服……髪を結わないと……」
「そのままでいいの! ほら、早く! アニタも、カレヴィも、早く早く……」
 アニタは慌てて髪を整えようとするが、フローラに急かされてしまう。フローラの無言の圧力に、ソファに寝転んでいたカレヴィが、しぶしぶ立ち上がる。アニタを抱き上げて、部屋を出た。
 魔術師棟の一階にある大広間。三人をエーリスが迎えた。エーリスの奥、窓の傍に佇んでいる人影が見えた。窓からの陽光が眩しくて、姿が見えなかった。
 広間の中央まで進んだところで、フローラが腰に手を当て偉そうに言った。
「父様! アニタを連れて来たわよ!」
 カレヴィがアニタを床に下ろす。慌ててドレスの裾を直して、アニタは彼らの養父を見た。エーリスが穏やかにアニタに視線を向けた。
「俺たちの養い親であり、アウローラ国の国王のヴァリスだよ」
「王様……ヴァリス様……」
 眩しさに目を細めながら、アニタは前に立つヴァリスを見た。ヴァリスはフローラの傲慢な態度を全く気にせずに、笑顔を浮かべている。
 新しいアウローラ国を立ち上げた人間。年は四十歳を過ぎた頃か。背は高く、細身の男性。青みがかった銀の髪、深い青の瞳。穏やかな佇まいがエーリスに似ていると思った。同じような形のローブを纏っているからかもしれない。ただ、彼から放たれる魔力は得体が知れなかった。感じる魔力は一つではない。
 彼が手にする杖からも不思議な力が溢れていた。銀色の杖の先端には装飾が施され、青い石が付いている。魔力が満ちているのか、石は脈打つように輝きを放つ。
 整った顔立ちのヴァリスの穏やかな笑みに、アニタは見とれてしまう。背の高いヴァリスはアニタの傍に来て膝をつき、アニタの顔を覗いて微笑んだ。
「初めまして。君がアニタか。とても可愛らしくて美しい娘さんだね。……気高い炎を、持っているんだね」
 傍に来て親しく接してくれるとは思わなかったので、アニタは吃驚して言葉が出てこなかった。呆然と穏やかな青い瞳を見つめる。青い瞳は凪いだ湖を連想させた。――岸がない場所、未だ見たことはないが「海」という場所なのかもしれない。
 だが、彼からは水らしき魔力は強く感じない。
「なぁ、ヴァリス。こいつが炎の乙女の化身か判るか?」
「父様判る?」
 カレヴィとフローラが目を輝かせる中、ヴァリスは静かにアニタを見つめる。ヴァリスの真っ直ぐな視線に、アニタはだんだん恥ずかしさを感じ緊張してきた。
「……炎の魔力が強いが、とても不安定だね。少し時間をくれないかい?」 
 緊張に息苦しさを感じてアニタが強張ると同時に、ヴァリスはそっとアニタから離れた。
「時間が掛かるのかよ……」
 深呼吸するアニタの横では、カレヴィとフローラがあからさまに不機嫌そうな顔をしている。
「アニタ、自分の家だと思ってくつろいでおくれ。――カレヴィ、少しは城にいなさい。役人たちがお前の行動を心配しているよ」
「やなこった」
 手を頭の後ろで組みながらそっぽを向くカレヴィ。ヴァリスは呆れながらも穏やかにカレヴィを諭した。
「少しはお前も頭を使って勉強をしなさい。アニタが疲れた顔をしているじゃないか。自分勝手に連れ歩いているんだろう? 彼女の気持ちが落ち着けば、魔力も安定するだろうから、ここでしばらくアニタと一緒に過ごしなさい」


