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【Cry*6】10-5、こぶんのおにいちゃん

2020.09.12 00:00|【Cry*6小説】第10章


10-5、こぶんのおにいちゃん

 レイリアとカレヴィ、ウルリーカを乗せた馬車がゆっくりと止まる。
「一体ここは何処だ?」
 カレヴィが馬車の窓から辺りを見回す。民家も少なく、どうやら郊外のようだ。馬車から勢いよく降りたレイリアは、腰に手を当てて顎をしゃくってみせた。
「さあ、カレヴィ! 何を隠そうここは第二のお家よ!」
「は? 第二のうち……?」
 眉を寄せてカレヴィが首を傾げていると、ウルリーカが馬車を降りながら笑顔で話し掛けた。
「私が管理している施設でね、私たちの大事な家なんだよ」
 ウルリーカの後ろ姿を見て悩むカレヴィ。馬車を降り、門を塀を見上げた。小さな表札を見つけ、少しだけ納得する。
(孤児院……)
 門番が門扉をゆっくりと開けると、遊ぶ時間なのか、広場には子どもたちがいた。ウルリーカとレイリアに気付いた子どもたちが駆け寄ってきた。
「レイリアお姉さまだ! お帰りなさい!」
「ただいま~ちょうど遊ぶ時間だったのね。約束通り、お土産持って来たわよ。あとは私の愛の籠ったマフラー」
「本当に? うれしいなぁ」
「お姉ちゃん、ありがとー」
 集まって来た子供たちを抱きしめ、マフラーを首に巻いてあげ、お土産を手渡すレイリア。子供たちはレイリアの後ろで土産の入った大きな箱を手に立つカレヴィに興味津々の様子だった。皆の視線を受け、カレヴィは不機嫌そうにしている。おしゃまな少女が頬を赤らめてレイリアを見上げた。
「ねえねぇ、そのお兄ちゃんは誰? レイリア姉さまのカレシ?」
「むふふ。どうかしらぁ~」
 口に手を当てて笑うレイリア。その様子にカレヴィが怒る。
「おい!」
「そぉ見えるのぉ~?」
「見えないかなぁ~」
 カレヴィを無視して話すレイリア。年長の娘たちがひそひそと囁き合っている。
「ちょっと思ってたのと違うよね」
「カイト様よりは似合ってると思うよ」
「カイトはねぇ、ある人に片想い中なのよぉ」
 レイリアがウインクをすると、娘たちが頬を赤らめて皆で頷きあった。
「まさか、あの噂のリルさんって人? 確かにリルさんならカイト様にはお似合いかも~」
「でもルアト様も素敵だよ? ちょぉー優しいって言う噂だし」
「リルさんとルアト様、二人で歩いてるところ、結構いい感じだったよ」
「でもルアト様いろんな人とデートしてるって噂もあるけれど?」
「それ見たわ~お姫様みたいな綺麗な人とすんごい馬車に乗ってた!」
 レイリアが苦笑する。皆の噂になっているのだ。時折数名で買い物に出ているらしく、城の噂も入ってくるようだ。
(どこで見られているのか解ったものじゃないわね。でも、ルアトったら……どうしちゃったのかしら……)
 皆の様子を眺めながら、ルアトの素行について悩むレイリアの服の裾を、元気溢れる少年が引っ張った。
「レイリア姉さま! どこでそのカレシってやつを見つけたの?」
「違うわよ。この人はカレシじゃないわ、私の子分よ。皆も仲良くしてあげてねぇ」
「……おい」
 不機嫌なカレヴィの声を無視して、レイリアは皆に聞こえるように大きな声を張り上げた。
「ほぉら、皆一緒に遊びましょうねー! 子分のお兄ちゃんも一緒に遊びたいんですってよ。仲良くしてねぇ」
「おい!!」
「こぶんのにーたん、おんぶして!」
「高いたかいして! ぐるぐるして!」
「お馬さんごっこがいい! 僕はキシでお兄ちゃんが馬だよ」
「おままごとのお父さん役にはちょっと怖いかなぁ……」
 幼い子供たちがカレヴィに殺到する。若い男性がいない施設なので「危険な」遊びはなかなかできない。ここぞとばかりに子どもたちは自分のしてもらいたいことを言いながらカレヴィに抱きついていく。
「おい! レイリア!」
 子どもに抱きつかれ、激怒するカレヴィの耳元で、レイリアは意地悪く囁いた。
「弱い人間に暴力を振るうのはカッコ悪すぎるわよ。貴方にとって殺めることは簡単なのでしょうけれど、罪のない子を殺めて楽しいわけないわよね。いたいけな子たちを可愛がる度量もあった方がいいと思うわよ――人間としてね」
 レイリアの流し目に、彼女からの挑戦だとカレヴィは認識した。楽しそうな声を上げながら殺到する子どもたち。殺めるのは容易いだろう。しかし、そんなことをしても何の意味もない……。観念したカレヴィは握りしめていた拳を開いた。無理矢理遊びに付き合わされることになる。背に子どもを背負い、肩車までさせられたが文句は言わずにいた。

