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【Cry*6】10-2、消えた想い風

2020.06.27 00:00|【Cry*6小説】第10章


10-2、消えた想い風

 エドヴァルドの執事に案内され、皆は城の三階の応接室へと通される。
「カイト、あの……この場所は?」
 部屋に入るとユーファがカイトの背に声を掛ける。普通の来賓ならば、階下の豪奢な応接間に行くことになる。彼女の緊張した顔を見て、カイトが笑いかけた。
「ユーファ、大丈夫だ。このフロアはエドヴァルド王のプライベートな場所なんだ。王は相変わらず何かを企んでるようだが、気楽にしていてくれ。皆も座って待っていてほしい」
「わかったわ~そうする」
 レイリアが跳ねるように座ると、皆も座り心地の良いソファに座る。リルがユーファのドレスの裾を直してあげ、ユーファの顔にも笑顔が戻る。
 皆の緊張が緩んだのを見て、王の執事も安堵の表情を浮かべる。タイミングを見計らって、侍女たちが手際よくお茶の準備をし、終わると静かに下がった。上品な所作の隙間から、好奇心に満ちた視線をユーファに向けていた。
 いつもと変わらず、フロアには静寂が漂っている。ドアの傍にはロニーが控えていた。
 座ったままでレイリアは大きく背伸びをする。
「ここは本当に静かねぇ……」
「本当だね」
 ルアトやリルは賑やかな城に慣れているせいか、静けさに落ち着かない様子だった。リルは辺りを見回す。窓は開いており、風が入ってくるのに、以前よりも城内に風が吹いていない気がした。カイトも違和感を感じたのか、しきりに辺りの様子を窺っている。
「この階は私専用だから静かだよ。私しかいないからこそ悪戯も出来る」
 ゆっくりとドアを開け、部屋に入ってきたエドヴァルドが嬉しそうに言った。カイトが顔をしかめたが、エドヴァルドは気にした様子もない。エドヴァルドが皆を見回すが、落ち着いているように見える表情は硬かった。俯いたユーファは、不安そうに膝上で指先を弄っている。
「ユーファ、大丈夫かい?」
 空いた席に座りながらエドヴァルドが声を掛けると、ユーファが慌てて顔を上げた。
「ええ……はい……」
「皆も寛いでおくれ。レイリアもいつもの様にのんびりしたらどうだい」
「あら、王様。寛いでいるわよ」
「本当に?」
 探るような視線を受け流そうと、レイリアがわざとらしく目を瞬かせ、カップを手にした。
「……たぶん」
 カップを口元に運びながら、レイリアがユーファに視線を向ける。不自然なほど皆が黙り込み、ユーファは落ち着かず視線をさ迷わせている。
「皆が無事で良かった。手は打っていたが、上手くいく可能性は低かったからね。ルアトの呪いはどうなったかい?」
 ルアトは笑顔で頭を深く下げた。
「エドヴァルド様、ありがとうございました。呪いも解けました」
 そつのないルアトは隙を作らず笑顔を湛えている。
「ルアトも元気になって良かった。カイトも魔法円で無事で何よりだ。戦闘にも勝利したしね」
「……はい」
 気難しそうな顔で返事をした後、カイトは黙り込む。つまらなそうにレイリアが窓の外を眺めている。
「皆どうしたんだい? リル、何があったのか教えてくれないか」
「えっ……あの、えと……」
 王はあえてゆっくりとリルを見つめた。嘘を吐けないリルを狙ってみた。ルアトとカイトが焦る気配が伝わってくる。役者のレイリアは平然を装っている。皆を見回して泣きそうになるリルを見て、ユーファが慌てて声をあげた。
「あ、あの。エドヴァルド様、いくつか、お話ししないといけないことがありますの」
「なんだい?」
「……」
 皆が心配そうに見守る中、ユーファは震える手でかつらを取った。碧色の髪を見ても、エドヴァルドは笑顔を浮かべたままだ。
「びっくりなさらないのですね。……ご存知でしたか?」
 青ざめて震えるユーファに、エドヴァルドは優しい微笑を向けた。
「そんな気はしていたんだ。ファルセーダになった時は、苦しかったろう」
 ユーファが頷こうとしたが、考え込む。
「……今でも苦しいときはありますわ。でもリルやカイト、皆に助けられました。皆のお陰で、月の都も助かりました。療養のためでしたけれども、あのタイミングで皆を寄越してくださって、本当にありがとうございます……」
 カイトが王を観察していると、王は眩しそうに目を細め、ユーファを見つめている。
「たまたまけがをしたカイトを療養で行かせただけだよ。でも、間に合ってよかった」
 ユーファは俯いていた。
「杖を貸してくださったのに、わたくし……大事な王様の杖を無くしてしまいました。申し訳ございません」
 両手を握りしめ、ユーファが頭を下げた。エドヴァルドは思案している。
「ユーファが無事ならたいした問題ではないよ。杖は杖。君の命には代えられない。杖は役目を終えて、消えたんじゃないかな?」
 ユーファが唇を結んだまま俯いていたが、顔を上げた。
「ですが、王様の大切な記憶が残っていたのでしょう?」
「記憶?」
「王様、杖はカノンだったの。王様は杖のことを気にされていたでしょう? 杖は王様の友人だったの。カノンのこと憶えていらっしゃる?」
 レイリアが低いテーブルに手を付いて王に訴えるが、王は首を傾げ、小さく呻くばかりだった。
「カ、ノン? ……それは……」
 口元に手を当てて考え込むエドヴァルドに、ユーファも言い募る。
「エドヴァルド様にお借りした杖のことですわ。杖は……エドヴァルド様の大事な存在だったと、レイリアから聞きました。風の精霊……人の想いを知っている、優しい精霊でしたわ」
 王は名の響きを確認するためか、幾度か呟き、目を細めた。
「カノン……憶えていないが、心がうずく。私にとって、とても懐かしい存在なのだろうね」
 目を閉じ、笑みを浮かべる王の様子に、レイリアが唇を引き結んだ。
 ユーファは皆と計画していたことをいつ言い出そうかと考えていた。カイト、リル、そしてルアトの視線を感じる。多分背後に立っているロニーも自分を見ているのだろう。騎士団の面々にもお願いされている。ユーファが言うのが一番問題ないだろうと、意見が一致していた。
 ――王様を納得させるならユーファ様が一番ですよ!
 ――色仕掛けしましょうよ。ユーファ様なら上手くいきますって!
(色仕掛けなんて出来る訳ないじゃないのよ! 皆人任せで困るわ。仕方ないわね……私が言うしかないわ)
 ユーファが決心し、ぬるくなった紅茶を飲んで、唇を湿らせる。
「エドヴァルド様。あとひとつ
……ご相談がありますの」
 皆が視線を交わす。不自然なほどに黙り込む皆の様子に、エドヴァルド王は目を細めた。
「たぶんだが、光の魔術師が生きたまま来ているんだろう? 違うかい?」
「どうしてそれを……」
「彼をここに連れておいで」
「……いいのですか? あの人は、敵ですよ?」
 やはり王は知っていた。その意見を待っていたユーファだったが、咄嗟に訊き返していた。
「皆が戦って勝つと思っていたし、その場合、殺める可能性も低いだろうと思ってはいてね。生活を共にして、情もわいてるんだろう? 今の彼には私を殺すことはできないだろうしね」
 王の言う通りだったので、ユーファは苦笑をする。彼には敵わない様だ。エドヴァルド王は余裕の笑みを浮かべて佇んでいる。

