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【Cry*6】10-3、記憶の行方

2020.07.18 00:00|【Cry*6小説】第10章


10-3、記憶の行方

「ユーファ様、お夕食はお口に合いましたでしょうか?」
「ええ、とっても美味しかったわ。ご馳走さま」
 笑顔のユーファに、侍女たちが安堵の表情を浮かべる。ユーファは部屋で一人、静かに夕食を終えていた。侍女たちが食器を片付け、寝台を整えて部屋を後にすると、部屋は静寂に包まれた。
(……)
 椅子に座ったまま、皆が出ていくのを眺めていたユーファ。ドアが閉まるのを確認すると、かつらを外して小さく息を吐き、何気なくシャンデリアを見上げる。月の神殿の照明は月の魔力で灯りをともしていたが、この城では光の魔力を使っている――心なしか、灯りが冷たく感じられる。
(月の神殿では今頃何をしているのかしら。モニカはどうしているのかしら……)
 神殿は日常を取り戻しているだろうか、復興は進んでいるのだろうか。モニカの笑顔。真面目な彼女は無理をしていないだろうかと心配になる。
 持ってきた本を開いても、文字が頭に入ってこない。レイリアに渡された流行りのファッションが載っている本を開いても、気が散り、直ぐに閉じてしまった。
 人差し指がコツコツとテーブルを叩く。片手は無意識に耳元の束ねた髪を弄っていた。――これは昔からの癖だった。
 落ち着かない。何もすべきことがない。実際、すべきことはあるのだ。明日の服の準備をしていない。荷物の確認も。自分で出来ることなのに。気は焦るが何も手につかない。
(静かすぎて落ち着かないわ。一人だと、こんなに静かなのね……とても、淋しいわ)
 神殿を出てから幾日も経っていないのに、神殿のことを懐かしく思い出す。今まで傍にモニカがいてくれた。星の乙女たちや長老。魔術師や議員たち、警備の兵たちも。皆が優しく見守ってくれていた。リルやレイリア、ルアトにカイト。カイトの部下の騎士たち。――カレヴィですらも。
 傍に居てくれるだけで、安心を貰っていた。今まで、皆に護られてきたことを改めて実感した。自分一人では頼りなく、すぐ折れてしまう。
 震えを止めようと、寝台に潜りこみ、ユーファはきつく目を瞑る。
 ユーファは自分の決意を後悔した。神殿を出たこと、城に来たこと。あのまま神殿に居ればよかった……!
(あのまま神殿に居られなかったのは判っているのに。どうして今頃悩むの? どうしてこんなに苦しいの? 巫女失格だわ。怖い……暗いのに、眩しくて……痛い……心が寒い……心がキリキリする)
 ぐるぐると悩み続けるユーファの耳に、ドアをノックする音が届いた。慌てて返事をするも、寝台からは動けない。廊下で囁き声がした後、ドアが開いてリルとレイリアが顔を覗かせた。
「二人とも……どうしたの?」
 掛け布をはぎ、ユーファが飛び起きた。
「ユーファが心配で来ちゃったの。まだ寝ないようだったら、少しだけお話しようかな……って」
 リルが何やら瓶が入った籠を手にしていた。お酒だろうか。
「ブリッタさんにおつまみも作ってもらったし、ユーファの好きそうなジュースも持ってきたの。レイリアはカレヴィさんのことも心配だっていうし……ね」
 レイリアは腰に手を当てながら大袈裟に首を捻る。
「まぁねぇ。リルのお陰で辛い事はないのは判っているんだけれどもぉ。いろいろと心配じゃない? でもやっぱり一番心配なのはユーファよ」
 芝居がかったレイリアの物言いに、ユーファは噴出し、笑いながら涙が零す。
「ありがとう、とても嬉しい。すごく待ってたわ」