 ヴァリスはフローラたちだけではなく若い魔術師たちにも魔術の使い方を教え、稽古をつけてもいた。
 アニタは人前で魔術を使いたがらなかったので、宮殿から離れて建つ古いダンス用の大広間に結界を張り、簡易の練習場所を設えた。ヴァリスの周りでフローラがちょこまかと邪魔をする。
「父様ったら雑ねぇ~。私たち壊しちゃうわよぉ? 父様ダンスしないのぉ?」
「雑なフローラに言われたくないなぁ。私はダンスはしないよ。フローラがダンスをした方がいいんじゃないかい?」
 邪魔されることが嬉しいのか、ヴァリスは笑顔のままだった。楽し気な父の視線の先で、フローラが頬を膨らませる。
「ダンスなんててしたくないわ。私は戦いたい。愛し合う人とぉ、剣と剣でぶつかり合うんだからぁ!」
 胸元で手を組んでうっとりするフローラにエーリスとアニタが顔を見合わせた。
「兄様、フローラこわい……」
「……根本的に間違ってる……」
 カレヴィが剣を鞘ごと床に放り、挑戦的な輝きを帯びた瞳でフローラを見た。
「おい! このホール、ぶっ壊せるか試そうぜ!」
「おう、望むところよ!」
 カレヴィとフローラが好き勝手に魔術を放って遊びだした。
 そんな中、ヴァリスとエーリスがアニタに基礎を教えた。数日でアニタは魔術を使いだし、一月経たないうちに炎の魔術を使いこなせるようになる。しかし、ほんの一瞬だけ、アニタが気を抜いた時、魔力を抑えることが出来ずに建物を燃やしてしまった。子どもたちは外へ逃げ、ヴァリスが水の魔術で炎を消す。音を立てて崩れ落ちる建物を、カレヴィは呆然と見ていた。
「怪我はないかい?」
「ごっ、ごめんなさい……私……こんなこと……」
 口元に手を当て、アニタは青ざめていた。その震える背を、ヴァリスは優しく擦って落ち着かせようとする。
「アニタが無事ならいいんだ」
「そうそう、こんな建物古かったんだし壊れたって仕方ないのよぉ、ね?」
 泣きながら謝るアニタを、エーリスとフローラが慰めた。立ち上がったヴァリスが腕を組み、考え込む。
「魔力は高いのに、それを制御するのが難しいのか……」
 父を見上げたフローラが首を傾げた。
「いつもは魔力を感じないくらいなのにねぇ」
「炎の様に魔力も揺らぐのかもしれない」
「それって、相手を騙すのに使えそうよねぇ」
 エーリスがハンカチを出し、泣き続けるアニタの涙を拭ってあげた。カレヴィが皆の輪に入ってくる。
「――馬鹿が騙すのは無理じゃねぇ?」
「お前に言われたくないわ!」
 カレヴィとフローラが言い合いを始めるかと思ったら、二人は黙り込み、同時にアニタを見た。
「お前、強いんだな……」
「アニタったらすごく強いのね。いつかアニタと戦ってみたい!」
 フローラとカレヴィの目は期待に輝いている。二人とも強い人間がいたら戦いを挑みたいのだ……しかし。
「怖い……戦いたくない……」
 アニタはエーリスの背に隠れると、二人はどちらが強いかで口喧嘩をし始めた。カレヴィの横顔を見つめながらふと思った。
(カレヴィと戦いたくはない……と思う。でも、もし、もしも戦ったらどんな気持ちになるの……?)


 アニタは寝台に身を横たえながら、左手に包帯を巻いていた。包帯には魔力を込めていた。
「これで大丈夫なはず……」
 か細い呟きは震えていた。体は鉛の様に重く、手足は痺れ、力が入らない。起き上がるのも億劫で、カレヴィと離れてから羽根布団に埋もれたままだった。青白い顔でアニタは微笑んだ。
(もっともっと、頑張らないと……だって、私……)
 想いとは裏腹に、アニタの意識はほどけていく。意識が暗がりに堕ちる感覚に、アニタは瞼を閉じた。また夢の続きを見るのだろうか? 昔の夢――。カレヴィが笑い、怒った頃のこと。フローラが泣いていた頃、エーリスに頼れる存在があった頃。
 頬を涙が伝った。
 苦しい記憶に繋がってしまうが、あの時は皆が夢見ていた幸せがあったと、アニタは今でも思っている。もう手にすることは出来ないものだった。涙を溢しながらも、アニタの口元には笑みが浮かんでいた。