 しばらくもみくちゃにされていたカレヴィは、遊びの輪から逃げ出すことに成功する。テラスの日陰でお茶をするウルリーカが手招きをしているのが見えたので、ウルリーカの元に歩いて行った。
「大変だったねぇ。お疲れ様」
 カレヴィに椅子をすすめ、ウルリーカは水滴の付いたピッチャーからグラスに飲み物を注ぎ、カレヴィに差し出した。戸惑うカレヴィは視線をさ迷わせた後、軽く頭を下げてグラスを受け取る。一口飲むと、喉の渇きに気付き、一気に飲んでいた。炭酸の利いた冷たいジュースは汗ばんだ体に深く染みわたる。
「全く……レイリアは無茶をさせる……。もし、俺がガキどもを殺めたらどうするつもりなんだ」
「そんなことをしないとレイリアはあなたを信じているんだよ」
「俺を、信じて……?」
 驚いた顔のカレヴィに、ウルリーカが笑顔で頷いた。
「レイリアがここに連れて来たのは、自分の家族だと思っている子どもたちに、あなたを会わせたかったんだろうね。もしくは自分が慕われていることを見せたかったのかもしれないね。皆との旅では魔力がない分、足手まといになっているからね……」
「あいつが足手まとい? 一番手ごわくて恐ろしいが……」
「そうかい? あの子は魔力がほとんどないから心配でね。……魔力を抜きにしたら確かに手ごわいかもしれないね。私にとってはとても可愛い娘だよ」
(あいつも孤児だったんだな……ここにいたわけではない、な)
 湖の神殿にいたとアニタから話は聞いていたはずのカレヴィだが、湖の神殿がどんな目的で作られたものか、カレヴィは詳しく知らないままだった。そしてレイリアと逢ってから、彼女の奔放な言動から、漠然と愛情を受けて育った世間知らずな娘だと勝手に想像していた――風邪で彼女が寝込むまでは。
「レイリアは魔力がなかったせいで捨てられたのかもしれないと話していたけれど、争いに巻き込まれたのか、貧困に苦しんでいたのか、本当はどうだったか今はもう解らない。湖の神殿でも孤独だったらしいからね、一番年も下だったらしいからこそ皆の世話をしたいんだろうね。助けてくれたリルを母親だとだと話していたから、あの子も皆の母親になりたいのかもしれない」
「あの女が母親……?」
 世間知らずなリルが母親ということに首を傾げるカレヴィ。レイリアの方が年も上だろうし、経験豊かだろう。
「あなたはご両親は? 家族はいるのかい?」
 思いがけないウルリーカの質問に、カレヴィが戸惑う。
「俺? 俺には親はいない……育ての父親がいたが、もう死んでいる」
 目の前のウルリーカは、穏やかに微笑んで聞いている。育ての親が自分に命を脅かす呪いをかけ、まさか自分が殺めたとは言えなかった。
「家族は……血のつながらない奴等だった。勝手で、誰もが我儘だった。家族と呼んでいいのかすら怪しい」
「形なんて様々なんだから、我儘できる環境だったのなら、良い家族だったのかもしれないよ」
(良い家族……だったわけではないが――)
 遊ぶレイリアを見やる。子供たちと追いかけっこをしていた。わざと転んでみせ、幼い子に掴まり、今度は鬼になって追いかけている。自分もあんなことをしただろうかとカレヴィは考える。戦いを覚えたのは皆と会う前。背伸びをして、子ども同士で遊ぶことはなかった気がする。

 夕刻、子どもたちに見送られ、三人は孤児院を後にした。
「ごめんなさいね。今日はお疲れ様。夕食前には着くからね」
「いや……」
 ウルリーカの労いにカレヴィは頭を振り、唇をきつく結ぶ。カレヴィは俯いたまま馬車に揺られていた。夕陽で紅く染まった車内で、ウルリーカとレイリアがカレヴィを気遣い、小さな声で会話していた。
 城門の中に入り、馬車から降りる三人。レイリアが考え込むカレヴィを見上げる。
「どうかしたか?」
「今日はあなたに無理させてごめんなさい。今日はゆっくり休んでね」
「……大丈夫だ」
 カレヴィの言葉にレイリアが眉を寄せる。
「大丈夫そうな顔じゃないわ。今日はおばあさまのお部屋に行くからゆっくりできると思うわ」
「そうか――」
 二人の会話を耳にしたウルリーカが固まる。
「今日は……ゆっくりできる……というのはどういう意味だい? レイリア、ま、まさか……」
「おばあさまは気にしなくても大丈夫よ。さあさあ、私たちは一階でしょう? 早く行きましょう」
 不安を露わにするウルリーカを、レイリアが誤魔化しながら城内へと無理矢理連れて行く。
「カレヴィ、今日は来てくれてありがとう」
 振り返り、笑顔で礼を言うレイリアに、カレヴィは言葉を返せなかった。一人、三階の客間に戻り、寝台に座り考え込んでいた。ルアトが食事を運んで来た。他愛ない話をして、テーブルに食事を置き、彼はお休みの挨拶をして部屋を去っていく。
 食事には手を付けないまま、部屋の明かりを消し、静かに窓の外を見ていた。城の部屋の明かりが消えていく、人の動きが少なくなる。皆が寝静まる頃までひたすら待った。
 クレプスクロム王国の城は国土のほぼ中央にある。東北は山々がそびえ立つが、なだらかな土地が広がっている。北へ向かえばアウローラ国へと着くはず。カレヴィには魔力はないが、ただひたすら馬を走らせれば国境にたどり着けるだろう。
 馬小屋の場所。見張りの数は自然と観察していた。手元には短剣があった。昼に王の書斎に飾ってあったもの。カレヴィが盗んだことに、気付いているかもしれない。しかし、気付かれてもいい。もうどうだっていい。
 立ち上がり、マントを被る。カレヴィは首飾りを引きちぎろうと強く引っ張るが、首が痛いばかりで首飾りは少しも緩まなかった。闇の魔力は穏やかに安定して、良くも悪くも自分を護り続けている様だ。小さく息を吐き、カレヴィは短剣を腰の帯に差し込む。
「帰ろう――」
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清水結衣

Author:清水結衣
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