 三人は寝台の上に座って、果実酒とジュースで乾杯した。
「ユーファ、お城の居心地はどう? 顔色が悪い気もするわ」
 レイリアの言葉にユーファは部屋を見回した。
「立派で豪華ね。風の魔力が満ちているけれど、それは大丈夫、自然で穏やかなものだから。ただ、一人で不安になっているだけなの。ファルセーダが悪化することはないだろうけれど……時間があると考えてしまって。自分の中の光の魔力のことが心配になってくるの。それだけなんだけれど……」
 声は沈んでいた。レイリアは俯くユーファを覗き込んだ。
「ユーファ。辛かったら王様のところへ行けばいいと思うわ」
「え? ……そ、それって、夜這いってこと?」
 ユーファが頬を赤くして焦る。
「夜じゃなくても。まぁ、そうねぇ。夜でもいいと思うわ。むしろ夜がいいのかもしれない……」
「無理だわ! 絶対無理……はしたないわ!」
 両手を振ってユーファが座ったまま後退りしてレイリアから逃げる。
「なによぉ、ユーファったら」
「レイリア、王様のところへ行くのはいろいろな意味で勇気がいると思うよ……」
 グラスを手にして、リルがレイリアを見つめた。
「リルだってルアトと一緒の部屋に寝てるでしょ? それと同じことじゃない?」
「えっ! ルアトはそういうのじゃないよ。同じだなんて……!」
 今度はリルが頬を赤くして首を振って否定する。二人の同じような反応に、レイリアは小さく溜め息を吐いて、呆れた眼差しを向ける。
「――それくらい解ってるわよ。全く……二人の反応が初心すぎ。でも、辛いときは誰かに頼ればいいと思うのよ。リルがルアトを助けた様に。ルアトが頼ったように。エドヴァルド様は魔力を持っているでしょ? だから、ね」
 ユーファが睫毛を伏せて考え込む。その様子を見て、小さく頷きながらレイリアは寝台から降り、グラスをテーブルに置いた。
「じゃ、私はこれで失礼するわ」
「レイリア、おやすみ」
「カレヴィにもよろしく……っていうのもおかしいけれど、おやすみなさい。来てくれてありがとう」
 軽く手を振りながら、レイリアが部屋を後にした。