「父さん。会議の予定が入っているよ。もうすぐ行かないと」
 お茶の時間が終る頃、エーリスが横に座ったヴァリスに声を掛ける。
「そうだ、そうだったね。……ありがとう、エーリス。お前も付いてくるかい?」
 慌てるヴァリスを安心させるように、準備した書類を見せて頷くエーリス。共に部屋を出る。
 ヴァリスは時折物事を忘れがちで、エーリスが助け船を出していた。エーリスとヴァリスの会話はアニタにとって「理想の親子の会話」だった。今までのアニタの生活の中に無かったもの。労わりと無償の優しさが込められたエーリスの言葉、ヴァリスの返事も穏やかで、聞いているのが心地良かった。
 ヴァリスと共に、エーリスが何処かに出掛けることもあった。その時のフローラは、カレヴィの言動を無視してアニタを独占した。エーリス不在時のフローラの機嫌はすこぶる悪かったので、カレヴィも文句を言わずにいた。
 会議や戦いに出向く以外、宮殿に滞在するときはヴァリスは魔術を研究し、時間があるときは子どもたちと共に過ごした。どんなにフローラにからかわれても、カレヴィに憎まれ口をたたかれても、ヴァリスは穏やかな笑顔で受け流していた。

 それは小さな諍いだった。
 四人とヴァリスはテーブルを囲み、和やかに食事をしていた。給仕が甲斐甲斐しく料理を運び歩く。食卓でヴァリスがアニタを見つめていた。ヴァリスの視線に気付くと、アニタは微笑んだ。
「炎の魔力……尊い力だ。私も祝福されたいものだな……」
 心の声が漏れ出たような呟きに、エーリスが目を瞬かせた。フローラが首を傾げて不思議そうに父を見る。
「――お父様もアニタの魔力が欲しいの?」
「美しい炎だからね、誰だってそう思うだろう?」
 間を置かずにフローラは何度も頷いた。アニタ以外の三人は、ヴァリスは闇と炎の魔力だけは持っていないことを知っている。ヴァリスの言葉に、カレヴィが過敏に反応した。
「俺のものだ。ヴァリスには渡さねーよ!」
 カレヴィは手にしていたナイフとフォークを乱暴に置く。テーブルに両手を付き、鋭い視線でヴァリスを睨む。グラスが倒れ、給仕をしている魔術師たちが慌てた。
「カレヴィはまたそんなことを言う。冗談だよ。……お前はもう炎の魔力をもらったのか?」
「どうかなー。お前には教えねーよ。さー行こうぜ」
 食事を済ませたカレヴィは、そのまま乱暴に立ち上がり、横に座ったアニタに声を掛けた。
「カレヴィ。まだお食事中でしょ。ちゃんと挨拶をしてから席を立たないと……」
「お前は俺の母ちゃんかよ! ……とっとと行くぞ」
 食事中のアニタを無理矢理連れて、カレヴィが食堂を去る。フォークとナイフを握りしめたフローラが頬を膨らました。
「ったく、カレヴィったら、強いからってむかつく! 行儀も悪いし」
 その様子も行儀が悪いのだが。エーリスはフローラを注意して刺激するのは止め、そっとヴァリスを見ていた。
「純粋で尊い炎。……カレヴィにはもったいない子だ……」


 役人たちと会合を持つのは議事堂のある建物だった。魔術師と役人たちはお互いの建物内には出入りしない約束だった。役人とは議事堂で会う以外、庭で立ち話をした。ヴァリスと話しながら歩く役人が、花を摘むアニタを見つけ、足を止めた。
「あの娘は?」
 一人で花を摘んでいたアニタは大人たちの視線が自分に注がれていることに気付き、ゆっくりと歩いて彼らの前で丁寧に頭を下げた。
「紹介します。新しい私の子どもです。聡い、優しい子で、フローラの妹になります」
 ヴァリスが誇らしげに紹介するのを聞いて、アニタの胸はこそばゆくなった。
「初めまして、アニタと申します」
「初めまして、君が新しく来た炎の魔力を持つ娘さんか……。お姉さんとは違って……とても可憐で可愛いお嬢さんだ」
 役人に頭を撫でられ、困惑しつつもアニタは微笑んだ。
 彼等の魔力は高くはなく、以前のアウローラ国に不満があった下級の役人だった。
 ヴァリスたちは、魔術師の救済を条件に不遇な役人たちの下剋上を手助けした。魔術師への偏見は、手を組んだ彼等の中にも未だにある。
 強力な魔力を持ち、皆の指揮を執るヴァリスには人気があったので、表向きはヴァリスを国王としているが、政は役人たちが仕切っている。彼等はヴァリスが連れて来たエーリスとフローラには敬意を払ったが、後から来たのに魔力が強く、傲慢な態度のカレヴィを疎んでいた。