 カレヴィの入った棺桶は、魔術の結界が施された地下牢に置かれていた。自分で蓋を開けて出られると言うのに、彼は棺桶に入ったままの状態で待っていた。レイリアとカイトが地下牢に迎えに来て、慌てて棺の蓋を開けた。
「こんな狭い場所で大丈夫だった? 息は苦しくないの?」
「揺れも少なかったから、問題はない」
 カレヴィはゆっくりと身を起こし、固まった肩を鳴らす。カイトの騎士団が、落とさないように細心の注意を払って運んでいたが。
(あんな狭い空間でよく平気だな。図太いのか、無神経なのか……)
 カイトが呆れたが、騒がれて問題になっても困ったろう。
「王様があなたを呼んでいるのよ。一緒に来て」
 レイリアはカレヴィの手を引っ張り、立ち上がらせようとする。
「ようやく俺を殺すのか?」
 希望と落胆、様々な感情が入り混じったカレヴィの声音に、レイリアが首を振った。
「違うわよ。王様があなたとも話したいんですって。――ねぇ、カイト。棺桶がからっぽでばれないの?」
 レイリアの疑問に、カイトは首を傾げて牢の入り口を見た。
「四天王の遺体があることになっているしな。見に来る物好きもいないだろう。普通の感覚だと、死んでもなお、恐ろしい存在だろう」
 念のため、カレヴィにフード付きのマントを羽織らせ、顔を隠したまま王のもとへと連れていった。マントには微力ながら魔力を隠す効果があった。