 静かになった部屋で、二人は明日の準備と荷物の確認をする。
「リルは本当にお屋敷で休まなくていいの? お屋敷でゆっくりした方がいいんじゃない?」
 化粧台に宝飾類を準備し、クローゼットに掛けたドレスの襟を念入りに整えているリルの後姿に、寝台に座ったユーファが恐るおそる声を掛けた。リルは振り返ってから、首を傾げて唸る。
「皆が良くしてくれるし、居心地はいいけれど……自分の家じゃないから、甘えちゃうのも悪い気がして。それにね、やっぱりユーファが心配なの」
「――ありがとう」
 リルの本音の言葉に、ユーファは心底嬉しかった。
「でも、カイトは甘えて欲しいと思うし、気にしていないと思うわ」
 自己本位な我儘な自分を恥じ、ユーファは優しく助言をする。ユーファの横にリルが静かに腰掛けた。
「カイトならそうかもしれない。でも、ここに来てからカイトに頼ってばかりで申し訳ないから……。私も宮廷魔術師としてお城に部屋を持つことになるみたいなの。客人ではなくて、このお城の人間になるから、頼りすぎるのもよくないかなって」
「リルはこれから宮廷魔術師になるのね。ルアトは今後、どうするの? 確か、今は騎士見習いよね」
「ルアトはロニーのお家の養子になって、騎士を目指すの。騎士になるには家柄も大事らしくて。明日はロニーのお家に御挨拶に行くって話していたよ」
 ロニーの実家は城の近くに大きな邸宅と領地を持ち、何代にも渡って国に仕えてきたそうだ。ロニーの両親はカイトの両親とも仲が良かったそうだ。カイトが今の地位に戻るまでに、援助してくれて、後ろ盾になってくれたとカイトが話していた。
「そうね……騎士になるなら家柄は大事ね」
 ロニーによると、ロニーの両親は、カイトが捕らえられた時に傍観することしか出来ずにいたことを、今でも悔いているそうだ。
 ルアトが騎士になること、その為の養子の件はロニーの両親も快諾してくれ、ロニーもルアトを歓迎してくれている。――同い年の二人は、どちらが兄かで揉めているらしいが。
「頼りなさそうに見えて、ロニーはお坊ちゃまなのよね」
「ロニーは優しくて、偉ぶらないから皆がからかっちゃうんだよね……特にレイリア、かな」
 二人は笑った。ユーファが視線を落とし、考え込んでいる様だった。リルが心配そうにユーファの横顔を見る。
「――ねえ、リル。ルアトが騎士になって、距離ができて、リルは淋しくないの?」
 身近にいた人が、離れる感覚。ユーファはリルに訊いてみたくなった。
「淋しいのかな……解らないの。でも、嬉しいかな。あのね、うぬぼれているみたいだけれど、私と一緒にいてくれるために騎士になってくれるって言ってくれたから、とても嬉しいの。……でも、違う方向を向くのは淋しいの。今でも少しづつ離れている気がするから。いろんな気持ちがごちゃ混ぜなんだ」
「一緒にいるため……?」
 二人の関係を詳しく知らないユーファは、リルの言葉に怪訝な表情を浮かべる。考え込んでいたリルは顔を上げてユーファを見た。
「私は宮廷魔術師になれるのかも不安なの。ずっと村に暮らしていて、教養もないし、勇気も気品もないから……。おばあちゃんがすごかっただけなの。おばあちゃんが亡くなった後、私は村の外れで、ずっと一人で暮らしていたの……友達も出来なかったの」
「そんな……」
 今のリルを見ていると、昔のリルはユーファには想像できなかった。引っ込み思案な、笑顔の可愛いごく普通の娘に見えるのに。
「ルアトに会って……光の魔術師から逃げて来たルアトを我儘で助けて、目を覚ました後に、本当に久々に面と向かってお話しをしたの。それまでは、人が……男の人が怖くてうまく話せなかったから。ルアトとも最初は上手くは話せていなかったけれど、ルアトは怒らないで話を聞いてくれたの。ルアトが村を出ることを勧めてくれて、村を出て、人と会って、段々、人と話せるようになって、笑えるようになって。レイリアやカイト。ユーファに逢えて。皆に会えたのもルアトのお陰だと思うの。だから、違う立場になってしまうのは、淋しい気持ちは大きいかな」
「リルがそんなにつらい状況だったなんて、私」
 カイトに頭を撫でられて泣いてしまったのは、純粋に怖かったのだ。あの時、笑ってしまったことをユーファは後悔した。リルは哀しそうな笑顔を浮かべている。
「でもね、誰が悪いわけでもないの。全部、私が上手くできなかっただけなの。挨拶して、話せばよかったんだもん。村の人は誰も悪くない。もう、皆、死んでしまったけれど。光の魔術師が私を狙ってきたんだから、私がみんなを……殺したのも同じ……いつかは……」
 涙を浮かべるリルをユーファが抱きしめた。
「そんな辛いことを言わないで。それ以上は考えないで。リルは精一杯だったじゃないの。あなたのせいじゃないわ。あなたのせいで不幸になる人はいないわ」
 ユーファの耳元に、啜り泣きが聞こえた。ユーファはリルの口からルアトのことを聞いたのは初めてだった。漠然と仲が良い「呪いでつながった二人」としか認識していなかった。幼馴染以上、恋人未満。ユーファにはそう見えた。
「私は、本当に闇の司の化身なの? 記憶もないし、何もないし。私の周りでは不幸が起きるの。卑怯だし、精霊の化身なんかじゃないと思うの。悪いものを呼び寄せる闇なんじゃないかな……」
「リルは優しくてあたたかいの。あなたは私に安らぎと友達を運んできてくれたわ。人間はいろいろな面を持っているの。私も醜い心を持っている。でも、そういうものでしょう。そうでなきゃ人じゃないもの。皆、輝くところもあれば暗いところもあるのよ。私だって、光の魔術師に恋して、月の都を危険に晒したんだもの……」
「でも、神官は……」
 リルはユーファを見つめた。ユーファは苦笑いを浮かべた。
「カレヴィは知らないって話していたけれど、彼は内情を知らないんだと思うの。ずっと戦うことしか頭になかったようだし。たぶん、レグルス様はアウローラ国の人。でも、それに気づかないふりをしてしまった。私は情けない人間ね。月の巫女にふさわしくない情けない人間なのよ」
「ユーファは立派な巫女だよ。自分を犠牲にして……苦しんでいるじゃない」
「ありがとう。リル。でもリルも同じよ。いつもリルには助けられてばかり……」
 ユーファはリルと一緒に寝ることにした。寝台は大きめだったので余裕がある。
「リルと二人って初めてね」
「そうだね。いつもレイリアがいたり、……カレヴィさんがいたり、ルアトがいたもんね」
「男の人が居る場所で寝起きするなんて、と思っていたけれど、慣れちゃったわ。リルもこうやって慣れたの?」
 リルは頬を赤くして少しだけ考えた。
「……そうかのかな」
 灯りを消し、二人は寝台に入り込む。寝台の豪奢な天蓋を見上げながら、ユーファが呟いた。
「レイリアはカレヴィをどうするつもりかしら」
「まだ深く考えていないんじゃないかな。レイリアにとってカレヴィさんは守るべき人みたい」
「守るべき……ねぇ」
 ユーファの苦い口調にリルも頷く。
「私たちにとってカレヴィさんはとても恐ろしい存在だったけれど、レイリアには子どもみたいに弱々しく見えたみたいだし」
「そう言っていたわね。私たちが殺されそうになっていたのに、殺そうとしていた人間が弱々しく見えたなんて、変なものね。私には鋭さが恐ろしかった。――今でもあの時のことは思い出したくないわ」
 リルも頷いた。圧倒的な存在感。あの魔力の鋭さを思い出しただけで、今でも心が冷える。
「だから、カレヴィさんが怪我もして苦しんでいた時は、放っておけなかったんだと思うの。でも……」
 リルが口を閉ざす。その先を、ユーファが続けた。
「あの人、恋人がいるのよね。かなりの美人さんらしいけれど、リルは会ったのよね」
 湖の神殿を襲った女性が四天王の一人で、カレヴィの恋人だとレイリアから聞いていた。ルアトがその女性のことを美人だったと話していたが、ルアトが話していたことはリルには伏せておいた。
 リルは苦笑いを浮かべ、ユーファをちらりと見た。
「あの時は魔力を上手く使えていなかったから必死で……炎が綺麗だったことした憶えていないんだ」