 年上の魔術師から流行のファッションが載った本を借りたフローラ。迷わずエーリスの部屋に入り込み、寝台に寝転んで本を読んでいた。自室に戻ったエーリスは、そのだらけた姿を見て苦笑する。
「フローラ、行儀が悪いよ。ここは私の部屋だよ」
「ぶう。前みたいに一緒にいたいぃ」
 眉間にしわを寄せながら頬を膨らませるフローラに、エーリスは声を出して笑ってしまった。
「エーリスが笑ったぁ」
 嬉しそうに転がるフローラ。その横にエーリスは腰掛けた。
「ねぇ、フローラ。一つお願いがあるんだ。アニタに気を付けてほしいんだ」
「気を付けるって、何を?」
 エーリスの声音は真剣だった。起き上がったフローラは怪訝な表情を浮かべる。
「ちょっと大人たちの態度が気になってね。カレヴィにも話したんだけれど、聞いてもらえなかった。役人たちがアニタに興味を持っているみたいだ。アニタを一人にならないようにして欲しい」
 エーリスは役人たちが馴れ馴れしくアニタに接するのが気になっていた。フローラは魔力を持たない彼等を邪険にしていたが、アニタは役人たちにも変わらない笑顔で接していた。
 無邪気に微笑む姿が彼等の警戒を解き、優しい声は穏やかに響く。か細い彼女の従順な態度が、彼らの支配欲を掻き立てるようだ。アニタには人を――特に男性を惹きつける魅力があった――闇夜の篝火のように。
 カレヴィは話を訊かず、アニタを連れて何処かに姿を消してしまった。フローラは思い当たる節があり、エーリスの言葉に同意する。
「そうね! あいつらにはアニタは近づけないようにしないと! ただのスケベなおやじたちだもの。カレヴィがアニタを貸してくれたらさぁ、ずっとずっと一緒にいるのにぃ」
 フローラが頬を膨らませて、再び寝台に寝転がった。カレヴィと同じようなフローラの態度にエーリスは呆れ果てる。
「アニタは物じゃないんだから……」
「カレヴィは自分の物みたいに連れまわしてるじゃないのぉ」
「そうだね……あれは彼なりの愛情表現かもしれないな」
 アニタの意見を訊かず、カレヴィの勝手気ままにアニタを連れまわしている。それでもアニタは嬉しそうだった。
「アニタはあんなでも嬉しそうだし、世話を焼いているのかなぁ……あー! 私も世話妬きたいよぉ」


 エーリスの心配事は杞憂に終わるかの様に、穏やかな時間が過ぎていった。
 宮殿にある図書館で、四人が真面目に勉強をしていると、フローラが目を輝かせ、顔を上げた。
「私たち、四天王ってことにしようよぉ!」
 静かな図書館にフローラの高い声が響いた。突然の大声にエーリスが本を取り落とす。驚いたアニタは小さな悲鳴を上げ、その声にカレヴィが椅子から落ちそうになる。
「お前、何言ってんだよ?」
 カレヴィが呆れた眼差しで睨む。カレヴィの膝の上のアニタは歴史書を広げながら首を傾げる。
「四人とも強いじゃない? 結構有名になって来たでしょう? だから偉そうな肩書が欲しいの」
「私は強くない……」
 カレヴィのシャツを掴んで縮こまるアニタ。腰に手を当てたフローラは、その顔を覗き込む。
「アニタも入れるわよう。アニタは本当は強いでしょう。ねぇ、エーリス。四天王名乗ろうよぉ。名乗って箔着けようよぉ」
 エーリスは苦笑する。まんざらでもない表情のカレヴィと怯えるアニタを見る。
「自分たちで決めるのも変だけれど、まあいいんじゃないかな。そこそこ戦って僕たちの顔も知れてきているしね」
 フローラの思い付きで、「白光の四天王」の名がついた。アニタ以外の三人はその名が知れるほどの殺戮を繰り広げる。