「貴様がクレプスクロム王国の王か」
 カレヴィは斜に構え、エドヴァルド王を睨んだ。その様子に王は嬉しそうだった。
「君が白光の四天王のカレヴィだね。――噂は聞いているよ。無事で良かった」
「決して無事ではない」
「そうだろうね」
 不快感を隠さないカレヴィだったが、あることに気付き、目を見開いた。
「……風だけではない? もしやお前……」
「ちょっと、王様に向かってお前はないでしょう?」
 レイリアが話の腰を折ったが、カレヴィは相手にせず、エドヴァルド王を凝視している。
「この国の王は……ファルセーダなのか?」
「どうして王が……?」
 狼狽えるカレヴィに、王は笑顔のままだった。
「やっぱり君はすぐに気付いたね。私はファルセーダだよ」
「しかし、一体、誰に祝福をされたんだ? 俺たちの国の人間か?」
 俯くカイトをちらりと見て、王は穏やかに話した。
「誰も近くにいなかったから、自分一人で行ったよ。仕方なく自分を呪ったんだ……いや、祝福したともいうのかな。それで風と光の魔力と、この王の地位を手に出来たんだよ」
 レイリアの中で様々な思い出がかみ合った。記憶を失ったこと。瞳の色が変わったこと、カノンのことを忘れたのはやはり、王が魔力を手に入れたからだった。
 リルははっとする。魔力を取り戻したとき、王はカイトの傍で光の魔力を使っていた。あの時は気付かなかった、気付く余裕がなかった。確かに彼の纏う魔力は、風だけではなかった……。
「王様がファルセーダだったなんて……」
 ユーファは手を口に当て、震えていた。
「そうだよ。君に逢った時の私の雰囲気は最悪だったろう? ファルセーダになった頃だったからね」
 当時、彼が放つ鋭い気配はファルセーダのものだったのだろう。彼は自分を祝福出来たのだろうか。呪いの苦しみを、彼は死っているのだ。彼は今、どう魔力に折り合いをつけているのだろうか――。

 皆が思い悩む様子を見て、エドヴァルドはドアの横に控えるロニーをちらりと見た。
「ユーファもカイトも無事で良かった。ロニーも命を落とさずに済んだね。もし魔法円の布が捨てられてカイトに何かあったらねぇ……」
 王がにやりと笑うと、ロニーが青ざめて怯えた。その様子を見て、ユーファが咄嗟に声をあげる。
「エドヴァルド様! ロニー君をからかうのはやめてください。権威ある王に言われたら、たとえ冗談でも、生きた心地がしませんわ!」
 前々からロニーを心配していたユーファは、無礼を承知で王に言った。エドヴァルドは驚いた様子だったが、なぜか嬉しそうに頷いた。
「うん、その通りだね。気を付けよう」
 あまりにも王が嬉しそうにしているので、ユーファは恥ずかしくなり俯いた。
「みんな疲れただろう。休むといいよ。カレヴィは私の階の部屋を使うといい。いろいろと仕掛けがあるから面倒だろうがね。ユーファは上の客間を利用するといいよ。何部屋使ってくれてもいい」
「カレヴィのことも大丈夫なのですか?」
「カレヴィ君の部屋を準備することは問題ないよ。このフロアには結界が張ってあるから、魔力は感じることは出来ないだろうしね。ユーファも同じ階にするのは道徳的にどうかと思ってね。上の階でも問題ないだろう。君の呪いの光の魔力は私が打ち消せているだろう。リルもいるしね。カイトたちは久々の屋敷でゆっくりするといいよ」

 月の巫女の現状は城の人間にも伏せることにしていた。慣れない城で、ユーファの身の回りの世話をリルが手伝ってくれた。入浴を済ませ、ゆったりとした部屋着に身を包んだユーファはようやく落ち着くことができた。
「リルはカイトのお屋敷でしょう? レイリアも?」
 湯上りのユーファの為に、冷たい果実のジュースをグラスに注ぎながら、リルが少し首を傾げた。
「私はそうだけれど、レイリアはカレヴィさんの傍に居るのかな……? それともウルリーカ様のところに行くのかな」
「そっか、おばあさまがいらっしゃるのよね」
「今日ウルリーカ様が居なかったから、改めて御挨拶すると思うの。何処に行ったのかな……こんなこと、めったにないのに。ユーファ、独りで大丈夫? 私もここに居ようか?」
 リルの心配そうな顔。そして疲労で青白い顔を見て、ユーファは笑顔を向けた。
「大丈夫よ。明日には皆に会えるもの」

「おばあさまったらどこに行ったのかしら? 逢いたかったのに」
「明日には帰って来るらしいから、改めてユーファも紹介しないとだね」
「そうよそうよ。大事なユーファとカレヴィを紹介しないとだわ」
 頬を膨らませるレイリアをリルが慰める。ウルリーカは不在だったので、レイリもカイトたちと共に屋敷へと向かう。屋敷の玄関に入るとブリッタとイリス、侍女たちに迎えられた。
「お帰りなさいませ」
 皆が頭を下げる。
「イリス、ブリッタ。皆、私の留守をありがとう」
 カイトの労いの眼差しに、イリスは首を振る。
「カイト様が無事で何よりです。戦いに勝利したと聞いております。おめでとうございます」
「――そういうことにしておこう」
 含みあるカイトの言葉に、イリスがいたわりの眼差しを向けた。リルとルアト、レイリアの無事な様子を見て、イリスは微笑んだ。
「リル様!」
 ブリッタがリルに駆け寄り、抱きしめた。いつも冷静なブリッタが喜び、声をあげる姿に皆が吃驚した。
「も、申し訳ございません。つい、ご無事で元気で帰っていらしたのが嬉しくて」
 頬を赤らめてリルの体を慌てて離そうとするブリッタを、今度はリルが強く抱きしめた。彼女の抱擁は優しく温かい。
「ブリッタさん、ありがとう。ただいま帰りました」
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