 翌日、カイトとルアトはロニーの家へと行っていた。リルはエドヴァルド王とユーファ、カレヴィの団欒に参加している。レイリアもだ。ウルリーカはまだ戻っていなかった。
 緊張した面持ちのユーファとカレヴィ。カレヴィは足を組みながら、エドヴァルド王を睨む。
「君たちと、少し話さねばならないことが在るようだね」
 侍女も部屋に入れず、ロニーもいないため、リルは主に給仕と、皆の話に必要な書籍や道具の用意をさせられた。ウルリーカのように王の横に座り、王の補佐をすることを考えればリルにとっては気が楽だった。
「まず、どうやってお前はファルセーダになった? やり方は?」
「多分、君たちの国と変わらない」
 尖ったカレヴィの声と穏やかなエドヴァルドの声を聞きながら、リルがお茶をカップに注ぎ、テーブルに静かに置いていく。
「お前……王からは相当に強い光の魔力を感じる。その光の魔力はどうした?」
「君の知るような、残忍な方法で魔力を集めたよ」
 ユーファが息を呑む。「残忍な方法」が解らないが、人命にかかわるのだろうか……。
「多くの犠牲を払ったということか……。お前がやったのか? 宮廷魔術師にでも頼んだのか?」
 ガチャン。音を立てて、カップが落ちる。
「リル、大丈夫?」
 宮廷魔術師という言葉に、リルが震えてカップを落とす。部屋を気ままにうろついているレイリアが慌てて駆け寄り、カップを拾ってあげた。リルの顔は青ざめ、手は震えている。
「私の独断だよ。誰も関与していない。だからこそ自分の記憶を選んで犠牲に出来たんだ」
 リルを気遣う様に、エドヴァルドが穏やかに答えた。リルが俯く。祖母は良くも悪くも影響力がある。彼に影響を与えたのはベアトリスだろう。
「ファルセーダになってまでお前がやりたいことは何だ?」
「最初は、魔力を持つ民を護る為、カイトを護る為だった。でも、それはただの自己満足なんだ。そのために身内をも殺めた。……元々、クレプスクロム王国は精霊の力によって環境も改善され、民も穏やかな生活を手に入れ始めていた。いつしかアウローラ国ともつながった。その為、アウローラ国にも魔力を持つ者が増えてしまった。大国が二つ存在し続ける。戦うか和平を結ぶか……狭い土地では諍いも多くなる。
 私たちは知らないが、世界は広いと言うからね。私は、楔の向こうに私たちの世界を拡げたいと思っているんだよ」
「楔の、向こう? また夢物語のようなことを」
「そう。夢のような話だ。この世界に終わりが来るまで、私は外の世界を求めたいと思っている。閉ざしたものを再び開けたい。私は楔を超えて世界を広げようと思っている」
「気は確かか……」
 カレヴィが絶句する。
「その前にやることが在るのだけれどね」
「やることって、アウローラ国と戦うの?」
 カレヴィの横に座りながら、レイリアが首を傾げた。
「いや、精霊の化身たちは何かを成し遂げないといけないらしいんだ。それを手助けして叶えようと思っている。ベアトリスは出来なかったようでね。ベアトリスとリルが出会えたこと、リルとカレヴィが出会えるような時期に生を受けたことも関係しているらしい。ただ、何をするのかは私には未だに解らないんだ。君たちは知っているのかい?」
 リルは首を振った。カレヴィも俯いた。
「一体誰の為に、何を成し遂げるのかしら。月の魔力も必要なのかしら……」
 ユーファが首を傾げた。
「俺は全然知らん。光と、闇と水……。他の精霊の化身もいるのか?」
「大地と樹木の精霊はもう天に戻っていると言うが、魔力を強く持つ者は存在しているはずだよ。炎は……アウローラ国にいるんだろう?」
「いることにはいるが、炎の乙女の化身かは……」
 レイリアが不機嫌なカレヴィを眺める。
「出来たらカレヴィ、君にアウローラ国を説得してほしいんだ。君に国王になってもらってね」
「俺に? それは無理だ。もっと適役な人間が……」
 エーリスの顔が浮かぶ。彼ほどの適役はいない。
「君がいいと思う。炎の乙女の化身に支えてもらえばいい」
「何を言っている?」
「炎の乙女じゃダメなのかい?」
「そういうことではなくて……」
 カレヴィが苛立つ。彼女はそっとしておきたい気がする。
「無理ならレイリアにでも任せなさい」
 皆が驚いて目を丸くした。
「なんでこいつに? まず、アウローラ国で俺には権力はないから無理だ」
「全くもう、駄目ねぇ。私は女王様になってあげてもいいわよ。こき使うから」
「レイリアが女王様になるの?」
「しもべ一号はカレヴィにしといてあげるわ。次はロニーかしら?」
「カイトは?」
 ユーファが面白そうに訊くとレイリアは首を横に振った。
「ダメよ!王様が寂しくなっちゃうもの! だからリルも駄目ね」
「なにそれ……!」
 赤面したリルが怒ると笑い声が響く。その後は、レイリアとユーファが明るい話題を振り、しばらく和やかなお茶会が続いた。
「先に休ませてもらうよ」王は先に席を立つ。その時にリルを呼んだ。
 ユーファは軽く会釈をしたが、立ち上がらず、座ったまま考え込んでいた。立ち上がったカレヴィは窓の傍で外を眺めている。
 二人を眺め、レイリアはどうしようかと悩み、静かに書斎を出る。
 レイリアが廊下を歩いていると、エドヴァルド王の寝室からリルが出てきた。魔術書を抱きしめ、震えている。
「リル、大丈夫? 顔色が悪いわよ。何かあったの?」
「レイリア、大丈夫。ちょっと悩み事が出来ただけなの……」
「悩みすぎちゃダメよ。王様にいじめられたの? エドヴァルド様は?」
「中にいるよ。入って大丈夫だよ」
 レイリアがドアを開けると、王は寝台に腰掛けていた。杖を持たないエドヴァルド王は頼りなくも見える。
 あの杖に風と光の魔力のほかに、王が決して取り戻せない記憶が込められていた。それを失ってしまった。
 王が笑顔で手招きしたので、レイリアは王の隣に座る。
「あまりリルをいじめないでほしいわ。私なんかとは違って繊細なんだからぁ」
「レイリアもリルも苛めていないよ。レイリアだって繊細だろう?」
 黙り込むレイリアにエドヴァルドは首を傾げる。
「レイリア、どうしたんだい? 女王では気に入らないかい?」
 レイリアは肩をすくめる。
「王様ったら無茶なことを言うのね。私が王になるだなんて、皆唖然としていたじゃない」
「良い案だと思うよ。レイリアはしっかりと生きているからね。幻を見て生きていても決して良くはならないからね。あの国は――幻だ」
「幻……カノンは幻なのかしら。王様はカノンを覚えていらっしゃらないのね」
「どこかで覚えている気もするんだ。ファルセーダになった時に失ったんだね。……母の記憶と共に。私にとって、大事な存在だったのだろう。ウルリーカは憶えているのだろうか? ……レイリア。彼女がどんな人だったか教えてくれるかい?」
「私が捻じ曲げたかもしれない昔話よ? それでもいいの?」
 エドヴァルドは頷いた。
 レイリアが話す。レイリアがカノンを見た時の事。カノンが遊びに来てくれた時の事。最後の会話。ゆったりと穏やかに。最期は王に何かを遺しただろうが、今はもう何も残ってはいなかった。
 王は穏やかな表情で訊いていたが、うつらうつらして寝台で眠ってしまった。レイリアはそっと手を覗き見る。まだ傷が出来ていた。レイリアが唇を噛む。
 ドアがノックされる。
「王様はいらっしゃ――」
 ユーファとカレヴィだった。
 部屋の中を見た二人は硬直する。レイリアが寝台の上で、寝ている王の顔を覗き込んでいる状態。慌てて引き返すユーファとカレヴィをレイリアが呼び止める。
「ちょっと待って、誤解してるわよ!」
 カレヴィは立ち止まったが、ユーファは逃げる様に足を早める。レイリアがユーファの腕を掴んで無理矢理引き止める。 
「ご、ごめんなさい。取り込み中に」
 顔を赤くしてレイリアの視線から逃げようとするユーファ。
「ちょっと待って、ユーファ。違うわよ。王様は疲れて寝ているだけよ。あなたに王様の傍に居てあげて欲しいの」
「なんで私が? レイリアが居ればいいでしょう」
 狼狽えるユーファ。レイリアから視線を逸らそうとするが、レイリアがユーファの碧の瞳を見つめた。切実な眼差しだった。
「私には見えないもので王様は苦しんでいるの。私じゃ見えないから、何もしてあげられないの。王様の手が傷ついてしまうから……。ユーファなら、見えて、解ってあげられるだろうから……お願い。いるだけでいいから、傍に居て欲しいの」
「私だって何も出来ないわ……それでも良いの?」
 レイリアは力強く頷いた。ユーファを王の部屋に向かわせる。