 開いた窓から爽やかな風が吹き込んでいた。アニタは午後の時間を一人で楽しんでいた。
 ヴァリスからの指示を受けて、エーリスは城下へと足を運んで作業をしていた。アウローラ国とは関係ない仕事、だとエーリスは話していた。
 手元の布にぷつりぷつりと針を刺していく。
(兄様はお仕事。いつも忙しそう)
 フローラは魔力を奪いに戦いに赴いている。ファルセーダにするための魔力を人々から奪っているのだろう。それは命をも奪うことだった。
 一目一目丁寧に縫い進める。
(フローラは……また戦っている。一緒に行かなくなって良かった)
 フローラに同行しなくて良くなり、アニタは安堵していた。部屋で一人、鼻歌をうたいながら刺繍をしていると、ドアがノックされ、ヴァリスが部屋に入って来た。
「アニタ、ちょっといいかい?」
 父が微笑んでいる。珍しく杖を手にしていなかった。
「お父様。どうなさったの?」
 ヴァリスが部屋を訪れることは珍しかった。姿を見るだけで突っかかるカレヴィがいるからだろう。
「君が炎の乙女の化身かどうか、見る準備が整ったんだよ」
「見るの?」
 傍にカレヴィもおらず、どう答えたらいいのかと、アニタは手元に視線を落とした。
「心配はいらないよ。すぐ終わるし、カレヴィも来るだろうからね」

「ったく、ここには何もねぇじゃんか!」
 多くの死体が転がる村へと来たカレヴィ。当てが外れ、舌打ちしながら足元の石を蹴飛ばした。カレヴィから離れた場所では魔術師たちが村を捜索し、魔力を奪おうと生きている村人を捜していた。
「カレヴィ、どうしてあんた、こんな処にいるのよ?」
 血塗られた剣を手にしたフローラがカレヴィを見つけ、吃驚していた。彼は小さな戦場には来ない。
「おい、アニタは? お前、アニタも連れて来たんだろ?」
 アニタの名を聞いて、フローラの背後に控えていた年上の魔術師たちが青ざめる。フローラが怒り出した。
「連れてくることになっていたわよ! でも、父様がアニタはカレヴィが来るのを待つっていうからさぁ……!」
 地面に剣を何度も突き刺しながら癇癪を起すフローラ。その様子を見て部下たちは後退りする。
 普通の感覚を持つアニタは、戦場は嫌いだった。初めて戦に連れて行ったときは、あまりのむごさに失神してしまった。
「俺そんなこと聞いてねぇよ! ……まさか」
 カレヴィの表情が硬くなる。
「ちょっと、カレヴィ?」
 動きを止め、考え込むカレヴィの様子に、フローラも心配になる。
「畜生、あいつに騙された」
 無表情のカレヴィは、マントを翻してフローラの元を離れた。
「騙されたって……? あいつって? ねぇ、ちょっと待ってよ!」
 呼び止めるフローラを無視して、カレヴィは移動の魔術で姿を消した。

 カレヴィが宮殿に戻った時には、部屋にアニタはいなかった。
 開け放たれた窓からは優しい風が入り込み、テーブルには使ったままの状態で裁縫道具が置かれていた。刺繍は途中で、赤い染みがついていた。針を指に刺すなんて彼女には珍しいことだった。
(どこ行ったんだよ……あいつ……)
 宮殿を走りまわり、様々なドアを開けてアニタを探し回るが、アニタは何処にもいなかった。
 庭を整備していた魔術師たちに訊ねると、アニタはヴァリスに連れられて研究施設に向かったという。
 石の敷き詰められた道を走り、階段を駆け上がる。重い石の扉を力いっぱい押した。
「アニタ! いるか?」
 重い石の扉を押し開けると、暗い部屋の入り口に白いものが落ちていた。
 彼女が足の傷を隠す為に巻いている包帯。無造作に放られた白い布は、カレヴィの心拍数を上げた。
 カレヴィが視線を奥に向けると、そこには――。
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コメント

近視に乱視、老眼も?

こんばんわ、阿良々木です。
今日はうちのブログの方にもご訪問&コメントありがとうございました。
作品読ませていただこうかと思ったのですが
タイトルのとおり目が悪く、途中で諦めましたスミマセン(´ε`;)
でも拍手のギャラリーは同じ絵が出るまで見ました。
なかにはこれまで見てなかった画像もありたのしめました。
うちのブログはFC2拍手とお礼画像諦めてしまいましたが…
ここにくるともう一度チャレンジしようかと迷います。

でわでわ

あっ ↓よかったらスレ立ててください。閑古鳥がないてまして
http://arakurikaesiki.bbs.fc2.com/

阿良々木さん

コメントありがとうございます。

趣味で書いているだけの駄文なので無理せずスルーして頂いて大丈夫ですよ。
拍手絵は時々変えたりすると楽しいです(主に自分が(笑))