 ユーファが去った後、レイリアはその場に留まるカレヴィに声を掛けた。
「あんたは私の後へついてきなさいよ」
「……なんでだ? 俺が歩き回ったら問題が生じるだろう」
「良く解らないのだけれど、あなたの気配は『魔力の少ない普通の人』に感じるそうよ。だから歩き回っても何も問題は怒らないわ。運んできたのは四天王の遺体だもの。あなたは普通の人ってことになるわ。私の下僕っていうことにしておきましょ」
「……」
 顔をしかめたが何も言わなかった。カレヴィはレイリアの後に続いた。ウルリーカの部屋に侍女たちが出入りしていた。旅のコートを脱いでいるウルリーカがいた。侍女たちが笑顔で部屋を後にする。
「おばあさま! ただいま戻りましたわ。そしてお帰りなさいませ」
 手を広げたウルリーカにレイリアが抱きついた。
「レイリア、お帰り。無事で良かったよ。そしてただいま」
「おばあさまったら、泊りがけで外出していて会えないんですもの! 新しいお友達も紹介したいのよ」
「ごめんね。エドヴァルド様の用事でね……どこも怪我はないかい? やつれていないかい? ……その方は」
 レイリアの背後の男の気配にウルリーカの顔が強張り、杖を手にした。
「元、アウローラ国の白光の四天王だったカレヴィだが、今はこの……レイリアの下僕だそうだ」
 憮然としながらもカレヴィが名乗った。ウルリーカが目を瞬かせ、握っていた杖が手から離れ、倒れた杖が鈍い音を立てる。
「一体何があって、こういうことになったんだい?」
 よろめくウルリーカをレイリアが慌てて支えた。
「おばあさま、まず座って。話はそれからにしましょう。王様ったら、おばあさまもこき使っていじめているのかしら」
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コメント

No title

こんばんは。

レイリアちゃんが女王様。すごく合っている気がします。
行動力もあるし王様、四天王にも物怖じしない。
すごい女傑になりそうです。

ウルリーカ様がよろけたのはレイリアちゃんがカレビィ君を
連れてきたせいだと思いますが、下僕設定をすんなり(?)受け入れている
カレビィ君がちょっと微笑ましいです。




ひもたかさん

コメントありがとうございます(*'ω'*)
お返事が遅くなってしまいごめんなさい<(_ _)>


女王レイリア。アリですよね(´艸`*)
エドヴァルドが昔レイリアに行ったこを覚えていてのこの発言なのか?ちょっとした思いつきなのか??
なのですが、王様の考えることはいつも気まぐれです(*'ω'*)

ウルリーカがよろけたのはひもたかさんのおっしゃる通りなのですが
レイリアは何故か王様のせいにしちゃっているという……(´艸`*)
カレヴィもウルリーカが年長者だからか、レイリアの祖母だからか、
気を遣って下僕設定を受け入れている辺りはTPOをわきまえているのかもです……(*'ω'*)
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清水結衣

Author:清水結衣
いつもご訪問いただきありがとうございます。

オリジナル中心でお絵かき。たまに版権絵。
そしてぼちぼち文章を。
プロフ画は笹間シムロさんに描いていただきました
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