No title

こんばんは。こちらはナチュラルにアニタちゃんに膝枕…!
膝枕してもらっちゃって…!!強引なカレヴィさん良いです…!
俺のもの発言&勝手気ままな連れまわしも愛情表現ですよね~!
安定のカレアニきゅんきゅんです☆アニタさんは控えめで美しい
のでもてそうですが、カレヴィさんがそうはさせませんよね。また
魔術を使って遊び出すカレヴィさんはなんだか可愛かったです♪

愛し合う人とぉ、剣と剣でぶつかり合うんだからぁ!…な
情熱的なフローラさんも、フローラさんらしくて良いです☆
フローラさんが考えた白光の四天王…改めて4人の絆を
感じるお話でもありましたね。最後にカレヴィさんが見た
光景は――とっても気になる引き! 続きが気になりすぎますが
ご無理のないペースでのご更新を楽しみにしていますね!


先日はコメント&昔の作品も見てくださりありがとでした☆
企んでいる笑顔とっても可愛い、以前のイラストの無垢な感じの
笑みもいいですが、小悪魔的な雰囲気も素敵、ひまわりも傘も
難しいのにしっかりと描かれていてすごい、チェックとフリルも
素敵に描かれていて、フリル苦手な自分としては尊敬…等々
いっぱい褒めて頂け、とっても嬉しかったです♪特に傘はあまり
真面目に描いた事なくて、ワンドロの時はそれっぽくなれば~と
思いながらざーっとしてるので傘をじっくり描く時はしっかり
描きたいです!結衣様はフリル苦手だと感じませんよ~!
衣服の繊細な描き込みも結衣様の作品の魅力の一つだと思います☆

スマホゲームは課金で苦い思い出があるので、頑張って我慢してます!
何か…例の件、ぼちぼち少しずつ始めちゃいましょうか~♪
…の前に!勝手ながらも来月の件も平行で作業させて頂きたいな~
と思いますので、また後でメッセージ送らせて頂きますね!


いつも丁寧なお返事ありがとです☆無意識にぎゅっとなカレアニ…
見る度に悶えます!引っ付いたり抱っこ…良いです!ナイフの様な
鋭さのカレヴィさんはかっこいいですが、年上のお姉さまになら
甘えるかも…なのもいい!…と思いつつ、やっぱり結局はアニタ
ちゃんじゃないと落ち着かないのでは…と思ってしまいました…(笑)
アニタちゃんは幼いながらも、お姉さんな包容力に加えて、きまりや
習慣の知識もあるので…最強だと思います!アニタちゃんは可愛い
ぬいぐるみがぴったりですね♪フローラさんのぬいぐるみは…(笑)

お返事の中でも雑誌に掲載も凄いですが、それだけ魅力的な
イラストを描かれていることも凄い、イラデレ最高とお褒め
頂け感激です!やはり担当様との信頼関係も投稿には大切な
部分だと思います!では読んでくださり、ありがとでした!

風月時雨さん

コメントありがとうございます(*'ω'*)

カレアニキュンキュンしていただけて嬉しいです(≧▽≦)
子どもの恋愛なのにこんなでいいのか?と自問自答していますが……(笑)
強引で我儘なクソガキなカレヴィです(笑)
アニタがいなかったらもっと駄目な奴になっていたので、彼にとってある意味アニタは恩人です。
4人が一番幸せだった時期なので、めいっぱい書いてしまいました(笑)
自分が萌えればいい、そんな気持ちで書いたら文章量がやばいことに(笑)でも後悔はしていない(`・ω・´)

剣と剣でぶつかり合った結果、いろいろと問題を起こしたフローラのことも、どこかで書けたらと思います。

傘は描くのが難しいですよね(´;ω;`)
ざっと描いてもしっかり描けているのはすごいと思います。
花も花びらのバランスが難しくて挫折することが多いので
ワンドロで短時間で描けるのに憧れます(*´ω`*)

例の件もそろそろ始めましょう~(*'ω'*)
ブログでは低浮上ですが、いつでもおkです(`・ω・´)


いつも丁寧なお返事ありがとうございます♪
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プロフィール

清水結衣

Author:清水結衣
いつもご訪問いただきありがとうございます。

オリジナル中心でお絵かき。たまに版権絵。
そしてぼちぼち文章を。
プロフ画は笹間シムロさんに描いていただきました
ありがとうございます(*´ω`*)

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